第三話 浄霊師《エクソシスト》 その1
明くる日。
神官さまに従って、教会に出向いた。
村で管理していたようで、責任者不在がひと月以上続いている割には、きれいに片付いている。
などと思っていたら、責任者が現れた。司祭さまの幽霊だ。不在なのに存在するとは、これいかに。
「おはようございます。」
あ、おはようございます。ずいぶん平らなテンションですね。
「トムさんからお話は伺っていましたから。司祭のヨハンです。」
「はじめまして。神官さまの付き人で死霊術師らしい、ヒロと申します。」
「本当に、見えるだけでなく、会話もできるんですね。」
小さな神官さまが口にする。
「神官さまは、会話はできないんですか?」
「会話できる人の存在を、初めて知りました。視覚についても、『誰だか分かる』ほどはっきりと見えている人など、いるのでしょうか?私の場合、そこに霊が『ある』のが見えるだけです。それと、『神官さま』は、やめてください。私の名前は、フィリアです。呼び捨てで構いませんし、敬語も必要ありません。今日から、本格的におつとめをしていきます。司祭さまにはいろいろと伺わなくてはいけません。ヒロさん、通訳をお願いします。」
それからしばらく、道具の場所や、クマロイ村ならではの事情など、当座必要な情報のやり取りが続いた。
残務の優先順位のつけ方にしても、質問の仕方にしても、実に的確で無駄が無い。幼く見えるフィリアの頭の良さには舌を巻いた。
「そろそろ村の皆さんがいらっしゃいますね。ちょうどベンさんも来てくださいましたし、ヒロさんにお手伝いしてもらうことはありません。司祭さまからいろいろお話を聞いてみては?」
そうさせてもらおう。
聞きたいことはいろいろあるはずなのに、いざとなると、何から聞いて良いやら。本当にフィリアは立派なものだ。
とりあえず気になっていたことから。
「神官と司祭ってどう違うんです?」
「神官は総称ですね。司祭は、まあ階級みたいなものです。」
ああ、なるほど。幕下も前頭も三役も横綱も、「お相撲さん」って言っとけば、まあひどい失礼にはならない?もんね。
フィリアは司祭の下、助祭相当らしい。
「あまりそういうことを意識すべきでもありませんが。」
ごもっともです。
「トムさんから伺っています。信じがたいことですが、ヒロさんははるか遠く、こことは違う世界から来たとか。嘘をつくのはあまりお勧めできませんが、生きていくため、円滑にコミュニケーションを取るためには仕方ありません。記憶喪失ということにしておく他はなさそうですね。主も許してくださることでしょう。」
一神教なのだろう。しかし、そこを聞いたら間違いなく話が長くなるし、ヘタなことを質問したら逆鱗に触れそうな気もしたので、華麗にスルー。フィリアを見習うこととする。
「ここがどのような世界か、というのは難しいですね……。創造主の御手によることは確かですが、ヒロさんの世界との違いやつながりは……。仕方ありません、まずは普通に説明を。生活していくにも必要となるでしょうし。」
ヨハン司祭の説明が始まった。