第6話 メイド服なんだよっ!
「はいっはぁー~~い! おとーさまー~~きましったよっとー!」
「父上、お待ちいたしておりまし――ん?」
十代の少年が父上の服を着ている。
父上とは何時ぶりだろうか。前触れもなく緊急の連絡をすると、すぐに移動魔法を使って来てくれた。大変ありがたかったので、初老の風貌ではないことに目を瞑ることにした。
「おいおい、正気か。あのジジイ」
切れ長で大きな黒い目、硬そうな長髪を首元で縛っている姿。写真で見たことのある、幼少期の父上と同じだ。
「っし! 機嫌を損ねるような言葉を慎んでくださいっ」
あとで根掘り葉掘りと聞かれるのも嫌だ。よって私は、父上に簡略化した話をする。
婚約破棄された日に竜の卵をもらい、家に着いて孵化してしまったため、育てていることを父上に伝えた。無言で父上もココアちゃんの顔を見ている。
私は「孫のココアちゃんですよ」と伝えて手渡すと一瞬、真顔になるが、へらっと表情になり、すぐに返された。
「父上。竜の子どもなのですが――」
「その赤ん坊の件はあとだ、あと! どこの誰を診ればいいんだ?」
「はぁ」
父上をピトップ殿の前に案内した。彼女の前に椅子を置くと、どかりと腰かける。彼女に「気を楽にしなさい」と治癒魔法陣を全範囲に広げ診察をしてくれた。
「いつ見ても圧巻ですな。私も、そのように上手くはいきませんよ」
「煽てても何も出ねぇぞ」
「すごいものをすごいと言っているだけです。煽てるなんて真似、私には出来ない芸当ですね」
父上はブツブツと何かと語っていたかと思えば、肩を揺らして笑いを噛み殺して「お前が僕に頼み事をするとは、よっぽど、大事な女なんだろうな」などと私に話を振って来た。
「口よりも手を動かしてくださいっ」
「やってんじゃねぇかっ! ったく、父親扱いの荒いやっちゃなぁ」
唇を前に突き出してしかめっ面と、子どもじゃあるまいし不貞腐れている。
まぁ、他に話題も思い浮かばないから、容姿について聞くなら、今なのでしょうな。
「その身なり、いや、……子どもの容姿は、如何されたのですか?」
「ん? ああ! じーさんの恰好だとおねーちゃんたちにモテないからなっ、遊ぶならこっちの恰好の方が非合法的にいいんだよ♡」
父上は筋金入りの女好きである。
さらに女たちは父親に抗えなくなる。全てを委ねてしまうほど、私にはわからない魅力の持ち主らしい。母上が知らないところで、火遊びを愉しまれているようだ。
知らない内に、家族が増えていないことを願うばかりである。
「ちょっと、何を言われているのかが分かりかねますな」
「そんなんだからモテないのよ! まぁ、男になったんならいい店があるから一緒に――」
「御免被りますな」
我が父親だというのに、どうしてこうも疲れるのだろうか。
ああ。そうだ、昔からこんなんだから関わらないようにしていたのだ。だが、今は父上だけが頼りである。
「それで、ピトップ殿の身体的じょ」
「ひっでぇもんだよ。頭蓋骨にヒビ。鼻、頬、肩、両手足、両手足の甲に骨折、複雑骨折した古いのや新しいもの、などといったヒビ。……まぁ、やった連中は殺る気まんまんだったって感じかなぁ」
父上の言葉に私の中に、ぶわ、と何かが湧き出た。
ぽん、と肩に姉上が手を置いて擦るように優しく撫でられる。その感覚に、はっと私も気がついた。
「何? あんた、顔が強張ってるわよ? 大丈夫なの?」
「あ、ぇえ。……大丈夫ですよ」
「なら、いいけど。あんたは大馬鹿なんだから下手な真似、考えるんじゃないわよ。こっちゃんのこともあるんだからね」
腕の中の心愛ちゃんが寝息を立てている。
肌は柔らかく、とても温かい。馬鹿な真似を犯すことなど考える訳がないです。
「ジジイなら全回復可能なんでしょう?」
「当っっっっ然♡」
「うっわ、ドヤ顔きっも!」
姉上の言葉に「姉上。そのようなことは、思っても口にしてはいけませんよ」と思わず、真顔で言い返してしまう。
「キレイな身体に戻れますよ」
父上の言葉にピトップ殿も「ぁりがとう、ござぃます」と顔を俯かせてしまう。
「愚息のした愚かな行為のことは耳にしています」
「ぉ、愚かなこととはんですか!」
