4.30_タイタンフォール
アリサから通信があった。
CEの大群が侵攻してきたと、通信があった。
その数、合計で3分隊。
1分隊6機編成で、合計18機。
もう一刻の猶予も無い。
協力を要請した教会からの返事も無い。
‥‥やむを得ない。
CCC支部局長の権限において、シグナルレッドを発動する。
超法規的処置として、3人をCEの臨時パイロットとして承認――。
その切迫した最中、ディフィニラの端末に電子署名がなされた文書が届く。
送り主は、CCC本部の本部長。
CCCの頂点、秩序の長が直々に、セツナたちのパイロット申請を受理した。
(‥‥どういうことだ?)
本部長のお墨付きとなれば、本部の連中で異義を唱えられる者はいない。
何人たりとも、その決定に従わざるを得ない。
最近きな臭い本部。
CCC支部の邪魔をしてきている本部。
彼らも一枚岩では無い、そういう事なのだろう。
「アリサ、CEの出撃許可が下りた。CEを出撃させろ。」
文書は本物だ。
アリサに至急CEを出撃させる指示を出し、通信を終えた。
◆
実のところ、CEは前線基地に運び込まれていた。
基地を共有する、科学者の輸送経路を利用して、この地まで持ち込んでいたのである。
研究には様々な機材が入用となる。
その中に、ちょっと兵器が混ざっていても、気づかれない。
もし、この人の手を離れて久しい大地で、セントラルの誇る貴重な頭脳な失われることがあったら、事である。
科学者が武装するのに、本部も強くは非難ができない。
CCC支部の邪魔はしたい。
だけど、有事の責任は取りたくない。
いかにも制服組らしい性質だ。
それに、こんな地に出向くくらいの科学者なのだから、気も相応に強く、肝も据わっている。
そんなだから、おいそれとイチャモンをつけようものなら大変だ。
機嫌を損ねたら、何をされるか分からない。
学者どもは、加減や落としどころが、戦士のそれとは異なるのだ。
技術提供を断れたら、目も当てられない。
「センチュリオン、オーバードライブ――。
タイタンフォール、スタンバイ!!」
空から鉄の戦士が降下する。
橙色の機体・緑色の機体・白色の機体。
3機の機体が、3人の前に片膝をついて着地する。
背を向けている機体の、その下をスライディングで潜り込み、CEの正面に回り込む。
正面に回り込むと、CEの胸部から腹部にかけてが開き、内部のコックピットが露出する。
セツナは霹靂と跳躍し、跪く橙色CEのコックピットに飛び込んだ。
JJは緑色の機体、CE膝を足場にコックピットに飛び乗る。
ダイナは白色の機体、CEがダイナに手の平を差し出し、コックピットに導く。
CEの胸部が閉じる。
操縦桿を握りしめる。
『パイロット権限を確認――。』
OSの音声が機内に流れる。
『エージェント・セツナ、本機の正式なパイロットです。』
CEが立ち上がる。
『システムをアンロック。戦闘機能を開放――。』
ブースターに炎がくべられる。
轟々と、魂なき機体に闘志が宿る。
『共に戦いましょう、パイロット。我々の戦闘評価は7:3。優勢です。』
――18機の大群に、3機のCEが咆哮を上げて突撃した。
先陣を切ったのはセツナのCE。
スピードと飛行能力、それから制動能力に特化した機体。
地面から脚を離し、地面と水平になって地上を飛ぶ。
『敵の構成を分析。6機による1分隊構成と予想。分担して各個撃破を推奨。』
「聞いたね。1人1分隊で行こう。」
「「了解。」」
OSの提案をセツナが受け入れ、JJとダイナが追従する。
敵も1分隊で1人を担当するつもりなのか、6機3チームに分かれる。
奇しくも両陣営は、各個撃破が自軍の最適解と評価をしたようだ。
『パイロット、敵機の区分はICEと呼ばれる機体です。AIが操るCEです。』
ICE、AIがパイロットを務める機体。
魔力とCEの扱いは、機械よりも人間に分がある。
だのになぜか、ICEは人間に匹敵する戦闘能力を誇る。
AIによるシームレスな連携、拡張性を捨て、パッケージングされた機体を採用することによる出力の効率化。
そして、まるで人間のような、巨大な人体を自在に動かす操縦技術。
‥‥このCEのコックピットに何があるのか、知ってはいけない。
それはセントラル・タブー。
暗黙の了解、科学と技術の不文律。
ICEは、AIが操るCE。
人間に従う、巨人の歩兵。
本部が誇る、数による圧倒を体現した兵器。
それ以下でも、それ以上でもない。
『シームレスな連携は強力です。――ですが、我々の連携の方が強力です。』
エンゲージ!
