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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4章_夢の跡地

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90/227

4.24_66倍の戦力差

楽園の真実。


楽園において、神は王によって淘汰された。

王は玉座に着くこと無く、闘争を求めた。


民衆はそれに付き従った。


今はもう、知る者さえ忘れてしまった真実。

真実が、跡地の物証と、世代を幾つも跨いだ伝聞にのみひっそりと残るだけとなった、遠い過去のおとぎ話。


しかし、エージェントは向き合わなければならない。

この世界に存在する悪意は、ディビジョナーだけでは無いのだ。


むしろ、本当に恐ろしいのは――。

いつの時代でも、どんな時であっても、人間の天敵はいつも同じ。



「皆さん、警戒を! CEの接近を検出しました。

 夢の跡地に、所属不明機がフォールします。」


アリサから通信が入る。

すると、セツナたちが立っている瓦礫の山の前、緑の都市と青い都市が重なり合った「二重(ふたえ)の都市」の空に魔法陣が展開される。


魔法陣は2つ。

地上に向けて開かれた魔法陣から、地上に向けて細長い光が到達する。


魔法陣からアプローチを放射、地上の安全を確認。

確認完了。


――センチュリオン・オーバードライブ。

魔法陣から巨人が降下した。


CEは、雑草や木が茂る路面に着地。

重量で路面を砕きながら、膝をクッションに衝撃を逃がしつつ立ち上がる。


木の上で休んでいた鳥が驚いて空に飛び立った。


「こちらスカウト1(ワン)、ターゲットを発見。プロトコル01(ゼロイチ)、任務を遂行。」


2体の巨人と眼が合う。

高さ8メートルの人型兵器、センチュリオン。


戦闘訓練を受けた戦士100人分の戦闘能力を有すると評価される現代の巨人。

その戦闘能力は、百人隊長(センチュリオン)の名を戴くにふさわしい性能を誇る。


――まともな正面衝突では勝てない!


突如、空から大量のスモークグレネードが投下される。

大量のスモークが立ち込め、瓦礫の上の3人を完全に隠して、姿を眩ます。


ブレッドから通信が入る。

彼が、上空に飛ばしているドローンに積まれていたスモークを使ったのだ。


「3人とも退け! 正面から戦って勝てる相手じゃない!」


言われるまでも無く、3人は(きびす)を返していた。

CEに背を向けて、瓦礫の山を飛び降りる。


綺麗に舗装された路面に足を付けて走り出す。


「逃がすか!」


CEに乗っているパイロットが、鉄の巨人を操る。

CEの脚と背中に装備されているブースターから蒼い炎が噴き上がる。


巨人は、膝を少し曲げて跳躍する。

同時に、ブースターの炎が力強く巨人の背中を押す。


CEの身体は空に浮いた。

目前の霧が立ち込める山を見下ろせる高度まで一気に上昇する。


CEは、時速100kmを超える速度を簡単に出すことができる。

例え目くらましで時間を稼ごうが、生身ではとても逃げらない。


文字通り、馬力が違う。


CEが空を飛ぶ。ターゲットを追跡して始末するために、出力を上げる。

――その瞬間。


機内にアラートが響く。

脅威の接近。


アラートの音に反応する間もなく、機体が大きく揺れた。

上から降り注ぐ強い衝撃で、地面に叩き落とされる。


空が一面赤く燃えて、青い空に破片と煙が残った。

CEが何者かの攻撃を受けたのは明白だった。


パイロットが驚愕する。


「迫撃砲!? 一体、何処から?」


夢の跡地に足を踏み入れているのは、エージェント3人。

彼らの他には、エージェントをサポートするための輸送機が上空を飛んでいる。


輸送機にCEをどうにかできる火力は無い。

同じく、エージェントたちも接敵してすぐのCEに大火力を出せるような術は無い。


なら誰が‥‥?


