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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
3.5章_サイドミッション

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SS4.1_祝勝とおさらい。それから考察。

「「「かんぱーい!!」」」


PvEサーバー、セツナのワールド。

青い街、青い空の、青い家ブルーホエール。


セントラル上空を飛ぶ飛空艇は改装を施され、殺風景だった機内には娯楽室が設けられ、そこで祝勝会が開かれていた。

ソファーにテーブル、椅子を適当に並べて、適当に座って、適当なジュースで乾杯した。


テーブルの上には、ドリンクとスナックの他に、PvPサーバーから持ち帰った戦利品が雑に置かれている。

PvPで獲得した窃盗品や、警察側が無法者を取り締まることで得られる賞与バジェットは、自分のワールドに持ち帰ることができる。


交換レートが存在し、得た金品を丸々持ち帰れる訳では無いが、それでも貰えると嬉しいくらいの金額は貰える。

とは言え、クレジットの使い道は、ほぼ贅沢品に限られるので、資金力が武力に繋がるケースは極めて少ない。


これはPvPでも同じで、戦闘機や戦車にCEなどの戦術兵器は、戦闘行為によって獲得するCP (コストポイント)で購入する。

ある程度の武装や車両は持ち込みが可能だが、強力な兵器の使用にはコストの消費が求められる。


総じて、クレジットがアクションや戦闘で有効に働く場面は少ない。


ただし、セーフハウスをあちこちに購入したり、ゴリゴリにチューニングしたスーパーカーを何台も保有したり、家具や調度品にこだわり始めると、膨大なクレジットが必要になる。