敵ICE分隊と接敵、交戦距離となる。
6機分隊の構成は、軽量級ICEフーライが5機、重量級ICEカチドキが1機。
いずれも、日本諸島(※)で生まれたCEであり、ICE。
※
日本諸島という国土
M&Cの世界において、日本は過去に厄災の爆心地となった。
そのため、旧時代と国土の地形が大きく変わっている。
関東地方は厄災に沈み、本州は2つに分かれた。
それだけでなく、魔法界の生態が科学界を侵食する「異界化」も発生しており、魔法界の生態を持つ島々がいくつも現れている。
しかし、そのような過酷な環境においても日本人は国を捨てずに、たくましく異界化した土地と共存を果たしている。
この世界を長く旅すれば、厄災によって変わり果てた日本の土を踏むこともあるだろう。
※
高性能かつ、優れたカスタマイズ性を持つ日本諸島のCEは、鳴海型CEと呼称されている。
軽量のフーライ2機が、セツナにする。
中距離からの攻撃に適した構築のフーライが、空を飛び、上空から対物ミサイルを撃ち下ろす。
両肩に積んだ6連装の近接信管ミサイルが、セツナ機を襲う。
合計で24発のミサイル。
フーライのOSが相対速度を計算し、偏差射撃で絨毯爆撃を行う。
前方にミサイルの雨が降り注ぐ。
それを、ブレーキングで切り返してやり過ごす。
動くのではなく、止まることでミサイルの雨を躱す。
―――――
機体:プロトエイト(ガルダ型プロトシリーズ)
パイロット:セツナ
0 - 100 :0.84s (基準値:1.5s)
実戦最高速:180km/h (基準値:150km/h)
理論最高速:350km/h (基準値:220km/h)
項目説明
0 - 100 :静止状態から、時速100kmに到達するまでの時間。
実戦最高速:魔法防護などの要因を考慮した、実戦の環境下に耐えうる最高速度。
理論最高速:理想的な環境での最高速。
CE耐久値:8500 (基準値は1万)
積載武装:カタール(双剣)、ブロードソード(両手剣)、ENクナイガン
―――――
セツナの機上するCE、プロトエイト (あるいは Type-8 とも)。
フォーミュラーマシンや戦闘機を思わせる造形をしたCE。
見た目の通り速度に特化した機体で、特筆すべきは、その加速力と停止能力。
最高速度は軽量級の中では並み程度だが、他の追随を許さぬ旋回能力を誇る。
――プロトエイトに大きな翼が生えた。
胸から肩のラインにかけて、魔法で構築された翼が生える。
この翼がプロトエイトの肝。
足を地面につける。ブレーキ姿勢。
翼からダウンフォースが発生。
機体を地面に押し付けて、地面と接触する力を増幅させる。
機体を旋回させる。
戦車並みの重量を持つ機体が、戦車以上の速度で走り、半径2メートルほどの円を描いて回転する。
プロトエイトの目の前でミサイルの雨が爆発した。
機体を切り返す。
地上に8の字を描いて切り返し、再び敵分隊に飛び込む。
機体は地上を飛び、1秒にも満たない時間で時速100kmを超える。
地上のフーライ3機が展開する。
近接戦闘に特化した武装を施したフーライ。
腕に両手で振るうブロードソード。
両肩にショットガンランチャーの構築。
正面から1機、左右から回り込むように2機。
挟み撃ちにするように近接フーライが展開する。
プロトエイトの武装である、二刀流のカタールを構える。
カタールとは、インド地方の古い武器で、メリケンサックに刃が付いたような武器。
持ち手を拳を握るように握りしめ、パンチを打つように刃で切り裂く武器。
鳥の嘴のように尖った双剣を構える。
フーライがブロードソードを上段から振るう。
胸の高さを飛ぶプロトエイトを狙う。
――急降下。
プロトエイトが地面すれすれまで高度を下げる。
ブロードソードに被弾するまでの時間が伸び、その分だけプロトエイトが間合いを詰める。
プロトエイトが握るカタールが、フーライのブロードソードよりも速く命中する。
急降下し、カタールが膝を切りつけた。
橙色の極彩鳥が魔力の翼を広げる。
高度を上げて、足で地面を掴む。
ダウンフォースが働き、機体が急旋回する。
脚を斬られたフーライの背中に、手に持った嘴を突き刺した。
嘴が機体を貫き、ジェネレーターを破壊する。
嘴を突き刺したまま、機体を持ち上げる。
