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空舞う箒の巡遊譚  作者: あすへ
第五章 関東巡遊(後編)
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第4話 料理

待機命令が出されてから一週間後 ― 水戸支局・事務室。


「先輩、こ、この数字……どうしたらいいですか……?」

玲奈が書類を抱え、涙目で結にすがるように寄ってくる。


結は小さくため息をつきながら椅子を回転させ、玲奈の紙をのぞき込んだ。


「やれやれ……ここはね、こうやって整理するの」

結が指先で数字をそっと並べ替えて見せる。


「おー!先輩すごい! めっちゃ早い!」

「そんなに褒められても……」


思わず視線を逸らす結。耳の先までほんのり赤くなる。


玲奈は椅子の背もたれを抱きしめるように乗っかりながら言った。

「にしても先輩、私たちいつまでこうしてるんですか?」


「それがね……私にも分からないんだよ……」


結が肩をすくめたそのとき、ドアが開いた。


「やあ、二人とも。今日も元気そうだな」


七海がコーヒー片手に入ってくる。

玲奈はぱっと顔を上げた。


「七海さん!」

「お、どうした玲奈?」


「私たちって……いつまでここなんですか?」


七海は歩みを止め、少しだけ目を伏せる。


「……すまない。私にも、まだ何とも言えないんだ」


「七海さんでも分からないんだ……」


玲奈はぽかんと口を開けたまま固まった。


――二時間後。外はすっかり夕暮れ。

仕事を終えた結と玲奈はマンションへ戻ってきた。


「はぁ〜~……疲れた……」

玄関に入るなり結は靴を脱ぎながら、壁にもたれてぐったり。


「先輩、このあとどうします?」

玲奈は上着を脱ぎながら、髪をふわっと結び直す。


「買い出し行って……ご飯作って……お風呂入って……そんな感じかなぁ」


「じゃあ、買い出し行きましょう!」


玲奈が勢いよく結の腕を引っ張る。


「ちょ、ちょっと玲奈……やけに元気だけど、どうしたの?」


「えへへ……バレました?

今日は私が先輩にご飯を作ってあげようと思いまして……」


顔を真っ赤にして指先でもじもじしている。


「そっか。じゃあ行こっか。玲奈の料理、楽しみ」

「き、期待しすぎはダメですよ先輩!」


結は笑いながらも、胸の奥がふわっと温かくなる。


スーパーに入ると、玲奈はカゴを持つなりくるっと振り返る。

「先輩はイートインで休んでてください!」


「えぇ……なんで……?」


「先輩に材料見られたら、絶対バレちゃいますもん!」


「……まあ、否定はできないか」

結は苦笑しながら椅子に座り、腕を組んで待つことにした。


玲奈は棚の間を小走りで行ったり来たりしながら、真剣な顔で食材を選んでいた。


――30分後。マンションへ帰宅。


「じゃ、先輩は向こうで休んでてくださいね!」


玲奈はエプロンを素早く結び、髪を後ろでひとまとめにする。


「はいはい、わかったよ」


結はソファへ座り、クッションを抱えながらゆっくりテレビをつけた。

キッチンからはトントンと包丁の音、そして時折「うわっ!?」という玲奈の声が聞こえてくる。


それが何だか心地良かった。


――さらに30分後。


「先輩!できました!」

玲奈が胸を張って呼ぶ。


「はーい……おおっ、すごい……!」


テーブルにはたこ焼き、ステーキ、ミネストローネ。

湯気がふわっと立ち上って、部屋にいい匂いが広がっていた。


「玲奈……料理得意なんだね」

「ま、まあ……昔から好きで、よく作ってて……」


玲奈は照れ笑いしながら髪を耳にかける。


「冷めないうちに食べましょう、先輩!」

「うん。いただきます」

「いただきます!」


結がたこ焼きを一つ口に運ぶと——


「……んん〜っ! 玲奈、これ美味しい!」

「先輩のために、生地から練りました!」

「生地から!? すご……!」


結が嬉しそうに目を細めると、玲奈も同じように嬉しそうに笑った。


その夜、二人の部屋には料理の匂いと、静かな笑い声がずっと響いていた。


次回に続く....


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