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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

遡ろうとも時は残酷で

作者: ハインツ

「―――過去に戻りたいと思ったことはないかい?」


 唐突にして、突然だった。

 いや、そんな言葉では語れないほどに、いつからそこにいたのかわからないほどに・・・・・・そいつはそこで気付けばタバコをすって胡座をかいていた。

 どこにでもいるようで、どこにもいないような男。20代と言われれば納得するだろうし、30代だと言われてもまた納得するだろう。

 存在感があるようで存在感がないような、そんな男に俺は会った。会ってしまった。

思えばあの瞬間から、俺の、俺達の物語は始まっていたのだ。

 後悔とは後から悔いると書くが・・・・・・できることなら先に悔いておきたかった。

 違うな。そうじゃない。そうではないのだ。

 過去に戻れるとしたら自身にこう告げるだろう。過去に戻るなど何の意味もないことであり、後悔ならぬ先悔する嵌めになるだけだと。

 この言葉に矛盾を感じるのは当然だが、この物語はそういうものだ。

 歪で、それ故に、無意味な物語なのだ。






「はぁ・・・・・・」

 今日も空は青い。忌々しいほどに。

「おい、兄ちゃん。サボっていると今日という日を生き抜けやしないぞ。働くざるもの食うべからずだ」

「へいへい」

 ま、生きるために働いているのか、働くために生きているのかわからないのが今の世の中だ。働くために死ぬこともあれば、死ぬために働くこともあるのだろう。

 ・・・・・・なんでもいいか。とりあえず、今は生きておこうか。一応。






 突然不真面目な男と遭遇させてしまってすまないとしか今の俺には言えることはない。だから、何があってそうなった、だとかつまらないことは聞かないで欲しい。なるべくしてなったとしか俺には言えないのだから。

 またもや突然だが、皆は過去を思い出すということはあるだろうか。

昔の思い出。楽しいこと、悲しいこと、嬉しいこと、怒ったこと。喜怒哀楽。

普通は誰にでもあるのだろうな。ふとした時、ああそういえばこんなことがあったなという瞬間が。だが、俺にはそんな瞬間などない。

 何故なら、思い出す思い出がまったくもって思い当たらないからだ。

 別に記憶喪失という訳ではないから安心して欲しい。しかし・・・・・・安心とはどういう感情なのだろうか。喜怒哀楽でいうと何に相当するのだろうか。

すまない。話がそれてしまったな。話を戻そうか。

 ないというのは単純に思い出すような特別な何かがないという意味だ。我ながら寂しくつまらない人生をおくってきたものだなとむしろ感心してしまうほどである。

 人生に喜怒哀楽はつきものだと思うが、それがさながら仕組まれたようなものであったら、興醒めするのは当然といえよう。

 幼稚園入学からしばらくしたその年の夏。当然のように、物語が進むように両親が死んだ。当時、自分がどうなったかなんて覚えていない。昔の話だ。もう何年も前の。

 もちろん、他人事のように言うが、当時の俺は悲しんだのだろう。泣いて、喚いて、叫んで、意味もなく怒ったのだろう。想像でしかないが、それが子供らしさってものだ。

 両親の死は運命だったと言われれば、なるほど、と受け入れよう。それぐらいの寛容さは流石の俺にもあるつもりだ。

 そもそも両親の死こそなるべくしてなったことのように思える。この俺が公園の缶を拾って生きる糧とする日々を送っているように。

 それから、当然のように孤児院に引き取られる。本当に当然のように、だ。両親が死んで次の日には荷物をまとめて敷居を跨いでいたぐらいだからな。

 その孤児院に取り立てて思うところはない。俺と同じような人間が集まって同じ飯を食って同じように眠る。それだけだからだ。

 ま、飯が食えて布団で眠れる。それだけでも充分幸せなことなのだろうけど。

 それからは変わらぬ日々。日常。惰性に生き、生かされるだけの。

 光陰矢の如しという言葉は知っているだろうか。正しくその言葉通りに時間を過ごしただけだ。

 今更だが、矢とはどれだけ早いのだろうか。三国志で有名なかの人の中の人と評された人でさえそんな早い矢は射られないだろう。人の中の人とは声優という意味だろうか。

 そうだな。今の言葉は忘れて欲しい。だが、忘れないで欲しい。無駄な会話も決して無駄ではないということを。

 気付けば、中学校を卒業して、高校を卒業して、大学生になっていた。

 受験勉強は苦い思い出ではないかと聞かれたら俺は首を捻るだろう。勉強とは何なのかと。視界に映る文字列を覚えればいいだけではないか。

 部活動は楽しくなかったのかと聞かれたら俺は首を捻るだろう。部活動とは何なのかと。世界人口の中でも更に限られた人数内で競い合い、ナンバーワンを目指しつつオンリーワンになるものだったか。

