第11話 遭遇と緊張
美しい朝日が、紋別の街をやさしく照らしていた。
時刻は午前6時30分。
結は、支局に戻って箒と業務用端末を回収したあと、再び自分の担当地区へと戻ってきていた。
どうやら、容疑者はまだ逃走中らしい。
「たった10人しかいないんじゃ、短時間で見つかるはずないか……応援、来るのかな……」
周辺の支局は稚内と釧路のみ。
だが、どちらも人手不足で、すぐに応援を回せる状況ではなかった。
唯一、多くの保安官が常駐する管区本部は、紋別からはかなり遠い。
しかも現在は吹雪で、移動そのものが危険な状態だった。
「もう少しで、子供たちが登校する時間……急がないと……」
結は必死に周囲を見回しながら巡回を続けたが、手がかりはなく、容疑者の姿も見当たらない。
―――
やがて時間が進み、小学生たちが登校を始めてしまった。
「犯人探しは後回し……今は、小学生の安全を守るのが最優先だ」
そう判断した結は、通学路を中心に巡回を始めた。
「ここは警察官がいるから……大丈夫、かな……拳銃は持ってるけど……」
少し不安になる。
警察官が使える魔法は、一般人とほぼ同程度だ。
攻撃系魔法は、結が卒業した魔力保安学校のような専門機関でしか教えられていない。
もっとも、稀に独学で扱えるようになる者もいるが――。
―――
しばらく巡回を続けていると、警察官の数が明らかに増えていることに気づいた。
「……なんか、警察官、多くない?」
端末を確認すると、通知が表示されていた。
《8:10 警察へ通学路の警備を要請した》
「なるほど……」
納得はしたものの、不安が完全に消えることはなかった。
「……本当に、これで大丈夫なのかな……」
―――
そして、午前9時半。
小学生たちは無事に登校を終えていた。
結はというと、少し怪しい男を追っていた。
「……ちょっと、話しかけてみるか……」
慎重に距離を詰めた、その瞬間。
男は素早く振り返った。手には、はっきりと杖が握られている。
「なんか用か?」
小柄な体格に似合わない、荒れた声。
結は一瞬驚いたが、すぐに気を取り直す。
「あの……すみません。魔法管理庁です。職務質問、よろしいですか?」
刺激しないよう、丁寧に声をかけた――はずだった。
しかし、男は無言のまま、杖の先を結へと向ける。
結も即座に警戒し、腰に下げた杖をいつでも抜けるよう身構えた。
「落ち着いてください」
張りつめた空気。
一触即発の状況。
――その時。
結の背後から、遅刻した小学生が息を切らして走ってきた。
「危ない、下がって!」
結が叫んだ瞬間、男が動いた。
杖の先が光り、魔法が放たれる。
防御魔法を展開しようとしたが、間に合わない。
結は即座に振り返り、小学生に覆いかぶさった。
激しい衝撃とともに、二人の体が宙を舞う。
雪の上を転がり、約2メートル先で止まった。
幸い、小学生に怪我はなかった。
だが、結の背中には鋭い痛みが走っていた。
「ふぅ……ふぅ……危ないから……逃げて……」
その言葉に、小学生は必死に頷き、走り去っていった。
結は痛む体を押して立ち上がり、杖を取り出す。
再び、緊張状態に入った。
目の前には、なおも杖を構える男。
雪を踏みしめる音だけが、静かな住宅街に響いていた。
次回に続く....




