第13話 満室っ!
【ムルイ街】で父上が周りの亜人たちに担がれている様子に、私はピトップ殿に告げた。
「父上は放っておいて買い出しに行きましょう」
「いいのですか?」
「面倒になれば、自分で巻いて来るでしょう」
ここで待つという時間は非常に勿体無い。ならば、とっとと買い出しに行くべきである。
「ああ。買い出し終わらせて、置いて帰ろう。いい年したジジイだ、帰って来たかったら戻ってくるだろうさ」
不機嫌な姉上も「行こう」と手を挙げた。
すべての亜人たちが父上の元に行き、店内は観光客だけで、従業員も不在になっているため、会計も出来ずに混んでいる。
父上の人気を思い知らされたが、ただ、すごいのだなとしか思わなかった。
「ジジイの人気、衰え知らずだな」
「お義父様は人気者ですわね」
姉上も悪態を零され、それにピトップ殿もにこやかに頷いて応えている。
「力が強いと馬鹿みたいに証明したばかりに、あんな目に遭うのですよ」
かつての自分と父上を重ねてしまい、強い口調で言ってしまった。何かを察したのか、ピトップ殿が被せるように言葉を紡ぐ。
「旦那様。少し、寒くなってきましたわ。どこかで休んで、ココア様のパンツの中を確認ついでに暖を取りたいですわ」
「ピトップ殿、……それは名案ですな」
確かに太陽が雲に覆われ、必然的に気温も下がっている。厚着の冬用コートとはいえ、出ている肌は凍える風にさらされ、熱も奪われるのだ。
「では、買い物をしてしまいましょう」
買い出しリストを出して確認をする。
「米、パンを作る食材の一式、干し芋、野菜、洗剤、などですな。量はありますが、私が魔法の袋に入れて持ちますので、気になさらないでください」
「おい、ペラド。ピトップの日常品も忘れるんじゃないよ」
「え? いいえ、私は、……自分で――」
私は「ですから、1人で買い出しになど許可はしませんよ」と姉上がいうようにピトップ殿の日常品も買うことにした。
◆
すでに目当ての買い物は済み、気がつけば夕暮れとなっている。空気も冷えてきて辺りが白く染まっていくのも見えていた。
「さて」
「ほら、寒くなって来た。こっちゃんが風邪引いちゃうんじゃないのか」
いつでも帰ることはいい。しかし、折角の温泉を久しぶりに堪能したい。ピトップ殿にも味わって欲しかったのだ。
「確かに、風邪を引きかねないですね」
「あァあぁ~~寒いったら!」
ピトップ殿も寒さのピークを超えて無言で、ココアちゃんを抱き締めていた。これは家に帰る途中で倒れかねないと姉上に提案してみる。
「いっそのこと一泊しますかな。ココアちゃんも楽しいでしょうし」
「あんたにはしてはいい提案じゃないか。泊まろうじゃないか」
「おや。姉上が賛同して下さるとは思いもしませんでしたな」
我輩の言葉に姉上も「家に着くまでに、行き倒れたくないんでね」と口をへの字にして吠えた。
「それはそうですね。では、宿を手配しましょうか」
余裕をかましていたが――行き先々の旅館が全室、埋まっているとは。
「満室っ」
旅館街の外の路で佇んでいた。大勢の亜人たちや見たことがない他国の民族が列をなして大勢で歩いていた。
言葉も片言や耳慣れない言葉が木霊している。ここはもう、私が知る場所ではなくなっていた。腹正しい気持ちが大きい。
「昔はすぐに宿泊が出来たというのにっ!」
「昔と今は違うんだよ。馬鹿か」
怒りに拳を握るが「時期も関係しているんだよ。観光客の多さを舐めるんじゃない」とピトップ殿に被さり、とぐろを巻いて温めている。見る人によっては捕食されているようにしか、見えないであろうな。
「ふむ。参りましたな」
帰るにしても――外の気温も低い。
絶対に宿泊してやると考えていたときである。
「いたいた! ん? どうかしたのかよ?」
父上が子どもの容姿で箒に乗ってやって来た。
「父上。亜人の方たちを巻いて来られたのですか、その格好で」
「ああ。巻いて来た」
箒を少し下して「なんだ、泊まるのか?」と私に尋ねて来た。
「はい。折角、街にも来たのですから」
「……ははん? はいはい♡」
「……なんですかな、薄気味の悪い笑いを浮かべて」
とんでもないことを恐らく、考えているとは気づいたのだが、折角なら父上も使おうと笑みを返した。
「名声を使って部屋をもぎ取って下さいませんかな」
「ピトップちゃんと混浴いいんだよなぁ」
「……母上に告げ口をされたいのですかな?」
私の威圧に「ペラドン、あは? あはは?」と苦笑いして、ぺたぺたと肩を叩かれた。その後、父上がいい旅館の宿泊を取ってくれたのである。