残念ながらオンリーワンにはなれなかったが、ナンバーワンにはなったぞ。オンリーワンの方が高価値らしいが。

 一説には、このぐらいの時間を青い春と呼ぶらしい。なんとも的確な表現だな。

 春らしい清々しさもないブルーな毎日だった。血の気が引くほどに。

さて、そんな俺も大学生、花の大学生になったのだが。

何が花で何が華で何が鼻なのかわからなくなるような場所だったな。

皆それぞれに目標があるのは良いことだと思うが、俺みたいな目標のない人間には何をしていいかわからない場所だった。

 俺は世界一交友関係を持つ人間になると断言して毎日合コンをしていた奴もいた。最終的に何故か男に刺されたらしいが。それも立派な目標だろう。

 俺は世界一有名な人間になると断言して毎日新聞に載る何かをしていた奴もいた。主に誰にでも出来るが発想が豊かでないとできない驚き(笑)のギネスとかだが。それもまた立派な目標だろう。

 俺は、私は、麻呂は、拙者は、おいどんは。

 色々な奴がそれなりの目標と意思をもって日々を過ごしていたのに対し、俺はいつだってどこにいたって惰性だった。格好つけて言うなら流れに逆らわずに生きていた。

 格好がついただろうか。ついていたのなら嬉しい限りである。

 逆らわずに生きて、生かされ、流されていた。

 俺も人間だ。楽な楽な方へと流れていく。

 それがどれだけ不自然で無理矢理作られたようなレールであろうと。目的地が最初から見えていて、目的地までに何の障害物もないのが確認できる安心安全が保証された完全にして無感動なレールであろうと。

