4.11_前線基地
前線基地の防衛を賭けた戦いは、幕を閉じた。
ダイナが、主力火器のソードオフショットガンを手に取る。
戦闘で消費した弾丸をリロードする。
中折れ式のショットガンに給弾を行う、アロフツローディングツール。
銃身の横に取り付けれたそれの、給弾用チャンバーを横にスライドさせて、ローディングマガジンに弾を送り込む。
タクティカルベルトに装備したショットシェルストックから、4発の弾を右手で掴む。
2本2列に並んだショットシェルを、中指と薬指で摘んで、手の平と指で包むようにシェルを握る。
それを、ローディングマガジンの装填口に入れ込んでいく。
親指でシェルを押し込むようにして2発ずつ、押し込んでいく。
2本2列に並んだショットシェルを、2発ずつ2回に分けて装填。
合計4発をマガジンに送り込む、この装填の仕方を、クアッドリロードという。
クアッドリロードは、一度に大量のシェルをリロードできるだけでなく、この方法は何よりも‥‥、リロードのアクションに華がある。
ショットガンの装填は普通、1発ずつ装填を行ったり、スピードローダーという道具を使ってリロードするのが一般的だ。
扱いに慣れた者であれば、2発ずつ装填することもある。
複数発を同時にリロードできると、リロードにかかる時間が短縮されるだけでなく、銃の扱いに小慣れている感を出すことができる。
映画であれば、その銃を握る者の腕前を、アクションで示すことができるし、登場人物の設定に説得力を持たせることもできる。
これは、一般ガンマンであっても同じだ。
テクニカルなリロードアクションは、周りにデキる奴アピールをすることができるし、銃を用いる戦いに「特別感」が演出される。
クアッドリロードは、そんな特別感の最上級。
実用性・見栄え・自己満足感、どれも高い水準で満たしたリロード方法。
ショットガンを担いだことがあるガンマンならば、誰しも憧れ、挑戦したことがあるリロード方法なのだ!
非常にマニアックな話しとなるが、レバーアクションショットガンは、マガジンと装填口の位置の関係上、クアッドリロードが難しい。
ポンプ式ショットガンや、セミオートショットガンと異なり、銃の上から銃の下にあるマガジンに向けて弾の装填を行うため、装填口からマガジンまでの距離が長く、親指で弾をマガジンまで押し込めないからだ。
つまり、スピンコックとクアッドリロードは、銃の構造上、両立し得ない。
――だからこその、アロフツローディングツールなのだ。
このローディングツールは、マガジンが銃の横に取り付けられているため、弾を親指で問題なく押し込むことができる。
後は、中折れ式ショットガンをコッキングレバーで作動させる仕組みを設ければ、スピンコックとクアッドリロードが両立できる銃の完成。
現実では、動作の安定性という観点から、こんな銃が製造されることは、まず無い。
だが、ここは電脳の世界。
この世界では、「リアル」よりも、「リアリティ」こそが宇宙を支配しているのだ。
だからこそ、中折れ式・レバーアクションショットガンという、ガンマニアが聞いたら卒倒しそうな構造の銃であっても、平気で存在している。
現実では叶わない願望にこそ、電脳の役割はある。
ただし、実用性とカッコ良さを兼ね備えたクアッドリロードも、多様は禁物。
このリロードをやってはいけないタイミングが、コンバットシーンでは明確に存在する。
それは、物陰に隠れた敵を警戒する場面。
クアッドリロードは、銃を構えたまま行うことができない。
反対に、単発リロードは、銃を構えたまま行うことができる。
そのため、リロード中に敵が物陰から飛び出して来ても即座に対応できる。
クアッドリロードは、構えを解く必要があるため、こうはいかない。