「婚約破棄されたからといって、王国に巡らせた防御魔法結界の総てを解くなんざ、ガキ以下! うんこだ! うんこ!」
煽る父上を他所に「身体はよくなったのかい?」と姉上がピトップ殿に聞けば、彼女も手足、全身を動かして確認をする。
「はい。どこも痛くなくなりましたわ」
彼女の言葉に私は姉上にココアちゃんを手渡した。
受け取った姉上も「何すんのさ」と疑問の声で尋ねて来たが見れば分かるのだ。姉上を横目で見て杖を翳した。
「服を着ましょうか」
杖を持ち脳に浮かんでしまった――婚約破棄のときのドレスをまとってしまう。
「このドレスは、……あのときの」
「派手な服だなぁ、ペラドんの趣味なの?」
「っち、ちがっ!」
自身が身にまとうドレスを手で確認をしている。
やってしまったことに唸ってしまう。
怪我が治ったことで、姉上がピトップ殿に聞かれた。
「王女殿下様は城に帰るのかい」
「っそ、それは、……さきほど伝えたように。私がいると継母様にとって王位継承問題で邪魔でしかないので、城へ帰れば継母様の命で、あらゆる手段を用いて暗殺されるだけ、生きていると知られれば暗殺者も来るでしょう。もう私が帰る場所など――どこにもないのです」
婚約破棄されたことで自暴自棄となり、王国の守護魔法陣を解いたばかりに。
複雑な家庭環境だとは思ってはいたが、ピトップ殿に生命の危機が訪れてしまうとはなんたることなのだ。
納得が出来ない姉上の口元は大きく歪み、さらに尾が床を、びったん! と勢いよく叩きつけている。
「第一王女のあんたが弟を婚約破棄を言い渡して捨てたんだろう? それが原因で国王が死んだのはお気のどく様とは思うよ。だからと言って、どこにも行くあてがないから乳母で雇えだなんて、面の皮は厚すぎやしないかい。お嬢ちゃん」
「お願いしますっ。雇って頂いた賃金が貯まるまででいいんです! 冬が終わったら出て行きますからっ! お願いしますっ!」
確かに、もう少しでモークアワード地方に長く冷たい凍える真冬が訪れる。
日夜の温度差は氷点下マイナス八十度もあるのだ。もしも、街に送り届けたとしても、追手に見つかれば殺されるだけであろう。人の噂も数十日。
「姉上も冬眠されますし。他の教養もある女性がいると我輩も安心が出来ますね」
「何? まだ、この王女殿下様に未練があったの?」
「それは全く、微塵としてありませんのでご安心ください」
視界の外でピトップ殿の身体がずっこけたように見えた。
「雇い招いても宜しいですかな? 家主よ」
「いいもっ、何も! もう家ん中に入っててんじゃんっ!」
言い合う我輩たちを無視して父上が「記憶とか飛ばしましょうか?」とピトップ殿に尋ねた。何も覚えていない記憶喪失になれば幸せになれると思ったのだろう。
彼女は父上の提案には顔を横に振った。
気丈な表情を浮かべて、目にキラキラと光りを燈して真っ直ぐに語る。
「今までの自分自身を棄てて逃げるのは嫌です。受け入れて――私は自分の未来を掴みとりたい!」
「いい女じゃないか! 気に入った! そんな服は違うな、そう! 地味だがもっとも美しい服で君を着飾ろうじゃないかっ!」
父上が杖を振るうと、ピトップ殿に着せたドレスがメイド服に替わった。
目を疑う服装に我輩は父上に堪らず聞いてしまう。
「どうして、メイド服なんですかな?」
「巨乳のお嬢さんにはメイド服なんだよっ!」
下衆で知能知数も低い子どもみたいなことを喜々と話す父上に、流石に私は杖を向けた。それに父上も小さな体を飛び跳ねて距離感を作り杖を向けて来た。
「頭のネジを締め直して差し上げましょうか?」
「女との遊び方! 付き合い方を伝授してやるのが親心ってもんだよなぁ!」
息をつめて杖を差し隙を見ていると、ぎゅん! と不意打ちと姉上の尾が私を叩き、父上は難を逃れていた。
「っぎゃ!」
「お、っと! ペペラんちゃん、とーさんを労わってくんないと♡」
「うっさい! ジジイ!」
最後に聞こえた声は――愛した女の言葉だ。
「ペラド? 大丈夫! ペラドっ」
「ピトップど、の」
倒れた身体の横にちょこんと膝をつき、頬をぷっくりと膨らませて睨んでいる。
「私以外の他の女性と、二股してたのですか?」
「っそ、れわぁ……ぅうう。ぐぅ」
遺憾ながら――誤解である。




