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第21話 きれいな顔してんだろ?

「さぁ。ペラド、話しなさい」


 

 ピトップ殿が身体を離して、高慢な()()に戻った。凶悪な顔で腕を組み、目の前で仁王立ちをする。


 

「ぁ、あの」


「春先になるのかなぁ。ペラドの元に、赤ん坊が届けられるんだよ~~」 


 

 言おうとしたときに、先に説明されてしまった。

 相手は寝たはずの父上(カズマ)だ。

 


「父上っ」


「よぉう♡」

 


 しかも、子どものときの容姿である。

 どういう心境なのか。本当に、父上の考えることが分からない。

 


「父上っ、貴方は寝たのではないのですか! その身なりはなんなのですか!」


「うっせぇよ、ばぁあ~~っか♡」

 


 ここは少し、空気を読むべきでしょう。

 


「! カズマ様。……赤ん坊が、もう一人ですって? ペラド? まさか、貴方という人はっ!」

 


 ほら。父上が話したことで、ピトップ殿がお怒りですよ?

 どう責任をとってくれるんだ。


 ピトップ殿が声を大きく荒げる様子に、我輩も「潔白ですっ」と否定するしかない。

 


「断じてっ、父上のように火遊びで産ませた子どもなどではありません!」

 

「純愛だもぉ~~ん!」

 

「黙れっ!」


 悪びれる様子のない父上に一喝を言い放った。

 なんなら魔法でぶっ飛ばしたくなったが、今はそれどころじゃないっ。

 

 取り返しがつかなくなる前に、誤解は早く解くに越したことはない。

 


()()魔王ディエが妊娠をしたのですよ!」

 

「どうしてここで、魔王ディエ(アレ)が出てくるのですかっ!」

 

「彼女は母上と遠い親戚だったそうです! 孕んだ子どもの相談を母上にして、育児の鉢が私に回って来たのですよつ!」

 


 潔白に気づいてくれたのか、ピトップ殿が口を閉じる。

 ようやく、言い争いに終止符を打ち、肩で息を切らしながら話を続けた。

 


「勇者ザスイから負った傷が芳しくないようです。産後、死ぬということを本人から聞かされました」

 

「ココアちゃんもいるんだ。なんなら()()()()()()育児は同じじゃん? でしょぉ~~ピトップちゅあぁんンん?」

 

「黙れっ! 気やすく呼ぶなっ!」

 


 流石に堪忍袋の緒が切れそうだ。

 杖を呼ぼうとしたが、ピトップ殿が確認するように聞かれる。

 


「魔王の相手は? ペラドは知っているの?」


「……勇者ザスイです」

 


 我輩が言うと、ピトップ殿が首を傾げた。

 その気持ちを私も味わったのである。


 あの二人の関係を知る人が聞けば、誰もがこういう反応になるはずだ。

 


「ピトップ殿」


「……いいですわっ。私が乳母として全員、育児しましょうっ!」

 


 ピトップ殿が誇らしげに胸を突き出す。

 はらり、胴体に巻かれていたタオルも湯船に沈み落ちた。

 


()()()()()()()()()()()!」

 

「ピトップ殿ぅう?」

 

「子どもを作りましょうっ!」

 


 目をキラキラと、子どものような表情を向けた。

 慌てて湯船からバスタオルを取り、ピトップ殿の体に巻いて離れる。

 


「よっしゃー~~! 嫁たん、爆誕ンん~~♡」


「おいぃいっ! 黙れぇえ!」

 


 杖を呼び寄せ、手で掴んで父上に向けたが「ん? おっそ♡」と閃光が向けられ、思いもしないことに目を瞑る。

 


「目を開けな」

 


 父上の言葉に目を開けた。

 すると、どういうことだ。

 目の前に、透明な液体が入った小瓶が浮かんでいた。

 


「一体、……これはなんなのです?」


「いいから、いいから♡」


「よくなんかないだろぉー……ぅんっご!」

 


 きゅぽん、と蓋が動くと身体が抵抗も出来ないまま、強引に口を開かせられ、小瓶の中身が注がれてしまう。終えると動きはすぐ戻った。

 

 口を手の甲で拭い、何かを問い正す。ヤバい薬品なのかと疑るのは当たり前だ。

 

 

「父上! 一体、何を飲ませたっ?」


「僕からのご祝儀だよ~~なぁんてな、餞別さ♡」

 


 訳が分からない言葉を言い、父上が肩を揺らして笑う。

 我輩は怒りも通り越し呆れ果ててしまう。どうしたものかと考えるが、何もいい案が浮かばない。

 


「先に()()()()()()()()()んでね」

 

「答えになっていませんなっ!」

 

「まぁ。僕が言えた義理じゃないんだが、お前はきちんと幸せな家庭を築くんだぞ! 正直、僕は自分の事ばかりで失敗した。アガレッタんには申し訳ないとは思っている。本当さ!」


 

