第4話 料理
待機命令が出されてから一週間後 ― 水戸支局・事務室。
「先輩、こ、この数字……どうしたらいいですか……?」
玲奈が書類を抱え、涙目で結にすがるように寄ってくる。
結は小さくため息をつきながら椅子を回転させ、玲奈の紙をのぞき込んだ。
「やれやれ……ここはね、こうやって整理するの」
結が指先で数字をそっと並べ替えて見せる。
「おー!先輩すごい! めっちゃ早い!」
「そんなに褒められても……」
思わず視線を逸らす結。耳の先までほんのり赤くなる。
玲奈は椅子の背もたれを抱きしめるように乗っかりながら言った。
「にしても先輩、私たちいつまでこうしてるんですか?」
「それがね……私にも分からないんだよ……」
結が肩をすくめたそのとき、ドアが開いた。
「やあ、二人とも。今日も元気そうだな」
七海がコーヒー片手に入ってくる。
玲奈はぱっと顔を上げた。
「七海さん!」
「お、どうした玲奈?」
「私たちって……いつまでここなんですか?」
七海は歩みを止め、少しだけ目を伏せる。
「……すまない。私にも、まだ何とも言えないんだ」
「七海さんでも分からないんだ……」
玲奈はぽかんと口を開けたまま固まった。
――二時間後。外はすっかり夕暮れ。
仕事を終えた結と玲奈はマンションへ戻ってきた。
「はぁ〜~……疲れた……」
玄関に入るなり結は靴を脱ぎながら、壁にもたれてぐったり。
「先輩、このあとどうします?」
玲奈は上着を脱ぎながら、髪をふわっと結び直す。
「買い出し行って……ご飯作って……お風呂入って……そんな感じかなぁ」
「じゃあ、買い出し行きましょう!」
玲奈が勢いよく結の腕を引っ張る。
「ちょ、ちょっと玲奈……やけに元気だけど、どうしたの?」
「えへへ……バレました?
今日は私が先輩にご飯を作ってあげようと思いまして……」
顔を真っ赤にして指先でもじもじしている。
「そっか。じゃあ行こっか。玲奈の料理、楽しみ」
「き、期待しすぎはダメですよ先輩!」
結は笑いながらも、胸の奥がふわっと温かくなる。
スーパーに入ると、玲奈はカゴを持つなりくるっと振り返る。
「先輩はイートインで休んでてください!」
「えぇ……なんで……?」
「先輩に材料見られたら、絶対バレちゃいますもん!」
「……まあ、否定はできないか」
結は苦笑しながら椅子に座り、腕を組んで待つことにした。
玲奈は棚の間を小走りで行ったり来たりしながら、真剣な顔で食材を選んでいた。
――30分後。マンションへ帰宅。
「じゃ、先輩は向こうで休んでてくださいね!」
玲奈はエプロンを素早く結び、髪を後ろでひとまとめにする。
「はいはい、わかったよ」
結はソファへ座り、クッションを抱えながらゆっくりテレビをつけた。
キッチンからはトントンと包丁の音、そして時折「うわっ!?」という玲奈の声が聞こえてくる。
それが何だか心地良かった。
――さらに30分後。
「先輩!できました!」
玲奈が胸を張って呼ぶ。
「はーい……おおっ、すごい……!」
テーブルにはたこ焼き、ステーキ、ミネストローネ。
湯気がふわっと立ち上って、部屋にいい匂いが広がっていた。
「玲奈……料理得意なんだね」
「ま、まあ……昔から好きで、よく作ってて……」
玲奈は照れ笑いしながら髪を耳にかける。
「冷めないうちに食べましょう、先輩!」
「うん。いただきます」
「いただきます!」
結がたこ焼きを一つ口に運ぶと——
「……んん〜っ! 玲奈、これ美味しい!」
「先輩のために、生地から練りました!」
「生地から!? すご……!」
結が嬉しそうに目を細めると、玲奈も同じように嬉しそうに笑った。
その夜、二人の部屋には料理の匂いと、静かな笑い声がずっと響いていた。
次回に続く....




