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暴走する彼女と悩める煩悩(改訂版)

作者: 剣咲スルメ

「秋といえば、君は何を思い浮かべるかね?」


 いつもより少し早く登校した為か、襲い来る睡魔と格闘しながら先生が来るのを待っていたら、気が付けば目の前には彼女が居た。どうやら中々大きい声だったらしく、周りを見渡せば教室にいた数人の生徒から何が起きたのかと奇っ怪な目で見られている。

 そんな人達を見て、少しは周りの目を気にしてほしいとおもうのだが、この場合彼女は知っていて無視しているのだろう。以前に、直接訴えることが出来ぬ臆病者の戯言など聞く耳を持たんと言ってたし。

 ちなみに、今こちらを見た数少ない人達は全て余所のクラスから来た人だ。このクラスで、彼女の奇っ怪で突拍子も無い発言と行動には皆慣れている。いや、慣らされたと言うべきだろうか? 今や、彼女の言葉に反応する生徒は余所のクラスであると言う、不思議な見分け方が出来るようになっている。正直な所、どうでもいい事だけど。 


「で、私の発言に対して君はどう思ったかね?」


 そんな事を考えていると、何の反応も示さなかった僕を不振に思ったのか、彼女―ミーシャは、凹凸の少ないつるぺたな胸をふんぞり返して聞き返す。普通なら威張っている様に見える彼女のその態度も、胸だけで無く全体的に平均的な女子高生よりも小さい彼女がやると、返ってかわいく見えるので余計に質が悪い。おまけに、普段なら頭1つどころかそれ以上背丈が違うのに自分が机に座っている為か殆ど目線が同じなのが更にグッと来る。

 ……うん、本当にこの子は……先生、テイクオフしても良いですか? やばいよ、中身が分かっていなかったら、即効で持ち帰りたい位に可愛い……あと、彼女が日本人で無い事を示す雪の様に白くて長い白髪も中々に良いですなぁ。

 ……うん、落ち着け自分。これでは僕は単なる変態じゃあ無いか。ていうか、テイクオフって何よ? テイクアウトだろ? テイクオフって、空を飛んじゃってるよ!? ……って、自分で自分に突っ込むのは虚しくなってくるので、これ位で落ち着こうか……


「あぁ……秋がどうのって話だっけ?」

「ふむ、その様子だと君は人の話を聞いて無かった様だね? トシアキ君」


 トシアキ君――その名前で彼女が僕の名前を呼ぶときは、基本的に機嫌が悪い時だ。うん……これは非常にマズイな。しかし、何かマズイ事を言っただろうか? 特に僕は彼女の逆鱗に触れる様な事を言った覚えは無いんだけど……ただ、この一時間目が始まる前の一番眠い時間に会話すると言う非常にカロリーが必要とする運動をするのは非常に辛いので、途中で訳の分からない事を気がつかない内にぼやいていてもおかしくは無いだろう。うん、きっとそうに違いない。と、言うことでここは一つ穏便に自然な形でもう一度彼女の口から聞き出した方が妥当な所だろう。それにしても、あー、眠い……


「まさか、そんな事はないよ。人の耳にフィルターが付いている訳でも無いんだから。安心してよミーシャ、ただ聞き流しただけだから。という事で、気にしないでもう一度言ってくれないかい?」


 おや……? ミーシャの顔色が悪いぞ? 青筋を立てている様にも見えるが……はて、朝食を抜いたのだろうか? 気分が悪い時は無理をしないで保健室に行けばいいのに。


「ふむ……余程君は私の逆鱗に触れたいのかね? そうか、そんなに君はマゾだったのか。そうかそうか、それは知らなかったよ。是非とも君に対する見解と言うのを一度改めた方がいいのかもしれんなぁ」


 そういって、何が楽しいのか歯を見せる程大きく開いた口を三日月に歪ませながら、彼女の目はちっとも、これっぽっちも笑っていなかった。


「え? ちょ、ミーシャさん? ひょっとしなくても怒ってます? ていうか、どうみても怒ってるよね? 僕がなにかしたか皆目検討が着かないけど、一時の感情に見を任せると後で痛い目をみるから止めた方が――」


 最後まで言い切る前に、頭部に強烈な衝撃とともに目の前が真っ暗に染まっていって――



 後で聞く話だと、その時ミーシャは僕の後頭部目掛け花瓶を叩き付けたらしい。ガラスの塊で出来た様なそのずっしりとしたその花瓶は元々教卓に置かれていたもので、最前列に座っていた僕の席からすぐに取れる場所に置いてあった物らしく、その日は真っ白な百合の花が入っていたらしい。らしいと言うのは、僕が次の日に学校へ行った時は全く別の花が飾られていて、僕自身がそれを見てないからだ。どうも僕の帰り血を浴びて赤く染まってしまった為、速やかに処分されたとか。ていうか、良く生きてたな……医者が言うには、死んでもおかしくない程の重傷だったのに、次の日には軽く包帯を巻くだけで登校可能なまでに回復するなんて……