クレジットは、セントラルでの生活をより楽しみたいプレイヤーに向けたフレーバーであり、お遊び要素でもあるのだ。


そんな訳で、セツナたちも報酬の分配などには、特に固執は無い。


みんなで遊べて楽しかった。オマケにゲームにも勝てたから最高だ。

それだけで充分である。


報酬は、みんなで山分けすることにした。

現金に宝石や貴金属。


みんなで仲良く分配した。


山分けが終わると、ダイナがスマートデバイスを操作し始める。

画面を見ながら、セツナとJJに手招き。


シグレソフトのロゴが彫刻された金のメダルをかじっているセツナと、大粒の宝石でおはじき遊びをしているJJが、ダイナのデバイスを覗き込む。


デバイスの画面では、セントラルのショッピングサイトが表示されている。

そこで彼女は、額縁を購入する。


購入された額縁は、ダイナのインベントリに即時収納される。


にこにこしているダイナに、彼女の意図が掴めない男2人。

インベントリから額縁が取り出されて、それを机に置き、慣れた手つきで裏板を外す。


それから、ダイナがJJから貰ったペンダントをマットの上に置き、形を整える。

ここまで来ると、さすがに彼女の意図が伝わってきた。


ペンダントを整えて、裏板を閉じる。

完成した物を、2人に見せた。


「じゃ~ん!」

「「おお!」」


ネックレスが額縁に収まって、窃盗品から芸術品へと衣装変えがなされた。

黒い背景のマットの上に、女性用のネックレスが淑やかに輝いている。


プラチナで編まれた細いチェーンに、イエローダイヤモンドのチャームが、小さくも存在感を主張している。


「セーフハウスに飾るんだ~。」


ダイナが、両手に持った額縁を身体と一緒に横に揺らしながら、ルンルン口調で語る。


この宝石は、ダイナにとって売値では計れない価値がある。

今日の思い出がこもった、ひとつだけのペンダントなのだ。


「俺たちも作るか。」

「やるやる!」


それを見たJJとセツナが、ダイナに便乗する。

スマートデバイスを取り出して、ショッピングサイトとにらめっこを始める。


祝勝会が、図画工作の時間になった。

お昼休みにケイドロで遊んで、午後の授業が始まる。


いまの状況に、セツナがしみじみと呟く。


「なんか‥‥、小学生の頃に戻ったみたい。」

「なら、俺は最強のアートを作るか。」

「はあ!? オレが作るヤツの方が最強だし! もうノーベル賞取れるから!」


小学生の頃の授業を思い出しつつ、小学生みたいなことを言い始める2人。

開始2歩目にして、趣旨がズレつつある。


「面白そうだから、ボクもやろ。」


常識人ポジションのダイナまで加わわちゃって、ズレた趣旨の軌道修正は不可能になった。

3人は、思い思いの芸術を、額縁の中に込める。


最強アート決定戦が勃発した。


「最強なのはね、マネーよマネー。つまりゴールド。」


セツナの手元では、お札を一枚一枚、規則正しく並べられた作品が完成していく。


規則正しく整列させているのは、植物や昆虫の標本づくりの影響だろうか?

