表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4章_夢の跡地

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/230

4.09_ティラノサウルス

前線基地、西側。JJが担当する防衛地点。


「ふはははははは――ッ!!」


前線基地の南側、ダイナが担当する地点が夕暮れに染まる頃、西側では高笑いが響いていた。


声の主は、もちろんJJである。

‥‥それ以外に無い。


「最強――! 最速――!」


高笑いをする、ガタイの良いスーツ姿の男が、E-REXの群れを後ろから追い越した。

自動車の速度で走る烏合の群れを、生身で最後尾から追い上げる。


「最強――! 最速――! ‥‥最強ッ!!」


特に良い言葉が思いつかなかったのか、3つの節しかないセリフが早くも重複する。

著しい知能の低下が見られるが、低下する知能に対して、身体はぐんぐんと速度を上げ、群れを追いかけ追い抜く。


「ブースター、オン!」


群れの中腹まで追い上げた所で方向転換。

左拳を強く握って、火薬武器のカラクリを作動させる。


左手に装備しているのは、火薬籠手。

これを、スキル欄に装備されている「ロケットスターター」という、アクセントスキルによって性能を強化。


※アクセントスキル:スキル欄に装備するパッシブのこと。


装填されているショットシェルの雷管を、撃鉄が叩いた。


火薬籠手から、蒼い火が噴き上がる。

吹き上がるのではなく、噴き上がる。


この蒼は、巨人の蒼。


CEのロケットブースターにも採用されている、科学と魔法の最先端技術。

「火薬術士の奇跡」と呼ばれた、変人と狂人の集団が生み出した叡智。


蒼い火柱が、地面と水平に走る。


「ぬぅぅぅん!!」


烏合の脇腹に、火薬の力を込めた左ストレートが火を吹いた。

E-REXの群れへ直角に突っ込み、蒼い火薬と拳が、烏合の衆目を蹴散らしていく。


この拳は、無敵に守られていない。

無敵なのは、気分だけである。


それでも、CEという巨人に翼を与える蒼い炎は、無敵が付与されていなくとも、巨躯の怪鳥を蹴散らして余りある。


ロケットスターターによって強化された火薬籠手は、装弾数が2発追加されて、なおかつ使用する時にロケット推進を得られるようになる。

その機動力は凄まじく、生身で時速60km以上を出すことなんて余裕綽々。


余裕の音で、馬力の違いを見せつけていく。


ロケットシェル内の火薬が尽きる。

ロケット推進を失い、両足と地面に発生する摩擦が、速度を熱エネルギーに変換していく。


烏合の川に突っ込んだものの、未だそれを渡りきるには至っていない。


左手を素早く2回握る。

すると、籠手の甲部分と前腕部分の2か所が開き、ショットシェルがイジェクトされる。


スーツの裏に縫い付けてある、シェルホルダーから2発分のシェルを取り出して装填。

手の甲部分に装填して、チャンバーを閉めた。


――9時の方向から、E-REXが接近。


火薬刀を取り出す。

レバーをコッキング。


くるりと身を翻しながら、引き金を引き、抜刀。

同時に、アサルトゲージを消費。


「飛燕刃!」


スキル ≪飛燕刃≫ が発動。

火薬刀の飛燕刃は、火薬の力を纏ったまま2回連続で攻撃する。


通常は1回目・2回目ともに、通常の抜刀攻撃よりも威力が低下するが、AG版はその威力の低下が起きなくなる。


鞘から、威力100%の爆炎と、煤けた刀が走る。

刀は、E-REXの側面を横に薙ぎ、一太刀で仕留めた。


爆炎の余力を使い、さらにくるりと身を翻す。

