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1.6_ペーパープラン

「よぉ~し、マヌケにしては物分かりが良いようだ。」


プランBを発動し、敵を陽動。

その後、敵の根城である廃工場に上空から突撃したセツナは、ボルドマンの部下に囲まれていた。

セツナは観念して、両手を頭の上に挙げている。


「そのまま武器を捨てろ、ゆっくりとだ。」


右手に持っているリボルビングライフルを、そっと地面に置いた。

両手は、また頭の上に戻す。


「こちらに蹴りとばせ。」


地面に置いたライフルのストックを蹴る。

ボルドマンの方へ、銃が渡った。


彼は、銃を拾い上げてから砂を払い、シリンダーを開閉した後に銃を構える。


「ほお‥‥、良い趣味だ。」


構えた銃を下ろして、近くの部下に渡す。

それから、彼は指を鳴らす。


すると、灰色のパーカーを着た男が、セツナの横にやって来た。

男は、セツナの右腰に装備しているリボルバーをホルスターから抜いて、取り上げる。


「扱いには気を付けなよ。デリケートで神経質。オマケにじゃじゃ馬で、足癖が悪い。」


大口径・大威力・大反動のリボルバー。

拳銃と呼ぶには烏滸がましい(おこがましい)それを手にしたパーカー男に、セツナは忠告する。


「おぉ、それは怖い。‥‥だが、何の問題も無い。」


忠告を聞いた男は、とぼけたように両眉を上げて、リボルバーのシリンダーを開ける。

イジェクトロッドを操作すると、装填された弾がリボルバーから抜けていく。

暴発避けとして1発だけ弾丸が抜かれたマガジンから、5発の弾がまとめて地面に落ちて砂を被った。


「こうすれば、どんなヤツでも静かになる。

 ――例え、悪魔であってもな。」


男は、空になったリボルバーのバレルを掴んで、セツナに見せつける。

その後、セツナから距離を取って取り巻き達の中に混ざった。


粗方の武装を取り上げられたセツナの後ろから2人、銃口をこちらに向けて近づいて来る。

2人は、確実に弾が命中する距離まで近づいて、セツナに圧力をかける。


武装解除に、抵抗の封殺。

弾丸が数発命中しても大丈夫だけど、さすがに、この数の集中砲火はマズい。


セツナは、大人しくすることしか出来なかった。

ボルドマンがセツナに話し掛ける。


「オマエには聞きたいことがある。――ついて来い。」

「ふ~ん、聞きたいこと‥‥。オレの担当オペレーターのアリサさんは可愛い。だからって、連絡先は教えてあげない。」


危機的状況でも、ふざけた余裕をみせるセツナを、後ろに居る男が銃口で背中を押す。

さっさと歩けという意味だろう。


観念して、セツナは歩き出す。

背後には、フルオートライフルを握った男が2人。

足音で距離の検討をつける。


1歩、2歩、3歩――。6歩目。


身体を半身にして半歩後退、男の懐に潜り込む。

先ほど銃口を押し付けた男のライフルを奪う。


銃口付近を握り、もう片方の手でストックに掌底。

掌底と同時に、銃口を捻じるように力を加える。


テコの原理と、合気道の小手返しに似た要領で手首を極めてライフルを取り上げる。


ライフルは、セミ・フル・バースト射撃にも対応したフルオートライフル。

弾倉は30発。口径5.56 mm、全長850.9 mm。


奪った銃のストックを、男の腹部に叩き込む。

この時、男が影となり、敵からの射線は通らない。


影から飛び出す。

ライフルのセレクターを、フルオートからバースト射撃に変更。


10時の方向、2メートル先に居る敵にバースト射撃。

鳩尾に照準をして1発、反動を利用して胸に2発。

絶命には至らない。


怯んだ敵を、マジックワイヤーで手繰り寄せて、盾として使う。

10時から2時、4時から7時の方向の射線を切る。


3時方向、倉庫の影に隠れている敵に、腰だめで射撃。

膝立ちで遮蔽物(カバー)に隠れて頭を出している相手に、カバーの頂点付近を狙い、反動でヘッドショットを狙う。


ヘッドショットで絶命を確認したら、すぐさまテレポートでカバーに移動。

遮蔽物からホログラムを陽動として使い、戦場をかく乱、ペースをこちらに引きずり寄せる。


ワイヤーとテレポートを駆使した立体的な動きに、敵は対応できない。






――と、ここまでが、脳内妄想。


思い浮かべるのは、幼少の頃より憧れる、スクリーンの向こうを画面狭しと戦うヒーローの姿。

一騎当千のムービーヒーローに、ゲームの世界なら自分だってなれる!