「やっと――、俺の出番のようだな。」


エージェントの通信がアクティブになる。

声の主は、ジャッカルだ。


前線基地の責任者でもある彼は、輸送機が基地を飛び立ったあと、単独で夢の跡地に接近。

夢の跡地の周囲に茂る森林に身を潜めていたのだ。


理由は、エージェントを()()()()()で始末しようとする勢力への対抗手段。

不穏勢力がCEを持ち出してくるのは、この作戦当初から懸念されていた。


セツナたちの戦闘能力は、まともな戦闘員・兵器では太刀打ちできない。

だからこそ、確実に戦力的な優位を取れるCEを投入してくる。

そう予想していた。


また、夢の跡地に現れるCEの装備は、対歩兵戦闘に重きを置いたロードアウトとなるだろうと予測を立てていた。

いずれも、エージェントを煙たく思っているCCC本部を仮想敵とした想定。


相手がこちらを確実に始末しようと考えるぶん、逆に相手の手を読みやすくなっていたのだ。


ゆえにジャッカルは森に潜伏していた。

CEを駆り、背中に二門の対空に迫撃砲を装備して、遠方から空を飛ぶ巨人に打撃を与えるのだ。


対空用の迫撃砲は、威力は少ないものの、炸薬に魔力を阻害する成分が含まれており、短い間CEのジェネレーター出力を奪う効果がある。

跡地上空を飛ぶドローンから送られてくる情報を頼りに砲撃すれば、着弾までの時間差があっても敵機を捉えることができる。


これで巨人の翼を奪った。

敵のCEは空を迂闊に飛べない。


歩兵狩りのCEに、森に潜む猟犬を見つける手立ても、攻撃する手立ても無い。


ジャッカルを炙り出すためにCEを一機向かわせる訳にもいかない。

戦力分散をすれば、もしもが有り得る。


CEは歩兵100人分の戦力がある。

しかし、CEのパイロットも歩兵の実力もピンキリだ。


魔法が存在する世界では、100人分の戦力差を覆す化け物は、希有だが存在する。


「さあ、(やっこ)さんの翼は奪った。かましてやれ!」


ジャッカルが3人に檄を飛ばす。

もちろんそのつもりだ。


礼を言って、二重に染まる都市を走る。

そんな彼らの目の前に、青い鳥が滑り込んで来た。


セツナたちの目の前を先行して飛んだあと、高度を上げながら10時の方向へと翼を傾ける。

まるで、「ついて来い」と、そう言っているかのようだ。


3人は青い鳥を追いかける。3階建ての建物の屋上を登り、屋上を駆けていく。


「こちらスカウト2、ターゲットをロスト。索敵を行う。」


スカウト2の機上するCEの肩には、円筒状の装備が搭載されている。

筒の頭部分が開く。開くと、そこからドローンが展開していく。

索敵ドローンだ。


「‥‥やはり力場の影響を受けている。計器やセンサーが正常に動作しない。」


先ほどのCEを空から叩き落とした迫撃砲もそうだった。

アラートの鳴動が普段よりも格段に遅かった。


この地には現在、力場の乱れが発生している。

この力場の乱れは、機械の動作に深刻な不具合を引き起こす。


力場の乱れの原因である魔力が、機械にとっては有害であるらしく、ロボットやドローンがここでは使えない。


CEに関しても、運動能力についは問題は起きていなくとも、センサー類が乱れの影響を受けているようだ。


ロボットなどの非生命よりも、人間などの生命体の方が魔力の保有と扱いに長ける。

その特性から、生身は力場の影響を受けつつも、保有する魔力量によって力場のノイズを無視できる。


人と機械が共同して運用するCEは、他の機械と異なり運用はできるものの、この地での行動は普段通りとはいかないようだ。

人が担当する運動能力は平常通り運用が可能だが、機械が担当する目の部分には制限が掛かっている。


索敵は、やや難航している。


スカウト1が僚機に指示を出す。


「スカウト2、動くぞ。ターゲットが対抗策を練るまでに叩く。」



3人は青い鳥の後を追った。

追いかけること数分、3分あるかないかの時間で、鳥は目的地に到着したらしい。


とある建物の入り口の周りを周回し、それから大空へと飛び立っていった。


JJとダイナが建物に入る。

セツナは、鳥に手を振ってから2人を追う。


