テディ・ベア
☆
私がご主人様と初めてお会いしたのは、クリスマスの夜の事だった。
2歳になったばかりのご主人様のクリスマス・プレゼント。
それが私だった。
私を作ってくださった祖父母様・ご主人様のご両親、そして私自身。
ご主人様の言葉を待っていた。
しかし、ご主人様は私を一目見るなり、
「いやっ」
と言って、逃げてしまわれた。
私は傷ついた。
何がいけなかったのか……。
私は深く悩み、苦しんだ。
結局、答えの見つからないまま時は過ぎ、私はタンスの上でホコリを被りながら春を迎えた。
☆
八重桜がその盛りを過ぎようとしている晩春の頃、驚くべき事が発生した。
私はあの日の出来事を、生涯忘れることは無いだろう。
ご主人様の母君が私の体に付いたホコリを払い、日光浴をさせてくれた。
私はつい気持ちよくなってウトウトとしてしまった。
とその時、私の体に何か重いものが圧し掛かったのである。
私は驚いた。
なんとご主人様が私の上に乗って、昼寝をなさったのである。
私はようやくご主人様に認めてもらえたのだ。
☆
それからの私は、いつもご主人様と一緒だった。
遊園地もドライブも動物園も……。
幾度かご主人様と離ればなれになりそうな事態もあった。
だが、そのつど私は運命の女神を味方につけて、ご主人様の許へ帰って来た。
本当に幸せだった。
あの日が来るまでは……。
☆
時は瞬く間に過ぎ、ご主人様は少女から淑女へと成長なされた。
そして、ご主人様が恋をなさった。
私は別れの予感を感じていた。
☆
動物園で本物の熊と私が似ていない事に驚いて泣かれたご主人様。
仲良しの子と喧嘩して、枕を涙で濡らしたご主人様。
私だけが知っているたくさんのご主人様。
でも、もうご主人様は私を必要としていない。
私は、唯一無二の騎士ではなくなったのだ。
ご主人様は新しい騎士を選ばれたのだ。
私は眠りに就くことにした。
☆
どれくらい眠ったのか分からない。
しかし、誰かが私を起こした。
「ママ。この子、私にちょうだい」
ご主人様の声?
私は目を覚ました。
「ねっ。大事にするから!」
驚いている私に話しかける人がいた。
「今度は私の娘を守ってね」
そう言って、すっかり大人になられたご主人様は、私を小さなお嬢様に渡されたのだ。
あぁ、懐かしい。
私はご主人様の命により、新しいご主人様の騎士に任命されたのだ。
ご主人様。
悲しくなったら、私に話しかけてください。
寂しくなったら、私を呼んでください。
眠れない夜を過ごしていたら、私を傍に置いてください。
どんな悪夢でも、私が追い払って見せましょう。
いつかあなたの許に
新しい騎士がやってくるまで……。