セツナが歩き出す。

背後には、フルオートライフルを握った男が2人。


1歩、2歩、3歩――。6歩目。


身体を半身にして半歩後退、男の懐に潜り込む。

先ほど銃口を押し付けた男のライフルを奪う、はずだったんだけど、相手にも半身引かれて両腕が空を切る。


すかさず、掴みが空振ってガラ空きになったマヌケ面に、ストックの一発。

上体が浮いて、今度はボディがガラ空きになり、そこに膝蹴りを一発。


鈍い衝撃が内臓を突き抜け、反射的にうずくまる。

そこに、もう1人の男が近づいて、彼を掴み上げて、アゴに拳を横から一発。


セツナは、地面に叩きつけられた。



時は数分ほど遡り‥‥。


オペレーションルームから、敵に囲まれたセツナの様子を見て、アリサは思わず立ち上がってしまった。

ボルドマンの暗殺、調べれば調べるほど、不可解な箇所が増えていく。


ボルドマンの動向は、作戦以前から追跡していた。

それなのに、予想よりも敵の用意と手際が良すぎる。


手薄を狙った暗殺にも関わらず(かかわらず)、セツナは窮地に立たされている。


ひとつひとつは小さな違和感。

だが、それが重なり重くなり、アリサの平常心を乱すには充分な程までに育っていた。


静かなオペレーションルーム、はしたなく机を叩くように立ち上がってしまう。

平静さを欠いた表情で、部屋の中心に座るディフィニラ局長の方へと向いた。


アリサの立ち上がるを音を聞いて、ディフィニラもアリサの方を見ていた。


「局長――。」


言葉を続けようとしたが、ディフィニラはそれを手を挙げて静止する。

そして、座るように促した。


「アリサ君、まあ落ち着きたまえよ。これくらいの想定外は、想定内だ。」


机に片肘をつけて、脚を組む。


「――だからこその、彼なのだよ。」


貫禄のあるディフィニラの居住まいに、アリサは平常心を取り戻し、自分の席に座った。


(そう、セツナさんならきっと――。)


