爽やかな朝には適さない司法解剖の話し
ひとえに検察事務官と言っても、業務の幅は広い。
私のような立会事務官もいれば、検察官とは組まずに、単独で捜査をしている事務官もいる。
総務課に行けば、職員の休暇や出張を扱ったり、検事正等の秘書をしたり、会計課に行けば備品や消耗品の購入をしたり。
「検務」と言う検察庁特有の事務を行っている部署では、前科や証拠品、事件記録を扱ったり、逃げている被告人を捕まえに行く部署などもある。
ずいぶん昔は、女性は捜査に携わらない、配属されないことが多かったらしいが、今では男女の配属に違いはない。そのため、女性の私も男たちと同じように仕事の幅が広がっているってわけだ。
そういう多種多様な業務がある中で、私は今、ホトケさんの前にいる。
八十歳を超えた身寄りのないじいさんが、おんぼろアパートの一室で亡くなった。
じいさんの訪問介護員から連絡を受けた大家が部屋に入ったところ、死んでいたという。老衰だ。そこまでならよくある話。
しかし、じいさんの部屋の押入れを開けると、コンクリートの塊が出てきた。
じいさんの家は1階だったが、重さで床が抜けかかっていたという。
市役所でも対応できず、解体業者にコンクリートを破砕してもらうことになったのだが、破砕していると、人の腕のようなものが出てきたらしい。
まさかこれって・・・。
警察が大家から通報を受けて、警察から検察庁に一報が来た。
そして、副部長の御下命を受けて、どんPと牧、そして私は司法解剖の立ち会いに行くことになったというわけだ。
私はこれまでに10回以上立ち会っているから、もっぱら二人の引率役である。
「解剖行くなら、昼ご飯にカレー食べなかったのに。想像しただけで、ウウッ・・・」
大学の法医学教室に向かう車内で、どんPはすでに顔が青ざめている。
「僕はハンバーグが・・・ウウッ・・・」
と言うのは牧。二人そろってだらしがない。
ちなみに私はまだ昼飯を食べられていない。
滝口の弁解録取を終えて、勾留請求書と事件記録を事件管理へ回した。担当の刑事さんに弁解録取での滝口の言い分と、補充捜査事項を伝えた。シャブ使用の認め事件なら、勾留延長を求めないで、10日間のうちに起訴してやるのが人情ってもんだ。その分、警察には早急に捜査をしてもらう必要がある。
どんPがカレーを食べに行っている間に、起訴状を起案し、さぁカップ麺にお湯入れようかと思った矢先に、副部長から内線電話がかかってきた。
「横居さん、これから解剖の立会に行ってもらえる? もちろん勉強のために、多田野君も連れて行ってください」
もちろん答えは「はい」しかない。
立会Gの鉄則、「食える時には食え、トイレに行ける時には行け、休める時には休め」のうちの2つを破ったツケが回ってきた。
私としたことが、このどんPとペアを組んだことでペースを乱されてしまっているのか。
とにかく昼飯のカップ麺はお預けだ。仕事で飯抜きなんて、立会事務官には日常茶飯事だ。
解剖の立会経験がないと言っていた牧を連れて行くことにした。
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