プロローグ
コミックス版『異世界王朝物語』(文藝春秋社)、ピッコマにて連載中です。
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ご覧いただきたく、なにとぞお願い申し上げます。
目が合った。
そのまま魅き込まれて……撥ね飛ばされた。
なんだこれは?なにが起きている?
そう、大学へと向かういつもの道。
見るともなしに目を向けたら、その真ん中に子供がいて。
ああ、そういうことか。
危ないと思って、反射的に後先考えずに飛び出しちゃったんだな、俺。
こんなところもあったのか。自分でもびっくりだ。
「ごめんなさい!」
その子が叫んだ。
「気にしなくていいさ。それと、こういう時は『ありがとう』と言うもんだよ。」
とか何とか、気の利いたことを言おうと――人のまさに死なんとする、というヤツだ。間抜けな最期かも知れないけど、いや、間抜けな最期だからこそ、せめてカッコいいこと言って締めくくりたいじゃないか――そう思って、もごもごと口を開こうとしたら。
「ごめんなさい!……でも、こんな子供に魅き込まれるって、少し業が深くありませんか?そうだ、いろいろ調整しておきますね!」
え?え?どゆこと?ちょっと待て。聞き捨てならない、名誉に関わる問題を耳にしたような気がするのだが。だいたいキミ、男の子だろうが。だよね、たぶん。と言うか、そこじゃない。そこじゃなくて、ひとの善意を何だと思っているんだ。こんなことだから、最近は「子供にかかわるな」っていう情けない風潮が……いやそれ以上に、少年趣味だと誤解されたままってのはごめんだ。まさに死んでも死に切れない。訂正を求める!
それにしても、随分と余裕があるなあ。命の危機に瀕すると、スローモーションのように感じるって本当なんだな。
トラックに撥ね飛ばされたんだ。すぐに衝撃が来るはず――いや、それを感じることもないのかな――なのに、いつまでもどこまでも落ちていくみたいだ……。