第7話 同期会
市
魔力犯罪捜査研究所・解析室
早朝。
薄い光が差し込む解析室では、押収された魔力異常探知機、強盗の道具、瓶詰めの魔力痕跡が机に並べられていた。
雫は白手袋を軽く弾きながら、それらを一つ一つチェックしていく。
「……ふむ。雑な連中のわりに、魔力痕跡だけやけに薄い」
助手が資料の束を抱えて入ってきた。
「雫さん、強盗三人の魔力反応、全部“加工済み”でした。偽装の可能性が高いです」
「やっぱり。誰か後ろで手を引いてるね」
雫は眉を寄せながらも、どこか楽しげだ。
「結が絡んでる事件って、いつも波乱の匂いがするのよねぇ」
「同期なんですよね?仲良かったんですか?」
「まあね。訓練のときは毎回競ってたし。
……久しぶりに再会したから、ちゃんと話したいなって思ってたけど──」
コンッ。
控えめにドアがノックされる。
「雫さん。結さんが来ています」
「お、来た来た。行ってくる」
資料をまとめて白衣を脱ぎ、廊下へ歩き出した。
支局ロビー前
結は制服のまま壁にもたれていた。
事件対応後の疲れが少しだけ表情に残っている。
「雫。お疲れさま」
「あら、結。早朝に呼んじゃってごめんね。解析が佳境でさ」
「いつものことだよ。雫は一回始めたら止まらないんだから」
「んふふ、否定しないよ」
雫は結の顔を覗き込むように見つめる。
「……やっぱり変わってないな。真面目で、疲れてても顔に出さない」
「褒めてる?」
「もちろん」
結は少し目をそらし、ぽつりと言った。
「……雫。久しぶりに会ったのに事件対応ばっかりだったしさ。
たまには、話したいなと思って」
雫は一瞬驚いたあと、柔らかく微笑む。
「じゃあ──朝ご飯行こ?近くに、昔よく行ってた定食屋さんまだあるよ」
「懐かしい。まだあるんだ?」
「あるある。ちょっと味変わったけどね。玲奈ちゃんは?」
「玲奈はまだ寝てる」
「可愛い後輩持ったねぇ〜。……でも今日は、結とゆっくり話したい」
雫が軽く結の腕をつつく。
「同期会、しよ?」
「……いいね。行こっか」
つくば市内・定食屋
暖簾をくぐると、湯気の匂いと控えめなBGMが二人を迎えた。
席に座ると、どこか学生時代の空気が戻ってくる。
「結ってさ、落ち着いて座ると学生の時の空気に戻るよね」
雫が湯飲みを手で包んで笑う。
「わかる。雫と話すと、訓練で走り回ってた頃の感覚が蘇る」
「『結、また全力で走りすぎ!』って私が怒ってたよね」
「いや、雫が遅かっただけだよ」
「ちょっと!口悪くなってない!?」
笑い合っていると、料理が運ばれてくる。
「チキン南蛮お待たせしましたー。焼き鮭定食はこちらです」
「うわ、いい匂い……」
結が目を細める。
「朝から南蛮は安定だね。私は健康第一で鮭だけど」
「雫って魚ばっか食べてたよな」
「えー!?そんなことない!」
また笑う。
食べ進め、落ち着いたころ。
「……結、昨日の対応。本当にお疲れさま」
雫が真面目な声で言う。
「ありがとう。雫の解析があったから助かったよ」
「私は部屋でこもってただけだけど……
結の声聞くとね、ちょっと安心するんだよ」
結は驚いたように目を瞬かせる。
「私も。雫の声、落ち着く」
雫は照れ隠しのようにお茶をすすった。
「……そんなこと言われたら嬉しいけど」
二人はゆっくりと食事を終えた。
店の外
店を出た二人は箒を手にした。
「私、久しぶりに箒乗るな……」
雫は少し緊張した表情。
「雫は車移動多いからな。大丈夫だよ」
言われたとおり、雫はふわりと浮き上がった。
「……あれ、いけた……」
「ほら、大丈夫だって」
「流石結、後輩指導してるだけあるね」
軽口を叩きながら、二人は科学万博記念公園へ向かう。
科学万博記念公園
公園には朝の冷たい空気と緑の匂いが満ちていた。
露のついた芝生、鳥の声。
二人は自然と同じ歩幅で歩き出す。
「変わらないねえ、ここ」
雫が目を細める。
「訓練でこの周回コース何十周したことか……」
「私、あの坂ほんと嫌いだった。脚取れるかと思ったし」
「雫いつも『むりー!』って叫んでたよな」
「やめて!?黒歴史!」
雫が肩を小突き、結は笑った。
歩きながら、ふと雫が言う。
「……こうして歩くの、ほんと久しぶりだよね」
「そうだな。現場続くと時間すぐ過ぎるし」
「私も解析室でずっとこもってるし……
昨日、久しぶりに結の声聞いてさ。なんか“あ、同期だ”って安心した」
結は少し驚いて笑う。
「私も。雫の声って落ち着く」
雫は照れくさそうに視線を落とす。
「……ずるいんだよ、結って。
さらっとそういうこと言うんだから」
昔訓練で使っていたスタート地点に立ち止まる。
「ここで私、ぜーはー言って座り込んだ時、
結が何も言わず横に立ってたの覚えてる?」
「……そんなこともあったな」
「私は覚えてる。あれでまだ頑張れたんだよ」
結は少し照れたように微笑む。
「そっか。……なんか雫らしいな」
「どっちの意味で?」
「いい意味で」
雫はしばらく黙って、そして柔らかく笑った。
「ね、結。またこういう時間作ってよ。
事件が落ち着いたらでいいから」
結は空を見上げてから穏やかに頷く。
「……うん。雫となら、また来たい」
「よかった……楽しみにしとく」
木漏れ日の中、二人は自然と並んで歩き出した。
朝の光が芝生を照らし、二人の距離はほんの少し近づいていく。
次回に続く....




