4.10_マーチ・オブ・ザ・ティラノサウルス
白亜の時代を生きた生物、ティラノサウルス。
その化石が、魔法の力で復活。
骨竜は、骨の姿を魔法で巧みに操り、エージェントと相対する。
◆
揺ら揺らと、頭と尻尾を失った骨竜がJJに近づく。
火薬鎚を構え、出方を窺う。
骨竜の動きを観察。
首の無い胴体、大きな脚。
JJの足元に転がっている頭蓋骨、そこら中にバラ撒かれた尻尾の骨。
‥‥‥‥。
――違和感。
(待て!? 腕は何処に行った?)
突如、地中から白い爪が伸びた。
2本爪を持つ骨竜の前足(両腕)が、JJの両足の足首を捉えた。
状態異常:拘束。
気付くのが遅かった。
骨竜は、JJが空を飛んでいた間に、自身の両腕を地中に潜ませていたのだ。
地に足を付けて戦っていたのならまだしも、空を飛んでいる間に、骨のパーツひとつひとつに意識を巡らせるなど、流石のJJでも不可能だ。
骨竜のように、骨の体を持つ、いわゆるアンデッド系のモンスターとの戦いには経験がある。
けれども、デカい図体のクセして、ここまで徹底した小技を用いてくる敵は始めてだ。
そこはかとない、この世界の悪意を感じる。
全体的に大味だったE-REXと戦わせた後、間髪を置かずに、小技を多用する大型の敵と戦わせる。
無意識のうちに、身体が大味な敵と戦う姿勢になっていた。
そこの、意識の死角を突かれた。
竜の頭蓋骨が、カタカタと笑う。
宙に浮きあがり、JJに突進をする。
流石に、脚の自由を奪われても、その突進は通らない。
素早く火薬鎚の撃鉄を、肩に擦って起こし、鎚を振るって笑う頭蓋骨を、爆炎と爆音で黙らせた。
拘束状態は解けていない。
動けないJJに、骨竜本体の追撃。
竜の胸を形作っている、肋骨がガバリと開いた。
胸を反らし、空に向かって、肋骨を爪のように伸ばす。
伸ばす、というのは、比喩では無い。
本当に、肋骨が伸びている。
骨竜が、何を目論んでいるのかは一目瞭然。
凶器と化した肋骨で、動けないJJを肉薄する魂胆だ。
それをJJも、瞬時に理解する。
(ただでは、食らわん!)
拘束状態では、武器の切り替えはできない。
だが、火薬に火を点けることは出来る。
左手を強く握り込む。
ブースター、オン。
蒼い火炎が噴き上がり、ロケットブースターが始動。
拘束されたままのJJを、無理矢理、前へと動かす。
――鈍い。
骨の腕力に抑え込まれて、スピードが乗らない。
自転車ほどもスピードが出ていない。
鈍い足取りの中、肩に火薬鎚をぶつけて撃鉄を起こす。
それでも、近づけた。
この状況では、被弾は避けられない。
ならば、少しでもダメージを稼ぐ。
骨竜の、胸から伸びた爪がJJに襲い掛かる。
それに合わせて、JJも火薬鎚を地面に向けて振り下ろした。
「飛燕刃。」
スキル ≪飛燕刃≫ が発動。
火薬鎚の飛燕刃は、地面に鎚を叩きつけて、目の前に火柱を起こす技。
火薬が、武器に魔法を掛ける。
火薬鎚に掛けられた魔法が、大地を揺らし、爆炎を大地から噴き上げた。
火柱は、迂闊に接近した骨竜の胸を焼く。
胸の凶爪は止まらないが、最低限のダメージは与えた。
後は、骨竜の攻撃に備える。
火薬鎚による、大振りな攻撃をした後のJJに、今はもう出来ることは何も無い。
攻撃を受けた後、受け身をしっかりと取って、最小の被害で立て直すことに意識を切り替える。
胸から伸びた爪が、火薬の火柱なぞ歯牙にもかけず、JJを左右から挟み込んで来る。
『「魔導異書ダークボール!」』
骨竜の周囲に、黒い星空が広がった。
JJを見下ろす竜を、さらに見下ろすように、無数の黒い球体が出現する。
球体は、横に長い骨竜の体を覆うように現れて、黒い星の川を作り――、爆ぜた。
黒い光が、白昼青天の光を吸収。
あたりに、夕暮れの帳が下りた。
スキル ≪魔導異書ダークボール≫ のAG版。
より広域に黒星を展開する、夕暮れの禁忌が骨竜を捉えた。
さらに、夕暮れの中を、巨大な太陽が天球を真横に突っ切る。
スキル ≪魔導書フレアボール≫ 。
ダークボールよりも先に放たれていた巨大な火球が、夕暮れに追いついた。
夕暮れの帳を横切り、骨竜の隙間だらけの胸部に激突する。
真っ赤な火球が、夕暮れの帳に当てられて、橙色になって天球をなぞり、骨竜に直撃して周囲を茜模様に変えた。
怒涛の連続魔法に、さしもの骨竜も怯む。
JJを狙った凶爪は、ふらついて狙いがズレ、右胸から生えた爪が数本、JJを穿つに留まった。
巨体が怯んだことに連動して、足元の拘束も緩くなる。
‥‥手傷を負ったが、攻撃の好機!
