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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4章_夢の跡地

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4.18_晴天を焼く赤錆

「さあ――。この青天の陽だまり、白昼の日和の中、存分に殺し合おうじゃないか。」


蒼白の肌をした男が芝居がかった口上を述べると、彼の背後から大量の蝙蝠が飛来。

セツナたちの視界を埋めるほどの群れが、歪んだ暗闇の中から現れて、何処へとも知らず飛び立っていった。


吸血鬼の姿をしたディビジョナー、「晴天を焼く赤錆」。


人の言葉を解するディビジョナーだとか、太陽を克服している吸血鬼だとか、この亜空間で起こっていることだとか、そんなことは頭の隅にやる。

現在すべきは、目の前の敵の制圧。


依然その場に立ったままの吸血鬼に、セツナが仕掛ける。


スキル発動 ≪ライトニングアクセル≫ 。


足元に雷の力が宿る。

力は増幅し、覆い、弾ける。


雷が弾け、稲妻は電光石火となって、地上を走る。

10メートル以上はあった間合いを、セツナは1度のステップで詰めた。


右手で拳をつくる。

まずは小手調べと、右手で裏拳を放った。


拳をインパクトの瞬間まで握り込まず、腕をしならせて放たれた裏拳は、威力は低いものの速度に秀でる。

ライトニングアクセルで一気に間合いを詰めてからの奇襲には適した一手と言えよう。


裏拳を放つ瞬間、脱力のために息を少しだけ吐き、肺から空気が漏れる音と共に裏拳が放たれた。

青白い顔の、余裕綽々の笑みを裏拳で狙う。


雷光の如く走り、風を切る裏拳を、吸血鬼は何をするでもなく顔面で受けた。

ガントレット越しに、攻撃が通った感触が伝わる。


その瞬間に拳を握り、拳に重みを乗せる。

裏拳の威力が増幅し、ただ素早く動かした手打ちから ”手撃ち” となり、明確な殺傷力を帯びる。


頬を撃ち抜かれた吸血鬼は、赤い液体を流しながら、一歩後ろに仰け反る。


液体は、セツナの服に付着した。

同時に、状態異常を知らせるアイコンが視界のUIに表示される。


――状態異常:赤錆


状態異常の欠損と同様に、運動能力が低下する。

赤錆の状態で一定時間が経過するか、赤錆が一定以上蓄積した場合、赤錆が解除されると同時にダメージを受ける。


リゲインの発動により解除が可能。

また、リゲインが発動すると、わずかな間だけ赤錆状態を無効にできる――。


セツナの服に付着した錆の原液が、水が蒸発するように音を立てて消えた。

今の一瞬で、この吸血鬼が何かしら厄介な性質を持っていると判断。


身体に砂でも掛けられた感覚。

視界のUIに一瞬だけ表示された状態異常のアイコン。


セツナは左手を後ろに伸ばして、JJとダイナを静止させる。

そんな彼を、吸血鬼はやはり余裕の笑みのまま眺めている。


「――ふっ、速いな。」


呑気に感想を述べている吸血鬼に、後ろ蹴り。

セツナの十八番、くるりと身体を捻りながら、のほほんと突っ立っている吸血鬼の、ガラ空きの腹部に左脚が突き刺さった。


攻撃が命中すると、やはり吸血鬼の身体から赤錆が流れて、それはセツナのズボンに付着した。

付着した赤錆は、リゲインで得た免疫で無効化されて蒸発する。


腹部への蹴りを貰い、吸血鬼は後ろに吹き飛ぶ。

セツナはその隙に、スキル ≪ライトニングアクセル≫ を発動。


電光石火の速度で後ろに後退し、先ほど静止させた2人と合流する。


そして、手短に要件だけを共有する。


「気を付けて、ヤツに触れると状態異常に掛かる。たぶん、攻撃を当てれば解除できる。」


2人からは返事は無いが、これだけで充分に伝わったという感覚は得られた。


JJは、手に持っている納刀された火薬刀を左手で持って、右手を軽く振る。

ダイナは、左手にショートソードを召喚、接近戦を意識した武器をチョイス。


吸血鬼は、セツナの蹴りで吹き飛ぶも、ふわりとゆっくり地面に着地する。

