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第19話 そのさんっ! お元気で。

「ディエたち親子に時間がない以上、絶賛育児中のペラドが行うのは一番であろう?」

 

「安易なっ!」

 

「アガレッタんが、そこまで言ってんのにぃ? しないって言い張るんならぁ~~僕ちゃんも激おこなんですがぁ~~?」

 


 私の首に横から杖の先端が突きつけられた。

 ぐい、と押し当てられる箇所に微量の電流が走る。バチバチと痛い。

 


「貴方に怒られる言われなどっ、ありませんがね!」

 


 杖を握り、ばっきんと力業で折った。それから杖を出して父上の周りに魔法陣を張った。

 

 動けば全範囲から集中攻撃を受ける。しかし、父上なら回避する――勝敗などつくはずもない。

 


「ペラドんンん?」

 


 パン! と母上の両手が鳴る。

 


「じゃれ合いはもういいんだ」


「……はい」

 


 母上の強い言葉に魔法陣を解いた。

 同時に、「馬鹿野郎っ」と頬を父上に殴られ身体が横に弾んでしまう。

 


「ここまで育てた杖を折られたぁああ!」

 

「直せないのかい」

 

「折られちゃったものは、元通りにはなおせないよぉおぅ~~」

 


 さめざめと杖を抱き締めて泣く父上に申し訳ない気持ちが湧く。だが、謝る気にはならなかった。

 


「先に攻撃をしようとするからですよ」


「アガレッタんンん! ペラドんの奴がぁあ!」

 


 父上の泣く様子をイグナも「可哀想に♡」と頬を朱に染めて見入っている。

 


「はぁ。頭が痛いな」

 


 母上が舌打ちをして、眉間を指先で押さえた。

 


《ごっほ、……発言、いいでしょうか》


「許可する」

 


 ディエが静まる席で声を発する。

 彼女は何を話すのかと耳を澄ますのだ。

 


《優しい魔法使いペラド。私には貴方ほど頼りたいと思う友人いないのです》


「いやいや。魔王軍を倒した側の私は、子どもにとって憎い相手でしょう」


《別に、あえて言う必要はありません……ごっほ、ごほっ!》

 


 子どもに親のことを話すなということなのか。

 何も知らずに育てても、子どもが耳にしたとき、どう思うかを考えるべきである。


 憎しみを植えつける行為は避けねばならない。それは同じ気持ちだ。

 

 新しい命を真っ直ぐ、光の中でゆっくり育てたい。

 


「私は教えますよ、魔王の子どもであるということを」

 


 ディエに教育方針を伝えた。

 すると、ディエがゆっくりと語り出す。

 


《貴方は、あの停戦条約のことを覚えていますか》


「ええ。停戦条約まで勇者から同じ魔族だからと押しつけられ、私は貴女と話をし続けていましたな」


《そうでしたね、……ごっほほ!》

 


 あの日々が懐かしいと、なるとは思いもしなかった。

 


「何度か勇者ザスイも一緒に交渉の場に足を運んでいたというのに、何故か、ある日を境に行かなくなりましたが。ひょっとして何か、隠し事でもありますかな?」

 


 冗談交じりに話したというのに、水晶体の中にいるディエの口から硬い口調がとんでもない凶悪な(あり得ない)言葉を言い放たれた。

 


《子どもの父親は、あの()()()()()だからです》

 


 耳を疑い、思いがけず裏返った声で聞き返してしまう。

 

 

「はぁア?」

 


 目が飛び出る。

 まさに、そういう心境なのである。


 思いもしない二人の関係に、どうしてそうなった? と疑問が頭に溢れ返った。

 

 知る限り、勇者ザスイという人間は――身勝手極まりない()()()()()なのである。


 はっきりいうならば、()()()()()使命のためになら一緒にいるが、それ以外では付き合いたくない()()なのだ。

 


「あの()()()()()()()()()()って言い切る()()のですかっ!」

 


 だが、魔王ディエは()()()()()()()()ようである。

 


《勇者とは一夜の関係。まぁ、私と彼も同意の上でシた行為です》


「しかし、……あのザスイが魔族である貴女と寝るとは信じられませんな。まぁ。貴女もザスイと寝るとは、思いもしませんでしたが」

 


 魔王と勇者の関係に唸っていると、彼女が強い口調で問い掛けて来た。

 


《……ペラドは、彼が私との子どもを育てられると思いますか?》


「それは無理でしょうな。あいつは子どもの親にはなれませんよ」

 


