捕まる
埃舞って白く霞む体育倉庫で、膝を抱えて身を潜めていた。
ガタガタと荒々しく戸を引く音が響いて、振動に触れた埃が更に辺りを白くさせる。
ぐ、と咳き込むのを抑えて喉が鳴る。急いで手を当てたけど、遅い。
「っ、げほっ!」
ヤバいヤバいヤバい。やっちゃった。
強く口を押さえて身を固くする。
さっきまでの物音の喧騒から一転、倉庫はしんと静まり返った。
ふと背を預けていた跳び箱の影が目に入って、
「え、ぁ、」
サッと血の気が引く。光が無ければ影は出来ない。
差し込んだのは日光だった。
(扉が、開いてる。)
咄嗟に扉の方へ顔を出して後悔した。そこには、逆行のシルエットが見下ろすように立っていたからだ。
その表情は全くといって見えないけど、きっとニヤニヤと笑っているに違いない。
「みーっけた。」
後ろ手にガランと戸を閉める音が聞こえた。
なんで、閉めてんだよ。
ぺたぺたと音を立てて近づく足音に悪態をつく。
はっきりと見え始めたその口が、ひどいよ、と呟いた。
少し後ずさったけど、すぐに壁にぶち当たって逃げられない。
逃げる場所間違えたな。こんなとこ、選ぶんじゃなかった。
「逃げるなんて、酷いね?」
最近短くなった髪の、それでも肩にかかる襟足からぱたぱたと滴が落ちて俺に降ってくる。
ほぼ0距離。真上から見下ろすコイツの膝から上はスカートで覆われているけど、そのまた真下にいる俺には全部見えてる。見えてんだよ。コイツは、自分の服装を理解しているのだろうか。
「しかも、突き落とすなんて。」
どーすんの、この服。と腹辺りの裾をぺらぺらと捲って見せる。
だめだ、コイツ、服装どころか性別も理解出来てないのかもしれない。
いや、まぁ、はっきり言って俺も実は理解出来てないんだけど。
「ねぇ、聞いてんの。」
目線を合わせるようにしゃがみこんで、こちらを覗きこんでくるコイツの仕草には、決してクラッときたりなんてしない。
男、かも、しれないから。
あぁ、ほんと、最悪。
目の前の人間の性別が、ちょっと分かんない。