何やら情報共有をしている、目の前の3人を愉快そうに見ていた。


情報共有が終わったのか、3人はすぐさま戦闘態勢に戻る。


「作戦会議は終わったかね? ならば――。」


立ち尽くすばかりだった吸血鬼が、悠然と歩き始めた。


「今度は此方から行かせて貰おう。」


そう言った瞬間。

彼の身体が小さな蝙蝠となり、分裂する。


蝙蝠の群れは、低空を羽ばたきながら、3人の元へと羽ばたく。

ひと呼吸もつかぬ間に、蝙蝠は目前へと迫り、群れの中から吸血鬼が拳を伸ばす。


セツナを頭部を狙った攻撃を、彼は身体を捻りながら屈んで躱す。

相手に背を向ける姿勢で、両手を地面について、倒れ込む勢いを使って左脚で蹴りを放った。

日本武術、躰道(たいどう)を真似た蹴り技が、吸血鬼の腹部に刺さる。


同時に、JJも吸血鬼の攻撃に反応していた。

鞘に込められたままの火薬刀を、杖術(じょうじゅつ)の要領で操って、鞘に収まったままの刀身で吸血鬼を攻撃。


セツナとJJのカウンターが、吸血鬼を捉える。


ダブルカウンターを受けて後退する吸血鬼。

それをダイナが追撃する。


吸血鬼が退くことで生まれたスペースに入り込んで、ショートソードで2回吸血鬼を切りつける。

袈裟斬りを2回、右上から左下に、左上から右下に、切りつけて攻撃した。


2回目の攻撃を、吸血鬼が自分の手で弾いた。

赤い血を纏った右手で、剣の斬撃を払う。


そのまま、同じく血を纏った左手で反撃。

ダイナの喉元を狙って貫手を放つ。


ダイナは、それを横に躱す。

先ほどのセツナと同様に、横側に倒れ込む動きで貫手を躱す。


吸血鬼の攻撃が空振る。

そして、ダイナが横に倒れ込んだことにより、彼女の背中の向こうの状況が明らかになる。


そこには、セツナがしゃがみ込こんだまま、足元に稲妻を宿していた。


躰道の動きから、カポエイラのムーブメントへ。

ケーダ・ジ・ヒンという、頭と両腕を支点に、腰と両脚を浮かせる姿勢。


両脚を浮かせた状態から、胸のバネを縮めて――、解き放つ!

同時に、足元に纏った雷が弾けて、身体が直線的で強力な慣性を獲得する。


ダイナは吸血鬼の前に立ち、立ち回ることで、セツナを死角に隠し、この攻撃の布石を打っていたのだ。


まさに、青天の霹靂。

吸血鬼にとっては不意打ちになったであろう。


青天の下、地上で轟く雷鳴に意識を取られた瞬間、吸血鬼の足元ではダイナが脚に炎を宿している。

視線誘導、意識誘導からの――、連携攻撃。


「ライトニングアクセル。」

「ブレイズ。」


稲妻と炎が同時に吸血鬼を狙う。


吸血鬼は、自身の身体を蝙蝠へと変化。

2人の攻撃を、蝙蝠となってやり過ごす。


蝙蝠になって、煙に巻いて、それから2人の真後ろに姿を現した。


――反撃。

しかし、それはJJに阻まれる。


火薬の力を得た日本刀が、鞘から鈍い銀色を解き放つ。

爆炎を纏った刃が、吸血鬼を脇腹から横一文字に両断すべく迫る。


その斬撃を、JJの方に向き直り腕で受ける。

左腕を赤錆の血液で覆い、関節の可動域を犠牲に防御力を高める。


刃と腕と、火薬と血が激突し、金属質な音が響いた。

悲鳴を上げたのは、刀身か骨か?


血液の装甲は剥がれ、爆炎に晒されて蒸発した。

刃は受けられたが、完全にはダメージを殺し切れていない。


「中々どうして、良い反応をする。」


吸血鬼は、愉快そうに、受けたダメージなど気にも留めずに歪んだ笑みを浮かべる。


JJは、抜刀した白刃を引く。

鍔迫り合いをさせることなく、鞘に戻そうとする。


足を動かすことなく、上体を引きつつ、身体を使って刀を鞘まで導いてやる。

納刀し、鞘のレバー引き、吸血鬼に背中を見せるような格好となる。


必然、死地での死合いの最中、武器を納めようとする愚か者に、吸血鬼は攻撃を加えようとする。


吸血鬼の意識が攻撃に傾いた瞬間、ダイナがしゃがんだ状態のまま、吸血鬼の足元に杖を伸ばす。

杖の先端、湾曲した部分で彼の右足を絡め取ろうしたのだ。


それを察知して、吸血鬼は足を上げる。


――付け込む隙を見た!