車が余裕で出入りできるほどの入り口が開いて、3人を受け入れて閉まった。


この建物は、彼らにとっても見覚えのある建物。

どことなく、CCC支部に似ている。


いま入った建物は、CCC支部の隣に建っているエンジニア棟に似ていた。


セントラルのそれよりは、一回りも二回りも小さいが‥‥、楽園はそれほど治安が良かったのだろう。


エンジニア棟に似ているならば、ここには武器があるはず。

CEにだって対抗できる武器があるはず。


3人は物色を開始する。

ご丁寧に、入って左手側には車両が整列され、右手側には銃器、中央にはグレネードやランチャー系の爆発物が棚に陳列されていた。


装備を整える。

棚から手頃なカバンを見つけて、目に付いた武器を放り込んでいく。


セツナはスモークグレネードや、C4爆弾などの爆発物を多めにカバンに詰める。

カバンに詰めた中身は、基本的にプレイヤーのインベントリとも共有されるため、ここに入れておけばカバンを持っていなくともインベントリから取り出して使用ができる。


1度に大量の物を収納する時には、インベントリに直接送るよりも、カバンに詰め込んだ方が効率が良い。


ただし、カバンが戦闘なので破壊されると、カバンに入っていた物はロストしてしまう。

他にも、カバンとプレイヤーが離れ過ぎると、インベントリからの取り出すが不可能になってしまう。

大量運搬に向くが、このようなデメリットも存在する。


JJは、ランチャー系の武器を物色している。

‥‥が、お気に召した物は無かったようだ。


そもそも、火薬武器がCEに対しての打点となるので、あまり武器を補給する意味が薄い。

早々に物色を切り上げた。


ダイナは最初に車両を見て回った。

そこでバギーを見つけて乗り込む。


オフロード仕様の、小さな荷台が付いた四輪バギー。

ドアは付いておらず、転落防止用のネットがされているだけのバギー。


ネットを開けて、左ハンドルの座席に乗り込み、スマートデバイスを取り出してハッキング。

バギーにエンジンを掛ける。


そして、バギーを乗り回して銃器系を陳列しているエリアに向かう。

できれば、大型の銃が欲しい。


ブレーキを踏み、エンジンを止める。

目当ての武器が見つかった。


彼女が目を付けたのはガトリング砲。

全長1mほどの、ガトリング砲に目を付けた。


ダイナの視界に、ガトリング砲のスペックが表示される。

弾倉にはリピーター機能(弾数無限の機能)付き、4門で分間4000発のファイアレート。


これならCEへの打点足りえる。

JJがエンジン音を聞きつけて、彼女の元にやって来る。


そして、その意図を理解する。


ガトリング砲を2人で持ち上げて、バギーに載せる。

バギーの屋根部分にマウントするのだ。


バギーのルーフ部分には少し窪みになっている所があり、そこにガトリング砲の底を合わせる。

カチリと音がして、簡単にマウントされた。


マウントされると、荷台に向けてマウント用のスタンドが勝手に伸びて、より強固に固定が行われる。

ネジ要らず、工具要らずは良いことだ。


JJが荷台に乗って、ガトリング砲を動かしてみる。

左右の動き、俯角の限界の確認をする。


砲身が、マウントスタンドを支点に上下左右に動く。


当たり前だが、後ろは狙えない。

俯角もさほど取れる訳では無いが、地上戦を行う分には問題無さそうだ。


JJがガトリング砲から手を離す。

手を離して、バギーから下りて、時間つぶしのために銃器の物色を始める。


今度は、運転席に乗ったダイナがガトリング砲を操作する。


バギーのハンドルに付いているスイッチを操作する。

ハンドルの左手側にある赤いスイッチを軽く押すと、ガトリング砲がスピンアップを始める。


バギーにマウントされた銃器は、運転席からも操作ができ、ワンオペで運転と射撃をこなすことが出来る。

ハンドルの少し上に小さなホロディスプレイが表示されて、砲門が向いている方向と照準が明らかになる。


ディスプレイの大きさは変更が可能で、運転の邪魔にならないように調節ができる。

大きさや表示位置を調整。少し左側に寄せた。