まだ、共に仕事をして日は浅いが、彼の戦闘センスには光るものがあった。


まるで、いくつもの戦いを経験しているかのような、そんな慣れと嗅覚を感じさせる。

身のこなしの練度と鋭さは、ベテランの風格さえ感じる。


そんな彼のことだから、この窮地だって、きっと乗り越えるのだろう。

ディフィニラ局長が、そう言ったように。


付き合いは浅いが、彼が大人しく掴まるような人物で無いことは分かっていた。

仕掛けるなら、ここだろう。


セツナが歩く。

1歩、2歩、3歩――。6歩目。


身体を半身にして半歩後退、男の懐に潜り込む。

先ほど銃口を押し付けた男のライフルを奪う――。


はずだったんだけど、相手にも半身引かれて両腕が空を切る。

あれよこれよの間に、セツナは地面に叩きつけられてしまった。


「局長!!」


‥‥‥‥。


ゆっくりと、ディフィニラは椅子の背もたれに倒れ掛かる。

レザーカバーがメリメリと声を上げて、ディフィニラの背中を受け止めた。

片手を使って、両目を覆う。


「‥‥‥‥はぁ~。」


大きな部屋に、大きなため息が響いた。



「あっれ~~~? おっかし~な~?」


セツナは、土の香りと温かみを感じながら、独りごちていた。

お日様をたっくさん浴びて、あったかい土が心の慰め。


セツナをノシた男2人が、地面と一体化しているセツナに、信じられないもの見るような視線を向ける。


「コイツ‥‥、バカだろ。」


1人は、顔を横に振って、地面の()()の阿呆さを評する。


「あぁ、違いねぇ。」


セツナは、生来のお調子者である。

お調子者であるから、腹の芸など、貫徹した試しが無い。


なぜか? 全部、顔に出るからである。


妄想にリソースを割き過ぎて、気持ち悪いほどニヤニヤしている自分に気付かず、ゴロツキ達のハンドサインも見逃し、その結果がこれである。


脳内では、大スクリーンの大スペクタルが満員御礼だったのだが‥‥、この世界はつくづく主役に優しくない。


閑古鳥がスタンディングオベーションである。


セツナは、地面に伏したまま、両手を頭の上に乗せた。

ボルドマンの声が、上の方から聞こえてくる。


「よぉマヌケ、次はどうする? 柔道でもするか? それともレスリング?」


ボルドマンの煽りに、セツナはため息。

少し目を閉じてから集中。意識を切り替える。


「――いや。次は、ダンスでもどうだい?」


まだ諦めた様子の無いセツナの語気に、ボルドマンは両手を空に向けてリアクションをした。

やれるものなら、やってみろとでも言いたげである。


セツナが、ボルドマンを只者で無いと感じているように、ボルドマンもまた、セツナを警戒している。


そして、警戒している以上に、興味がある。


セツナの雰囲気が、少し変わったのが分かった。


肌に静電気が走ったかのような錯覚。ヒリついた空気に、気分が高揚する。

ハンドサインを出して、機微の変化に気付いていない部下に警戒を促す。


サインを確認したゴロツキ達は、銃を握る手に力を入れ直した。

セツナを囲む2人も、また然り。


――瞬間、男の銃が、手から消え去った。

銃の重みが消えたことに戸惑う時間も無く、腹部に深々と突き抜ける衝撃。


衝撃は、男の筋肉質な身体を悠々と持ち上げて、遥か後方に吹き飛ばしていった。


セツナは、ブレイクダンスさながらの動きで、うつ伏せの状態から仰向けになり、銃口を蹴り飛ばし、胸椎をバネのように使って蹴りを放ったのだ。


スキルの発動に依らない一撃。

その正体は、日本武術に多く見られる、身体を”割る”動きで姿勢の変化を最小限にした一撃。

起こりの少ない動きは、速さも派手さも無いが、故に捉えずらい。


見えないのではなく、反応できない。


食らう側からすれば、不意打ちのように感じられ、一瞬反応が遅れてしまう。

そして、近接戦闘での一瞬の遅れ、一瞬の思考停止は死に直結する。


仲間が吹き飛ばされたのを受けて、ゴロツキ達は無言でセツナに射撃を開始する。


蹴りからの着地後、うつ伏せの状態から、すぐさま飛び上がる。


腕の力を使うというよりも、鎖骨や胸の力を使うように。

そうすることで、より大きな力を生み出せる‥‥、らしい。


地面に身体が平行となるように飛ぶことで、被弾面積を小さくする。


縦幅が短く、上に動くターゲットは、簡単には狙いにくい。

‥‥それでも、何発かは命中してしまうのだが。


被弾を気にせず、セツナは近くにいた、もう一人に攻撃を仕掛ける。

アゴへの一発に対するお礼を兼ねて、身体を捻りながら、脚で彼奴の脇腹を狙う。


察しが良い、ガードを固めてきた。


しかし、それは折りこみ済み。

脇腹を狙う脚を引っ込めて、もう片方の脚を広げる。


身体を捻る遠心力に従って、脚は宙に弧を描くように伸びていく。

宙に描かれた弧は、男の側頭部を穿って、意識を刈り取る。

そのまま、遠心力の乗った脚にきりもみされて、地面に叩きつけられた。


セツナは足を使って着地。

≪ブレイズキック≫ を発動、不自然なまでの急加速で弾丸の嵐を駆け抜ける。

身体に速度が乗った段階で、 ≪ブレイズキック≫ の攻撃モーションをキャンセル。


走っていた姿勢を変えて、スライディングで移動する。

スライディングは慣性を維持する特性があり、 ≪ブレイズキック≫ で得た慣性のまま、セツナは地面を滑る。


屈んだ態勢になることで、また被弾面積を少なくする。


それから、適当なスクラップの山の影に身を隠した。

そこには、先客が居たので、席を譲ってもらうようにお願いした。

先客は、それを快諾してくれた。


セツナの右手に、金属製のガントレットが現れる。


「さあ、第2ラウンドを始めよう。」

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