空から機銃の攻撃が降り注ぐ。
飛行型フーライが両腕に装備しているガトリングガン。
前腕に搭載されたガトリング掃射を、仕留めた機体を盾にして防ぐ。
そうしているうちに、自機を挟撃しようと展開していた近接型のフーライが間合いを詰める。
2機がプロトエイトを囲むようにして、肩に装備したショットガンランチャーを射撃。
プロトエイトの間合いの外から射撃で耐久を削る。
盾として使った機体を蹴り飛ばす。
右に向けて蹴り飛ばし、相手の攻撃を妨害する。
近接型フーライがプロトエイトから距離を取る。
重量級ICEのカチドキがプロトエイトに接近。
両肩に装備したガトリングキャノンを乱射する。
飛行型フーライのガトリングよりも大口径で、フーライが牽制と自衛目的で運用しているそれに対して、カチドキのこれは、まともに浴びれば5秒と持たない。
地面を飛び、ガトリングの乱射を捌いていく。
カチドキに対して、時計回りに飛び、射線に追いつかれないように逃げる。
カチドキの右手が動いた。
前腕に装備した火炎放射器を、反時計回りに振るう。
銃身の右側に刃を持った、火炎放射器を振るい、時計回りに逃げるプロトエイトの逃げ場を塞ぐ。
機体の高度を上げて、空に逃げる。
ガトリングの嵐が収まり、火炎放射器が空に逃げた鳥を追いかける。
火炎放射器が、極彩鳥を捉えることは無かった。
ならば、左手の武装。
火炎放射器と同じく、前腕に取り付けられた、刃を持つ砲身からグレネードが擲弾される。
飛行型フーライ2機による絨毯爆撃の火力を、片腕のひとつで実現する。
重量級ならではの高火力武器が空中で炸裂し、プロトエイトの制御を奪う。
直撃はしていないが、爆発の余波で機体のコントロールが奪われて、速度が落ちる。
カチドキは止まらない、速度を失ったプロトエイトに対して、右腕を下から上に振るう。
火炎放射器の炎を浴びた銃剣が赤熱している。
その熱を、腕を振るう事で炎の刃として繰り出した。
カタールをクロスさせて、炎の刃を受け止める。
刃の威力に押されて、速度がさらに落ちる。
飛行型フーライの追撃。
6×4の絨毯爆撃。
面で敵を制圧して、確実に耐久力を削っていく。
フーライによるヒット&アウェイと、カチドキによるハードヒット。
それらをAIが運用することで、まるでひとつの生き物であるように操っている。
ICE、セントラルを守る動く要塞。
民間人の住む街中での抗争に対して投下するには不向きだが、脅威への積極的な防衛では無類の強さを発揮する。
‥‥パイロットとしてのデビュー戦に、不足ない相手だ。
爆風の煙の中から、オレンジ色をした鳥が羽ばたく。
今のところ直撃はもらっていないが、細かく機体を削られている。
3割に少し届かないくらいの量のダメージを受けている。
錆止めとして塗られていたオレンジ色の塗料が一部剥げて、メタリックなボディが露になる。
プロトエイトは、その名の通り、技術研究をするために開発された実験機。
ディフィニラに言わせれば、この機体は「工芸品」。
眺めて楽しむ物であって、戦う物では無い。
だから工芸品が戦場に出撃するために、言い訳ほど塗られた塗装は、簡単にメッキが剥がれてしまった。
覚えたてのオメカシほど頼りないものも無いだろう。
だが、ここからが本番。
まずは、空を飛ぶうるさい羽虫を叩き落とす。
飛行型フーライの背中を取る。
――シンクロ。闘志をCEに流し込む。
機体から、青い翼が伸びる。
プロトエイトの速度が跳ね上がった。
空気中の塵やゴミが、極彩鳥の体に擦れて発火。
青い翼の周りを、橙色の火花が散らす。
自分の飛行速度で、自分の塗装を剥がして焦がしながら、飛行型フーライを間合いに取る。
猛禽類の爪が、羽虫を捕らえた。
背を向けて地面と水平に飛ぶフーライの上から、両足でのしかかる。
のしかかって、そのまま地面にフーライを押し付けた。
灰色の地面を削りながら、フーライが地上を擦り滑る。
プロトエイトは翼を広げたまま、ブースターを吹かし続ける。
獲物を伴ったまま地面を滑り、狩りの邪魔が入ることを許さない。
両手の嘴で背中を穿つ。
双剣を交互に突き刺して、背部装甲に亀裂を入れていく。
4回ほど啄んだところで、刃が入るほどの亀裂ができた。
双剣を、同時に装甲に突き刺す。
