第1話 出発
この日の松山は快晴で、青空が広がっていた。
日本では、30年前に富士山頂上に現れた魔法陣から放たれた光によって、人々が魔力を持つようになった。
今では魔法は日常の一部となり、魔法管理庁が設立され、全国の魔力異常を監視・対処している。
魔力異常とは、人や物が過剰な魔力を帯びて暴走したり、予期せぬ変化を起こす現象のこと。
例えば自販機や電化製品が勝手に動いたり、人が魔力に影響されて意図せず力を使ってしまったりする。
日本全国にいる魔力保安官たちは、このような異常を素早く封じ、人々の安全を守るのが仕事だ。
神代結は魔法管理庁・松山支局に配属された新人で、今日から日本全国を巡回する旅に出発する日だった。
「今日から本格的な任務か…」
胸をドキドキさせながら、結は出発の準備を整える。
支局の同僚、佐藤がにこやかに声をかける。
「結ちゃん、初任務か。しっかり頼むぞ」
結はにっこり笑って答える。
「はい、頑張ります!」
「まぁ、慣れるまで箒に振り回されるかもしれないけどな」
佐藤の冗談に結もクスリと笑った。
やがて出発の時間が来た。
結は屋上に上がり、箒にまたがって空へと飛び立った。
街の屋根の間を縫うように飛び、港に停泊する船や緑に覆われた山々を眼下に眺める。
風が顔を撫で、箒の先端からは魔力の微かな光が放たれる。
松山を飛び立って3時間後、結は香川県・高松市上空に到着した。
「ようやく香川かぁ…箒って意外と疲れるんだな…」
箒に内蔵された魔力異常探知機が赤く点滅し、ホログラムの地図が目の前に浮かぶ。
赤い点が揺れるように光っていた。
「異常地点は…ここか」
目標は香川県の最東端、東かがわ市の商店街。結は箒を急降下させ、街並みに近づく。
「研修通りにやれば…大丈夫!」
杖を握り、頭の中で呪文を唱える。魔力の流れが手のひらに伝わる。
その瞬間、背後で「ガシャン!」と轟音が響き、通行人が驚きの声をあげた。
振り返ると、魔力異常で自販機が暴走していた。
缶ジュースやペットボトルが渦を巻くように飛び出し、周囲の人々に向かって飛んでくる。
「危ないっ!」
結は箒を急旋回させながら、杖から青白い光が放たれる。
光が自販機に直撃すると、暴走を起こした魔力が徐々に吸い取られ、渦巻く飲み物はゆっくりと元の位置に戻されていった。
「ふぅ…」
結は箒を安定させ、通行人の安堵の顔を確認する。
近くの商店のおばあさんが手を合わせて微笑む。
「ありがとうね、魔法使いさん」
結も微笑み返す。
「大丈夫です、もう安全ですよ」
箒を空へと上げながら、結は胸の高鳴りを感じる。
「初任務、成功…だな」
遠くに夕焼けが広がる空を見上げ、結の 巡遊譚はは今、正式に始まった。