JJは、吸血鬼に対して当て身。


右足を一歩踏み込んで、吸血鬼の左腕に、自分の肩をぶつけた。


肩というよりは、右半身の背中を使った当て身。

合気の理合い、自分の背で、相手の肘関節を取る。


背中を相手の肘に当て、肘から肩に抜ける一撃。

体幹を緩め、身体を水にして、穏やかな激流でもって関節を極めて重心を奪う。


右足を上げてしまった吸血鬼は、JJの当て身を受けて、たたらを踏む。

当て身により、肘から二の腕、二の腕から鎖骨と肩甲骨を衝撃が貫き、筋肉が硬直したことで威力を逃がすことができなかった。


筋肉が硬直しては、膂力での抵抗も難しい。

筋肉は、緩んだ状態から緊張することで力を生み出すのだから。


‥‥火薬刀の鯉口が切られた。

鞘から、くすんだ金色をしたハバキ(※)が覗く。


ハバキ:鞘から刀が抜けないようにする、鍔の上にある金具のこと。

    漢字での表記が環境依存文字で出来ないため、カタカナで表記。


鞘から、銀鉛と爆炎が放たれた。

白刃は黒い火薬を纏ってぬらりと光り、眼前の敵を横一文字に焼く。


態勢を崩していた吸血鬼を深々と切りつけた。


流れるような納刀と抜刀。

鍛錬で研鑽した技が、淀み(よどみ)のない無い動きを生み出す。


強烈な斬撃と爆炎に晒されたのに、流水のように淀みない一撃は、切り口を美しく、吸血鬼を吹き飛ばすことなくその場に留める。


鞘から放たれた斬撃は、その全てを残さず、斬るという行為のみに消費された。


JJは、また刀を納刀。

隙があればすぐに火薬抜刀できるようにする。


ダイナが再び動く。

杖の湾曲を使い、今度は吸血鬼の首を絡め取ろうとする。


火薬刀で切りつけられた吸血鬼の背後に回り込み、彼はなす術なく、背後から首を拘束された。


ショートソードをしまい、左手でペンダントのチャーム握る。

ペンダントが、ナイフに変化する。

ナイフを逆手に握る。


杖を引っ張る。

杖を引っ張る力と、自分が引っ張られる力。


それらを使って、吸血鬼の背後からナイフを突き刺した。


「ほう、面白い!」


吸血鬼は、口から一筋の血を流しながら、JJの技とダイナの連携を称賛する。

ダイナは、杖をナイフを操り、吸血鬼の身体の向きを変える。


「セツナ。」


吸血鬼の目に飛び込んで来たのは‥‥、両手で太陽を抱え込んだ、セツナの姿だった。

パッシブ「双子の火星」と「安定的な超新星」により、チャージをしたスキル ≪炎撃掌≫ 。


両手で抱えた太陽を、吸血鬼の胸に捻じ込んだ。

太陽の(くさび)が撃ち込まれ、両手で押さえつけられていた熱量が解放されて爆発する。


パッシブ「安定的な超新星」は、チャージ後の炎撃掌をAG版と同等の性能に強化する。


ダイナに(はりつけ)にされている吸血鬼は、太陽の質量と熱を逃がすことなく、その身に受ける。

シワひとつ無い、カッチリと着こまれた燕尾服の袖から、黒い煙が吹き出す。


ダイナの腕に、太陽の衝撃が突き抜ける。

焦げた匂いが、衝撃と共に鼻腔にぶつかった。


間接的なフレンドリーファイアに、ノックバックが発生する。


吸血鬼とダイナは、AG炎撃掌の衝撃で後退。

地面を滑って後ずさる。


セツナの追撃。パッシブ「双子の火星」により、炎撃掌を2回発動できる。

闇の中へと沈んだ太陽が、再び両手に昇る。


太陽を右手で握りしめ、後ずさる吸血鬼の元に疾走し、吸血鬼の顎へと掌底を放つ。


掌底が放たれるのを確認して、ダイナは杖を収納。

ナイフを捻じってから引き抜いて、その場を離れる。


掌底が顎を穿ち、爆発が起きて、身体を上空へと吹き飛ばした。


宙へと打ち上げられた彼の身体は、宙を舞ったまま、重力に逆らってその場にとどまる。

蝙蝠のように、頭を下にして、腕を組み、宙に静止して3人を見下ろす。


セツナが、それを見てスキル ≪シルバームーン≫ を発動。

空中に突っ立っている蝙蝠を叩き落とそうと、銀色の三日月を放った。


