第4話 新人育成
翌朝 ―― 水戸支局 仮眠室
「……ん……朝……?」
結はゆっくりと目を開けた。熱はまだ残っているものの、昨日よりずっと楽だ。
額には冷却剤。ベッド脇には水のペットボトルと、何か書かれている付箋。
《先輩へまだ無理しちゃダメです!!!
七海さんが「動いたら怒る」って言ってました。何かあったら呼んでください。 玲奈》
「ふふ……玲奈らしいな……」
結は小さく笑いながら体を起こした。
コンコン。
「起きてる?入るよ」
入ってきたのは七海だった。
「顔色いいね。昨日は本当にお疲れさま」
「無茶しましたよね、私……」
「正直怒りたいけど……あの状況で最後までやり切ったのは立派よ」
「褒められると……逆に照れます……」
七海は肩にバッグをかけたまま本題に入る。
「次の巡回先、変更になったの」
「え?予定では仙台支局の応援じゃ……」
「北関東で魔力異常反応。栃木。宇都宮支局が応援要請」
「……重い案件、って感じ?」
「兆候の段階だけど油断はできない。放置は危険」
「……了解です」
七海は軽く笑って、ぽんと結の肩を叩く。
「ただし――熱、完全に下がってから出発。いいね?」
「は、はい!」
七海は出口で立ち止まる。
「それと。今回は二人で行く。玲奈も同行」
「っ……!」
「新人育成も兼ねて。結、頼んだわよ」
結は一瞬迷って――すぐに答えた。
「もちろん。任せてください」
「もう一つ」
七海が結にロングコートを手渡す。
「フードロングコート……?」
「特殊魔法加工。防弾、防爆、防火、防水。簡単に言うと“何が来ても耐えるコート”」
「え、すご……でもなんで……?」
「前に戦車に肩撃ち抜かれたじゃない」
「あっ……たしかに……」
「それで新型開発が前倒しされた。恵まれてるんだから、ちゃんと使いなさい」
「はい!」
七海は満足げに頷き、部屋を出ていった。
――3時間後 体調ほぼ回復
支局前。玲奈が全力の笑顔で手を振っていた。
「先輩ー!よろしくお願いしますっ!」
「はいはい、張り切りすぎて余計な魔力、暴発させないでよ?」
「は、はいっ!」
二人は箒に跨り、同時に魔力を流し込む。
「栃木・宇都宮支局へ――出発!」
「了解です!!」
青空へ舞い上がる。風を切りながら玲奈が声を張る。
「先輩!栃木って名物ありますか!?」
「餃子、いちご……あとなんか色々」
「全部食べたいです!!」
「仕事終わってからね!」
その直後。
玲奈の魔力異常探知機が激しく震えた。
《魔力異常 ― 広域・栃木県南部》
「先輩!反応来ました!」
「予想より状況が悪い……」
発生源を視認した瞬間、二人の表情が引き締まる。
「予定変更、現場直行」
「了解です!」
二人は速度を一気に上げた。
――栃木・鬼怒川
異常が発生したのは鬼怒自然公園付近の鬼怒川。
凶暴化した魚が暴れ回っていた。
「魚の魔力異常……川じゃ最悪のパターンね」
「先輩、どうします……?」
「近づいて鎮静化魔法を――」
結が魔力を構えた瞬間、魚が水面から跳び上がり、結の腕に噛みついた。
「っ……!? あれ、痛く……ない?」
まったく皮膚に届いていない。コートの強度は本物だった。
「先輩!大丈夫ですか!?」
「大丈夫。ほんとに……すごいコートだなこれ」
結は魚の頭に手をかざし、鎮静化魔法を発動。
魚は川へ沈み、大人しくなった。
「先輩……す、すごいです……!」
「コートの性能のおかげだよ。けど、まだ終わりじゃない」
結は川の奥を見据える。
「異常反応、あと一箇所ある。ここが本命みたい」
玲奈はごくりと唾を飲んだ。
「行こう、玲奈。今度は二人で止める」
「……はいっ!」
二人は再び箒に跨がり、川のさらに奥へ向かった。
川のさらに奥では、水面が異常を起こし、巨大な水柱がいくつも立ち上がっていた。まるで大蛇がうねるように、空へ向かって渦を巻いている。
「これは結構厄介だね…」
「先輩、何が厄介なんですか?」
玲奈が不思議そうに見上げると、結が説明を始めた。
「水が魔力異常を起こすと、こうやって勝手に柱になったり暴れたりするんだよ。放っておいたら周りに被害が出ちゃう。だから元に戻すのが大変なんだよね…」
「なるほどなるほど!」
事情を理解した玲奈は、きゅっと杖を握りしめる。
「ということで、手分けして元に戻そう。」
「分かりました!」
二人はうなずき合うと、杖を構え、それぞれ別方向へ走り出した。
――30分後。
「ふう…終わった…!」
結が肩で息をしながら振り向くと、
「先輩、こっちも終わりました!」
玲奈が駆け寄ると、結は杖を肩に担ぎながら笑った。
「よし、じゃあ宇都宮支局に行こうか。さすがに寒くなってきたし。」
二人は箒に乗って支局へ向い、受付に報告書を提出した。
「お疲れさま。今回、対応早かったね。」
受付の職員が感心したように言うと、隣にいた支局長も顔を出す。
「水柱が複数発生していたのに、30分で処理完了とは見事だ。特に玲奈、よくやった。」
「えっ…あ、ありがとうございます!!」
玲奈は耳まで赤くして深く頭を下げた。
結はにやっとして玲奈に小声で言う。
「ほら、言ったじゃん。出来るって。」
玲奈はさらに照れて「そ、そんなに褒めないでくださいよ…」と笑う。
報告書の最終確認を終えると、支局長が言った。
「今日はもう任務はない。二人ともゆっくり休め。」
「了解しました!」
支局を出た瞬間、玲奈のお腹がぐぅぅと鳴る。
「……聞こえなかったことにしてください。」
「いや聞こえた。完全に聞こえた。」
「うぅぅぅ…!」
結は吹き出しながら言う。
「せっかく宇都宮に来たんだし、甘いものでも食べてこうよ。私ご褒美欲しい。」
「そ、それは大賛成です!!」
二人は商店街のカフェに入り、暖かな席に落ち着く。
ココアを飲みながら任務の話に花が咲く。
「でも新人でここまで動けるの、ほんと珍しいよ?」
「先輩が一緒だからですよ。」
「ふふ、頼られるの嫌いじゃないな。」
穏やかな時間が流れ、二人は笑顔で店を出た。
――その頃。
魔法管理庁 本庁の地下にある。全国異常監視システムには、まだ誰も気づいていない異常が観測されていた。
自然魔力の乱れ 同時多発:川(深度4) 湖(深度2) 山(深度1) 海(深度3)
解析担当AIは小さく警告を表示するが、アラートレベルは低く、誰の目にも止まらない。
大規模な異常は、静かに進行していた···
次回に続く....