彼はお札の標本を作っているらしい。


‥‥と見せかけて、並べられた紙幣に印刷されている記番号(アルファベットや数字のこと)で暗号を仕込む。


暗号の正体は、パスワード。


ネットショッピングで金庫も追加で購入。

この金庫をブルーホエールに設置し、そのパスワードがこのアートに隠されているのだ。


札束をペラペラとめくり、自分の欲しいコードを探す。

ペラペラとめくりながら、2人の作品のカンニングも欠かさない。


良いアイデアは、パクる――、オマージュしなければ。


「ふふん、可愛いは最強。」


いわゆる、お誕生日席に座っているダイナ。

彼女は、小粒の宝石をいくつか手に取り、自分の意図にあった物を選別していく。


選別して、青い宝石と、黄色い宝石の2つを選んだ。


紙とペンを取り出し、絵を描いていく。

黒い紙に、白色のペンをサラサラと走らせる。


何も無かった紙の上に、黒ネコの輪郭が浮かび上がる。

あっという間に、青と黄色のオッドアイを持つネコちゃんが出来上がった。


ダイナも、他2人が作り上げるアートをキョロキョロと見ている。

チラチラと顔を上げる、ダイナとセツナとは異なり、JJは黙々と作業を進めている。


「アートっていうのは、一期一会なんだよ。神はサイコロを振る。」


ダイナとは異なり、JJは無造作に宝石をいくつか手の平に取り、手の中で転がす。

そして、額縁に嵌めるキャンバスの上に、宝石を転がした。


キャンバスの上に、宝石がランダムな位置に散らばった。


裾野と畑の広いアートの世界には、金継ぎアートという物がある。

金継ぎとは、割れた皿や茶わん、湯呑などを繋ぎ合わせて修繕する技術のこと。


漆で割れた食器を繋ぎ合わせて、金消粉(きんけしふん)を定着させて、食器を修繕する技術だ。


割れた食器を再度使えるという機能美だけでなく、割れた部分と継がれた部分が見せる独特な模様が、アートとしても評価されている。


形あるものは、いつか壊れる。

壊れるからこそ、美しい。


金継ぎアートは、日本人の精神性を現したアートなのだ。


完全無欠や完璧も、もちろん美しい。

だけども、砕けて、玉に瑕が入った物も風流である。


物作りが好きな祖母に習って、JJも「マイ金継ぎ湯呑」を作った経験がある。

それもあって、彼の中でアートとは、神様の気まぐれと、人の技術が織りなす一回限りのドラマなのだ。


賽の宝石はキャンバスに広がる、行き先は神様の気まぐれで決まる。


そこからは、人の技術と想像力の領分。

ランダムに散らばった宝石からインスピレーションを得る。


スーツの裏地に留めてある、火薬籠手用のショットシェルを取り出す。

弾頭を外して、キャンバスの上に、ショットシェルを傾ける。


ショットシェルの中から、黒い火薬がサラサラと流れて、キャンバスに線を引いていく。

火薬で引いた線を指でぼかして、濃淡をつけていく。


この作品の名前は――、そう「山おろし」。


火薬の風に、舞い散る花びら。


‥‥‥‥。

‥‥。


「「「じゃ~ん!!」」」


軌道がズレた娯楽室の団欒を、操舵室の自動運転になっている舵が、そっと見守っていた。



祝勝会と団欒は、脱線と雑談を繰り返し、大いに盛り上がった。


話しが盛り上がったので、机を移動させた。

ソファーと椅子だけにして、互いの距離を近くして、話しに集中できるようにした。


みんな、自分が乗るCEは決めたのかとか、最強クラスはどれだと思うとか。

ゲーマーが3人集まれば、話題に困ることは無かった。


そんな時、セツナがふと思ったことを口にする。


「――そう言えば、現段階でのM&Cのシナリオって、どんな感じになってるの?」


科学と魔法の世界を舞台にした冒険は、短くも濃いものだった。

そして、これからも濃い体験が続くのだろう。


ここら辺で、いま一度これまでの足跡(そくせき)を確認しておきたい。

そう思ったのだ。


思い違いとかをしていたら、せっかくのシナリオが楽しめなくなってしまう。

3人ともネタバレ情報は一切シャットアウトしているのだが、今までのおさらいはしても問題ないだろう。


JJが腕を組んで、上の方を向く。


「う~ん。そうだな、個人で少し違うところもあるだろうし、そこも擦り合わせておくか。」


M&Cには、シネマチックシナリオシステム(※)というシステムが採用されている。


※2章1話で登場した、「ドラマチックシナリオシステム」の名称を変更。

 該当エピソードの名詞も修正済み。


これにより、個々人で微妙にシナリオの過程が異なっている場合がある。

最終的な結果は1つに収束するが、それまでには無数の分岐が広がっている。


M&Cは、1人のプレイヤーごとに、1つの世界を提供しているのだ。


マルチプレイでは、並行世界の主人公たちが、厄災の余波により乱れた時空が偶然重なることにより、交わることの無かった邂逅を果たす。


――という設定がなされている。

プレイヤーたちは、パラレルな世界の同一人物であり、マルチプレイでは物語の主人公という同一人物たちが、同一世界上に存在していることになる。


そして、その時空の歪みを観測できるのはプレイヤーたちだけであり、この世界の住人は基本的に時空の歪みによって生じた、世界の辻褄合わせには気付けない。


そういうことになっている。


物語のおさらいに乗り気なセツナとJJ。

すると、ダイナは縁無しのメガネをかける。


「‥‥ふっ、ストーリーについて話しちゃう? ボク、長くなるよ。」


ダイナは、考察が好きなプレイヤーなのだ。

世界に散りばめられた情報をかき集めて、一本に繋ぎ合わせていくのが楽しい。


一見するとバラバラな情報。

それを繋ぐためのピースが、ふとした瞬間に降りてくる興奮と優越感には、唯一の味わいがある。


ちなみに、他の2人はシナリオ対しての理解度がどんな感じかと言えば――。


セツナは、シナリオを追おうという気概はあるが、あまり暗記が得意では無い。


固有名詞とか人名とか地名は、しょっちゅう忘れる。

頭の回転は速いが、記憶容量に難があるタイプ。


JJは、ロマンに生きるプレイヤーなので、シナリオの押さえるべきところは押さえている。

考察好きかと言われるそうでも無いが、人よりはシナリオを味わっている方だ。


そんな3人で、これまでの冒険を振り返る。


おさらいの先鋒を切ったのは、セツナ。

言いだしっぺの法則。


「まず、オレたちプレイヤーは、エージェントの訓練生からスタートしたよね。」

「うん。なんでも成績優秀で、これからが期待される新人っていう感じだったらしいね。」

「だから、訓練生時代のミッションも、オペレーターの期待株であるアリサさんと組んでいたと。」


ほうほう。

セツナの知らない情報が2つも出てきた。


プレイヤーが優秀設定は、全員共通だったのか。シリーズ経験者だからという事では無いらしい。

アリサさんがプレイヤーのオペレーターを担当してくれるのも、優秀な新人コンビという、物語的に華のある設定をあつらえてくれていたようだ。


‥‥前作では、奴隷スタートとかだったのに、今作は優しいな?