左拳を握り込む。
ブースター、オン。
「飛燕衝。」
スキル ≪飛燕衝≫ が発動。
火薬籠手の飛燕衝は、火薬の力を前方に撃ち出す遠距離攻撃。
蒼い火炎が手の平に収束し、蒼い球体となって放たれた。
斜め上に放たれた蒼い火薬は、骨竜の背骨に直撃し、爆発する。
度重なるダメージに、骨竜は苛立ち、足を上げて所構わず地団駄を踏む。
「JJ! そのままじっとしてて!」
ダイナの声が、JJの背後から聞こえる。
彼女は、迎撃用ドローンに、マジックワイヤーでぶら下がってここまで来た。
走るよりも、こっちの方が断然、速いし早い。
空中で魔法を唱えた後、JJの背後に着地。
彼の背中をマジックワイヤーで掴んだ。
JJの身体が、骨の集中豪雨が降り注ぐ危険地帯から離れていく。
同じくJJは、ダイナに引っ張られている間にリロード。
火薬鎚を収納。
火薬籠手のロケットシェルをイジェクトして、2発のロケットシェルを新たに装填した。
「サンキュー、助かった。」
「こちらこそ、ご招待ありがと♪」
話しながら、火薬鎚を呼び出して、こちらの装填も手早く済ませる。
「楽しそうな相手と戦ってるじゃん。」
「気を付けろ。見た目に反して、小手先が利く。」
火薬鎚の末端、柄のエンド部分に手の平を押し当てて押し込み、シリンダーをイジェクト。
新たなシリンダーを差し込んで、リロード。
これで残弾が、籠手に2発、武器に6発。
ダイナとJJが、短くやり取りを交わす。
「回復は要る?」
「まだ大丈夫。」
「OK。」
骨竜の方も、態勢を立て直した。
周囲に散乱していた尻尾の骨が浮き上がる。
人の顔くらいある物から、小さい物まで、揃い揃って宙に浮かび上がる。
それから、地団駄を踏んでいた胴体部分は、ゆっくりと巨体を地面に寝かせた。
地面にうつ伏せになり、胸の骨が地面に撃ち込まれる。
彼奴が何を仕掛けてくるのか、2人とも見当が付き、それぞれ武器を持ち換える。
骨竜は、尻尾の骨を使った空中攻撃、肋骨を使った地中からの攻撃。
この、2方面からの波状攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。
JJは、火薬刀を取り出した。
鞘は呼び出さずに、抜き身の刀を正眼に構える。
ダイナは、左手に主力火器のソードオフショットガンを取り出し、右手にカイトシールドを召喚する。
スキル ≪魔女の七つ道具≫ 。
このスキルは、剣・槍・盾の、3つの武器を召喚して扱うことができる。
胸をすっぽりと覆えるほどのカイトシールドを前に構えて、攻撃に備える。
‥‥‥‥。
地面に寝そべった骨竜が、コツコツと鳴いた。
空から、骨の雨が降り注ぐ。
骨の雨は、迷わず2人狙い、魔力の力と落下の力を併せて襲い掛かる。
JJは、半身の状態を維持。
被弾面積を小さくする。
基本は体捌きで骨の雨をやり過ごす。
正眼の構え――、中段構えは守りに適した構え。
刀で自分の上半身が守られる形となり、相手の攻撃を安定して受けることができる。
斜めから降り注ぐ骨を、視覚情報と、第七感を頼りに軌道を読み、対応していく。
受けずに躱せるに越したことは無い。
大きな骨を下手に受ければ、重さで姿勢が崩される可能性が充分にある。
火薬武器を使ったアクションとは一転。