リロードに限らず、コンバットシーンのあらゆる技術とは、できて半人前、使い分けて一人前なのだ。
ダイナは、その点を抜かることは無い。
‥‥せっかく練習して習得したのだから、隙あらば使いたいという気持ちもちょっぴりあるけれど。
JJは、ダイナがリロードしている所を見て、やっと奇天烈な銃の形状に合点が行く。
「ずいぶん‥‥、面白そうな銃だな。」
「ふふ~ん、カッコイイでしょう。」
そう言いつつ、ダイナはローディングツールの、装弾チャンバーと呼ばれる部位にもショットシェルを1発装填した。
マガジンに装填されたシェルは、マガジンから給弾チャンバー、給弾チャンバーから銃の薬室という流れで装填される。
マガジンに込められたシェルを、給弾チャンバーがマガジンと薬室を行き来することで、次の弾を装填できる仕組みになっている。
ショットガンの装弾数は、合計6発。
薬室に1発、給弾チャンバーに1発、マガジンに4発。
先の戦いでは、弾を5発消費したので、マガジンも給弾チャンバーも空になっている。
クアッドリロードでマガジンを満タンにし、給弾チャンバーにも1発装填して、これでフル装填。
リロードがややこしいが、レバーアクションとクアッドリロードが両立できるのならば、これくらい訳ない。
むしろ、この手間暇さえも、愛おしいとさえ思う。
語るのも野暮だが、ロマンとは、つまりはそういうことだ。
リロードを終えたダイナが、シェルストックからシェルを4発摘んで、JJに見せる。
「クアッドリロード、けっこう練習したんだ。」
「難しいもんな、それ。」
JJは、スポーツとロマンをこよなく愛するタフガイ。
当然、クアッドリロードは履修済み。
だが、1時間くらい練習しても、とても実用に耐えうる水準までリロードの練度は高くならなかった。
実戦でクアッドリロードをする自分のイメージが湧かずに、現在は保留中だ。
それゆえに、スムーズにクアッドリロードをするダイナの凄さが、実感として理解できていた。
「クアッドリロードはね、手が小っちゃい方がしやすいかも。
手が大きいと、装填する時に小指がつっかえちゃうんだよね~。」
「あぁ、なるほど。」
そう言って、ダイナが銃をしまって、左の手の平をJJに向けて見せる。
JJが、その手の平に自分の右手を合わせる。
手と手を合わせて、互いの手の大きさを比べる。
小柄なダイナと、大柄なJJで、手の大きさは歴然。
関節ひとつ分は大きさが違う。
ダイナがニコリと笑みを浮かべる。
「小さいのも、たまには役に立つんだよ?」
「なるほど、それは興味深いな。」
他にも、体格の差が得手不得手を分けるアクションがあるかも知れない。
そう言えば‥‥。
「セツナが言うには、学生の大会に出場するようなダンサーは、小柄な人が多いとか言ってたな。」
「へぇー、そうなんだ。腕とか脚が長い方が、見栄え良さそうなのにね。」
「確かに。見栄えは良さそうだが、素早いステップとかが難しいんじゃないか?」
アクロバティックな動きは、手足が短い方がやり易いのかも知れない。
「じゃあ、ボクも練習すれば、セツナみたいに戦えちゃう?」
そう言って、左右にリズムを取って、アイドルステップを踏むダイナ。
「‥‥そうだな、何でも練習てみないと分からないからな。
何でもやってみるんもんだ。挑戦を評価できる人間になりたいよな。」
「ああ! その言い方は、ムリだと思ってるな~!」
「俺には無理だった。敵に背中を見せたり、敵の前で寝転ぶとか、考えられん!」
E-REXと骨竜との連戦を終えて、ほっと一息。
戦闘後の、ほのぼの一幕であった。
‥‥‥‥。
‥‥。
「――ポツ~ン。」
JJとダイナが談笑をする最中、赤茶けた荒野に1人、置いてけぼりなセツナであった。
彼を笑う者も、茶化す者も無し。
マルすら何も言わないッ!