この感じだと、セツナの語り口を2人に補足してもらった方が良さそうだ。

そう思い、セツナが次のあらすじを切り出す。


「――で、ある任務中にオレたちは赤龍に出会い、襲われた。」

「ビル、壊れちゃったね。」

「壊れたビルの頂上に立つ主人公と、空の龍、そして地上の暴動っていう構図は、PVやパッケージで大々的にプロモーションされてたな。」


うんうん。


「その赤龍に襲われた後の任務で、オレたちはボルドマンの暗殺指令を受けた。」

「セントラルで急増している魔導兵器による犯罪を取り締まるためにね。」

「犯罪を起こす羊を狩って、その裏に潜む羊飼いを、表に引きずり出すためにな。」


うんうん。

――うん?


「いま思うと、新人エージェントに裏組織の幹部の暗殺させるって、だいぶ無茶振りじゃない?」

「それに関しては、シネマチックの分岐点だね。本来は、エージェント側にも増援があったんだって。」

「ただ、プレイヤーの戦闘評価によっては、同時多発的な暴動が起きて、増援が来なくなる。」


なるほど、シナリオ分岐を使って、難易度の調整がされていたようだ。

おかげ様で、セツナは大層ギリギリな辛勝をボルトマン相手に演じることとなった。


序盤は、ビルドや装備の選択肢が狭いので、経験者であっても苦戦する。

ゲームあるある。


だが、セツナはそれで良かったと思っている。

苦戦したからこそ、因縁みたいなものが生まれた気がするのだ。


「ボルドマンを倒したあとは、猟犬狩りがあったね。」

「‥‥? 猟犬狩り?」

「俺とセツナは、BBBラジオで賞金首に仕立て上げられたんだ。」

「そんなことがあったんだ! ボクの方では、引き続き羊狩りだったよ?」


ここでも、シナリオの分岐があったようだ。


「ゴールはどこだった? ファンキーヤマダさんのところ?」

「うん。川の街だよね? 川の街に反抗勢力が集まっているってことで、最終的にはラジオ塔に向かったよ。」

「ということは、その時にボルドマンと繋がりのある、第3勢力についても?」


「聞いた聞いた。羊狩りではいくつかのノマド(小規模犯罪グループ)と戦ったんだけど、彼らには匿名で資金提供がされていたんだ。その資金の出所が、ボルドマンの遺産。」


シナリオが分岐しても、結果はひとつに収束する。

この任務では、魔導兵器問題と赤龍問題に加えて、ボルドマン問題が増える結末に着地する。


「その後が、サイドミッションを除外すると‥‥、天蓋の大瀑布だよね?」

「ボクが、セツナを逆ナンしてデートに誘った任務だね。」

「‥‥何回聞いても疑問なんだが、いったいどんな出会い方をしたんだ?」


そんな、ドラマチックがボーイズミーツガールな出会いはしていない。

少しだけ、服の袖が触れ合っただけだ。


ダイナが、セツナの肩に腕を回す。

余った手でピストルを作り、JJを「バンッ!」と打つジェスチャーをする。


「恋のキューピットは、JJなんだよ。」

「「ね~!」」


「‥‥分からん。ますます分からん。」


息ピッタリでハモリ、互いの顔を見合わせるダイナとセツナ。

あざとい仕草に慣れているダイナもダイナだが、それにシームレスに合わせられるセツナもセツナである。


電脳世界での生活を満喫している。


――閑話休題。


「天蓋の大瀑布では、遺跡を目指して探索をしたよね。」

「JJは、どうやって攻略したの?」

「1人で、道草も食べずに攻略してきた。」


セツナとダイナが顔を見合わせて、セツナがJJに質問する。


「遺跡は?」

「1発でクリアした。」

「いやそうじゃなくって、遺跡の方。」

「‥‥‥‥。」

「壊したんだ。」

「ちょっと火薬を噴かせただけで壊れる、遺跡の方が悪い。」


ちょっと――、ほんのちょっと火薬銃の砲撃が壁に、五、六――十発。