ポジションを調整しつつ、刀を大上段に構えて、振るう。


煤けた刀身に付着していた火薬が発火し、2度目の爆炎。

今しがた目の前を通り過ぎた、別のE-REXの背中に、唐竹割り。


1撃目と同じく、一太刀でもってこれを仕留めた。


烏合の川を渡りながら、残身。

怒涛のように聞こえる足音を聞き分けて、川の流れを読みつつ、刀を鞘に戻す。


そして――。


「ブースター、オン!」


左手の籠手が、蒼い炎を噴く。


「ぬぅぅぅん!!」


ロケットブースターが、JJを川の対岸まで連れて行った。

渡り際、目に付いたE-REXを辻斬って、蒼い炎と赤黒い爆炎を立てながら、E-REXの群れを処理していった。


決着がつくのも、時間の問題であろう。



しばし、時が流れた。


エージェント3人は、それぞれでE-REXの群れを片付けた。

対処の仕方は、三者三様。


セツナは、群れを側面から相手取る、正攻法の戦い方。

ダイナは、群れを正面から叩き潰す、強クラスにのみ許された戦い方。

JJは、群れを背後から追いかける、何かがおかしい戦い方。


最初はJJも、セツナと同様に側面から対処をしていたのである。

側面から、火薬銃でE-REXを撃って仕留める。


数の暴力に対して、面での制圧は相性が良い。

50頭はくだらない集団なのだから、適当に引き金を引けば、カモもキジも撃ち放題な状態だった。


だがしかし――。


だが、しかし、but――。

そのような、横からチクチク攻撃するような戦い方では、せっかくの良質な火薬が湿気ってしまう。


火薬が湿気っては、武器を魔法に掛けることができない。

それは、火薬術士にとっては死活問題。


そんな故あって、蒼い炎で地上を爆走しながら、E-REXを処理することにしたのである。


本来、蒼い炎の扱いは、困難とされている。

生身を、場合によっては時速100kmに迫る速度まで加速させるロケットシェルの扱いは、使い手のバランス感覚と、体幹の強さを要求される。


だが、しかし、but――。

JJは、火薬と心が通じ合ってる(?)。


心が通じ合っているからこそ、火薬の力の流れを感じ取ることができ、ロケットシェルの力強くも繊細なハートを理解できる‥‥らしい。


何を言っているのか、皆目わからないが、つまりはそういうことだ。


JJは、戦いで消費した火薬を装填する。

その表情は、とても満足気。


アクセントスキル「ロケットスターター」。

これは、可能性の香りがする!


火薬の世界に吹く、一陣の蒼い薫風(くんぷう)となるだろう。

今回の実戦で、それを確信した。


火薬術士は、立ち回り最弱のクラス。

装備しているスキルの数が少ないため、慣性に頼った機動力の確保が難しい。


その問題を、ロケットシェルは克服するだけに収まらず、他の追随を許さぬほどの速度を手に入れた。

使用感としては、連続使用できるテレポートに近い。


弾数制限があるものの、連続で高速機動ができるアドバンテージは大きい。


機動力とは、攻撃力と防御力に影響を及ぼすステータスなのだ。

進むも退くも、その主導権を得られる恩恵は、計り知れない。


今後しばらくは、この強化された火薬籠手を中心に、ビルドを考えていこう。

そう考えるJJであった。


するとそこに――。


地響き。

大地が震える。


第七感に反応。

足の裏を圧迫されるような感覚を、肌に覚える。


敵の接近、対象は地面から。

火薬籠手だけを装備して、臨戦態勢に入る。


敵が地表に現れた。

乾いた大地にヒビが入り、割れて、第七感の知覚領域を占有する敵の正体が明らかとなる。


(‥‥恐竜?)


