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0:ものがたり
物語というものはどこからくるのだろう。
誰かが丹精込めて書き記す文字から。
誰かが歌う詩吟の声から。
誰かが奏でる伴奏から。
人の噂に尾ひれはひれがついて、気づいたら壮大で嘘だらけの史実になっていたり、その発端は多岐に渡る。
けれど人というものは、物語に魅せられる生きものだ。
未知の世界。行ったことのない場所。見たことのない景色。
嗅いだことのない食事の匂い。素足を撫でていく水の流れ。
見上げる空、寝転んで確かめた星。
そしてその地で巡り合う一期一会の奇跡。
知らなかった。その全てが美しいのだということを。
一人きりの旅であれば気づくことのなかったその感動を、今、誰かと共有したくてたまらない。
これが物語といえるかどうか、わかりはしないが、どこかに残したいと思った。
きっと、今まで見聞きしてきたものたちも、そういう小さな思いと感動を積み重ねて物語になったのだろう。
これが、その内の一つとなれることを心から祈っている。