赤のマニキュア工場
小説じゃなくなってしまったかもしれません……
りんごの皮と、少しの湧き水だけを使う小さな工場には、赤にとても映える、白い作業着を着た男が数人働いているだけで、あとは同じように白い巨大な機械が一台あるだけだ。
男の作業着も、巨大な機械もただ白くぼんやりと光ってみえる。
機械から伸びるホースからは、かつてはりんごの皮だったものが、熱によって溶かされ、ろ紙によって透かれ、不純物のない液体となってドラム缶の中に落ちていくのが見える。
ひとりの男は、それを決められた量だけストローで吸い上げ、小さな透明の瓶に吹き落とし隣の男に渡す。
もうひとりの男は、その瓶に刷毛の付いた蓋をつけてダンボールの中に、右端からひとつづつ入れていく。
それを繰り返すことが男たちの仕事だ。
それぞれ役割が決まっていて、その役割は入社年数によって分けられている。
単調な仕事だが文句を言うものはいない。
工場内はきまってとても静かで、もちろん仕事中は男たちが話すことはない。
聞こえるのは機械の動く音と、男の手が動く音だけだ。
仕事とはそういうものである。
やがて工場内に単調な音楽が流れ出し、男たちは手を止める。
お昼の時間を告げる音楽だ。音楽は15秒ほど流れたかと思うとピタリと止まった。
いつもと同じゆるやかな時間が始まるのだ。
男は機械を止めて白い部屋から出て行き、妻が作ってくれた些細な弁当と、皮のすっかり剥かれたりんごを齧り、うれしそうにニッと笑う。