JJの前に現れたのは、体高6メートル・体長12メートルの恐竜。

最もメジャーで、最も有名な恐竜、ティラノサウルス。


‥‥の、化石が現れた。


この地球には、魔力が充満している。

だから、骨が動くことだって、ままある。


もしかすると、目の前の動く化石は、ティラノサウルスでは無いのかも知れない。

しかし、二足歩行で大きな恐竜となると、JJはティラノサウルスくらいしか思いつかない。


セツナなら、もしかするとギガノトサウルスとか、スピノサウルスとか、別種の恐竜の判断が付くのかも知れない。

何でも、大腿骨の太さとか、頭蓋骨の形が違うらしい。


そのセツナは、残念ながらこの場には居ない。


なので、取り合えず、ティラノサウルスということにする。

そして、取り合えず、応援を呼ぶことにする。


「あ~、ダイナ。援軍を頼めるか?」

「OK。任せて、いまそっちに行く。」

「頼む。ティラノサウルスの相手は、1人じゃ荷が重い。」


‥‥‥‥。

通信越しに、疑問符が伝わってくる。


伝わってくるが、事実なのだから仕方が無い。

それよりも、戦いに集中。


目の前の骨竜が動き始める。

頭蓋骨を震わせて、カタカタと鳴き、轟々と吠える。


声帯を持たぬ骨の寄せ集めが、JJに向かって咆哮を上げた。


骨竜が、少しだけ身を屈める。

尻尾を、背中の上に持ち上げた。


筋肉も、靱帯も、皮膚も持たない骨は、本来の可動域を完全に無視して、背中の上に綺麗に並んだ。

尻尾の付け根は骨盤から離れて、宙に浮いている。


魔法がある世界では、何でもありである。


尻尾の先端がJJを捉える。

尻尾を構成する骨がカタカタと鳴いて、勢いよくJJに向けて射出された。


30本余りの骨で構成される尻尾がバラバラに分離し、砲弾の如くJJに襲い掛かる。


腐っても、恐竜の骨。

尻尾という細い部分であっても、人間の頭くらいの大きさはある。


火薬籠手が蒼い火を噴く。

射線から逃れるように、ブースターを吹かして砲弾の雨から逃れた。


尻尾の砲弾は、JJを追尾して弾道修正をするも、捉えるには至らない。

砲弾、最後の一発が地面に突き刺さった。


再度、ブースターを吹かせる。

ブースター、残り2発。


取り合えず、近づく!


骨竜は、それを見て自身も前に歩く。

尻尾を失っても、運動能力に変わりは無いらしい。


尻尾が無くなれば重心が崩れて、重い頭を脚だけでは支えられなくなるはずなのだが、骨竜の足取りは安定している。


彼我の距離が縮まる。

骨竜が、自身の頭蓋骨を上から叩きつける。


頭を振り上げて、倒れ込むように頭蓋を叩きつける。


――迎え撃つ。

火薬鎚を取り出し、撃鉄を肩に当てて押し上げる。


拳骨のように振り下ろされる頭蓋を、下から火薬で殴りつける。

下からアッパーを放つ要領で、火薬鎚を振り上げた。


撃鉄が落ちて、火薬が、武器に魔法を掛ける。


赤黒い火薬が、巨大な頭蓋を空にカチあげた。

骨竜の首から、1.5メートルほどの大きさを持つ頭蓋が取れて、空に飛んで行く。


首から頭を外したことで、火薬の一撃の衝撃が霧散する。

インパクトの瞬間に、打撃を与えた手ごたえが感じられなかった。


この一撃は、有効なダメージとなっていない。


その証拠とばかりに、尻尾と頭を失った骨竜が、JJを踏みつけようとする。

緩慢なそれを、テレポートで横に回避。


火薬籠手を使用、蒼い火炎で空を目指す。

ロケットシェルを使えば、今までは不可能だった、空中機動が可能になる。


蒼い火炎が、一瞬で骨竜の体高も、空を舞う頭蓋骨も追い越した。


火薬鎚を構える。

縦に1回振るって加速、宙で身体を1回転。


そこから、本命の打撃。

上から頭蓋骨に火炎鎚を叩きつけた。


鎚が火を噴いて打撃が通る。

確かな手ごたえが伝わる。


頭蓋骨が勢いよく地面に叩きつけられて、土煙を上げた。

それを追って、JJも着地する。


それでも――。


戦車を怯ませるような一撃を受けてなお、骨竜の動きは止まらない、鈍らない。

尻尾と首の無い骨の寄せ集めが、JJに向かって歩いて来ている。


(これは‥‥、骨が折れそうだな。)


骨のある敵を前に、気合を入れ直す。

夢の跡地を前に、ここで立ち止まっている暇は無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