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空舞う箒の巡遊譚  作者: あすへ
第七章 北海道巡遊(前編)
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第2話 ついてない

翌朝、支局の外は一面の白に覆われていた。

夜のうちに降り積もった雪が、街も海も境目なく塗りつぶしている。


窓辺に立った結は、その景色をぼんやりと眺めながら、小さく息を吐いた。


「あー……やっちゃったか……」


頭の奥に、微かな鈍さが残っている。

それ以上に、昨日の自分の言動が、じわじわと恥ずかしさを連れてきた。


(なんで、あんなに素直になっちゃったんだろ……)


お酒を飲んだことを、今さらながら後悔する。


「ふぁ〜……おはようございます、先輩。」


背後から聞こえた声に、結は肩を跳ねさせた。


振り返ると、玲奈が眠そうに目を擦りながら立っている。

髪も少し跳ねていて、まだ完全に目が覚めていない様子だった。


「お、おはよう……玲奈。」


「先輩、昨日は凄く酔ってましたよ。」


あっさりと言われ、結は一瞬言葉に詰まる。


「ほんと……気をつけてくださいよ?」


「ぐっ……気をつけます……」


結は観念したように小さく頷き、視線を床へ落とした。

耳まで熱くなっているのが、自分でも分かる。


そんな様子を見て、玲奈はそれ以上は何も言わず、軽く背伸びをした。


その後、二人は食堂で簡単な朝食を取り、静かに出発の準備を進めた。

支局の中は、朝の穏やかな空気に包まれている。


箒に跨り、外へ出ると、冷たい空気が一気に頬を刺した。


「先輩! 見てください。」


玲奈が声を上げる。


「街が真っ白で……すごく綺麗ですね。」


雪に覆われた函館の街が、朝の光を反射してきらめいていた。


「……ほんとだね。」


結は一瞬だけ見とれたあと、すぐに表情を引き締める。


「玲奈、よそ見しすぎて落ちないように気をつけなさい。」


「分かってますよ、先輩。」


軽い返事とともに、二人の箒は静かに空へ浮かび上がる。


白い世界の上を、二人は並んで飛び立っていった。


あれから二時間ほどが経った頃。

二人は、吹雪に包まれた長万部町の上空を飛んでいた。


視界は白く霞み、風が容赦なく体温を奪っていく。


「先輩……さ、寒いです……」


玲奈の声は、いつもより少し弱々しい。

箒を握る手も、かすかに震えていた。


「そうだね……だいぶ吹雪いてきたし、どこかで暖を取ろうか。」


結もマフラーを引き寄せながら答える。

北海道の冬は、慣れていても油断できない。


そのとき、結の腰に下げた魔力異常探知機が、小さく警告音を鳴らした。


「……あ、探知機が反応した。」


「嘘でしょ……」


玲奈は一瞬、空を仰いでから、がっくりと肩を落とした。


「今、このタイミングでですか……?」


「仕方ないよ。これが私たちの仕事だからさ。」


「まあ……そうですけど……うぅ、寒い……」


心底嫌そうに呟きながらも、玲奈は箒の向きを変える。

二人は吹雪を突っ切るように、反応源へと急いだ。


――もちろん、玲奈の気分は絶望的だった。


長万部町某所。


雪に半ば埋もれた、古い建物がそこにあった。

窓は割れ、外壁は剥がれ落ち、明らかに人の気配はない。


「……この廃墟か。」


「先輩、よりによって暖房のない廃墟なんて……今日、ついてないですね……」


「そんなこと言わないの。ほら、行くよ。」


「は〜い……」


気のない返事をしながら、玲奈は後に続く。


中に入ると、外よりもさらに冷えた空気が漂っていた。

床は軋み、天井からは時折、粉雪が舞い落ちてくる。


「……廃墟って、なんでどこも寒さ倍増するんですかね……」


「気のせいじゃないと思うよ、それ。」


二人は慎重に奥へ進み、今は長い廊下を歩いていた。


「玲奈、何があるかわからない。警戒して。」


「了解です。」


二人は同時に、腰に下げた杖を構える。


そのとき――。


「先輩。あの奥の扉……光が漏れてます。」


廊下の突き当たり。

確かに、古びた扉の隙間から、不規則な光がちらついていた。


「慎重に行こう。」


結は足音を殺し、ゆっくりと扉に手をかける。


――ギィ、と鈍い音。


扉の向こうでは、天井の照明がチカチカと明滅していた。


「…………これだけ?」


「……そう、みたいですね……」


警戒していた分、拍子抜けする二人。


最近、大規模な事件や戦闘が続いていたせいで、

二人の感覚は少しだけ、麻痺していた。


「魔力の流れ……照明に溜まってただけか。」


「ただの老朽化+少しの魔力異常ですね。」


結が魔力を操作し、異常を解除すると、照明は静かに消えた。


「……終わり?」


「終わりだね。」


沈黙。


「……寒い思いしただけじゃないですか、これ。」


「……うん。」


二人は揃ってため息をついた。


廃墟を出ると、吹雪は少しだけ弱まっていた。


「せめて、どこかで温かいもの飲みたいですね……」


「同意。」


そう言葉を交わしながら、二人は再び箒に跨る。


再び白い世界の中へ、静かに飛び立っていった。


次回に続く...

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