第3話:王城の香水と影の陰謀
王城の大広間は豪華だが、どこか冷たい空気が漂っていた。紗夜はカイと共に、王城内部の香料保管室へ案内される。そこには高価な香水や精油が整然と並び、微かに甘い香りが空気に混じっていた。
「この中に、事件の原因となった香水があるはずです」
紗夜は慎重に棚を見回す。数百本の瓶の中から、微妙に色の違う赤みを帯びた液体を見つけた。
「これ……」
匂いを嗅ぐと、微量の毒成分が混ざっているのがはっきり分かった。現代薬学の知識が直感的に作用する。
「これが……原因の香水か」
カイも眉をひそめる。「王族の専用香料に、どうしてこんな成分が……」
紗夜は小さな器具を取り出し、即座に成分分析を開始した。揮発性の化学反応、毒性の強弱、時間経過での変化――すべて計算し、患者の症状と照合する。
「確かに、夜間に症状が悪化するのは、この成分の揮発が原因です」
カイは納得した表情で頷く。「それにしても、誰が意図的に混ぜたのか……」
その瞬間、背後から重厚な声がした。
「何をしているのだ、紗夜」
振り返ると、第二王子のフィリップが立っていた。彼の瞳は冷たく、警戒心に満ちている。
「王子……この香水が原因で、街で人々が苦しんでいます」
紗夜は恐れずに説明する。だが、フィリップは微妙に口を歪め、眉をひそめるだけだった。
「私が関わるとは思うな」
そう言って王子はその場を去ったが、紗夜には何かを秘めた眼差しが忘れられなかった。
その後、紗夜は庶民街に戻り、ルイスや薬屋仲間たちと調合作業に没頭する。被害者の症状を抑えるだけでなく、香水の毒性を中和する応急処置薬を作るのだ。
「この方法なら、夜の発症も抑えられるはず」
ルイスが小さな薬瓶を差し出すと、紗夜は微笑みながら頷いた。薬は青い斑点を薄くし、苦しみを和らげる。
しかし、夜になると、再び異変が起きた。王城の陰影の中、香水が意図的に撒かれた痕跡が見つかったのだ。誰かが王城内部で行動している。
紗夜は思わず口元を引き締める。「……ただの偶然じゃない……計画的だ」
翌日、紗夜は王城の図書室で資料を調べる。香料の輸入記録、使用者リスト、香水製造の流通経路――全てを確認する。やがて、事件に絡む貴族の名前が浮かび上がった。
「この香水、王都を牛耳ろうとする勢力の手に渡っている……」
紗夜の瞳は決意に満ち、薬学知識と観察眼が力強く脳内で働く。
夜、再び青い月が昇る。紗夜は薬瓶を手に取り、夜道を歩きながら考える。誰が人々を苦しめ、王都の闇を操っているのか――。
「絶対に、毒の糸をほどいてみせる……」
赤い薬瓶と青い月。事件の影は、まだ深く、長く続く――紗夜の戦いは、ここから本格的に始まった。