 それが楽だったから流れに任せて流れていった。

 金に困れば金が降ってきて、物をなくせばそれがいつの間にかカバンの脇ポケットにあって、道に迷っても自然とゴールしている。

 そんな不自然を不自然だとか不思議だとか考えもせずに受け入れていた。

 何故なら、それが楽だからだ。

 誰かが言ったらしい。楽こそが人を堕落させる。オシャレでダジャレな言葉だと思う。漢字にするなら御洒落で駄洒落な言葉だ。

 だから、こんな人間が生まれた。いや、作られた。作られてしまった。

 三十路を前にした人間が道端に寝転び、暇な時にゴミを漁り、人のゴミで金を稼ぐ。

 学歴はステータスだという人がいる。別にそれを否定するつもりはない。もちろん、肯定するつもりもないのだが。

 そもそも俺には肯定する意思も否定する意思もなく、惰性に生きて・・・・・・もう十分に伝わっているだろうから省略させてもらおう。

 ステータスではあるだろう。だが、全てにおいてステータスとなるかは別問題である。こうして、落ちぶれてしまっている男がいるのがいい例だ。

 俺の人生を履歴書として残すのであれば恐らく誰もが羨ましがるものとなるだろう。

 だが、俺の人生を物語として残すのであれば恐らく誰もが表紙で読む気を失う筈だ。

 それだけの価値がある。いや、格好つけたな。それだけ無価値である。

 そんな俺が紡ぎ出す物語を誰が読むのだろうか。

 だから、ここで戻ってしまっても構わない。それを受け入れる寛容さぐらいは流石に俺にもある筈だ。

 いや、むしろこう伝えるべきなのだろう。ここで戻るべきだと。

 ここで戻れなければもう戻れない。もう戻ることなどできなくなる。

 それでいいというのであれば先に進むといい。

 もちろん、その先に面白い物語があるかどうかは保証しないが。






「―――過去に戻りたいと思ったことはないかい?」

 そして、冒頭に戻る。

 いやいや、俺もまだまだだな。冒頭に戻るまでにこれだけしか語れないとは。

 ま、語るにしろ、語らないにしろ、独白に近い語り部に付いてきてくれる寛容な人間などほんの一握りしかいないのだろうが。

 キャラが違わないかと聞かれたらこう答えよう。キャラは物の見方によると。

「過去に戻りたい?」

「ああ、そうさ。過去。未来、今、過去の過去だ」

 過去か。俺に過去などあるのだろうか。今という感覚でさえ朧気である俺に。

「この世界にいる全ての人間にこの問いをすれば99.9999%の確率で戻りたいと言う筈だけど」

「その0.0001%の人間が気になるな。過去に希望がない人間が該当するのか?」

 もしくは過去にも未来にも、今にでさえも希望がない人間か。

「いや、希望じゃなくてもいいのさ。絶望でもそれは戻りたい要因になる」

「・・・・・・」

 そりゃあそうだ。思わず納得してしまった。

「そう、その極少数の人間とは希望でさえも絶望でさえも興味がない(・・・・・)人間。周りに人間にも自身にでさえも興味がない(・・・・・)人間。即ち」

「俺のような人間ということか」

「自覚はあるようだね」

 あるさ。ない訳ないだろう。

 人は興味をもたないことにも何故興味をもたないのだろうかと興味をもつ。俺は興味をもたないことにすら興味をもたない。

 もっと言えば、物事を考えているかどうかすら自分のことながら怪しいものである。

「そんな君に改めて問おう。過去に戻ってみたいと思わないかい?」

 過去に戻る。即ち・・・・・・人生をやり直すということか。

「さてね、やり直したい過去がなければ無意味ではないかと考える俺がいるな」

「間違った認識ではないと思うよ。でも、正しい認識でもない」

「うん?」

「正しさなんて物の見方でいくらでもあるという話だよ」

「何の話だ?」

 キャラの話だろうか。

「おっと、あまりにも脈略がなさすぎたか。失敬失敬」

 しかしながら、なんとも変な男である。変男と略してもいいかもしれない。

「それは果たして略していると言えるのだろうか」

「言えると思うが。少なくとも一文字少ない」

「・・・・・・もっと突っ込む所があると思うのだけど」

 相変わらず何の話をしているかわからない変男である。

「さて、そろそろ答えを聞かせてもらってもいいかい?」

「過去に戻りたいと思ったことがあるかどうかだったか?」

「いや、過去に戻りたいかどうかだよ」

 同じようなものだろう。そう思った俺は悪くない。

「違うよ。過去に戻りたいと思ったことがあるかと過去に戻りたいかは全くの別物さ。夢か現実か。夢か・・・・・・願望かの違いだよ」

 夢と願望。願い。似ているようで違うという気がしないでもないな。

「それならこう答えようか。夢にも願望にも、ましてや現実にも興味がないと」

「それでこそ、だよ」

 そうニヤリと笑う変男。そして、その笑みを最後に意識は暗転した。

 ・・・・・・なんて嫌な最後なのだろう。早速見付かった。教えてくれたよ。今すぐに変えてしまいたい過去とは正にこの瞬間だ。






「暗いな」

 場も雰囲気も何もかもが暗い。

 あの嫌な最後。死んだかと思ったがそうではなかったようである。

 いや、いっそのこと殺してくれと願いたくなる過去ではあるのだが。

「男が三人と女が三人。合コンとはこんなに暗くなるものだったのか」

