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SS5.1_川の街コロシアム。

川の街、時計塔前の広場。


木組みと石造りのハーフティンバー家屋が寄り合う街並みにおいて、時計塔の広場はとても広い。

建物や道路が複雑に入り組み、所々には水路が走り、陸路と水路の交通網が上下複雑に絡み合っている。


そんな複雑無秩序を思わせる街並みにおいて、ただっ広い時計塔前は、目を回しそうな街並みの中において、憩いと開放の場である。


この街での催し物は、大体ここで行われる。


バザーや復活祭、ハロウィン。それからコンサートに音楽祭。

季節物のイベントから、有志が企画運営するイベントまで、種類は様々。


イベントが無くとも、大道芸が催されていたり、ダンサーがダンスの練習をしていたり、音楽好きが即興のセッションをしたり、イベントの有る無しに関わらず、この広場は賑やかだ。


もちろん、今日だって時計塔の前は賑やかだ。



「YO! YO! YO! セントラルのワルな野郎ども!

 それから、良い子のチビッ子ども! ご近所の奥さんお姉さんお嬢さん!

 BBBラジオ、出張版の時間だァー☆」


広場に敷設された特設MC席で、ファンキー☆ヤマダはマイクを片手にBBBラジオのオンエアを告げる。


街の人気者の登場に、広場に集まった老若男女を問わず歓声が上がる。

歓声の上では、時計塔から三段雷花火が打ち上がり、空に3度の号砲を轟かせる。


時計塔広場、本日の催し物の開催である。


「今月も、この時間がやって来たZE!

 みんな大好き、フロスコロシアム!」


ヤマダの声がマイクによって拡声される度に、会場は盛り上がる。


フロスコロシアム、月1開催。

名前の通り、戦いを観戦して楽しむイベント。


現在、広場には石の囲いで簡易的なスタジアムが設けられている。


囲いの高さは、膝よりも少しくらいの高さ。

「形成魔法」と呼ばれる、魔力を物質化させる魔法によって、石に似た質感の囲いを生成している。


スタジアムは非常に広く、サッカーコートよりも一回り大きいくらいの大きさ。

乗り物だろうが、ワイバーンだろうが、充分に暴れ回れるくらいの広さがある。


それを囲むように、観客席が同じく形成魔法によって用意されており、地元の方々はここで観戦する。


観戦料は無料で、全席自由席。

観客席であるスタンドは5列の階段状になっており、後方座席からの観戦でも安心。


もちろん、安全対策もバッチリで、石で囲ったスタジアムは高性能シールドジェネレータ(違法規格)を使用し、観客に被害が出ないようにしている。


また、警備員として、クラス「ヘラクレス」のマッチョたちを配備。

もしも、シールドを貫通するような事態が起こった場合や、興奮したギャラリーがスタジアム内に入らないように警備に当たっている。


最大限、安全に配慮しつつ、生の戦いの間近で観戦できる。

戦士たちの織りなすドラマを、同じ空間、同じ距離、同じ興奮を体験できる。


それが、フロスコロシアム!


観客席は、ヤマダの開式の合図が始まる頃にはすでに満員近い。

惜しくも座れなかった方々は、ヴァイキングの方々の空飛ぶ船で、上空からの観戦。


上空席は、スタジアムから距離が離れるものの、全体の動きが分かりやすい。

空には、巨大なホログラムモニターも投影されるので、船の上から俯瞰的に観戦しつつ、モニターで至近距離の迫力を感じ取れる。


スタジアムを、地上と空中のスタンドが囲み、その周りに屋台が立ち並び、硝煙と美味しそうな香りに包まれて、会場の熱気がたちまち上がっていく。


ヤマダは、ご機嫌な調子で、ギャラリーを煽る。


「街のみんな! 元気してるか!」

「イエーイ!」


「ノッてるか!」

「イエーイ!」


「――声に、元気ないんじゃない?」

「イエーイ!」


「まだまだ足りない!」

「イエーーイ!!」


「テンション、アゲてくZE!」

「イエーーイ!!」


OK~。センキュー。


MCのヤマダとギャラリーが掛け合いをすることによって、場の一体感を構築。

こうすることで、ギャラリーの心をウォーミングアップしておくのだ。


心があったまっておけば、これからの観戦がもっと楽しくなる。


「ヨシ! それじゃあ、オープニングセレモニーを始めるゼイ!