 まぁ、いつもの事なので気にもかけてないが。医者が実際の怪我よりも重く診断することは、意外と珍しくは無いからね。生きていればそれで万事問題無しなのですよ。


 気が付いたら、たまにお世話になっている病室にいた。既に日はすっかり沈んだらしく、明かりが付いてないのもあってか、やけに静かだ。外から漏れる明かりがうっすらと辺りを照らしている。

 最初の頃なら驚きそうって言うか驚いたけど、ミーシャと出会ってから頻繁にお世話になるんで、あぁ、またか……としか思わなかった。何にだって耐性が付くものなんですよ、いやホントに。


「ふむ……ようやく目を覚ましたかね?」

「ぁ……うん。おはようミーシャ」


 ごく普通に返事をした筈なのだが、どういう訳かミーシャは僕の声を聞いた途端にその場で硬直する。えっと、僕なにか悪いことしたでしょうか……? 


「えっと、ミーシャさーん……?」

「……全く、君という存在は全く謎に包まれてるのだよ。君は本当に猿から進化したのかね? 私には、君が全く別の物から進化した何かだと思えてならないのだよ」


 硬直から解けた途端に、失礼な事をさも当然の如くつぶやくミーシャ。いや、それはいくら何でも酷いんじゃないだろうか? 僕はれっきとした人間で、それ以外の何物でも無いのだから。


「まぁ、それは冗談さ。気にしてくれたまえ」

「ねぇ、普通そこは気にしないでくれだよね? 冗談のどこに気をつければいいのさ!?」

「それは置いておいてだ……さて、君も意識を取り戻したんだ。朝の続きをここでしようではないかね?」


 僕の話を完全に無視して、一人自分の世界に入り浸るミーシャ。ていうか、どうして僕に乗りかかってくるんでしょーか? 


「あの時私は、秋といえば何かと聞いたのだよ。もっとも、君の事だから忘れているだろうがね」


 あー、そんな事あったっけ……? でも、それとこの現状と何の関係があるんでしょうか? 


「読書の秋、食欲の秋、まぁ人によってまちまちだが、私の答えは一つだ。それは……性欲の秋だよ」


 年齢に相応しくない程の不思議な雰囲気をまといながら、こちらに迫ってくるミーシャ。外見的には六つかそこらにしか見えないが、ただでさえ大人びている彼女に、薄暗い部屋の中でやけに浮き上がるように目立つ雪のような髪がさらに神秘的な雰囲気を作り出している。

 一瞬、僕は全てを忘れて彼女に目を奪われてしまう。


「さて、人類は肌を擦り合わせて寒さを凌いだらしいな。なれば、我々が同じ事をしてもおかしくはないのだよ」


 彼女の言葉に我を取り戻した僕は、必死になって逃れようともがくもマウントポジションを取られていたのでどうしようもない。否、まだ方法はある筈だ。もしもの為に、ナースコールが――


「ちなみに、ナースコールは意味が無いぞ? この院長には話を済ませてある。実に話のわかる良い人間だった」


 ブルータス、お前もか……

 いや、ブルータスじゃ無いけどそう突っ込まざるを得ない。ここの院長は頭がおかしいんじゃないですか!? ここが、何人か共通で使う病室なら彼女も諦めてくれるんだろうけど、残念な事にここは個室でしかも完全防音製だからそれも望めない。

 こうして悩んでいる内にも、彼女は迫りつつあるのだ。

 というか、どうしてこうなったんだろうか……? と、そこまで考えて、ふとある疑問が浮かび上がる。


「ねぇ、君は女性だよね?」

「もちろんだとも、百%純粋な女性なのだよ! 安心したまえ、何、悪いようにはしないさ。むしろ気持ちいいと思うぞ?」


 軽く頭痛がして、今までの悩みが嘘のようにきえていく。つまり、コイツは……知っていてなお迫っている訳だ。


「で、僕の性別は覚えているよね?」

「もちろんさ、利野としの 秋美あきみ。通称――トシアキ君?」

「そっか……なら、遠慮は要らないよね?」

「そうだとも、遠慮はせずに私に全てを預けるといいのだよ!」


 ミーシャの言葉に、僕は隙を見て彼女の束縛から逃れると、首筋に一撃与えて眠りにつかせる。うん、こうして寝ている分には容姿相応にしか見えないからちょっと怖い所がある。


 トシアキ君かぁ……普段から訳もわからないのに物事を意味も無く深く考える癖があり、第一人称が僕と言うのもあって、いつの間にか付けられていたあだ名だ。もっとも、軽蔑も含まれているので好きでは無いのだが……別段気にならなくなったのは何時からだろうか? きっと、ミーシャと出会ってからだろう。名前が自分の全てを表さないと教えてくれたのは彼女だ。時折こうして暴走する時もあるけれど、それでもミーシャは私にとって大切な親友なのだ。

 ……さて、これからどうしようか? 

 ……まぁ、危険も去った所だし、寝直すとするかね……? そう考えた途端にあくびも出るし……そうしようか。


「それじゃぁ……おやすみ」


 誰もいない病室にそういって、僕は再び眠りにつくのだった……


何かご意見ご感想があれば、是非お願いします。

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