第8話 苦労の末の稚内
雪がちらつく灰色の空を、結はひとり箒で飛んでいた。
留萌を出発してしばらくした頃から降り始めた雪は勢いを増し、視界も肌もじわりと削っていく。
「うぅ……寒い……あと約38kmもある……」
現実を突きつけられ、結は思わず絶望の声を漏らした。
空の下に広がるのは、見渡す限りの白い大地。
まさに“THE 北海道”という景色がどこまでも続く。
やがて寒さに耐えきれなくなり、結は一気に速度を上げて近くの町へ向かった。
「早く……暖を取りたい……」
ほとんど勢い任せに、最初に視界に入った豊富駅へ飛び込む。
中は暖房が効いていてぽかぽかと温かく、
ストーブの周りには椅子が囲むように置かれていた。
「はぁ……暖かい……」
あまりの安堵に、思わず目が潤む。
結は椅子に座り込み、ポケットからスマホを取り出した。
「暖かくならないかな……」
天気予報を眺めながら、しばしストーブの暖気に体を沈める。
――そして2時間後。
結はすっかりストーブの虜になってしまい、椅子から立ち上がれなくなっていた。
「早く行かないと……でも行きたくない……うぅ、私はどうしたらいいんだ〜……」
葛藤の末、泣く泣く飛び立つことに。
再び白一色の景色へ。
行けども行けども“THE 北海道”の雪原。
様々な困難に耐えながら、稚内の街が視界に入った頃には、もう午後7時になっていた。
結は急いで支局へ向かい、支局長室の扉を叩く。
「す、すみません……到着が遅れてしまいました……」
本来の予定到着時刻は午後5時。
2時間も遅れたことに、結は怒られる覚悟で身を固める。
(怒られるかな……)
しかし——
「ん、はい。大丈夫。」
「あ、かる……」
まさかの即返答。
気の抜けたような許され方に思わず声が漏れる。
(本当に……大丈夫かな……この組織……)
あまりに緩い対応に、逆に心配になる結だった。
支局長室をあとにした結は仮眠室へ向かい、荷物を置く。
「物を消しゴムくらいに小さくできる魔法って、本当に便利だな〜……」
なぜか今じゃなくてもいい独り言をこぼしながら、ひと息つく。
時間はもう午後7時半。
お腹が鳴り、防寒具を身につけて外へ出た。
「防寒具貸してくれるんだ……そんな制度あったんだ……」
ありがたいような、申し訳ないような複雑な気持ちを抱きつつ、
温かいものを求めて町を歩く。
ふと目に入ってきたラーメンチェーン店。
「よし、味噌ラーメン2回目いくか……」
席に着くなり注文し、運ばれてきた丼から立ち上る湯気。
味噌の香りが凍えた身体を誘うように包み込む。
「いただきます」
麺をすすり、スープを飲む。
一口ごとに、体の芯がぽかぽかと温まっていく。
気付けば丼は空になっていた。
「ふぅ……ごちそうさま」
結は満足げに息を吐いた。
次回に続く...