たった、砲撃が5、60発くらい当たっただけである。


それで壊れたんだから、仕方がない。


ダイナがにっこり笑って、2人の手を取る。


「いえ~い! ボクたち、同~類~!」

「「同~類~!」」


ダイナが両手を挙げて、2人の手も釣られて上に挙がって、バンザイする。

そのまま、みんなでハイタッチした。


「それで、遺跡は壊れちゃったけど、実は地下室があったと。」

「遺跡は、科学界に攻め込んで来た、ディヴィジョナーが使っていた痕跡が見つかったね。」

「そのことから、ディヴィジョナーは魔法界も滅ぼした可能性があると分かったな。」


この任務により、ディヴィジョナーたちの正体に近づいた。

だが、近づいたせいで謎がますます増えた。


しかも、魔導兵器や赤龍の問題に、CCCの本部が絡んでいる疑惑も浮上してきた。


ディヴィジョナーたちの目的は何なのか?

なぜ、秩序側の組織が、混沌に加担するのか?


これまでの任務は、問題が増えるばかりで、何も一切解決をしていない。


「問題は増える一方だけど、分かったこともあったよね。」

「レイちゃんだね。」

「滅んだはずの、魔法界の住人。そして、ボルドマンの仲間。」


なぜ、ボルトマンとレイが繋がっているのかという問題はあるが、ファンキーヤマダが示唆した第3勢力の存在は明らかになった。


レイの他にも、魔法界の人間が居るのかは不明だが、彼女が世界の謎を知っている可能性は高い。


「そうなると気になってくるのが、レイの正体だよね。彼女はプレイヤーの存在を認識してた。」

「レイちゃんのビジュアル、銀髪灰瞳。

 セツナ、レイちゃんを見て、どう思った?」


「彼女が、”銀碗の一撃”を教えてくれるんじゃないかって思った。」


未だに未練の断ち切れていない、今作でリストラされたスキルの名前を出す。

明後日の方に向かったセツナの発言に、椅子に座ったダイナの上半身が前にズッコケてしまう。


違う! そうじゃない。


ダイナのリアクションを見て、セツナは軌道修正。

彼女が欲してあるであろう、意見を述べる。


「んんー‥‥。銀って言われると、魔導拳士のシルバームーンとか、銀なる大輪(フルムーン・クリーオ)をイメージするかな~。

 プレイヤーのことを理外者、ナハトシャッハ(夜の戦士)って言ってたし。」

「ダイナは、レイが魔導拳士と関りがあると思っているのか?」

「う~ん、魔導拳士じゃなくって、お月様の方かな。」

「「月?」」


「そう、これはボクの考察なんだけどね。

 レイちゃんは、銀月の女神、ケルト神話に登場するアリアンロッドをモチーフにしてるんじゃないかな?」


セツナとJJが顔を見合わせる。

2人して、ダイナの話しを聞くことにする。


「アリアンロッドっていうのは、銀の車輪っていう意味なんだ。

 これって、銀の大輪とすごく似てない?」


ダイナの話しに、セツナは納得する。

なるほど、銀の剣はアリアンロッドが元ネタなのか。


「言われてみれば、シルバームーンのスキルがアンロックされたのは、遺跡調査の前の任務、猟犬狩りをクリアした後だったような?」

「ふっふーん、そこも調査済み。メイジのブルームーンも、その時にアンロックされたんだ。」

「おお!」


銀月の女神に会う前に、魔法界に行く直前に、月に関するスキルがアンロックされる。


そこにメッセージ性を感じるのは、自然な心理であり、思考であろう。

異世界の便りは、月風によって運ばれてきたのだ、と。


ダイナの考察に、JJが疑問を投げかける。


「ダイナ、銀の剣がアリアンロッドの物だと言うのには一理ある。

 意味ありげなスキルの解放タイミングも理解したし、一理ある。


 だが、別の可能性も無いか?