 父上の掠れた言葉が聞こえる。

 泣いているのかと顔を見れば、いつもと同じ掴みどころがない顔だ。

 

 手が動くと箒がどこからともなく飛んで来た。本当にどこかに行くようだ。こんな夜更けに、一体にどこにと思ったが父上に聞くだけ無駄だろう。


 彼は空気であって、周りに吹く風だ。

 同じ場所に留まる真似は、出来なかった()()である。

 

 

「次はいつ、こちらに帰って来ますか? 妹のココアちゃんにはきちんと――」

 

「帰って来れないよ。ごめんな~~」

 

「そんな無責任な話がありますかっ!」

 


 ピトップ殿が父上に怒鳴りつけた。

 しかし、父上は箒に無言で跨り「みんなのこと頼むよ! ()()()()()()()!」と飛んで行ってしまう。

 


「信じられないっ!」


「ああいう人なんですよ、昔から父上(あの人)は」

 


 露天風呂に2人きりだ。


 

「お伝えしなければならない話は済みました。逆上せる前に上がりましょうか」

 


「私は返事をしました。でも、ペラド。貴方はまだですよね」

 


 低い問いかけに、はぐらかして終わりには出来ないかと、苦し紛れに聞き返した。

 


「妹のココアちゃんが成人する、……半年後まで保留は出来ませんか」

 


 今はココアちゃん。そして、春先に来る魔王の子どものことしか考えられないのだ。考えが甘いということをすぐにピトップ殿の言葉で思い知らされる。


 じりじりとピトップ殿が迫り寄って来て、我輩も後ろに下がっていく。顔をピトップ殿から逸らして足元の湯を見る。

 


「今は、もう少しだけ時間が欲しいと言いましょうか」


「時間ですって? 私は五年待ったのです。無理でしてよ♡」

 


 身体が浴槽の淵に当たり行き場を失った。

 逃げ場も手段さえ思い浮かばない。


 時間は何もかも解決出来るのかもしれないが、時間は後悔もつくり生み出してしまうものである。もう二度と、同じ轍を踏んではならない。


 失敗は成長を恐れさせるのだから。

 


「ピトップ殿……」


 

 裸の今だからこそ、包み隠さず告白をしよう。 


 

「私も五年、……貴女だけを愛していました」


 逸らしていた顔をピトップ殿に顔を向けた。目が合うとびくっと彼女の身体が揺れた。彼女の腰に腕を回した。

 


「ペラド」


「いまさらですが。穢れた種族なんかでいいのですかな?」


「はい♡  旦那様♡」

 


 身体がを動かし、ピトップ殿を床の上に倒し見下ろす格好だ。ごきゅ。喉が鳴ってしまう。

 


「ピトップ」

 


 なんて、幸せなのであろうか。




 ♡♡♡合体♡♡♡



 

『起きろよ、寝坊助ちゃん』

 

「ぅうん?」


『家族を頼むよ。僕はもう死んじまったからさ』


「んンんん? しんだ? いかれただけでわ」

 

 

 優しい声に目を醒ました。

 


「父上?」

 

 

 横にはピトップ殿が寝ていて起こさないように、ベッドからゆっくりと抜け出る。どうせ身内だけだ、腰にタオルを巻いて騒がしい方に歩いて行く。


 胸騒ぎがする。


 駆け出し、父上のベッドに向かう。

 


「行くではなく、まさかっ、……あぁ、父上! カズマ、嘘だろうつ!」


「ああ、ペラド。ココアと同じで起きたのかい。やはり、兄妹だね」


 

 小走りで息を吐く見た姉上が、泣くココアちゃんを抱きかかえて言う。

 


「……親父(ジジイ)が死んだよ」


「姉上」

 


 我輩は唇を噛み締めるしかない。

 想像した結果に言葉も出ないのだ。

 


「死後硬直が始まってる。とっくに死んじまっていたってことだよ。なんなら、さっきあたしのとこにも来た。多分、縁のある全員に別れを言いに行ったのだろう。難儀なジジイだよ」


「カズマっ」

 


 居室の父上を寝かせたベッドに向かう。

 そこには老体の父上が寝ていて、灯りを点け顔を見た。

 


「なぁ。ペラド」

 

 

 青白い顔が眠っている。

 


「きれいな顔してんだろ?」


「一馬……」


「死んでんだぜ」

 


 胸に手を置けば身体が硬い。

 中身がないのことも分かる。

 

 

「百歳越えた人間の魔法使いは家族と過ごして、老衰で死んだ。幸せだったんじゃないのか」

 


 大魔法使いカズマが死んだ。

 大好きで行方不明で、ようやく会えた――兄カズマが……。


 がくん、と膝が折れ、腰が床の上に落ちてしまった。

 


「かずまぁああ~~アァアオぁああ!」

 


 大粒の涙が目から溢れ叫んでしまった。

 その背中を姉上が抱き締め「泣け、あたしもなくからっ」と声を震わせる。

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