刃を拒んでいた装甲もついに限界が訪れ、刃がコックピットまで沈み込んだ。
刃を捻じってから、横に切り裂いて、獲物に確実にトドメを刺した。
2機撃破、残り4機。
残った飛行型フーライが、ミサイルの雨を降らせる。
それを、背泳ぎをするような姿勢になって回避する。
空の敵は1機になった。1機では面への制圧力が足りない。
プロトエイトの速度を捉えられない。
ミサイルは僚機に降り注ぎ、爆発を起こした。
地上型フーライが、地面を背泳ぎするプロトエイトを左右から挟み込む。
両肩のショットガンを射撃。
急ブレーキ。
翼を広げ、地面を掴む。
プロトエイトは、速度こそ軽量級の中では並みだが、制動能力は他の追随を許さない。
数十トンの巨体が、時速150kmは出てたであろう速度の中で、10メートル足らずで徐行距離まで減速する。
左右と上から挟み込んでいたフーライたちは、彼のグリップ能力について行けず、背中を晒してしまう。
カタールを腰のストックに収納。
背中のブロードソードを引き抜く。
全長がCEの身の丈ほど。
刀身は片刃で、重量と硬度で威力を生み出す武器。
軽量級CEにありがちな非力を補うための両手剣。
大振りな片刃剣を引き抜いて、シンクロ。青い翼が伸びる。
プロトエイトの長所は、制動能力と加速力。
この2つを活かした、クロスプレーこそが真骨頂。
背中を晒した地上型フーライの背中に、袈裟斬りを見舞った。
相対速度の関係で攻撃の通りが浅い、仕留めるには至らない。
左腰のカタールを取り出す。
背中に突き刺し、押し倒して、地面に叩きつける。
叩きつけて、プロトエイトの手――、鳥と同じく3本の指を持つ手で鉄槌を見舞って、カタールを深々と突き刺した。
残り3機。地上1、飛行1、重量級1。
地上を僚機と並走していた地上型が振り返る。
振り返って、ブレーキ。
地面を削りながら剣を構える。
プロトエイトを振り切ることはできないと判断したのだろう。
互いのブロードソード同士が交差して、互いの機体も交差する。
軽量級の小競り合いに、カチドキが追い付く。
グレネードを擲弾。
得意のクロスプレーに持ち込ませぬよう、擲弾の爆風で極彩鳥を追い払う。
鳥は空に逃げた。
残りの羽虫を狩る。
飛行型フーライは、両肩のミサイルランチャーをパージして捨てる。
速度と機動力の確保。面制圧ができないのであれば、担ぐメリットが無い。
方向転換をし、急接近する極彩鳥に対し、ガトリングを掃射する。
地上からも、重量級のガトリングキャノンが火力支援をしている。
ブロードソードを前に構える。
硬質な刃が銃弾を弾いて、幾分か被弾が軽減される。
クロスプレー。
両機がすれ違った。
そのタイミングで、カチドキがグレネードを擲弾。
彼の得意に持ち込ませないようにする。
――急降下。
得意の制動能力を活かし、一気に高度を下げる。
狙いは、地上のフーライ。
重力の力も借りて、機体はシンクロも無しに、速度を上昇させる。
グレネードを装填している間に、1機仕留める。
空気中の塵を燃やしながら、塗装をが塵に削られながら機体は速度を増す。
クロスプレー。
互いのブロードソードがすれ違い、空を切った。
方向転換、速度を地面との摩擦で殺しながら旋回を――。
フーライが地面を削り、振り向いた時には、すでに獰猛な爪が上から降りかかっていた。
ICEを一刀両断。
残り2機。
制動能力の差。
互いが交差したあと、背を向けて逃げれば、加速力で背中を刺される。
だからといって、逃げずに応戦しようと振り向けば、旋回能力で正面を切られる。
中距離以遠の戦闘力と、身を守る装甲を犠牲にして得た理不尽。
――この鳥は獰猛。
オレンジ色の翼が空を飛んだ。
ガトリングを掃射するICEを、縦に一回転して切りつけて両断。
飛行型フーライは判断した。
少しでもダメージを与え、カチドキが勝つ確率を上げるために。
命を持たぬゆえの、自棄を前提とした戦法。
この鳥からは逃げられない。
‥‥何をしても。
戦う以外の選択肢を相手に与えない。
残り1機。
――プロトエイト。
カラス型飛行器を生み出した開発者の名を冠するCE。
世界で一番最初に、空に手を掛けた研究者の背中を追う機体。
かつて軍部に有用性を評価されず却下された、色褪せた橙色のカラスが、時代を超えて戦場を蹂躙する。