「寂しいッ!」
風が土埃を巻き上げて、彼の履いているスニーカーに土を付けていく。
◆
前線基地の防衛は、3人の加勢もあり、大きな被害を出すことなく乗り切ることができた。
セツナたちを運んで来た輸送機も、前線基地内に着陸。
輸送機は基地内で補給と点検を受け、オペレーターのアリサは、先遣隊の持ち帰った情報を確認。
エンジニアのブレッドは、先遣隊のために買い込んで来た、夜が楽しくなる差し入れを一通り配ったあと、前線基地のリーダーを務めているジャッカルと合流して、アリサと今後の計画を詰めている。
アリサとブレッド、そしてジャッカル。
支援部隊の人員が調査計画を立てる中、調査の現場部隊となるセツナたちは、束の間の休息を取っていた。
セツナから、基地の中央で合流しようという連絡があったため、JJとダイナは基地の中央に移動する。
外敵迎撃用のドローンに掴まって、基地の外から中央まで空の便で移動した。
基地の大きさは、想像よりも大きかった。
前哨基地というよりは、砦や要塞のスケールと施設の充実ぶりだ。
魔法と魔法界のおかげで、エネルギーと資源は潤沢なのであろう。
それに、物資を運ぶだけならば、多少強引な輸送手段でも問題ない。
この世界ならば、貨物コンテナをミサイルに括りつけて、大陸間輸送していても不思議では無い。
どういうカラクリからは分からないが、前線基地は大量搬入・大規模建築によって、短期間で立派な前線基地が建てられていた。
なんでも、この拠点は、夢の跡地の調査だけでなく、オーストラリア大陸の生態調査の拠点としても利用するらしい。
楽園崩壊から長らく、オーストラリア大陸は人の住まない土地となっていた。
魔力の影響で気象と生態が変わり、大陸にはE-REXのような獰猛な動物が、我が物顔で跋扈している。
彼らと生存競争をして渡り合うためには、セントラルの技術力と潤沢な資源、そして優れた戦士の存在が不可欠。
人の手を長らく離れていた大陸に、人類は再び、足を踏み入れたのだ。
人類が絶滅に瀕し、空白と暗黒が広がる世界地図が、書き直されようとしている。
それを、研究者や科学者たちが黙って見ている訳が無い。
そのような理由もあり、この基地は多目的拠点として設計・建築がされているのだ。
CCC支部の局長であるディフィニラは、研究者たちと拠点設計のすり合わせに、ずいぶんと気を揉んだらしい。
武官と科学者では、やはり価値観が大きく異なる。
資源は潤沢であっても、時間と労働力は有限だ。
ディフィニラが、まずはロボットを現地に送り下調べを行うと言えば、科学者は、画像や映像は当てにならんと言って、自分たちが真っ先に現地に行くと志願する。
科学者が、基地を建てる場所の地盤が緩いから、別の所にした方が良いと助言すると、ディフィニラは戦略と補給路の関係上、地盤改良をしてでもここが良いと言い張る。
――議論というよりは、殴り合い。
そのような経緯を経て、この前線基地は建てられたらしい。
どんな分野でも、どんな仕事でも、段取りが8割。
CCC支部と科学者で、しっかり念入りに殴り合った結果、基地の建設はトントン拍子に進んだ。
建築に携わった建設部隊が言うには、「トントン拍子すぎて、面白みに欠ける」とのことだった。
職人というのは得てして、逆境でこそ燃える生き物である。
「不可能」とか、「普通は無理」とか、そういうシチュエーションが大好きな生き物なのだ。
しかし、今回はクライアントが優秀過ぎて、自分たちの創造力を発揮する余地が無かったと、そうごちていた。
兎にも角にも、この基地の建設と利用には、研究職の人間を関わっている。
そういうことだ。
このことは、ディフィニラにとっても都合が良い。
‥‥大きな声では言えないが。
基地をドローンに掴まって空から一望。
基地の中心には、緑園が広がっていた。
何でも、科学者たちがフィールドワークで持ち帰った、植物や生物を観察するために設けられた設備であるらしい。
赤茶けた大地が広がる、砂と埃っぽい土地において、ここはオアシスのようにも感じる。
セツナたちが調査する夢の跡地は、その周囲が深い森林で覆われており、そこがE-REXなどの主だった棲み処になっているとのことだ。
「2人とも、こっちこっち!」
緑園を歩くJJとダイナを、セツナが見つけて手を振る。
ワイルドフラワーという、様々な野草が植えられて、背の低い草原となっている場所に、セツナは居た。
草原に腰を下ろしている彼の周りに、動物がたくさん寄り集まっている。
その中の1匹を両腕で抱えて、近づいて来た2人に見せる。
「ほら! クオッカ!」
セツナの手に中には、にっこりと笑みを浮かべる、ネズミ? のような動物が居る。
動物博士いわく、クオッカという動物らしい。