吸血鬼は、蝙蝠の姿となって三日月をやり過ごし、その姿のまま3人に襲い掛かった。

空から、蝙蝠の土砂降りが降り注ぐ。


今までの群れの量とは比にならない。

群れに圧し潰されてしまいそうなほどの軍勢が空から降り注ぐ。


蝙蝠の小さな標的を全て叩き落とすことは叶わず、3人は蝙蝠に纏わりつかれてしまう。

蝙蝠自体にダメージは無い、赤錆の状態異常も受けない。


――吸血鬼は考えていた。


此方の劣勢は明白。

このままでは、押し切られるだろう。


この者たちは、自分の不死性を焼き尽くすだけの力がある。

‥‥実に愉快だ。


勝負とは、少し不利なくらいが最も面白い。


だが、やられっぱなしでは相手に失礼だ。

少し不利なくらいが最も美味しいのは、相手だって同じなのだ。


自分ばかりが良いとこどりでは、身を包んでいる燕尾服が泣いてしまう。

素敵な舞踏には、こちらも相応の礼儀でもって、もてなさなければ。


今、手を焼いているのは人数的な不利だ。

3人の連携を防ぐためには、文字通り手が足りない。


‥‥‥‥ふむ。

ならば、手の数を2倍に増やしてはどうか?


例えば、そう、あの金髪のような(しもべ)が欲しい。

男2人も間違いなく強者であり、暴風の如き攻撃は、自分を葬るに足りえる。


その暴風の、嵐の目はどこか?

それは、あの金髪の女性だ。


背中に仲間を隠したり、注意を自分に逸らしたり、杖で拘束をしようとしてきたり。

素晴らしい――。


蝙蝠に纏わりつかれているダイナの背後に、吸血鬼が立っていた。

振り返って反撃をしようとするが‥‥、身体が動かない。


状態異常:拘束。


吸血鬼が、ダイナから伸びた影を踏んでいる。

ゆっくりと彼はダイナに近づき‥‥、首筋に牙を突き立てた。


「――――ッ!?」


意識が遠のくような、そんな浮遊感が身体を襲った。

身体が、脳の制御を離れ、力が抜けていく。


灯りの消えかかった意識は、しかし、すぐさま覚醒し活力を取り戻す。


拘束状態が解け、ナイフを振るう。

背後に居た吸血鬼は、地面に沈むように影の中に溶けて、攻撃を躱した。


蝙蝠の群れが綺麗に消え去る。


ナイフをペンダントの形状に戻し、フリーになった左手で首元を押さえる。

左側を噛まれた、血を吸われた。


「ダイナ。」


JJが彼女に声を掛ける。

それに、手を軽く挙げて答える。


「だいじょうぶ。でも、アイツに影を踏まれないで! 動けなくなる。」


吸血によるダメージは無い。

――が、何かをしてくるのは必定。


それを理解しているのか、セツナとJJも警戒心を高め、迂闊に攻撃をせずに吸血鬼を睨んでいる。


刺さる視線を、愉快そうに浴びて、吸血鬼は空を仰いだ。

空を見上げ、両手を広げる。


そうすると、彼の影が不自然に揺らぎ始める。

意思を持つように、生きているかのように揺らいで、彼の横の方へと勝手に伸びていく。


ゴボゴボと影が泡立つ。

泡立つ影の中から、何かが浮上してくる。


「あぁ‥‥。やはり血は、美女のものに限る。」


そう言って、泡立つ暗がりから這い出た、影と血から生まれたダイナの肩に手を置いた。

影の中から生まれたダイナ――、影ダイナは、左眼を右手で覆う。


右手で覆い、中指と薬指の間から瞳を覗かせた。


赤い涙を流す瞳は、紫色から即座に黄色へと変化する。

スキル発動、 ≪AG魔導異書(ディ・グリモワール)カースマイン≫ 。


相手に呪いを植え付けるカースマインのAG版は、腹に植え付けた呪いを即座に起爆する。


3人の身体の中から、光が漏れる。

光りは、紫色から黄色に変化し、膨れ上がる。


夕暮れがくる。

瞳を開けば、すぐそこに。


黄昏色の魔力が爆ぜ、3つの夕日が地上に昇り、3人は夕日の中へと消えていった。


‥‥‥‥。

‥‥。

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