日本武術の、静かな動きで、骨を捌いていく。
背後から降り注ぐ攻撃を、横に避けるのではなく、前に脚を運んで避ける。
前に進みながら、転身。
身体を180度、反転させる。
振りかえると、二撃目が空から降って来ていた。
それに、刀の切っ先を軽く当てることで、攻撃をいなす。
切っ先が骨塊を受けて、左側に逸れていく。
それに合わせて、身体も左へと運ぶ。
剣身一体、刀と身体は常に同じ方向へ運ぶ。
日本刀の重心は、切っ先の方にある。
よって、切っ先を叩かれると、剣先がブレやすい。
それを、剣身一体の理合いでコントロールするのだ。
日本刀の持つ切れ味は、中華包丁に似ている。
武器としての性質が、中華包丁のように、重い刀身で叩き斬るという思想を持っているのだ。
西洋の戦士とは異なり、盾を持たぬ侍にとって、刀は武器であり防具である。
故に重く、丈夫に拵えられている。
その重さを存分に扱うためには、身体全身を使って刀を扱うという、剣身一体の理合いが欠かせない。
骨の土砂降りにあっても、湖の水面は静かであらねばならない。
常に刀の中に身を潜め、刀ではなく、身体を動かして攻撃を捌く。
剣先の動きを、身体の操法と足の歩法で導くのだ。
日頃の稽古で練られた武功は、彼を守る鎧となり、JJの身体や服の袖を、骨の雨が濡らすことは無かった。
‥‥‥‥。
視点は変わって、ダイナの方。
彼女には、身を守る盾がある。
カイトシールドを斜め上に構えて、雨宿りをしていた。
本来、カイトシールドは、馬上で弓矢を防ぐために使われていた盾。
なので、今この状況、このような上からの攻撃を防ぐのは十八番であり、本文である。
本来のカイトシールドは、上半身と下半身を守れるほど大きいのだが、ダイナの握るそれは、歩兵戦闘用なので小さめな作りとなっている。
走る時の邪魔にならないように、本来のサイズよりも小さいが、ダイナ自身も小柄なので特に問題は無い。
骨と金属の盾がぶつかり、金属板一枚を挟んで、頭上で甲高い音を立てている。
これは、当たったら痛そうだ。
第七感に反応。
電脳野が、この世界に充満する魔力の動きを感知し、それを触覚に変換して危機の接近を知らせる。
ダイナは地面の下、地中で見えていないはずの、骨竜が放った肋骨の攻撃を知覚する。
盾を構えつつ、2歩、後ろに下がった。
彼女が居た場所に、2本の白い竹が伸びた。
竹の先端は、爪のように尖っており、成長速度も相まって、殺傷能力を有している。
足元から伸びてくる肋骨を、走ってやり過ごす。
――前方の地中から魔力の気配。
下から、斜め上に突き上げる攻撃。
上に構えた盾を下げて、胸を守る。
白い爪が、瞬く間に伸びて来て、盾の中心を引っ搔いた。
同時に、頭上から骨の雨粒が降って来る。
白い爪には力が込められており、ダイナの身体を後ろへと押している。
盾の構えは解けない。
解いたら串刺しだ。
左手のショットガンを構える。
宙から落ちてくる骨塊に向けて、散弾を放った。
バレルとストックを、ノコギリで切り落とした(sawed off)、片手で取り回すことができるショットガン。
その銃口から散弾が放たれ、骨塊を弾き飛ばした。
ショットガンに次弾を装填。
この銃は、アロフツローディング・レバーアクション・ショットガン。