そして、ハンドル左側にあるスティックを倒す。

親指で、ハンドルの上にあるスティックを倒すと、砲身が動いて照準の位置が変わる。


ビデオゲームのコントローラーの要領だ。

スティックを倒し込み、操作感を確認。

確認後、先ほど表示されたディスプレイで、スティックの感度を調整する。


スティックを重くすることもできるそうで、ダイナは最大までスティックを重く固くした。


そして、倒し込んだ時の照準の動き、感度を大きく上げる。

いわゆる、ハイセンシン(高感度)という設定である。


スティックが重いので、倒し過ぎて照準が暴れることが無い。

それでいて、スティックを大きく倒し込めば、照準を大きく動かすことが可能。


ハードハイセンシンの設定であれば、高速戦闘の中でも素早い照準が可能だ。


設定完了。

そこに、セツナの声。


「こっち来てこっち! イイ物みつけた!」


車両エリアの方から声が聞こえた。

バギーは、運転席にダイナを乗せ、荷台にJJを積んで走行する。


カバンを両手と背中に背負ったセツナが、1台の車の前で立ち止まっている。


「オレ、これに乗りたい!」


あくまでも、自分で運転するつもりは無いらしい。

バギーから下りて、彼がご執心な車の外観を確認する。


「これは‥‥!」

「なんというか~‥‥。」


困惑する2人に、目を輝かせるセツナ。


「これは装甲車だよ! 間違いない。」


JJがセツナの背中を叩いた。

背負っているカバンが、ボフンと鳴る。


「俺が運転しよう。」

「そう来なくっちゃ!」


JJが、()()()()()の車に乗り込んだ。

セツナの車を見て、自然と作戦が決まる。


2両に分かれての分断作戦。

CEを分断して相手をする。


車割りは、JJとセツナのペア。

ダイナは1人になった。


「ダイナ、1人で大丈夫?」


セツナが声を掛ける。


「まかせて! むしろ先にやっつけて、合流するから。」

「競争だな。」


ダイナの撃破発言に、JJが軽口を返す。

セツナが、ダイナの車両に駆け寄る。


「これ使って。」


右手のカバンを、バギーの助手席の足元に置いた。

中身を開けて見せてから、その中にあるアイテムをひとつダイナに手渡した。


「ふふ。ありがとう。」


サムズアップをして、セツナはJJの待つ車に乗り込む。

2台の車のエンジンが唸る。


「こちらスカウト2、ターゲットを発見。位置情報を送る。」


敵の通信が聞こえてくる。

恐らく、アリサがハッキングして通信を傍受したのだろう。


敵はこちらに向かって来るらしい。

それは好都合。


アクセルを踏む。

車両はスキール音を轟かせて、直進する。


建物の中で、エンジンとタイヤの唸り声が反響して、車体と身体を震わせる。


建物の出入り口が近づいてくる。

セツナが主力火器のグレネードランチャーを取り出す。


手に持つ6発装填のグレネードランチャーは、3点バーストが可能。

トリガーを浅く押し込むと、高威力のバースト射撃を行うためのチャージに入る。自爆注意。


トリガーを浅く押し込む。

トリガーには引っ掛かりがあり、そこで指がピタリと止まる。


すると、魔力が撃ち出される擲弾(てきだん)に送り込まれる。

弾が耐えられないほどの魔力が、短時間で一気に送り込まれる。


魔力を送り込み、弾が保有する魔力量が高まるにつれて、銃が甲高い雄たけびを上げる。

飛行機や戦闘機のジェットエンジンが空気を圧縮するような、甲高い空気の咆哮。


グレネードランチャーがチャージを終えた。

バギーのガトリング砲がスピンアップを始める。


――銃の引き金が引かれた。

威力の膨張した擲弾と、秒間66発の暴力が、建物の出入り口を破壊した。


日差しが差し込む出口を出て、右方向にドリフトをする。

広い道路の向こうには、2機のCEが迫っていた。


「さあ、巨人狩りだ!」


CEが2機、100人分の戦力が2体。

3対200の絶望的な戦いに、エージェントは反攻の反旗を翻す!

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