 スタッフ~~、カモ↑↑~~~ン☆」


重低音が目立つBGMが鳴り響くと同時に、スタジアムの中で爆発が起きる。

すると、爆発の音の中から、爆発の煙幕の中から、浅黒い肌が太陽で眩しい、マッチョなお兄さんたちが登場する。


マッチョなお兄さんは5人組で、皆ブーメランパンツを装着。

自身の肉体美を惜しみなく、白日と大衆の面前で輝かせる。


また、それぞれのパンツに、番号札が張ってある。

筋肉と番号が、お兄さんたちの名刺代わりだ。


「彼らが、今日アシスタントをしてくれる、ヘラクレスのみんなだ~!

 何かあったら、彼の筋肉が対処してくれるぜ~!」


ヤマダの紹介に預かった、マッチョなヘラクレスのお兄さんたちは、各々得意なポージングをして、優しい笑顔で白い歯を覗かせる。


そんな彼らに、ヴァイキング船で空を飛ぶスタッフが、ロケットランチャーをぶっ放す。

およそ10発のロケット弾が、お兄さんたちに降り注いだ。


ヘラクレス部隊は、それを躱そうとせず、微動だにしない。


擲弾(てきだん)の嵐を前に、横一列になり、筋肉を美しく見せるポージング。

両足を揃えて、右足のかかとを上げて、上腕二頭筋と三角筋と、それから大胸筋をアピール。


スキル発動 ≪サイドチェスト≫ !

クラス「ヘラクレス」は、様々なポージングを取ることで己の筋肉を高め、自己強化して戦うクラス。


イベントが始まる前に、BIG3(胸・背中・脚)に自重トレーニングで働きかけ、バルクアップした筋肉のキレは抜群!

ランチャーの攻撃と爆風を前に、筋肉には傷ひとつ付かなかった。


サイドチェストをする時は、腹筋を「バキューム」というテクニックで絞り上げ、ウエストを細く見せることも大切。

ウエストの細さが、胸や腕、肩の筋肉の隆起をより際立たせるのだ。


無論、上半身だけでなく、大腿四頭筋や下腿三頭筋などの、下半身のアピールも疎かにしてはいけない。

スクワットや、デッドリフトから逃げるのは論外だし、ポージングは足の指先まで妥協を許してはいけない。


筋肉の付き方は指紋と同様に個人差がある。

だからこそ、筋肉を鍛えるだけでなく、自分の筋肉を最も美しく見せるポージングの探究も忘れてはならない。


ポージングとは、いわば筋肉に対するおめかし、オシャレでありファッションなのだ。

筋肉は裏切らない。トレーニーは、それに報いなければならない。


愛する筋肉を、ポージングによって最大限、着飾るのだ。


「いいよ! キレてるよ!」

「2番の胸ヤバいよ! 業務用の板チョコだ!」

「5番のトモ(馬の後ろ足)すごいよ! ターフ走れる!」

「4番! こっちでポーズして!」


ギャラリーは、巨大モニターに投影された、お兄さんたちの逞しい筋肉に夢中になっている。

この筋肉に守ってもらえるのなら安心だ。


その安心感こそが、コロシアムでの戦いに集中するためには大切なのだ。


「Yay Yay! 今日のマッチョも、精鋭揃いだ。

 みんな、安心してコロシアムを楽しんでくれ!」


会場が拍手で包まれる。

ヘラクレス部隊は、拍手に包まれながら石の囲いの外に出て、各々のポジションで立哨警備にあたる。


ヘラクレス部隊の他にも、警備には「モノノフ」という忍者と侍のハイブリットクラスが、影から用心棒として目を光らせている。


お兄さんたちがシールドジェネレータで生成されたシールドを通過して、配置完了。


熱い観客によって温められて、舞台は整った。

ならば、選手の入場だ。


「Yo! オープニングの次は、さっそくバトルの時間DA!

 アゲてくぜ! 選手の入~場~↑↑」


巨大モニターに、MCのヤマダがアップで映される。

黒いグラサンがキラリと光り――、空を指差した。


「――LooK!」


観客は、ヤマダに釣られて空を見る。

空から、3つの光が、軌跡を描きながら地上目掛けて急降下している。


「選手の紹介をしよう――。」


光がスタジアムのすぐ上まで落ちて来た。

落ちて来たのは、人間だと分かるようになる。


「俺たちワルのライバル、法の猟犬CCC。

 若きエージェント、トリオーーー!!!」


ヤマダから紹介を受けたのは、セツナ・JJ・ダイナの3人組。

ヤマダの煽りと同じタイミングでスタジアムに着地して、落下の勢いを横方向のベクトルに変換してスライディングで着地する。


青い空に浮かぶ飛空艇、ブルーホエールからの登場だ。


着地した3人は、観客に向かってそれぞれ手を振る。

セツナは両手で、JJは片手で、ダイナはピョンピョンと身を弾ませながら。


「コロシアムでは、皆が平等だ! そこにワルも猟犬もカンケーねぇ!