中折れ式の単発銃の側面に、特殊なローディングツールを取り付けて、レバーアクションライフルのようにレバーを引いて次弾の装填を行うショットガン。
銃の持つ、武器としての機能美や合理性。
それらを全てかなぐり捨てた、ファンタジーショットガン。
ダイナが、手元でショットガンを回転させる。
レバーに通した左手を中心に、銃が縦に一回転する。
レバーが引かれることで、銃の基部とバレルを固定しているロックが外れ、銃が2つに折れる。
チャンバー内から、薬莢が押し出されてイジェクトされる。
すると、バレルの横に取り付けれらた外付けのマガジンから、次弾がチャンバーに装填される。
手元で一回転した銃を握り直すと、慣性の力で2つに折れた銃がまたひとつになる。
スピンコック。この銃は、中折れ式のショットガンでスピンコックが出来る。
まさに、変則的でファンタジーなショットガンなのだ。
ダイナに目掛けて、竜の頭蓋骨が襲い掛かって来た。
彼女の身長ほどある頭蓋骨が、地面の砂を飲み込みながら突進してくる。
銃を構えて射撃。
銃から散弾が吐き出されるも、巨大な頭部は気にせずに大地を飲みながら泳いでくる。
頭蓋骨が目前に迫り、食らいつこうと口を開ける。
バックステップ、噛みつきを後ろに躱す。
そのまま、口を閉じた頭部を盾で受け止める。
分かってはいたが、力負けしている。
ズルズルと、後ろへと身体が押し込まれていく。
もし、バランスを崩し、転倒でもしようものなら、強靭な顎の餌食となってしまう。
ティラノサウルスの咬合筋の強さは、6トンとも言われている。
自動車をペシャンコにスクラップにできるほどの力がある。
骨だけの体とは言えども、噛みつかれたらタダでは済まないだろう。
だがしかし、今の状況は好機でもある。
この距離ならば、どんな攻撃も外さない。
この世界では、前に出られる者が偉く、強いのだ。
魔女の戦闘教本には、そう書かれている。
ダイナの左目が紫色になる。
瞳から血のような涙が零れ、生命力が体外に零れて抜き取られる。
スキル ≪魔導異書カースマイン≫ 。
呪いを頭蓋骨に撃ち込んだ。
左手のショットガンをスピンコック。
手の中で銃身が一回転して、次弾が装填される。
銃口を盾の上に乗せ、それを、竜の鼻っ柱に押し付ける。
――射撃。
正真正銘、ゼロ距離射撃をくらった竜の頭は、気勢が削がれた。
鼻を左右に揺らし、速度が落ちていく。
スキル ≪ブレイズキック≫ を発動。
青白い炎が足元に発生し、身体を前に進めようとする力が発生する。
魔力を纏った足が、土煙を焦がしながら、押される力と拮抗し始める。
左手の銃を持ち直す。
銃を軽く投げて、銃口付近を握るように持ち直した。
銃とは、金属の塊である。
アサルトライフルでも3.5kgはあるし、ダイナの持つソードオフショットガンでも2kgはある。
――要するに、銃は鈍器としても使える。
ふらふらと左右に鼻を逸らす頭蓋骨の横っ面を、ショットガンで殴り飛ばした。
左から右に振るった一撃は、頭蓋骨の重心を、ダイナから見て右側へと偏らせる。
重心が右側に傾いたせいで、左側は浮足立って空間ができる。
そこに、小柄な体躯を潜り込ませる。
盾を真正面に構えて、足元の炎の推進力を盾に乗せる。
シールドバッシュ!
