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空舞う箒の巡遊譚  作者: あすへ
第七章 北海道巡遊(前編)
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第3話 小さな安らぎ

廃墟を後にしてしばらく飛んだ頃、空の様子が一変した。


風は強まり、視界はみるみる白く塗り潰されていく。

雪は横殴りになり、箒の進行方向さえ分からなくなった。

「……これは、さすがに危ないな·····」


結は高度を落としながら、周囲を見渡す。


「はい……完全に吹雪です……」


玲奈の声も、風にかき消されそうだった。


このまま飛び続けるのは危険――

そう判断した二人は、洞爺湖付近の明かりを目指して進路を変えた。


なんとか辿り着いたのは、湖畔に建つ小さなホテルだった。


ロビーに入った瞬間、外の吹雪が嘘のように静かになる。


「……助かりましたね……」


「うん、ほんとに……」


チェックインを済ませ、部屋の鍵を受け取ったあと。


「……うぅ……宿泊代、高かった……」


結は領収書を見つめながら、肩を落とす。


「先輩、仕方ないですよ……この天候ですし、近くに支局もないですし……」


「わかってるけど……わかってるけどさ……」


完全に気落ちしている結を見て、玲奈は小さくため息をつき、そっと近づいた。


「よしよし。」


「……っ」


軽く頭を撫でられ、結は一瞬だけ固まる。


「……玲奈?」


「ひとまず、お金のことは置いておきましょう。」


「……うぅ……そうだね……」


結は抵抗する気力もなく、素直に撫でられていた。


しばらくしてから、二人はエレベーターを使い、部屋へ向かう。


廊下は静かで、窓の外では雪が音もなく降り続いていた。


「今日は、移動だけで結構疲れましたね。」


「うん……北海道、想像以上に体力使う……」


「温泉、入れそうですよ。」


「……それは、ありがたい。」


部屋の前で立ち止まり、鍵を開ける。


「じゃあ、今日はここで一泊だね。」


「はい。」


部屋は和風で、想像以上に整っていた。

畳の香りと、控えめな照明が落ち着いた空気を作っている。


結は部屋を一通り見回し、心の中で納得した。


(……確かに、この値段なわけだ。)


「先輩、すごく綺麗ですね!」


「うん、そうだね。」


その直後、玲奈は勢いよくベッドに飛び込んだ。


「……元気だね。」


「少し休んだら、温泉行きましょう。」


「そうだね。」


それから十五分後、二人は温泉へ向かった。


「うわぁ……露天風呂ありますよ。」


「……あんなに高かった理由、これだね。」


脱衣所を抜けると、湯気に包まれた露天風呂が広がっていた。

外は吹雪いているはずなのに、ここだけは別世界のように静かだった。


雪がひらひらと舞い、湯船の縁に積もっていく。


湯に足を入れた瞬間、冷え切っていた体が一気に緩む。


「……あぁ……」


思わず、結の口から声が漏れた。


「先輩、完全に力抜けてますよ。」


「ぐっ·····否定できない……今日はずっと寒かったから……」


二人は肩まで湯に浸かり、しばらく黙って雪を眺めていた。


「北海道って、厳しいですけど……こういうのは、いいですね。」


「うん。仕事じゃなかったら、もっとゆっくり来たかったかも。」


「それ、今度上に言ってみます?」


「……通るかなぁ。」


半分冗談のその言葉に、玲奈は小さく笑った。


「でも、今日は正解でしたね。」


「ホテル泊まる判断?」


「はい。無理して飛んでたら、たぶん凍えてました。」


「……それは、そう。」


少し間を置いて、結がぽつりと言う。


「玲奈がいてくれて、助かったよ。」


「……それは、お互い様です。」


それ以上、言葉は続かなかった。

沈黙は、ただ心地よかった。



部屋に戻る頃には、吹雪はさらに強まっていた。


「もう……眠くなってきました。」


「私も。」


布団を敷き、灯りを少し落とす。


「おやすみ。」


「おやすみなさい、先輩。」


吹雪に閉ざされた洞爺湖の夜。

二人は、久しぶりに何にも追われない時間の中で、静かに眠りについた。


次回に続く....

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