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第2話:青い月夜の密室

薄曇りの夜、王都の街は月明かりに照らされ、石畳が淡く光っていた。紗夜は自室の窓から外を見下ろす。青白い月が、まるで事件を嘲笑うように空に浮かんでいる。


「……青い月、か」

数日前から街では、夜になると青い斑点の症状が悪化するという噂が流れていた。香水による中毒症状だけでなく、どうやら夜の空気と関係があるらしい。


紗夜は机の上に資料を広げ、患者の記録を整理する。症状の発症時間、接触した香料の種類、居住地域。すべてのデータを並べてみると、あるパターンが浮かび上がった。


「共通点は……夜間、特定の区域で発症している……」

その区域は王城に近い富裕層の住宅街。庶民街で発症するのは、貴族の使用する香水が触れた場合だけだった。


翌朝、紗夜は街に出向いた。庶民の薬屋を訪れ、材料や情報を収集する。そこには顔馴染みの少年、ルイスがいた。薬屋の息子であり、知識欲旺盛な少年だ。


「お姉さん、昨夜も変な症状の子が来たよ」

ルイスの手には小さな瓶が握られていた。淡い青色の液体。紗夜はそれを見て直感した。


「これは……香料に微量の毒成分が混入している」

瓶の香りを嗅ぎ、成分の組み合わせを頭の中で計算する。現代で学んだ薬学知識が、まさか異世界で役に立つとは思わなかった。


夜になり、紗夜はもう一度事件区域を調査することにした。月明かりが建物の影を長く伸ばし、静かな街に不気味な沈黙を作っている。窓の内側から見える明かりの家々は、どれも閉ざされており、まるで密室のようだった。


その時、背後から声がした。

「こんな夜遅くに……紗夜さん?」

振り向くと、そこには王城の侍医、カイが立っていた。整った顔立ちに、落ち着いた目。彼もまた、この事件に関心を持っているらしい。


「何か進展はありましたか?」

カイの目が真剣だ。紗夜は作成したデータ表を見せる。


「香水の成分と、発症区域には明確な相関があります。夜間になると毒性が強まる。微量の揮発性成分が空気中に拡散している可能性があります」

カイは頷き、腕を組む。「なるほど……香料と空気が関係しているのか。王城でも確認できるかもしれません」


二人は月明かりの下、王城に向けて歩き出す。途中、何人かの民衆が痙攣しながら倒れているのを見かけた。紗夜は薬を渡し、すぐに応急処置を施す。


「これで……少しは落ち着くはず」

紗夜の目は真剣そのものだった。王城に入ると、守衛の視線が鋭く、街の事件がただならぬものだと感じさせる。


中庭で、紗夜はもう一度データを見直した。香料の種類、揮発成分、発症時間……全ての要素を組み合わせると、ある人物の影が浮かび上がった。


「……あの香水の持ち主……王城関係者かもしれない」


その時、月が雲間から覗き、青白く街を染めた。青い月夜の下、紗夜の心に決意が宿る。


「誰も犠牲にはさせない……絶対に、原因を突き止める」


そして二人は、月光に照らされる王城の塔に向かって歩みを進めた。夜の静寂が深まるほど、事件の影も濃くなる。青い斑点の謎は、まだ始まったばかりだった。

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