横転しそうになっている頭蓋骨の顎に、シールドバッシュを叩き込んだ。
盾で突進し、オマケとばかりにもう一発、盾の側面を使って殴りつけた。
盾の連撃で、頭蓋骨が完全に横転して、ひっくり返った。
ひっくり返って、地面をだだ滑る頭蓋骨に、ダイナが走り込む。
右手首に付けている腕時計から、マジックワイヤーを射出。
手首の内側を向いている腕時計から、銀色の細いワイヤーが伸びる。
ワイヤーが頭蓋骨を捉えて、巻き取りが始まる。
スキルの推進力に、ワイヤーの巻き取りを追加して、さらに速度を稼ぐ。
ワイヤーを切り離し、跳躍。宙に炎の軌跡を描き、頭蓋骨に接近。
間合いを計り、速度と慣性の乗った炎の蹴りが、竜の頭を捉えた。
ダイナの左目が、紫色から黄色に変化する。
‥‥今ここに、呪いは成就した。
撃ち込まれた呪いが、青白い炎に反応して、頭蓋骨を内部から食い破って外へと放出される。
骨の隙間から、黄色いような橙色のような、茜に焼けた光が零れる。
頭蓋骨を足場にして、両足で踏み込み、バックフリップ。
宙返りをするダイナの後ろで、夕日暮れの太陽が膨張し、爆発した。
爆発し、夕暮れの呪い患いは、罹患した者を消滅させた。
骨竜の頭蓋骨を破壊。
残りは、胴体と尻尾。
件の胴体と尻尾は、ちょっと目を離した隙に、合体している。
合体して、尻尾の方をJJにむけて、飛び跳ねた。
冷静にテレポートで横に回避するJJ。
尻尾から大地に突っ込む骨竜。
地面の土が大きく宙に舞って、土柱を上げる。
ダイナは、ショットガンをスピンコック。
次弾の装填をしてから、銃を杖に持ち替えた。
魔法を唱える。
スキル、 ≪魔導書マジックサイクロン≫ 。
魔法の竜巻が、土柱と土煙を払う。
砂嵐でも起こしそうなほどに、大きく舞い上がった土と砂は風で払われて、視界がクリアになる。
‥‥しかし、そこに骨竜の姿は見えなかった。
魔力の流れを探ろうと、そうした瞬間、骨竜が地面から尻尾と背中を、ひょっこりと出す。
どうやら、頭蓋骨を無くしたので、尻尾を頭に見立てているようだ。
尻尾と背中を出し、胸骨を土に沈め、骨盤からぶら下がる脚の可動域を無視して――、脚で平泳ぎを始めた。
竜の体が、まるで地面を泳ぐように、スイスイと移動する。
その姿はまるで――。
((ネッシー?))
その姿に、とあるUMAを想起する2人。
先ほどまでの苛烈な攻撃とは一変。
悠々と大地を泳ぐ骨竜の姿に、なんだか気が抜けてしまう。
そんな2人に、地中からの攻撃。
2本の前腕が、地中から2人をそれぞれ狙う。
行動パターンを変えることで、それに意識を向けさせて、注意を逸らす。
そして、地中に両腕を忍ばせて、不意打ちをする。
骨竜の狡猾な攻げ――。
「「それは無い!」」
不意打ちは、それが搦め手であることで、初めて成立する。
搦め手は、正攻法あっての搦め手であり、不意打ちなのだ。
不意打ちばかりしていては、その効力は回数を追うたびに低下していく。
JJとダイナは、それぞれ腕の攻撃に反撃した。
JJは、待ってましたと言わんばかりに火薬鎚を振るい、内角低めの不意打ちを、青い空の彼方までかっ飛ばした。
ダイナは、盾で軌道を反らしつつ、左手の杖を銃に持ち替え、斜め上に逃げて行く腕に射撃。
散弾が命中し、動きが鈍った骨の腕をマジックワイヤーで捕まえて手繰り寄せ、タイミング良く切り離し、盾による打撃をお見舞いした。
地面に転がる骨を、右足で踏んづけて押さえつける。
銃をコッキング、照準、射撃。
骨は、腕の中腹あたりから砕けて、動かなくなった。
銃に次弾を送りつつ、視線を足元から骨竜に戻す。
銃の装弾数は、全部で6発。現在、残り1発。
骨竜は大地を泳ぎ、飛び跳ね、ダイナに向かってのしかかりをしようとしている。
