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矛盾

「防弾」というテーマで書きました。

 男が持ってきた防弾チョッキは、どんな弾も防ぐことができるという触れ込みだった。最初は笑っていた金持ちも、実射テストを見るうちに腹の底から唸りを発した。

 だが、いざ契約となって出された請求書の金額に目を剥く。ちょっとした国の国家予算並みの数字が書かれていたのだ。

「君、これは個人の買い物としては、一桁……いや、二桁多いのではないか? これでは誰も買うまい」

 男はにこやかに首を振った。

「いえ、お安いぐらいです」

 何しろこれは、と手元のアタッシュケースを開く。中から取り出したのは、弾薬の入った箱だった。

「どんなものも貫通する弾とセットになっておりますので」

 目を見開いて男を見つめた金持ちの口から、哄笑が上がった。

「いや、君……」

「矛盾と言う言葉をご存知ですか?」

 口にしようとした事を先に言われ、金持ちは眉をひそめた。

「勿論だとも。今、君がチョッキと弾について言った事が正にそれだ。辻褄が合わん。有り得ん」

「有り得ないと、なぜお分かりに? ご覧にもならないで」言いながら男は笑みを浮かべた。「最初このチョッキについて、あなたは信じられずお笑いになった。しかし、事実を目の当たりにし、私の言うことが真実と知った。では、この弾に関して信じないのはどうしてでしょう?」

「い、いや……しかし、君。どう考えたって……」

 慌てて首を振った金持ちの前で、男がパチンと手を叩く。

「真実は言葉にあるのでしょうか? 事実にあるのでしょうか?」

「そ、そりゃ君……事実は動かせん」

 金持ちがもぐもぐと答えると、男は大きく頷いた。

「だとしたら、いかな矛盾と言えど、事実が示されていない以上、真実の可能性があると言う事でしょう」薄い唇の両端をニンマリと上げる。「私の言葉が真実かどうかも」

 深い霧に閉ざされた顔の金持ちの前で、男は防弾チョッキと弾薬箱をケースにしまった。

「お買い得なのですがね。仮に私の言葉が偽りにしても、この二つがある限り恐れるものはありませんし」

 立ち上がり扉に向かうその背に、金持ちは震える声をかけた。

「もし……君の言葉が真実だとして、このチョッキにこの弾を撃ったらどうなるのかね……?」

 足を止めた男が、ゆっくり振り向く。

「それは勿論、有り得ない事が――」喉奥から漏れる笑い。「――宇宙の理に反する事が起こるのでしょう」




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