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第14話 「食事のご用意が出来ました」

【ムルイ街】の賑やかな旅館街の中央から外れた雑木林が生えた場所。

 

 古い外壁をした大きな赤い木造の建造物が多くある中、【アバ旅館】と古く読めるギリギリの看板がある建物の門を父上に連れられてくぐった。


 中は薄暗く、木々の間にランタンを吊るした紐が飾られており、周辺を照らしている。


 これは――いい画になる雰囲気だと思った。


 宿泊する部屋は大部屋(スィートルーム)

 大人数向けの家族部屋であった。

 

 

「で。何故、室内の風呂に混浴をしなきゃいけないのですかな。旅館の大浴場の方がいいでしょうに」

 


 室内の窓辺に天然露天風呂が備え付けられており、そこから眩しく賑やで眠らない宿泊施設の街を一望出来たのだ。


 露天風呂に浸かれば、外気の空気と身体に伝わるお湯の熱さの大差が格別にいいのは別として、どうしてここに――全員で入らなければならないのか。


 旅館の大浴場も、まだ入れるのではないかと私も聞いた。すると、不機嫌な表情を浮かべた姉上が言い返した。

 


「まず、冷えた身体を温めなきゃいけないだろう。ご飯も用意中だ、入るなら今だろうが」

 

「しかし。姉上、……混浴をしなくてもよろしいのではないですかな」

 

「愚弟もよく考えな。ピトップの奴は、流石に亜人の浴室には行かせる真似は出来ないだろうが。あたしも他の亜人と混浴は嫌だね」

 

 

 それでは、旅館に泊まる意味がありませんな。

 


「まぁ。それはそうでありますが」

 


 私は言葉を飲み込むのである。

 


「ピトップ殿。お湯加減は大丈夫ですかな? 混浴及びココアちゃんをお任せして申し訳ありません」

 


 横にはタオルケットを巻いて入浴するピトップ殿が、ココアちゃんを腕に抱いて湯に浸かっている。


 

「いいえ、旦那様。乳母の務めですもの構いません。それにしても、……」


 

 ピトップ殿が湯加減を聞く私を見惚けている。じぃ、と肌をまじまじと見てきた。

 


「ん? ピトップ殿、どうかされましたかな」

 

「旦那様の身体、鱗があるのですね。初めてお体を拝見しましたわ」

 

「私は蛇男ですからね。いやはや、お恥ずかしいです。立派な身体でもありませんし」

 


 お湯からピトップ殿の手が上がる。

 

 

「あのぅ、鱗を、触ってもよろしくて?」

 

「うぇえ~~?」


 

 和気藹々としていると、室内の中から「食事のご用意が出来ました」と従業員から声がかけられた。


 締まるドアの音に「上がりますかな」とピトップ殿からココアちゃんを受け取ろうと腕を伸ばしたのだが、そのままピトップ殿が上がってしまう。

 


「乳母に任せとけばいいさ」

 

「はぁ」

 

「逆上せる前に上がるんだぞ」

 


 返事を待たずに、姉上も湯から上がった。

 残ったのは私と父上だけである。

 


「そういえば。また老人の容姿なのですね」

 

「何を言ってんだよ、これが本来の僕だろう」

 

「それはそうなのですが」

 


 室内から「旦那様。ご飯が冷めてしますわ」と着替え終わったピトップ殿が私たちを呼ぶ。

 


「今、行きます」

 

「おい。ペラド」

 

「はい? なんですかな」

 


 湯船から上がろうとしたときに「みんな寝たら、ちょっと出ようぜ」と父上が肩を叩いて湯船から上がった。

 


「まぁ、いいですけど。父上は。おかしな真似な今に始まった訳ではないですが、本当に読めない(掴みどころのない)お方だ」

 


 とうとう、湯船には私だけになる。

 


「それにしても、本当に見渡す夜景がとてもキレイですな」

 

 

 眼下に広がる【ムルイ街】の灯りと湯煙に見惚けていれば、そこへ姉上が扉を開け険しい声を掛けられた。

 


「おい! 逆上せたのかっ」

 

「……きゃーえっちぃー♡ なのですが」

 

「ざけんな。いいから早く上がりなっ!」

 


 姉上の剣幕に湯船から上がる。食事は団体客用の間にあった。

 

 豪華な食事とココアちゃん用のミルクも用意されている。なんという粋なおもてなしなのか。


 

「ミルクは僕が頼んだわけじゃないぞ。旅館の人の好意だ」


「有り難くて。また泊まりたくなりますな」

 


 テーブルを囲み食事をする。

 量は少なくても皿は大人数用と多く、季節の食材がふんだんに調理され盛られていた。


 酒も地元のブランドものが数多く置かれていて、ピトップ殿に合わなかったのか、すぐに寝落ちてしまった。


 

「おや。酔って寝てしまわれましたか。では、居室に」


「いい。あたしも戻るから連れて行くよ。あんたはジジイと食ってな」


「そうですか? では、お願い致します」

 


 姉上がピトップ殿を背負い居室に戻る。


 ココアちゃんを腕に抱いて、頬張りつつあやした。一カ月になろうかと成長は、やはり人間の発育とは断然と違い、すでに身体も大きくなており、歯も生え始めている。

 


「もう、離乳食の方がいいかもしれませんね。何やら、我輩の食事の様子を真剣に見て、涎を垂らされておりますし」


「ああ。人間とは成長の速度は違うもんな」

 


 父上と近状や昔の話しで盛り上がり、気がつけば大人数用の皿も空になり、酒もなくなった。


 満腹と酔いに満たされる。

 


「そろそろ、食事をお開きにしますかな? ココアちゃんを居室へ寝かしに戻ってからでしたら、どこへでもお付き合いしますが。どうされますかな」


「いいぜ。じゃあ、ちょっと付き合ってもらうとすっかなぁ」

 


 これから父親と子どもの長い夜が始まるとは思ってみなかった。


 ただ、日常の続き(スローライフ)が、この先も家族で続くとばかり思っていたというのに。

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