ダイナの周りに、暗い影ができる。
右手の盾を、杖に持ち替える。
両手が利くという、個性 (シグネチャー)を活かし、代わる代わる武器を自在に持ち換える。
杖がダイナの生命力を奪う。
握った手を中心に、杖に葉脈のような、血管のような模様が浮かび上がる。
「JJ、フィニッシュは任せるよ。」
JJに合図を送り終えると、杖が黒い稲妻を纏う。
ダイナを覆う、黒い影が大きくなっていく。
自由落下を始めた骨竜の骨が、カタカタと鳴る。
胸部の爪が、ダイナに牙を剥く。
肋骨の一部が射出され、本体に先んじてダイナに襲い掛かった。
『「無駄だ。」』
歪んだ声で、ダイナが呟く。
その声は小さく、されどハッキリと大きく聞こえる。
瞬間、地上から黒い稲妻が、空に降り注いだ。
『「穿て。」』
スキル ≪魔導異書ブラックパイル≫ が発動。
黒い稲妻が、夕暮れの魔力が、使用者に無敵を付与する。
夕暮れの黒槍は、彼女の軌道直線状に降り注ぐ肋骨の雨を難なく掻い潜った。
雨粒程度では、この地上から落ちる雷を止められない。
雷は雨を突き抜け――、雨を降らした雲を貫いた。
骨竜が作り出した影も、雲も、夕暮れの前には明るすぎる。
明るいから、簡単に暗闇に飲まれてしまう。
黒い槍が骨竜を穿ち、ダイナはテレポート。
今度は、ダイナが骨竜の上を取る。
スキル ≪ブレイズキック≫ を発動。
ブレイズキックは、空中で使用すると下方向への慣性を発生させる。
骨竜に向けて急降下、杖を構える。
「アイスランス!」
アサルトゲージを消費して、スキル ≪魔導書アイスランス≫ を発動。
急降下しつつ、骨竜の背骨に氷の槍を突き刺した。
AG版のアイスランスは、地面に槍を突き刺し、周辺の敵をサーチして地面から鋭い氷柱で攻撃する技。
背骨に突き刺さった氷の槍が、背骨を伝って竜の体全体に霜を下ろし、凍てつかせた。
そして、体の至る所から氷の棘が生えて、体を節々を貫いていく。
様々な部位に分かれている骨の体を、アイスランスの魔法は別々の敵として認識したのだ。
ダイナが、骨竜から飛び降りる、
情け容赦の無い冷気にを前に、骨竜は骨の髄まで凍えさせて、地面に落下して大きな音を立てた。
体の一部は、氷と落下の影響で、粉々に砕けている。
しかし、それでもまだ仕留めるには至っていない。
体の氷を砕き、体の自由を取り戻そうとしている。
――が、それは叶わない。
JJが、骨竜の背骨に飛び乗る。
腕には、火薬銃を抱えている。
‥‥この火薬銃は特別性。
銃口から飛び出すのは、弾丸では無い。
この中には、大きな一本の杭が装填されている。
バレルの中を占有するほどに大きな杭は、銃口から僅かに、先端の角先を覗かせている。
EXスキル発動――。
「パイル、、、バンカー!!」
火薬銃のシリンダーが高速回転し、瞬間的に六発の火薬が炸裂した。
そのそれぞれが、いずれもバレルに収まった巨大な杭を撃ち出すためのエネルギーとして使われる。
火薬の力を潤沢に受け取った火薬杭は、銃身から飛び出し、太く分厚い背骨を紙切れのように貫通し、鋼鉄の体を地面に深々と埋めた。
骨竜によって砕かれていた氷が、再び全体を覆い始める。
彼奴の魔力が弱まり、凍結の浸食を食い止められなくなったのだ。
JJが、背骨から飛び降りて距離を置く。
骨竜は、尻尾を大きく振るい、骨を鳴らし、徐々に体が凍てつき‥‥、動かなくなった。
火薬杭が撃ち込まれた場所から、氷に亀裂が入っていく。
亀裂は体全体を駆け巡り、空に高く昇った太陽の刺激によって、粉々に砕け散った。
砕けた破片が宙に舞い、竜が力尽きた場所には、凍土が出来上がった。
前線基地に、冷えた風が吹き抜けていく――。
もうしばらく、この冷え込みは続くだろう。




