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考える

トン、と俺の顔のすぐ横に手をついて距離を縮めてくるその顔は、中々きれいな顔をしている。もし男だと言い切りたければ「中性的」だとして通るんじゃないか。


しかし、何がしたいかやたらぐいぐいと距離を縮めてくるそれを引き剥がそうと掴んだ肩は。

薄く、華奢で、女の子のそれと変わらなかった。


「あっ…やだ…っ!」

「ちょっ、気色悪い声出すなよ!!」


変な誤解を招きかねない声を出すバカを突き飛ばせば、それをすれすれで避けてあははと笑う。


なんなんだこいつ、ほんと意味が分かんない。


男にしては高いようで、女にしてはしっかり通る声。確かに、分かんないヤツは分かんないかもな、と他人事のように考える。


でも、なんというか。

なんとなく、分かってはいるのだ。


根拠は無いけど、多分、目の前のこいつは。



「お前さ、……いや、わかんね。」

「んぇー?ギブ?」

ニヤニヤとしたその顔がまた俺を覗き込んで、笑みを深くする。

「私の、勝ち…?」

クスクスと笑うのを遮るように俺はため息を吐いた。


「なわけないし、あぁ、もう……女?」


根拠を挙げるなら、その薄っぺらい体……と、まぁ、顔、じゃないですかね、普通に。


最初は、そうだと思って疑わなかった。

だから、一ヶ月前のあの時、即答したのだ。


しかし、それは回答として受け入れられなかった。理由は、分からない。


それから、度々表れては同じことを聞くこいつに、その都度女じゃないのかと問えば、はぐらかすように笑うだけで明確な答えは教えようとしない。

なんなら、だからそれを当ててよと的はずれなお叱りが返ってきたこともある。

いや、だから、ちゃんと答えてるじゃん。


たった2択だ。


あたりか、はずれしかないのに。女だと回答するたび、反応は同じで。

つまり、女じゃ、ないと、そう言いたいのだろうか。

でも、じゃあ、男か?


目線をあと少し斜め下へと落とせば、まぁ、胸で。薄っぺらいのは肩だけじゃなかったな、と女の子には少し失礼なことを思う。


「…ふぅん、根拠は?」


俺が胸を一瞥したのをどう捉えたのかニヤニヤを深めた目の前の女(仮)は、ぱんと胸を叩いて、ふふと笑った。

「ここ、見てさ、男だとは思わないの?」

「それさ、言ってて切なくなんねーの?」

「質問に質問で返さないでよ。」


「まぁ、たしかに主張の乏しい胸だよな。」

ぴく、と目の前の肩が揺れる。


「そ、だろ?」

少しぎこちなく笑ってみせる姿は、胸小さいねと言われた時の女子そのものだ。

こいつアホだな。

「怒ってんじゃん。女だろ、やっぱり。」

「違うよ。そんな、セクハラおやじみたいな台詞、言うんだなーって思っただけだよ。」


以外とアレだね、と身を引かれたから、なんだよアレって、と聞き返す。


「変態くさい。」


男の可能性を自分から提示しておいて、女子の制服を着ているお前がそれを言うのかと思ったけど、つっこまないでおいた。


「あと、あれ。一人称が、私。」


「えー?あれー、そんなこと言ったっけ?あー、そう、女の子に見えるんだー。」

ぐぐ、とまた距離を狭めてくる。


なんだこいつ、まさか男なんじゃねーだろうな。そうだと言うのなら、すぐにでもぶっとばしてやりたいところだけれど。


つーか、なんだよ「僕」って。ふざけんなよお前。


「じゃあはい、取り下げ、男。」

「えぇ…私のこのスカートは飾り?」

「えええもうほんとなんなのお前…!!」


ヒラヒラとこの学校規定の制服のスカートを摘まんで振ってみせる目の前の人間がとても楽しそうで、余計腹立つ。


だから、じゃあ、なんだ。結局どっちだ。


「はぁ…。」

もはやどうでもよくなってきた。


かれこれ一ヶ月、この調子だから。


倉庫のうだるような暑さに目眩すらしてきて、ちょっと待て、と片手をあげた。

多分これ、暑さのせいってだけじゃ無いだろうけど。


会話が成り立たないということが、こうも辛いことだったとは。



「暑い?」

「あつい。ちょ、一回出よ…」

「は?ダメだよ、答え聞くまで出せません。」


めんどくせー…。

俺の不満はそのまま顔に出たのか目の前の顔も、こっちだって、と膨れた。


「一ヶ月、待ったよ。」

膨れた頬が萎んで、そんなことを言う。


一ヶ月経ってる、そんなのは俺だって知ってる。


「覚えてない?僕の性別、当てられなかったら、僕と、」

「分かってるよ。それもう何度目、」

「じゃ、はい。答えは?」

「はぁ?だからもう何度も女じゃねーの?って聞いてる…」

「聞くんじゃなくて、答えてって言ってるでしょ。」


ドンと耳のすぐ横で壁を殴る音と骨の軋む音が聞こえた。


「はやく、答えてよ。パッと答えて、ちゃちゃっと、わた…僕のものになればいいんだよ。」


か細い腕が、震えながら壁を打つ。


「そんな、最初から外すみたいな言い方…俺、当てるよ。多分、外さない。」

「じゃ、ギブしろよ。」

「えっ…?」

「ギブすんの、しないの。」


ギブって、何?え、ギブアップ、てこと?

いや、待てよ、たかが2択の問題にギブはしねーよ。普通。

てか、ギブしたくないよ、俺的には。

だって、そんなことしたら、俺…いや、だめだそれは。



一ヶ月前の入学式。


俺には妙なストーカーがついてしまった。


そいつは、名乗らず、挨拶も無しに、性別不詳のまま。突然俺の目の前に飛び出してきて、喋りだした。


「はじめまして、羽衣石間柊さん!


さて、問題です。



ぼく…あぁ、いや、私は、男でしょうか。

それとも、女でしょうか?



ハズレたら私と…いや、僕と、


付き合ってください。」








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