第五章 日曜
十二月の第一日曜日に模試があった。
会場は高校だった。自分の学校で受けるのは初めてではないが、休日の校舎は平日と違う。廊下の音がよく響く。人の声が少ない分、鞄の音や椅子を引く音が目立つ。
受験番号順に席が決まっている。私の席は窓際の後ろから三番目だった。
隣の席に誰が来るかを確認した。知らない顔だった。別のクラスか、あるいは別の学校から来た受験生かもしれない。
試験が始まった。
最初は国語だった。評論文の問題を読む。傍線部の意味を問う設問に答えていく。わかるものはわかり、わからないものはわからない。手が止まるたびに、鉛筆の音が遠くから聞こえてくる。
静かな部屋で、鉛筆の音だけが続く。
誰かが速く書いている。誰かが止まっている。問題用紙をめくる音。消しゴムのかすを払う音。それらが全部、同じ時間の中にある。
私も同じ時間にいる。当たり前のことだが、その当たり前が少し不思議に感じられた。
休憩時間、廊下に出た。
瀬川も同じ会場だった。廊下の窓際に立って外を見ていた。私も隣に立った。
「どうだった、国語」
「普通」
「次が数学か」
「ああ」
しばらく二人で外を見た。校庭に霜が降りていた。木の枝が細く光っていた。
「日曜にこういうことしてるの、なんか変だな」と瀬川が言った。
「変じゃないだろ」
「変というか、外から見たらおかしい気がする。日曜に学校来て、席に座って、問題解いて」
「みんなそうしてる」
「そうだけど」と瀬川は言った。「みんなそうしてるから変じゃないとも言えないだろ」
その言い方が少し引っかかった。変だと思いながら受けているのか、と聞こうとして、やめた。変だと思っていても受けなければならない状況があって、瀬川もその中にいる。それは私と同じだった。
数学が終わり、英語が終わり、理科が終わった。
最後の社会が終わったのは午後四時過ぎだった。問題用紙と答案用紙を回収され、解散の指示が出た。
荷物をまとめながら、体の中から何かが抜けていく感覚があった。疲れているのだと思う。力が入っていたのだと思う。試験中は気づかなかったが、終わってみると全身が少し重かった。
瀬川は隣のクラスだったので、帰りはすれ違わなかった。
私は一人で校舎を出た。
日が落ちるのが早い季節だった。
校門を出ると、すでに空が暗くなりかけていた。橙色と青の間の色が、西の方に残っていた。
見沼代用水の橋を渡る。水面は暗くなっていて、色がわからなかった。橋の上で立ち止まることはなかった。足が自然に動いた。
大宮駅まで歩いて、改札を入って、ホームで電車を待った。
ベンチに座って、試験のことを少し考えた。手応えがあったわけでもなく、なかったわけでもない。結果が返ってくれば数字になる。数字になれば、また何かが始まる。
それが嫌かと言われると、嫌ではないかもしれない。ただ重い。ずっと重い。重さに慣れたわけではないが、重さとともにいることには慣れてきたかもしれない。
電車が来た。
乗り込んで、吊り革を握った。日曜の夜の電車は、平日の朝よりは空いていた。窓の外に街の明かりが続いていた。
次の模試の日程は、まだ知らない。知らなくていい。今日はとりあえず終わった。




