第4話:王都の闇医者と毒の処方箋
朝の王都は、青白い月の名残を消し去るように柔らかい光に包まれていた。紗夜は庶民街の小さな薬屋で、今日も薬の準備に追われている。
「昨夜も症状が出た子がいました……でも、応急処置でなんとか持ちこたえました」
ルイスが報告する。顔には疲れの色が見えるが、目は輝いていた。
紗夜は小さな赤い薬瓶を手に取り、深呼吸する。夜間に症状が悪化する毒は、単なる香料混入ではなく、より巧妙に操作されていると考えていた。
「誰か、意図的に人々を苦しめている……しかも王城関係者の可能性が高い」
紗夜の心に、強い決意が芽生える。
その日、王城から侍医カイが訪れた。紗夜に目配せすると、口元に小さく笑みを浮かべる。
「今日、特別な依頼があります。王城内の秘密の医療室で、怪しい治療痕があると報告が入りました」
紗夜は薬瓶を手に立ち上がる。「わかりました。調べてみましょう」
王城の奥深く、普段は立ち入ることのない医療室に足を踏み入れる。室内には古びた薬棚と、無数の薬瓶が並ぶ。だが、棚の奥に不自然に置かれた青い瓶が一つ。紗夜は直感で手を伸ばす。
「この成分……先日の香水と同じ毒性を持っています」
カイが眉をひそめる。「王城内で、誰がこんなことを……」
紗夜は青い瓶の分析を開始する。微量の毒素が混入された香料と反応し、空気中に揮発するたびに症状が悪化する仕組みだ。現代の化学知識を応用すれば、成分の逆反応で解毒剤を作れる。
「これを使えば、夜間の症状を抑えられる……」
紗夜は素早く調合に取り掛かる。赤い液体と透明な液体を慎重に混ぜ、揮発性を計算して小瓶に封じる。香りが微かに漂い、部屋の空気が少し和らぐ。
その時、背後で足音が響いた。薄暗い室内に影が揺れる。
「紗夜さん……」
声の主は、第二王子フィリップだった。
「あなた、ここまで来るとは……」
冷たい声だが、目には警戒と興味が混ざる。
「王都の人々を苦しめる者を放置できません」
紗夜は毅然と答える。王子はわずかに眉を上げ、静かに頷いた。
「なるほど……その薬があれば、夜間の被害は抑えられるのか」
フィリップは青い瓶を手に取り、香りを確かめる。「だが、根本の犯人を見つけない限り、再発するだろう」
紗夜は深く頷く。「だから、原因を突き止めます」
夜、庶民街の小さな薬屋に戻った紗夜は、患者たちの容態を確認する。ルイスと共に薬を手渡すと、青い斑点の症状は徐々に薄れていった。
「……これで、少しは安心できますね」
ルイスが微笑む。紗夜も自然に微笑み返す。だが心の奥では、犯人の影がますます大きく広がる気配を感じていた。
王城の医療室で見つけた青い瓶、第二王子の存在、夜間の毒の拡散。全ての糸が複雑に絡み合い、紗夜の頭脳に新たな疑問を投げかける。
「次は、誰がこの毒を仕組んだのか……私が確かめなければ」
月明かりが庶民街に差し込む。赤い薬瓶を手に、紗夜の戦いはさらに深まった。




