第三話 浄霊師《エクソシスト》 その2
「世界と言いますか……私たちが住んでいるところは、大陸と呼ばれています。大陸の東と西と南東は、大きな海です。南西と北の方がどうなっているのかは、情報が入って来ないので、よく分かっていません。王国には属さない人々が住んでいて、私たちと対立しているからです。」
大陸に王国。
なんと言うか、「他の存在」をあまり感じさせない呼び名だと思った。
「私たちが今いるここは、王国の北の辺境と言って良い地域です。中央がギュンメル領、東がミーディエ領、西がエッツィオ領。ギュンメルの北には険しい山脈が張り出して来ていますが、ミーディエとエッツィオの北方は平野ですので、両地域はそちらに向けて、さらに北に進出しています。」
王国の北の辺境は、凹のような形をしているらしい。
「ギュンメル領の南から平野が広がります。ずっと南下して、南の海沿いに『新都』があります。北方進出の拠点として建設された都市です。新都の南東にはファンゾ島という大きな島があります。ここまでが、王国極東地域です。」
神官は、やはり知識階層なのだろう。
説明によどみが無い。
「新都からはるか西に王都があり、そこからまたはるか西に行くと、南西進出の拠点、率府があります。王国は、王都から東西へとその領域を広げてきたのです。」
……見知らぬ土地の話は聞いていて退屈しないが、やはり、ここがどのような世界か、俺が元いた世界とどうつながっているのかといった疑問の答えにはなりそうもない。
続いて、大まかな社会制度の説明を受けた。
王国は、まさに王制の国家。直轄領と封建領土があるとのこと。王権と封建領主の関係は、西欧中世ほどは独立性が強くなく、中国の郡国制ほどは中央の権力が強いわけでもないようだ。日本の江戸時代ぐらいのイメージだろうか。
宗教勢力は、別枠。曰く言い難い関係であるところは、どの世界でも同じことらしい。
大事なことを聞きそびれていた。
霊の話だ。この世界の人にとって、霊とは何なんだ。霊は、どのような存在なのか。
始めのうちは、ヨハン司祭との会話がかみ合わずに苦労した。「当たり前のこと」を他人に説明するのは、教養があって説明することに慣れている人にとっても、難しいことなんだということを知った。
「まず、大陸の住人である私たちにとって、霊が存在することは当然の事実です。現に私は幽霊ですし、ヒロさんも、ご自身の経験によって、理解できているかと思うのですが……。」
どう説明したものか、かなり戸惑っている。
「見えない人も多いのに、どうして霊が存在すると信じられているのかって?難しいですね……。霊の存在を感じ取れる人は、だいたい全体の一割ぐらいではないかと思います。それぐらいの人が確かに存在を感じ取っているのですから、信じられはしませんか?『幼い頃には感じられた』という人も含めればもっと多いですし、動物は敏感であるとも言われています。ええと、他には……『霊のしわざ』による『ものごと』がありますよね?」
こちらの人にとっては当然なのだろう。だがそう言われても困ってしまう。現に、トムじいさんは現世に干渉できなかった。……干渉できる霊もいるということか。
「そうした『ものごと』が、霊が浄化された後には起きなくなったとすれば、『霊のしわざ』だったということになりますよね?そのためというわけでもありませんが、浄霊師がいるわけですし。」