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空舞う箒の巡遊譚  作者: あすへ
第七章 北海道巡遊(前編)
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第1話 温もり

厳しい寒さの中、凍りつくような空気を切り裂いて、二人の魔法使いが津軽海峡の上を箒で飛んでいた。


視界の先には、暗い海と、遠くに見える街の灯り。 白い息が、夜空に溶けていく。


「先輩……すごく寒いです……」


「まあ、真冬だしね……それに北海道だし。」


「何重にも重ね着してるんですけど、それでも寒いです……」


箒を握る玲奈の手に、じんわりと力が入る。


「風邪引いたら困るし、早く支局に着こうか。」


「そう言う先輩も、またスピード出しすぎて風邪引かないでくださいよ?」


「う……善処します。」


歯切れの悪い返事に、玲奈は小さく笑った。


十分ほどして、函館支局が見えてくる。


建物に入った瞬間、冷え切った身体を包み込むような暖気が流れ込んだ。


「……生き返りますね。」


「ほんと、そうだね。」


二人はそのまま休憩室へ向かい、ストーブの前に腰を下ろす。


「温かい……」


「外との温度差、反則だよ。」


結はストーブに手をかざし、深く息を吐いた。


そのとき、足元をちょろちょろと歩く影があった。


「鈴ちゃん。」


支局で飼われている猫が、二人の前で立ち止まる。


「おいで〜。」


玲奈が声をかけると、鈴は素直に近寄り、そのまま抱き上げられた。


「癒されますね〜……」


「……うん。」


結はその様子を眺めながら、自然と少しだけ距離を詰めた。


理由は特にない。 そこが一番、暖かそうだっただけだ。


「……先輩?」


「ん?」


「いえ、なんでもないです。」


玲奈はそう言って、何も指摘せずに微笑んだ。


一時間ほど体を温めたあと、二人は夕食を取りに外へ出た。


夜の函館は、昼よりもさらに冷え込んでいる。 街灯に照らされた雪が、静かにきらめいていた。


「足元、滑りやすいから気をつけて。」


「はい。」


歩く速度は、自然と同じになる。


「先輩、今日は静かですね。」


「そう?」


「なんというか……落ち着いてる感じです。」


「……寒いからじゃない?」


「それにしては、歩く速さが合ってます。」


結は一瞬だけ視線を前に固定してから、淡々と答えた。


「転ぶと危ないでしょ。」


「ふふ、そうですね。」


数分後。 二人は五稜郭の近くで見つけた居酒屋に入っていた。


「……居酒屋か。」


(また、お酒の流れになるのかな……)


結は内心、少しだけ警戒する。


「仕方ないですよ、先輩。ここしか開いてなかったですし。」


「それは……そうなんだけど……」


「寒いですから、早く入りましょう。」


「うぅ……分かったよ。」


渋々、暖簾をくぐった。


中は木の匂いと料理の香りが混じる、落ち着いた空間だった。


「先輩、ザンギ食べたいです。」


「いいよ。食べようか。」


「それと、おにぎりと……厚切り卵焼きで。」


「お酒とかは……どうする?」


「私は酎ハイにします。」


「……じゃあ、私もそれで。」


ほんの少し迷ってから、結は同じものを頼んだ。


「乾杯でもします?」


「……うん。」


「「乾杯。」」


軽くグラスを合わせ、一口。


「……飲みやすい。」


「ですね〜。」


料理をつまみながら、ゆっくりと時間が流れる。


そのうち、結の頬がほんのり赤くなってきた。


「あぁ……やっぱり、来た……」


「先輩?」


「うん……ちょっと、ふわっとしてる。」


「立てます?」


「たぶん。」


声ははっきりしているが、どこか緩い。


会計を済ませ、店を出ると、冷たい空気が一気に酔いを撫でた。


「……さむい。」


「でしょうね。」


「でも……この感じ、嫌いじゃない。」


「どんな感じですか。」


「考えなくていい感じ。」


結は空を見上げて、ぼそっと言った。


支局に戻り、仮眠室へ向かう。


「……眠い。」


「ですよね。」


「でも、寝るの、もったいない。」


「何がですか。」


「今日。」


玲奈は何も言わず、毛布を渡した。


結はそれを受け取り、素直に横になる。


「……おやすみ。」


「おやすみなさい、先輩。」


返事を聞いた結は、安心したように息を吐いた。


ストーブの音だけが、静かな夜に溶けていく。


北海道の冬は厳しい。 けれど、その夜は、どこか穏やかだった。


次回に続く...

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