 この祭りのルールはただひとつ! 楽しんだヤツが正義だァァァ!!!」


ヤマダの華麗なマイク捌きによって、観客は湧き立つ。

歓声のシャワーが、3人を包む。


――声援や応援を受けるのって、気持ちいい!


セツナが2人に話し始める。


「こういうのって、嬉しいよね。」

「そうだな、俄然やる気が出てくる。」

「1人じゃないって思えるもんね!」


3人とも、スポーツマンとしての経験がある。

バスケットボール・ラグビー・サッカー。


コートの上では、チームメイトが居ても、選手とは孤独なもの。

負けたら終わりという緊張感が、心を恐怖で支配し、身体を強張らせる。


そんな時、コートの外からの応援があると、前を向ける。

恐怖の霧を払って、いつもの自分、いつも以上の自分で臨める。


プロのスポーツ選手が、「サポーターの声援のおかげで頑張れました」なんて月並みな表現をすることがあるが、それは決して社交辞令なんて枠に収まらない。


声援の熱気が、コートの中に渦巻く冷たい感覚を温めて、吹き飛ばすのだ。


3人の士気とテンションは、急上昇。

最高の舞台が、最高のパフォーマンスを引き出す!



歓声を浴びる3人組を、ヤマダは会場のMC席から眺める。


(手応えは上々、ってところだな。)


秩序への反抗組織、BBB。

セントラルの裏を束ねるBBBは、一枚岩ではない。


言うなれば、組合とか共同体とか、あくまでも寄り合い所帯なのだ。

BBBは、相互扶助と無干渉で成り立っている。


その寄り合い所帯の中で、ヤマダの派閥は、「生き様としてのワル」という思想を掲げている。

本気でCCC憎しで行動しているというよりも、ロックな生き方にロマンを見出し、行動しているのだ。


まあ、どんな思想を掲げようとも、自分たちも碌でなし(ろくでなし)のクズであることに変わりは無い。

結局は、他のBBBとは同じ穴の狢なのだ。


が、自分にたちには自分たちなりの矜持がある。


(くすり)は使わないし、売らない。

子どもには絶対に手を出してはいけないなど、自分たちなりのタブーを持っている。


ワルであっても、外道であってはならないのだ。

ゆえに、他の派閥と比べCCCに対しても強硬策を取ることが少なく、軟派な態度で対応することができる。


ヤマダは考える。


赤龍の襲撃に、ボルドマン周りの不審な動き。

これは何か、セントラルにヤバいことが迫っているのではないかと。


もし、赤龍が大暴れして、セントラルが火の海に沈んだら、自分の大好きなこの街も滅んでしまう。

そうでなくとも、セントラルが内包する秩序と混沌が共倒れになれば、()()()の連中にここを攻められてしまう。


チンピラの数少ない社会貢献として、他所の島のチンピラ、他の国のチンピラを追い返すという役割があるのだ。

秩序と混沌、そのバランスを赤龍は崩しかねない。


――変革が必要だ。


エージェントとの繋がり(パイプ)が要る、未曽有の事態に対抗するために。

話しが分かって、強いヤツの手を借りたい。


そうしなければ、セントラルに未来は無い。


そう思い、ヤマダはセツナたちにコンタクトを取った。


あの3人組は話しが分かる連中――、言い直すと、コッチ側の価値観に近い連中だ。

気質としてはコッチ側だが、運命のイタズラでCCCに拾われたヤツらだ。


無法行為(アウトロー)も、正義の下で執行されたならば、必要悪(ダーティプレイ)として正当化される。


3人からは、色よい返事が返ってきた。


ああいう手合いとのコミュニケーションは、ボルドマンで慣れている。

下手に料理と酒でもてなすよりも、硝煙の香りをかがせてやればいい。


スタジアムの中で手を振る3人。

それを受けいれ、湧き立つ観客。


「どうだい! ヒーローショーには、打ってつけの舞台だろ!

 

 最高のエージェント、最高の舞台――。

 そう来たら、サイコーのライバルも欲しいよな!」


この街は寛容だ。

だからこそ、守りたい。


「ヒーローとワルのエキシビションマッチ。

 エージェントの相手をするラッキーボーイは、コイツ等だァ!」


マイクしか握ることができないが、自分にできることは精一杯やらせてもらう。

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