「ローマの休日」のスローリーディング その7
◎場面4
夜、古代ローマ市の広場の遺跡であるフォロ・ロマーノ。
ジョーは石のベンチで寝ている若い女アンを見かける。
彼女を送っていこうとタクシーを呼び止める。
(英語のセリフ)
〇アン: So happy. How are you this evening?
〇ジョー: Hey! hey, hey, wake up!
〇アン: Thank you very much, delighted.
〇ジョー: Wake up.
〇アン: No, thank you. Charmed.
〇ジョー: Charmed too.
〇アン: You may sit down.
〇ジョー: I think you better sit up; much too young to get picked up by the police.
〇アン: Police?
〇ジョー: Yep, po-lice.
〇アン: Two-fifteen and back here to change. Two forty-five...
〇ジョー: You know: people who can't handle liquor shouldn't drink it.
〇アン: If I were dead and buried and I heard your voice beneath the sod my heart of dust would still rejoice. Do you know that poem?
〇ジョー: Huh, what do you know? You're well-read, well-dressed; you're snoozing away in a public street. Would you care to make a statement?
〇アン: What the world needs is a return to sweetness and decency in the souls of its young men and…
〇ジョー: Yeah, I er, couldn't agree with you more, but erm-. Get yourself some coffee; you'll be alright. Look: you take the cab.
(私訳)
〇アン: (睡眠薬が効いてきたアンが石のベンチで寝言を言いながら寝ている)とても光栄です 今夜はご機嫌いかが?
〇ジョー: ちょっと、ちょっと、ちょっと、起きろよ
〇アン: 本当にありがとうございます。嬉しく思います。
〇ジョー: 起きるんだ
〇アン: いえ、結構です。お会いできて光栄です。
〇ジョー: こちらこそ。
〇アン: お座りなさい
〇ジョー: 起きた方がいいと思うよ。警察に捕まるには若すぎるだろ。
〇アン: 警察?
〇ジョー: そう、けいさつ
〇アン: 2時 15分、ここへ戻って着替える。2時45分…
〇ジョー: いいか、酒に飲まれる人は飲むべきじゃない
〇アン: われ死して埋められるとも、君が声を聞かば、土なるわが心も、なお歓喜にむせぶ。この詩をご存じ?
〇ジョー: へえー、こりゃ驚いた。君は博識だし、身なりもいいのに、道でうたた寝しているとは。声明でもご発表になりますか?
〇アン: 世界が必要としているのは、若者たちの魂に優 しさと上品さを取り戻すこと、そして....
〇ジョー: そう、君の意見には大賛成だが、しかし.... コーヒーを飲めばよくなる。ほら、タクシーに乗りなさい。
(チョットひとこと)
1:今回の場面から
寝室で医師から処方された睡眠薬の影響で睡魔に襲われているアンがジョーに寄りかかる。その態度に警戒心を抱いたジョーが寄りかかられた側の背広の内ポケットから何かを取り出して反対側のズボンのポケットに移す。
彼は何を移したのだろうか?
ヒントはこの前のシーンで記者たちがポーカーをしている場面のジョーのセリフにある。
2:詩の暗唱
アンが詩を暗唱する。
If I were dead and buried and I heard your voice beneath the sod my heart of dust would still rejoice.
(われ死して埋められるとも、君が声を聞かば、土なるわが心も、なお歓喜にむせぶ)
そしてジョーにDo you know that poem? (この詩をご存じ?)と尋ねる。
ジョーはそれに対して何も答えないが、この詩はイングランドのロマン派詩人シェリーの作品であるそうな。
酒席で程よく酒が回ってくると漢詩や現代詩、あるいは短歌を、盃を手に陶然と暗唱していた大正、昭和の戦前生まれの大人たちに今まで何人も出会ったことがある。
意味の難しい文章でも、何度も読むことで自然に理解できるということを「読書百遍意自ずから通ず」というが、これは江戸時代の寺子屋の「素読」を中心にすえた教育の名残が明治、大正を経て戦前の昭和までは続いていたのではないかと私は思っている。
そんななつかしい大人たちはみんなあの世に行ってしまい、今ではもはや目にも耳にもすることがなくなってしまった。
「ローマの休日」のアン王女と同じように詩を愛した人にソビエト連邦大統領を務めたミハイル・ゴルバチョフがいる。
それまで歴代の強面ぞろいのソビエトの指導者たちと違い、ゴルバチョフは実に魅力的な人物で、そのチャーミングな笑顔で一時期世界を魅了したものだ。
かつて日本のテレビ番組に出演した際には、請われて彼の好きなロシアの詩人のレールモントフの詩「帆」をロシア語で暗唱して見せた。
その日本語訳はおよそ以下の通り。
“白い帆かげが 浮かんでいる
青海原の 霧の向こうに
遠い国で 何を探しているのか
ふる里に 何を捨ててきたのか
波はさかまき 疾風ははためく
帆柱はたわみ 苦しげにきしむ
ああ あの白帆は幸福を求めず
さりとて 幸福をこばみはしない
見渡せば 空よりも明るい瑠璃色の潮
見上げれば 金色の太陽ひかり
しかも白帆は 世にそむき 嵐をねがう
嵐にこそ 安らぎがあるかのように“




