第9話 希望の光へ
猛吹雪の北海道の夕方。
「ま、前が見えない...それに風も強いな...」
結は冷たい雪に打たれながら、必死に箒のバランスを保っていた。
「早くどこかに降りないと...とは言っても...田んぼと山しかない...」
その時、とても強い突風が結を襲った。
「くっ...あっ——!」
耐えきれず、結は箒から放り出されてしまった。
急速に地面が近づいてくる。
「えーっと...何か役に立つ魔法あったっけ...そうだ、あれを使おう。」
結は両手を空へ向け、風を操る魔法を発動させた。落下の勢いがわずかに弱まり、雪の上へと転がるように着地する。
「いったたた...でも、助かった...」
立ち上がると、吹雪の向こうに箒の姿はもう見えなかった。
「箒もどこかに行ったから、探さないと駄目だな...」
それからしばらく歩き、ようやく見つけた岩陰に身を潜める。
「さ、寒い...そうだ...」
右人差し指に小さな炎を灯す。
「ん~...無いよりまし...」
凍える指先をかざしながら、必死に体温を保った。
やがて遠くに灯りが見える。
「た、助かった...!」
しかし近づいてみると、それはただの街灯だった。
「なんだ...街灯か...」
一瞬、胸に広がった希望がしぼむ。もう助からないのではないか——そんな考えが頭をよぎった。
だが、ふと思いつく。
「あれ、この道を辿っていけば、街に出られない?...」
再び小さな希望が灯る。
「よし、行こう。」
真っ白な雪道を、一歩ずつ踏みしめながら進んだ。
数分後、周囲が少し開けてくる。それでも家の気配はない。
「暗くなってきたな...もっと冷えそう...」
さらに十分ほど歩いた頃、ようやく建物が見えてきた。
「あれは、民家かな?...もう、人がいるなら何でもいい...」
力を振り絞り、その家へ向かう。
扉が開き、中から老婆が顔を出した。
「あらあら、どうしてこんな所に若い子が?」
結は息を切らしながら答える。
「はぁ...はぁ...私...魔法管理庁の...神代結と...申します...」
「魔法管理庁さんがどうしてこんな所に?」
「実は...強風で箒から落ちてしまって...山の中からここまで歩いてきました...」
老婆は目を細め、優しく頷いた。
「そうかい、それは大変だったね。体が冷えているだろうし、中にお入り。」
「え、いいんですか?」
「ええ、いいよ。」
結は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
暖かい家の中に入った瞬間、張り詰めていた緊張がほどける。
ストーブの前に座ると、指先の感覚がゆっくり戻ってきた。
それからしばらくして——。
「結ちゃん。お風呂入る?」
フミと名乗ったその老婆が声をかける。
「いいんですか?」
「いいよいいよ。ストーブだけじゃ、暖まらないでしょ。」
「すみません。ありがとうございます。」
湯船に浸かった瞬間、結の肩から力が抜けた。
「はぁ〜...生き返る...」
風呂場の窓の外では、雪が静かに降り続いている。
「北海道...良いところだね...」
小さく呟いた。
厳しい自然の中にも、確かな温もりがある。
風呂から上がると、フミが用意してくれた部屋着に着替え、居間へ戻る。湯気の立つスープを両手で包むと、体だけでなく心まで温まっていくのを感じた。
「今日は泊まっていきなさい。こんな吹雪の中、外に出るもんじゃないよ。」
窓の外で唸る風を見て、結は素直に頷く。
「……はい。お言葉に甘えます。」
毛布にくるまり横になると、すぐにまぶたが重くなった。
吹雪の夜。
小さな民家の灯りだけが、雪の中で静かに輝いていた。
次回に続く....




