第6話 久しぶり
外では、雪がパラパラと降っている幕別町の昼。
結は、つい一時間ほど前に人質としてこの犯罪組織のアジトへ連れてこられた。
今は装備をすべて奪われ、窓から差し込むわずかな日光だけが明かりとなる部屋に閉じ込められている。
窓があるとはいえ、鉄格子がはめられており、脱出は容易ではない。
「……やっぱり、魔法じゃ完璧には治らないか……」
結は、刀で斬られた足の傷に魔法をかけてみたが、完全に回復することはなかった。
「そういえば……前にも、こんなことがあったな……」
ぽつりと独り言をこぼす。
「あの時は、玲奈がいたけど……今は……」
その時、扉が軋む音を立てて開いた。
眼鏡をかけた細身の男が、無表情で中を覗き込む。
「来い。」
短くそう言われ、結は逆らうことなく立ち上がった。
男に連れられて辿り着いたのは、かつてリビングだったであろう広い部屋だった。
「座れ。」
指示に従い、結は椅子に腰を下ろす。
その正面に立っていた人物を見た瞬間、結の顔から血の気が引いた。
――そこにいたのは、かつて東北管区本部を襲撃した、あの男だった。
「久しぶりだねぇ、結。」
結は顔をしかめる。
「……気安く、私の名前を呼ぶな。」
「ははは。そんな無様な姿のくせに、口だけは達者だ。」
男はそう言うと、なんの躊躇もなく結の座る椅子を蹴り飛ばした。
結は床に倒れ込み、そのまま男に顎を掴まれる。
「いいことを教えてやろう。私が、あの時お前に会いたがっていた理由をな。」
男は結の顎から手を離し、背を向ける。
「それはな……お前を、我々の“道具”として利用したかったからだ。」
「……私は、お前たちの道具にはならない。」
結の言葉に、男はわずかに口元を歪めた。
「今はもう、お前に用はない。」
「……なら、なぜ私を捕らえた。」
結は睨みつける。
「捕らえた時に言っただろう。幹部を返してもらうための“人質”だと。」
「言っておくけど……お前たちの要求は、通らない。」
男は無表情のまま答えた。
「その時は――」
男の目が、冷たく光る。
「お前の意識を操作し、魔法管理庁の本庁を襲撃してもらうだけだ。」
「忠告しておく。私であっても本庁を攻略するのは不可能だ。お前達はそんなことも知らないのか?。」
次の瞬間、男は顔をしかめ、手のひらに赤い魔法陣を展開し、それを結へ向けた。
「少し、痛い目を見せた方がよさそうだな。」
――その時、銃声が響いた。
男は舌打ちし、魔法陣を解除する。
「何事だ。確認してこい。」
命じられた手下が部屋を出ていく。
しばらくすると、奥から悲鳴と銃声が連続して聞こえてきた。
「や、やめろ……ぐああああっ――!」
足音が近づき、やがて扉の前で止まる。
そして扉が開いた。
そこに立っていたのは、拳銃を手にした黒衣の女性だった。
《魔法管理庁》と背中に書かれたコートを羽織り、フードを深く被っている。
女性は静かに告げる。
「畑山健介。あなたをテロ等準備罪で逮捕します。」
ボスは杖を取り出し反撃しようとしたが、銃声とともに杖は砕け散った。
「……やはり、魔法は銃には敵わないか。」
その女性は、小言でそう言った。
一方の結はぼんやりと思う。
(……あれ? もしかして……)
ボスは抵抗する間もなく拘束された。
「ふぅ……仕事終わり。」
女性は無線で報告を終えると、結の方へ向き直る。
「大丈夫ですか、先輩。……あ、フード、邪魔ですね。」
そう言ってフードを外す。
そこには、結がよく知る懐かしい顔があった。
「大丈夫だよ――玲奈。」
次回に続く....




