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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4章_夢の跡地

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4.14_幸福という悪夢。

突如セントラルに現れた赤龍。

その謎を追うために、エージェントはオーストラリア大陸にある夢の跡地へと向かった。


歪んだ三日月の襲来、前線基地の防衛。

2度のアクシデントに見舞われるも、一行の足は、夢の跡地へと漕ぎつけた。


いよいよ、実地調査も本番。

――その矢先、エージェントを見送るアリサの前から、彼らは忽然と姿を消した。


‥‥‥‥。

‥‥。


JJが、街の様子を眺めたあと、2人に問いかける。


「2人とも、この状況をどう見る?」


それは一瞬の出来事だった。

視界が白い光に包まれたと思ったら、目の前の景色が一変。


緑の都市は、青い都市へと変貌を遂げていたのだ。


この状況、安直に考えるなら――。


「タイムスリップ?」


ダイナが、顎に手を当てながら呟く。

JJはそれに頷く。


「少なくとも、昔の街の様子を見ている、って考えるのが妥当か。」


2人の横で、セツナは再度テレポートをしようと、それを繰り返し発動させている。


テレポートが発動し、彼の姿が消えて、その場にまた現れる。

これを数回、何度も繰り返している。


「ダメだ。やっぱりテレポートが使えない。

 なんだか、この空間に引っ張られる力が働いてて、上手く亜空間にジャンプできない。」


テレポートは、時間の流れが持つ、極小の切れ目に潜り込む技術。

切れ目に潜り込み、亜空間へと侵入し、そこの空間を切ったり繋げたりすることで、物理的な距離を無視して移動を行う技術。


それがテレポートの基本的な仕組みである。

だがしかし、この青の都市に迷い込んでからは、テレポートが正常に作動しない。


JJとダイナも、セツナと同様にテレポートを使ってみる。

やはり、2人のテレポートも不発に終わる。


その場から姿は消すものの、すぐにまたその場に現れて、瞬間移動は行えていない。

セツナと同じ状況だ。


「どうだった?」


ダイナがJJに聞くと、JJが「セツナの言う通りだった。」と答える。

彼女も同じ意見だ。身体は亜空間へと転送されるが、そのあと強烈な引力に引っ張られるかのように、この空間に戻されてしまう。


テレポートの不発と、この空間に迷い込んだのには、何か繋がりがありそうだ。


セツナは、考えることは2人に任せて、自分は情報収集をすることにする。

頭を使うのは任せて、自分は足を使う。


右手の人差し指を上に、ちょんちょんと指してから、近くのビルを壁を駆け上っていった。


セツナを見送って、ダイナとJJは意見を交換する。


「テレポートを使えない原因は、いくつか考えられるよね?」

「ああ、切り分けて考えよう。まず、時間の切れ目に潜り込めなくなっているっていうのが、不発になる原因として考えられるな。だが――。」

「亜空間には入り込めているから、そういう原因じゃないよね。」


テレポート不発の原因その1、時間の切れ目に潜り込めなくなっている。

例えば、この空間の時間の流れが、元の地球と異なれば、時間の切れ目がやって来るタイミングである、プランクサイクルがズレてテレポートが失敗する可能性がある。


だが、これが原因であるという確率は、ダイナが言うように低い。

テレポートが発動して、姿が消えているという事は、亜空間には入り込めているのだ。


JJとダイナは、歩道を歩きだす。

道行く人は皆、彼らを気にせず、進路を変えずに歩いて行く。


2人は、それを反射的に避けつつ歩いて行く。

自分たちも、セツナのように足を使いながら、頭も使う。


ダイナと通行人の肩と少しぶつかり、擦り抜けていく。


「この空間に引っ張らてるってことは、もしかすると、この空間の座標がテレポートで入り込む亜空間の座標に近いのかも?」

「近くにこの空間があるから、空間の引力の影響を受けているって感じか。」


それは確かに、テレポートをした時の実感に近く、直感的に理解をしやすい。

ただし、そうなると――。


「じゃあ、なんでそんな近くに、この空間が広がっているの? ってことになっちゃうけどね。」


JJは、車道に少しはみ出して歩き始める。


「先人からの、プレゼントとか?」


歩道と車道、人と車の緩衝地帯。


ここなら、人通りも車通りもなく、精神的な負荷なく歩くことができる。

ダイナも、それに習う形で車道の隅を歩き始める。


「ふふ。そうだったら、ロマンチックだね。」


2人横並びになって、車道の隅を歩く。

車道の隅は、人と車にぶつかることなく歩けている。


その様子を、セツナはビルの上から眺めていた。

2人の様子を確認した後、視線を戻して周辺を一望。


見渡す限り、青いビル。

視界が及ぶ範囲において、この空間は広がっている。


恐らくだが、この空間はかつて楽園だった都市の広さをそのままに、彼方の方まで広がっているのだろう。

もしかしたら、見えない壁で移動制限がかけられているかも知れないが、視覚から得られる情報で分かることはそんなところだ。


視覚から情報を得たら、次は聴覚で情報収集。

耳を澄ませば聞こえるのは、乾いたビル風の音、車道を走る車の音、人の歩く音は‥‥、ちょっとここからでは聞こえない。


聴覚で得た情報は、そんなところだ。


(‥‥銃声が聞こえないなあ。)