「クオッカはね、世界一幸せな動物って言われているんだ。」
そう言って、クオッカをダイナに手渡した。
ダイナが両手でクオッカを抱えると、彼女の足元に、別のクオッカも集まってくる。
「わぁ~、かわいい!」
ダイナの頬が緩む。
クオッカは、クオッカワラビーといって、カンガルーの仲間。
体長が60センチ、体重が3kgほどで、大きなネズミのような外見をしているが、れっきとしたカンガルーで有袋類だ。
ネズミみたいな顔に見えるのは、発達した顎の筋肉が理由。
そして、この引き締まった顎の関係で、口角が上がっているように見え、それがまるで笑っているような表情を作り出している。
彼らの生息地は、オーストラリアの南西沿岸、ロットネスト島。
今、セツナたちが居る場所は、西の内陸なので本来の棲み処からは離れている。
恐らくだが、夢の跡地で飼われていた個体が、一部野生化したのかも知れない。
E-REXのような、恐竜に先祖返りした種がうろつく厄災後のオーストラリア大陸において、生態系は二極化が起こっている。
つまり、体を大きくし、E-REXたちに対抗するための力を付けようとする生存戦略。
それとは逆に、体を小さく、物陰に隠れることに特化し、E-REXのような捕食者から逃れる生存戦略。
クオッカは、恐らく後者の生存戦略によって、この人間すら住めなくなった大陸で生き残って来たのであろう。
そう、蘊蓄を語りたくなるが、やめておく。
知識を求められた時、必要な分だけ使う。それが知性だ。
過ぎ足るは何とやらで、言い過ぎては、品性を損なう。
いまはただ、この愛らしい動物に癒されていれば良い!
人間同士が友達になるために、互いが互いに、心理学を用いたプロファイリングをするだろうか?
しないであろう。
動物と触れ合う時は、やってはいけないことだけ頭に入れておいて、あとは互いの距離感を守る方が大切なのだ。
その点、クオッカは人間との距離感が非常に近い。
ペンギンと同じく、好奇心が強い動物なので、人馴れしやすく懐きやすい。
「えへへ~、しあわせ~。」
頬を緩めて、ひたすらにクオッカを撫でまわすダイナ。
さすが、ストレス軽減効果を科学的に証明された動物。
愛らしい表情と、人を怖がらない性格で、ダイナを虜にしてしまった。
笑顔のクオッカとダイナを見て、うんうんと頷くセツナ。
その横で、困ったような声色でJJがセツナに話し掛ける。
「あぁ‥‥、動物先生。この方はどなた?」
そう言って、自分の足元に視線を落とす。
そこには、ずんぐりむっくりした、大きさ1メートルくらいのネズミのような動物が居る。
JJの片足にすり寄って、前足を使って彼の脚に抱きついて、顔をスリスリしている。
「その方は、ウォンバットだね。クオッカもそうだけど、カンガルーと同じで有袋類だよ。」
「有袋類――。確かコアラも有袋類だったよな?」
「うん。オーストラリアは、有袋類大国だね。」
「なるほど。‥‥で、なんでウォンバットは、俺に抱きついてるの?」
「抱っこして欲しいんじゃない? 人馴れしているウォンバットは、抱っこされると寿命が延びるなんて逸話があるらしいし。」
「ほうほう。」
セツナの話しを聞いて、JJはその場に座り込み、胡坐をかく。
ウォンバットは、それを認めるや否や、彼の膝に飛び込んだ。
片方の膝に頭を乗せ、膝を添うように体を乗せて、抱っこポジションと撫で撫でポジションを確保する。
「おぉ、けっこう重たいな。」
そう言いながら、撫で撫でを催促する、ウォンバットの頭を撫でた。
ウォンバットの体重は、約25kgほど。
体長1メートルで、体重が25kg。
人間基準で考えると、大きさに対してかなり重たく感じるだろう。
人間の身長1メートルは、4歳児くらいの高さで、その頃の体重は15kgほど。
子どもを抱っこする感覚でウォンバットを抱っこしようとすると、大変なことになる。
可愛さに心を奪われて、喜び勇んで両腕で抱えようとすると、腰をいわす。
運動不足が気になる方も、運動盛りの方も、いずれにしても注意が必要だ。
ウォンバットは、JJに撫でられて、恍惚の表情を浮かべる。
その表情は、まるで温泉に浸かってるカビバラのよう。
――極楽、極楽。
そうやって、撫で撫でを喜んでもらうと、撫でているこちらまで嬉しくなってしまう。
当初は、片手で頭を撫でるだけであったのが、体を撫でるようになり、両手で全身を撫でるようになる。
頭・喉・背中・お腹。
ウォンバットのリアクションを頼りに、撫でる部位に合わせて力加減を調整する。
JJ、武人というだけあって、合気の所作があらゆるところに染み付いている。
彼の動物を思う気遣いに、セツナはうんうんと頷く。
全身を撫でまわすJJの手が、ウォンバットの頭から背中、背中からお尻に触れた。
‥‥‥‥これは!?