 あいつに同行しなくてよかったと心から思える瞬間だった。別に雰囲気だろうと場だろうと暗いところでなんとも思わないが。

「おいおい。それは流石に勘違いが過ぎるよ」

 上から聞こえる声。なるほど。どうやらこの空間にも上下という感覚はあるらしい。このただただ暗いだけの場所にも。

「ようこそ。歓迎しよう。名も過去も未来も今もない君を」

 名も過去も未来も今もない。言い得て妙とはこのことか。こいつは俺のことを俺以上に知っているな。気味が悪い。

「ここにいるのは誰もが同じ目的を持つ者達さ」

 同じ目的ね。

「出会いか。合コンらしい目的だな」

「君は馬鹿だ」

 馬鹿か。初めて言われたかもしれん。天才肌で通っていたからな。エッヘン。

「君はキャラが掴めない」

「物の見方によって違うという話しさ」

「何の話をしているかわからないよ」

 困惑しているあいつの姿を見るのは少なくとも楽しくないこともないな。

「ここにいるのは過去を変えたい。過去を取り戻したい。過去をやり直したい。そう思っている者達ということさ」

 なるほど。確かに俺も変えたい過去がある。瞼を数度開け閉めしただけの過去でしかないが。

「それぞれがどんな事情を抱えているかは残念ながら管理者である自分には言えない。知りたければ君が君の意思で君の言葉で聞き出すことだね」

「知らなかったか。俺は他人のことになど興味がない」

 俺以上に俺を知っていると奴だと思っていたのに。がっかりだ。

「そうか。この時の君はまだそんな奴だったな」

「何の話だ?」

「こっちの話だ。あっちでも、にっちでも、さっちでもなく、こっちのね」

「どっちでもいい」

「簡単に話を切らないで欲しいものだね」

もっといえばどっちでもいいしなんでもいい。

「さて、そんな君に、君達にしてもらいたいことがあるわけだ」

 簡単に話を始めないで欲しいものだ。脈略がないばかりか、意味がわからない。話についていけない。

「過去に戻るために必要なものを集めて欲しいといえばわかりやすいかな」

 言葉としてはわかりやすいと言える。確かに彼ら―――俺も含めてらしい―――の目的が過去に戻ることであるのなら、その為に必要なものを集めるというのは不可思議でもなんでもなく当然のことのように思える。

 しかし、こいつは大事なことを、本当に大事なことを忘れていやしないだろうか。

「その必要なものというのが抽象的過ぎて逆にわかりづらくしてないか」

 過去に戻るために必要なものとは何を指し示しているのだろうか。ポケットかロケットかはたまた時計か。

 時を象徴するものはいくらでもあるだろうが巻戻りを象徴するものを探すのは難しい。

「それはきちんと教えるさ。だから、君達は協力し合って捜し物を探すといい。でも、一つだけ最初に言っておくよ。過去に戻ることができるのは・・・・・・この中でただ一人だけ(・・・・・)だ」






 こうして何の脈略もなく、何の意味もない物語がスタートした。自分の立ち位置なんかまったくもってわからない。どこがスタート地点であり、ゴール地点なのかもわからない。

 だが、それが面白いと思えてしまう自分がいることに何より自分が驚いてしまった。

 しかし、それも致し方ないといえるかもしれない。スタートラインがわからず、ゴールラインがわからず、その間の障害物についてもわからないことなんて生まれてこのかた初めてなのだから。

 あるはずのないレールを当然のように進んできた俺がレールのない道にレールを敷いていく。

 なるほど。お前が俺をここに連れてきた意味が少しだけ掴めたような気がするな。

 気品に満ちた衣装に身を包んでいるくせにそれさえも上回る絶望感に身を包む女。

 悲壮感とか絶望感とかもう何がなんだかわからないぐらいに負が織り交ざっている男。

 憎しみと怒りの混ざり合った憤怒の視線をそんな男に向ける女。

 そんな女に同じような憎しみと恨みと怒りとを重ね合わせた視線を向ける男。

 膝を抱えて、部屋の片隅に陣取る表情も何も見えないくせに重みを感じさせる少女。

 無表情で無感情で無愛想な無意味に豪勢な衣装で己を飾る少年。

 よくわからない。よくわからないが、奴らに何かをする為に俺は呼ばれたのだろう。

 何かをするのか、何かを差し出すのか、何かをもらうのか、何かを・・・・・・奪うのか。俺に求められているものが何かはわからないが、少なくとも俺に役割があることは疑いようのないことである。

 はてさて、俺に求められているものとはなんなのやら。

 ・・・・・・案外、何も求められていないのかもしれないけどな。

 始まりを告げ、終わりを告げる。そんな日が来ることを今はとりあえず願っておくとしよう。


読んでくださってありがとうございます。

知っている方はお久しぶりです、知らない方は初めまして、ハインツと申します。

この小説は唐突に思い浮かんで設定だけ考えた作品の冒頭部分に当たるものです。

連載するとかどうのこうのではなく、最近筆を置いていた作者が久しぶりに書きたいという気持ちを抑えきれずに書いた意味不明な文章であります。

自分自身、どうしてこういう作品を書きたいと思ったか謎であったりします。

少しでも面白いなと思っていただければ幸いです。

何度もいいますが、私にとっても意味不明な文章なので。

それでは、失礼します。

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