この青い都市と、セントラルはよく似ている。

だのに、この都市では、セントラルの名物である銃声ひとつ聞こえやしない。


‥‥銃声がひっきりなしに聞こえてくるセントラルの方が異常なのだが、異常が正常な終末世界において、銃声ひとつ、暴力沙汰ひとつ無い方が、セツナにとっては異常に思える。


楽園と呼ばれた社会は、伊達では無いという事か。


視界をいま一度、下に落とす。

そろそろ、2人と合流しよう。


そう思って、ビルの青いガラスに足を伸ばそうとした瞬間。

頭上から、鐘の音が響いた。


鐘の音は都市全体に響き、ビルに反射して、やまびこのように何度を木霊する。


(‥‥時報?)


音色は規則的で、どことなく、時計の時報に聞こえる。チャイムと言った方が適切だ。

チャイムの音色は当然、地上のJJとダイナの耳にも届く。


ダイナが立ち止まり、それに気づいてJJも立ち止まった。


彼女は目を閉じ、耳を澄ませる。

チャイムの音色を聞いているのだろう。


(音色に不協和音が混ざってる。)


ダイナは、現実世界ではピアノを趣味にしている。

幼少の初恋がきっかけで始めたピアノは、大人になった今でも趣味として続けている。


そのおかげか、時報の音色に、不協和音が混ざっていることに気が付いた。


不協和音とは、何も恐怖や不安を煽る音色の事だけを指すのではない。

それらの中には、神秘的に感じる音色も含まれており、聞こえる音色はその類の音だ。


しかも、意図的に組み込んでいるような、作為を感じる。


本来、時報に不協和音を混ぜるなんてことはしない。

時間を知らせたいのなら、もっと通りの良い音を使うべきだ。


ましてやここは、2XXX年。

ルネサンス以前じゃあるまいし、青い都市に鐘の音なんていうのは似合わない。


もし、そんなことをするなら、ここは宗教都市という事になる。

――そういうことに、――なってしまうのに。


「どういう‥‥、こと‥‥?」


目を見開き、落ち着かない様子で忙しなく周囲を見渡す。

喉から漏れるように発っせられた声が、彼女の動揺を物語る。


チャイムの音色が、時を止めた。

人々は立ち止まり、車は止まり、音は止み。


栄えた都市の喧騒が嘘のように静まり返った。


JJは、立ち尽くす通行人の1人に手を伸ばす。

伸ばした手は、やはり通行人をすり抜ける。


世界に変化は起こっていない。

が、この不気味な静寂に、警戒心を強める。


チャイムが鳴り止む。

時は動かない。


止まった世界で動いているのは、空中に次々と現れる、無数のホログラムディスプレイであった。

人々は、そのディスプレイを見上げる。


JJとダイナも、周囲と同じく空を見上げる。


‥‥‥‥。

‥‥。


風が止まった。

ビルの屋上から、地上の異変に気付くセツナ。


彼もまた、空中に現れたホログラムを眺めている。


「市民の皆さん、12時です。」


女性の声を模した、電子音声が流れる。

性質は、人間のように抑揚がありながら、感情を感じさせないように冷たい。


もし、声に不気味の谷があるのなら、きっとこんな声であるのだろう。

背筋を、冷たい指でなぞられるような、心を毛羽立たせる不安感を覚える。


「本日も、エデンシティは平和です。今日の12時をもって、エデンは犯罪未発生継続140,160時間を達成しました。

 16年の間、エデンで犯罪は確認されておりません。」


この電子音声は、()()()()()をついている。

きっと、裏では犯罪が起こっているのだろう。


確認されていないのか、報告されていないだけで。


「市民の皆さんには、エデンに平和をもたらした、マザーに感謝をする義務があります。」


マザー、それがこの狂気の原因であり、この都市の支配者。


「マザーより、お言葉を頂戴しております。きちんと、心に刻みましょう。

 それでは読み上げます。市民の皆さん、幸福のために、これからも正しく生きるのです。

 マザーは、あなたたちが信じる限り、幸福の提供を約束します。

 ――以上となります。」


幸福、という単語を聞いて、セツナたち3人の表情が苦くなる。


現代の日本人には、3つの義務が課せられている。

自由・国防・幸福。


これが、日本人に課せられた義務。

三大義務とも言われている。


自由には、学業の義務も含まれている。

学問の持つ、リベラルアーツこそが、自由に生きる力を与えると考えられているからだ。


国防は、全国民に課せされている。

鎖国を維持するには、有事に国民総出で自国を守る必要がある。


すべて国が、「ネクスト」の恩恵を受けられている訳では無いのだ。