「固っっった!?」
ゴワゴワした体毛の奥に、石のような皮膚が、ウォンバットのお尻には合った。
明らかに、他の部位とは手触りが異なる。
いきなりのことでビックリしてしまった。
子どもクオッカに遊ばれているセツナの方を見て、解説を求める。
「ウォンバットは、外敵から身を守るために、お尻が固いんだよね。
なんでも、そのヒップアタックは、外敵の頭蓋骨を砕くこともあるらしいよ。」
「怖っっっわ!?」
そういうのは、もっと早く教えて欲しい。
「あ~、ゴメン。先に教えた方が良かったかな?」
「いや、問題ない。変に警戒して強張ると、ウォンバットも遠慮するかもだからな。」
「そう言ってくれると、助かるよ。」
ここは電脳の世界。
電脳の身体はダメージこそ受けるが、怪我はしない。
なら、下手に警戒するよりも、人間と仲良くしようとしてくれている彼らの好意にしっかりと答えるべきだろう。
そう思い、膝の上でうっとりとしている、人類の隣人を撫でるのであった。
3人は、存分にモフモフを堪能し、癒された。
アニマルセラピー。健常者にもストレス軽減の効果あり。
緑園の一角に座り込む3人と数匹。
時間がゆっくりと流れて、彼らの周りが、ゆっくりと曇った。
‥‥乾燥地帯に雲?
そうやって、疑問に思う前、動物たちが3人の傍から離れていく。
動物たちの動きに違和感を覚えた3人は、互いに顔を見合わせてから、空を見上げた。
雲の正体は――、曇りの正体は、大きな大きな哺乳類であった。
ディプロトドン。
体長4メートル、体重4トン。
ウォンバットの祖先とされる、大型の哺乳類。
年代にして、白亜紀を生きたティラノサウルスと同期くらいの種である。
エージェントと動物たちの交流。
それをを聞きつけて、彼はお昼寝を中断して、ここまでやって来た。
3人の前で立ち上がり、両手を上に向けてバンザイの姿勢をしている。
体長4メートル、体重4トンのバンザイは――、迫力満点。
(((もしかして‥‥。)))
なんだか、オチが分かった気がする。
そう思った頃には、ディプロトドンは次の行動に移っていた。
ゆっくり、ゆ~っくりと、3人の方に向かって倒れてくる。
――ディプロトドン、彼は生粋の甘えん坊だった。
哺乳類の用心棒として楽園の森で生きて来た彼は、仲間たちと共に、この緑園の厄介になることにした。
外敵に襲われる危険から解放されると、なんだか気が抜けて、そこから生来の甘えん坊が爆発。
クオッカやウォンバットの用心棒から一変、甘えん坊にクラスチェンジを果たしたのだ。
彼もまた、抱っこ大好き。
みんなばっかり抱っこしてもらって、ズルい!
バンザイの姿勢を保ったまま、倒れ込むディプロトドン。
それに対して、JJとダイナは口をポカ~ンと開けて、困り笑顔。
「よし来い!」
セツナは、自分も両手を上に広げて、抱っこポジションを作った。
‥‥‥‥。
ゆっくりと、のんびりした風が、緑園のワイルドフラワーを撫でて、緑園に様々な色を多分に含んだ悲鳴が木霊した。
 