 彼の性格と生活からきっぱりと言い切った。

 子どもを育てる以前に、自分以外を人間扱い出来ない()()が魔族との間に産まれた子どもの親になど、なれるはずがないではありませんか。


 むしろ。よく人を救う勇者になれたものだと思っているのに。

 


《はい。そこで魔族の親戚で既婚者、アガレッタに相談していたときに、ペラドが、竜の子ども()を育児していると聞いて、貴方にしか頼めないと思ったの、……ごっほほ! ……です」


「なるほど、そう繋がりましたか」

 


 赤ん坊の育児が可能な環境であることは確かである。

 必要な人手も揃っているといえよう。

 


(わらわ)も一緒に暮らす。こ、……ココアと同様に可愛がろうではないか」


「そうだな。オレも少し、仕事放棄して休暇でも取ってやろうではないか。子どもたち(ペペラとペラド)が、生涯独り身で育児などする機会もなさそうだしな」

 


 母上の心無い言葉に、ぐさ! と胸に痛みが走った。

 


「も、モテなくて申し訳ないですなっ」

 


 母上へ震えた声が絞り出された。

 


「お前も少しは父親(カズマ)に似ればよかったのに。まぁ、下半身猿は困るがな」

 

「ああなったら、我輩は人としてお終いと思っていますが」

「ちょっとひどくなぁ~~い?」

 


 我輩と母上のやり取りに父上も反応する。

 


「それで、ペラドんは魔王ディエと勇者ザスイの子どもを育てるのかな?」

 


 父上の言葉に店員に酒を注文する。父上たちも飲み物や甘いものを頼んだ。

 

 すぐに運ばれた酒のジョッキが前に置かれ、取っ手を掴んで一気にジョッキを空けて叩き置く。

 


「私以外にいないではありませんかっ」

 

「いないな」

 

「いないんじゃないか?」

 


 母上とイグナが今更といった表情で飲み物を飲んで行く。父上はデザートのパフェの果物を頬張ってにやにやと見ている。


 

《優しい魔法使いペラド、ありがとうございます》


「それで? 出産はいつなんです? 子どもをどう連れて来るんですかな?」


 

 酒の力でディエに質問責めだ。

 無言となる彼女に「聞いていますかな?」と腰を浮かせ、水晶体を覗き込む。


 すると横から頭部を父上に掌で叩かれてしまった。

 

 

「父上っ」


「連れて来る子どもを待っとけばいいんだよ。だよなぁ、魔王ディエちゃん」


《……はい》

 


 か細い返事に浮かせた腰を椅子に座らせた。


 

「新しい生命を待とうじゃないの」


「カズマは楽観的過ぎるよ」

 


 思わず拗ねた口調で呼び捨てにしてしまうと、父上は目を丸くさせた。

 


「おい。ペラドん、止せよ。()()()を思い出させんなよ」

 


 あいつとは、恐らく()()()のことであろう。

 そんなつもりはないのだが、うっかり言葉が出てしまったである。

 


「そんなつもりはありません」


「全く、天然は堪らねぇなぁ~~」

 


 頭を父上は掻いて苦笑を浮かべた。

 


「では、家族会議は以上だ。ディエの子どもを家で待つんだ」

 

「せめて、いつ頃の出産になるかくらいは教えてもらえませんか」

 

「間もなくだ。育児して待っていなさい」

 


 パン! と母上が終了と手を打ち鳴らす。

 


《魔法使いペラド、貴方に最後、また出会えてよかった。……さようなら》


「出産、頑張ってください、……子どもを待っています」

 

《はい、私も元気な子どもを産みます。改めて、……お元気で》

 


 母上が支払い茶屋バイケンから出た。

 すっかり夜が深くなっていて、空に浮かぶ月が大きくキレイに輝いている。


 

「はぁ。寒い、ココアちゃんは寝ていますかな」

 

「ピトップちゃんにはなんて説明すんの?」

 

「子どもが増えると伝えるだけですよ」

 


 魔王と勇者の間の竜の子どもと伝えなくてもいいであろう。いや、隠し立てせずにきちんと話した方がいいのか。

 


「馬鹿野郎。きちんと全部を言うんだぞ。一切、隠し事はすんな」

 

「そのことを悩んでいました」

 

「悩むくらいなら言っとけ」

 


 父上が父親らしい助言を言って来ることが白々しく思えてしまうが、背中と悩みを後押ししてくれて、どうにか吹っ切れた。


 父上(これ)のようになりたくはない。

 


「はい。きちんとお伝えします、……それで断られたら子どもを連れて家を出ますよ」

 


 胴が据わった私の肩を「じゃあ、オレたちは先に帰るからな」と帰って行く。

 残った私と父上は飲み直しにニ件目を探した。

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