そして、すべての国が「ネクスト」を平和利用している訳では無いのだ。


海の向こうでは、今日も紛争が続いている。

日本は好き好んで鎖国をしているのではなく、世界の現状は鎖国をせざるを得ない状況なのだ。


そして、日本人には、幸福に生きることが義務付けられている。

これは別に不幸を悪とするという考え方では無く、幸福の実現とは、社会努力だけでは成り立たないとする考え方。


1人1人、思想も違えば価値観も違う。

だからこそ、自分の幸福には、自分自身が最も真剣に向き合う必要がある。


そして、幸福の実現とは、学業を内包した自由と、国民参加型の国防によって実現される。

それが、幸福の義務。


そういう情操教育を受けて育った3人にとって、この機械音声が宣う(のたまう)幸福とやらに、強い疑問感や不信感を覚えているのだ。


幸福とは、天から降って与えられるものでは無い。

個人が自分のために、個人が社会のために、社会が個人のために。


幸福とは、人の手によって築かれるものなのだ。


まさか、文化の違いを、電脳の世界で体験するとは思わなかった。

なるほど、カルチャーショックとは、こういう感覚なのか。

知識が、実感に変わった。


電子音声は、アナウンスを続ける。


「――お待ちください。マザーより、次なるお言葉がありました。」


そう告げたあと、ホログラムが空中から消えた。

‥‥消えたホログラムは、この世界に迷い込んだ3人の周りに出現する。


『縺ゅ↑縺溘?蟷ク遖。――あなた??幸?。』





「――あなたは、幸福ですか?」


セツナは、目の前で戯言をほざく、ホログラムディスプレイを殴り飛ばした。

ホログラムは彼の拳を受けると、ガラスが割れたように粉々に砕けた。


殴り飛ばした勢いのまま、そのままビルを飛び降りる。

地上のJJとダイナに合流する。


JJたちも、セツナと同様、突然周囲に湧いて出て来たホログラムを殴り飛ばしていた。

この辺りは、さすがと言ったところか、怯むことなくすぐに臨戦態勢へと切り替える。


地上では、先ほどまで彼らに無関心だった通行人が、首だけを彼らに向けて凝視している。

襲い掛かるでもなく、声を上げるでもなく、ただただ首だけこちらに向けて、凝視している。


「JJ! ダイナ!」


セツナがビルから地上に着地した。


「なんかマズい!」


ビルの前から、2人に声を掛ける。

それにダイナが答える。


「走ろう!」


3人は合流し、駆け出す。

何処に行けばよいかなんて皆目見当も付かないが、ここに居ても埒が明かない。


車道の車をすり抜けながら3人は走っていく。

彼らの前に、空から落下物。


セキュリティ用のバトルロボットを積んだポッドが降ってきた。

ポッドは全部で3つ。


ポッドの中から、それぞれロボットが4体でてきて、手に持った銃で3人を攻撃する。


合計12体のロボットによる、アサルトライフルの掃射。

回避行動を取るも、3人は完全には回避できない。

テレポートが使えない弊害が出ている。


銃弾は、彼らの身体を通り抜け、貫通し、穿って傷をつけた。

ロボットの攻撃は、こちらに命中する。


敵の攻撃が命中するならば、こちらの攻撃も命中するはず。


JJが、火薬銃を取り出す。

そして、スキル発動 ≪飛燕衝≫ 。


火薬銃の飛燕衝は、3点バースト攻撃を行う。

銃口から3連射で放たれた花火の散弾が、横列に構えるロボットに打撃を与える。


ダイナは、カイトシールドを右手で構える。

彼女の背中にセツナが走り込んで、盾に一緒に守ってもらう。


「いくよ、セツナ。」


ダイナからの合図と同時に、左手で魔法の杖が振るわれる。

スキル発動 ≪マジックサイクロン≫ 。


2人の背中に、竜巻が発生する。

竜巻が追い風となり、2人の前進する力を強める。


セツナが、右手に太陽を宿す。

宿した太陽は、即座に手の平に封じ込められる。


Zキャンセル。スキル ≪炎撃掌≫ をキャンセル。


そして、2人はスキル発動 ≪ブレイズキック≫ 。

風の力を、炎の力で更に増強。


一気に、ロボットたちに詰め寄る。

詰め寄り、跳躍。


地面との摩擦が無くなり、2人の速度は更に加速する。

アサルトライフルの弾幕を飛び越えて、上から襲い掛かる。


こちらに照準を合わせ直すロボットたちに、燃え盛る太陽と、凍てつく氷槍が降りかかり――、直撃する寸前。

その姿が、世界から掻き消えた。


ロボットたちの前から、3人は姿を消す。


そこに、最初から何も無かったかのように。

まるで夢でも、見ていたかのように。

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