第2話 静かに過ごしたい休日
外の凍えるような寒さとは違い、ショッピングモールの中は暖かかった。
自動ドアをくぐった瞬間、ほっと息が漏れる。
「暖かい……」
冷え切っていた結の体が、じんわりとほぐれていく。
「はぁ……生き返る……」
肩の力を抜きながら、結はモールの中を歩き始めた。
モールの中には、たくさんの店が立ち並んでいた。
衣料品店、雑貨屋、飲食店、ゲームコーナー。平日の朝ということもあり、人はそこまで多くない。
「来たのはいいものの……どこに行こうか……」
少し立ち止まり、きょろきょろと周囲を見回す。
防寒着や職務に必要な道具は、基本的に支局から貸し出されるため、特に買うものはない。
「服は……ほとんど制服だし……」
「私服を着ることって、あんまりないんだよな……」
そう呟きながら、結は少し考え込んだ。
迷っていても時間の無駄だと思い、結はとりあえず近くにあった服屋に入った。
店内には、冬物のコートやニット、マフラーなどがずらりと並んでいる。
「服ねぇ……ん〜……」
ラックを見ながら、ゆっくりと店内を歩く。
普段は制服姿ばかりのせいか、私服選びにはあまり慣れていない。
「こういうの……いつ着るんだろ……」
そう思いながらも、なんとなく気になる服を眺めていた。
しばらく店内を歩いていると、結は少し良さそうな服を見つけた。
「お……これ、いいかも。」
手に取ったのは、白と黒のしましま模様のニットセーターだった。
「ちょっと試着してみるか。」
周囲を見回し、試着室を探す。
「えーっと……試着室は……あ、あった。」
カーテンを開けて中に入り、手早く着替える。
鏡の前に立った結は、少し首をかしげた。
「……あ、意外といいかも。」
普段の制服姿とは違う自分に、少しだけ新鮮さを感じる。
そのまましばらく悩んだ末、結は決めた。
「……買っちゃった。」
レジへ向かいながら、どこか満足そうな表情を浮かべていた。
店を出た結が、次に向かったのは本屋だった。
「何か、いい本はないかな……」
店内に入ると、ずらりと並んだ本棚を眺めながら、ゆっくりと歩く。
旅行ガイド、雑誌、小説コーナー。
久しぶりに、仕事と関係のない本を探す時間だった。
――そのとき。
店の外から、女性の叫び声が響いた。
「きゃあーー!!」
「……なんだ、なんだ?」
突然の声に、結は少し驚き、思わず顔を上げた。
急いで店の外へ出てみると、モールの通路の右奥で、刺股を持った警備員と、刃物を持った小柄な男が対峙していた。
「あ〜……なるほど。」
こういう状況に、すっかり慣れてしまっている自分に、結は内心で苦笑する。
「そういえば……杖、支局に置いてきちゃったな……」
そう呟いた、その瞬間。
警備員に囲まれていたはずの男が、突然、結の方向へと走り出した。
「え、ちょっ……来ないで……!」
休暇中ということもあり、できれば魔力は使いたくなかった。
「えー……もう……」
「……仕方ない、やるか……」
結は観念したように、右手の人差し指に魔力を込めた。
指先に、青い魔力の玉が小さく生まれる。
結は、そのまま男の足を狙って放った。
青い光はまっすぐに飛び、見事に命中。
「痛えっ!!」
男は悲鳴を上げ、痛みに耐えきれず、その場に倒れ込んだ。
「ふぅ……これでよし。」
どこか、やってやった感のある表情を浮かべていた。
倒れ込んだ男は、すぐに警備員たちに取り押さえられ、そのまま警察へと引き渡された。
騒ぎはほどなく収まり、モール内にも落ち着きが戻る。
結は、モールの責任者らしき人物に声をかけられていた。
「この度は、本当にありがとうございました。」
深く頭を下げられ、結は少し困ったように手を振る。
「いえいえ……私は魔力保安官なので……」
それ以上話が長引く前に、軽く会釈してその場を離れる。
(せっかくの休暇なのに……)
心の中で小さくため息をつきながら、結はモールの通路を歩き出した。
「はぁ……今日はもう、静かに過ごしたいな……」
その後も、結はしばらくモール内を歩き回った。
さっき買えなかった本を買ったり、ちょっとした雑貨を選んだりと、普段よりも少しだけお財布の紐が緩んでいた。
「ふー……たくさん買っちゃったな……」
「でも……満足満足。」
久しぶりのショッピングに、どこか晴れやかな気分になっていた。
そして最後に、フードコートへと向かう。
「甘いもの……食べたいな……」
少し悩んだ末、結が選んだのはソフトクリームだった。
「寒くても、ソフトクリームは美味しいんだよね。」
一口食べて、思わず表情が緩む。
「……美味しい。」
だが、そのままあっという間に完食。
「くっ……頭が……」
こめかみを押さえ、顔をしかめる。
「一気に食べちゃったからな……」
完全に自業自得だった。
支局に戻ってきた頃には、すっかり夕方になっていた。
「さーて……買ったものを小さくして、まとめておいて……」
「ついでに、荷物も整理しておくか……」
支局に戻るなり、結はすぐに片付けを始めた。
明日は、いよいよ釧路を飛び立つ予定だ。
魔法で荷物を小さくし、きれいにまとめ終えると、結はひと息つく。
そのまま、支局の屋上へと上がった。
夕焼けに染まる空が、ゆっくりと夜へと変わっていく。
「今日は……トラブルもあったけど……」
「いい休日だったな。」
白い息を吐きながら、結は沈んでいく夕日をじっと見つめていた。
やがて夜になり、支局の食堂が開いたのを確認して、晩ごはんを済ませる。
その後、仮眠室へ戻り、布団に潜り込んだ。
「明日からも……頑張ろう……」
そう呟くと、結はゆっくりと目を閉じる。
こうして、結の休日は静かに終わりを迎えた。
次回に続く....




