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第3話 問題は山積みだ!

 婚約破棄されてしまった日――私は、竜の子ども(ココアちゃん)の父親になった。ココアちゃんを女の子だと姉上が判断してくれた。


 

「さてと」

 


 まず手始めに魔法で粉ミルクとポット、哺乳瓶や衣服にオムツ、ベビーベッドと布団一式を出して私の部屋に設置する。

 


「では。お腹を満たしましょうね」

 

 

 記憶の中にある()()のやり方を思い起こす。

 

 粉ミルクを哺乳瓶に入れ、お湯で融かし人肌にまでを――全て魔法ではなく手作業で行った。私の様子に姉上も顔を傾げて聞いてくる。


「なんだって普通に世話してんの? あんたなら魔法であっという間に終わらせられるだろう」

 

「姉上。世のご婦人(母親)たちと同じ様に、私は手塩にかけたいのですよ」

 


 ミルクを飲ませた後は肩に置いて背中をリズミカルに叩き、ココアちゃんも上手くゲップが出来たことは感慨深い。


 

「万能な魔法を使わないなんて、理解に苦しむねっ」


「魔法使いは神ではありませんよ」

 


 排泄もだが、おむつ替えも前世での記憶が、大いに役立ってくれたのだ。


 

「そりゃあ、そうだろうけど」

 

「魔法は然るべきときにだけ使うものですよ」

 

「まぁ、好きにするといいさ」

 


 心愛(ココア)ちゃんがすやすやと、ベビーベッドの中で眠る。

 

 

「ふむ。……お腹が空いたな」

 

「あんたが大嫌いな、干し肉と肉の燻製しかないよ。あたしは肉食なんだからね」

 

「ああ。では、今日は肉の気分ですので、頂きましょう」

 

「へぇ。野菜しか食べなかった男がねぇ」

 


 野菜食しか口にしなかったのは、父親の影響が大きい。だが、城で就職を得てからは肉食も食べられるようになっている。


 姉上も驚きながら、一緒に食べられることを喜んでくれた。


 燻製のリス肉をパンに挟んだものが、紙に巻かれて手渡された。姉上特製のソースもたっぷりとかけられている。

 


「おかえり、ペラド」

 

「はい。ただいまであります」

 


 手にしたパンを乾杯と押し当てた。

 ここでようやく帰って来たのだと、私はパンを頬張った。

 


 ◆

 


 パンを食べ終わって、ベビーベッドの中を覗く私に「何? あんた、子どもに詳しくないかい?」と聞かれた。


 前世で嫌でも情報を見ていたから、などとは口が裂けても言えるはずがない。上手く考えて姉上に受け答えた。

 

 

「ええ。城にいたときに、育児に疲弊していた母親に代わり、母親の姿であやしたことがあるのですよ。彼女の家に礼もかねて招かれたときに拝見した、育児一式の記憶から出したのです」

 


 決して嘘ではないが、事実半分を話す私はドヤ顔をしてしまったのか、姉上が「へぇ」とドン引きの表情を向けている。


 姉上は、小さく騒がしい生きものが大嫌いである。

 結婚に憧れるが、子どもなど要らないというお方だ。

 

 よく考えると、姉上がココアちゃんを家に置かせてくれることなど、私の勢いに負けてしまったのであろうな。


 姉上自身が失恋後という経緯で、どうでもよくなっていたのかもしれない。全ての偶然がたまたま重なって――今に、至っているのだとしたら。

 


「娘は運がいいのであろうな」

 

「え? 何?」

 

「いいえ。別に何も。それにしても姉上、ココアちゃんは竜族の次世代の女王だということは理解しましたが、どの種族の竜の子どもか、ということは分かりませんか?」

 


 私の質問に、姉上も宙を仰いで見上げた。

 そこには宙を人形が泳ぎ回っている。

 


「竜族ってのは種属が多いんだ。火や水に風、氷に土。神族と魔族って割と広範囲。だから。一概に、恐らくとは言い難いかな」


 

 確かに、そう言われればそうかもしれない。

 深く異世界の生き物などに興味がなかったこともあって、知識はあれど接したことはないため――何が何やらだ。

 


「ふむ。では、地上にある父上の書斎で調べる他ありませんな」

 

「ああ。あの邪魔な本か」

 


 姉上の悪魔発言に、私の口から大声が出てしまう。

 

 

「邪魔とはなんですかっ、あれは智の結晶ですぞ! もう手に入らない魔導書などがあり、私とて半分も読めていない量が――」


 力説すると姉上は「燃やしてやろうか」とさらに悪魔の言葉を吐かれた。

 

 流石に父上の収集した価値あるものを愚弄されることは許しがたい。


 言い返そうとした我輩に、姉上が先に告げた。

 


「竜の種族云々の前に、あんたにはやらなきゃいけないことがあるだろう」

 

「え? 一体、何をですかな?」

 

「今の季節を言ってみなよ!」

 


 今の季節を言えとは、と思ったところで、ああ、と姉上を見た。

 

 姉上が理解したようだなと、言わんばかりの表情で「あたしは冬眠するぞ」と腕を組んで続けて説明される。

 


「あんたがいくらすごい魔法使いからって、竜の赤ん坊を一人で見るなんてのは無理だからな。乳母か育児教育をする誰かを雇うんだねっ」

 

「姉上が冬眠されなければいいのですよっ、いっそのこと真夏にしましょうか! この穴蔵の中をっ!」

 

「ふざけんな! 絶対に寝てやるっ!」

 

 

 季節はすでに秋。

 徐々に冷える空気と雨の多さから、時期――冬が訪れるのだろう。

 


「乳母か、誰かを雇うですか。考えていなかったですね」


「魔法は便利だろうが。あんたが倒れたら、竜の子どもが可哀想だろう」

 


 私は姉上の言葉にココアちゃんを見た。

 問題は山積みである。

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