 レイが銀髪ってだけじゃあ、ミスリードの可能性もあるぞ?」


「レイちゃん、言ってたんだ。 ”青いオルギンが二度目の絶滅を――” って。

 このオルギンっていう単語も、ケルトの言葉なんだよね。」


「なるほど、単語で匂わせるわけだ、他人の空似じゃない、ってな。」

「そういうこと。もちろん、レイちゃんが月の女神様に仕える巫女って可能性や、全くの見当違いの可能性。

 それに、JJが言ったみたいに、ミスリードって可能性もあるけどね。」


「ちょいちょいちょいちょい――。」


セツナが2人の話しに割り込む。

両手でTの形をつくり、2人に待ったをかける。


「単語がいっぱい出てきて、こんがらがって来た! 易しく教えて?」

「まだ考察の域だが、レイの正体は、月の女神かも知れない。」


「おお、なるほど! ありがとう、理解した。

 ‥‥‥‥。で、それが分かると、どうなる?」


「んふふ~、楽しい♪」

「そっか‥‥。そっか~~。」


肩透かしをくらったセツナに、JJがフォローを入れる。


「まあ、魔法界のことを知る手掛かりにはなるな。」

「ほう、その心は?」

「レイが月の女神だとするならば、魔法の大地には月の宗教が興ってたってことになる。」

「なるほど。‥‥なるほど?」


「宗教っていうのは、その地の文化や風土に大きな影響を与えるんだ。」

「‥‥‥‥。???」

「ダイナの月の女神という話しを聞いて、思い浮かんできたことがある。

 世界史での女神信仰っていうのは、世界各地で国が興り、王が誕生すると廃れていったんだ。」

「なんで?」


神話の話しからバトンタッチ。

バトンがJJに渡り、歴史の話しになる。


「王とは、男がなるからだ。そして、王の正当性とは神が保証してきた。

 その神が女神だったら、どう思う。」

「「うれしい。」」


‥‥実にゲーマーらしい解答を、どうもありがとう。

JJだって、むさ苦しくて暑苦しい男神よりも、美しくて優しい女神の方が良い。


だが違う! そうじゃない。


「‥‥王の上に立つ存在が女神だったら、男の上に女が立つっていう支配構造が出来上がるだろ?」


セツナとダイナは、納得したように相槌を打つ。


「歴史上、社会の中心にいたのは男だ。

 その正当性を確固たるものにするためにも、神は男である必要があったのさ。

 そして、その神は唯一神であれば、尚良い(なおよい)。」


「つまり、宗教は国を治めるために使われてたってこと?」


セツナの問いに、JJが頷く。


「前置きが長くなったが、女神信仰は歴史上、廃れる運命にあった。

 日本のように、多神教で尚且つ(なおかつ)最高神が太陽の女神っていうのは、かなり珍しい。

 天照(アマテラス)の子孫であるという、神話の血が現代も天皇に受け継がれているのは、日本だけだ。」


うんうん。


「そんなリアルだと珍しい、月の()()が夢の楽園を指差した。

 これがどうにも、引っかかる。

 滅んだ文明の、廃れる運命にあった女神が、荒んだ楽園を指差す――。」


「そこに何か共通点がある感じ?」


「もしかすると楽園が滅んだのは、王が誕生したから――、かもな?」

「「おお!」」


セツナとダイナが、JJに拍手をする。

なんか――、なんかそれっぽい!


王とは闘争の象徴だ。

争い無しに、王は生まれない。


王が生まれるという事は、争いがおこるという事で、争いがおこると、争いを好まない民族は滅びる。


かつて、日本の縄文時代には、争いの無い平和な集落があった。

それも、世界では類を見ないほど、多く存在した。


しかし、いずれの集落も、歴史の流れの中で営みの足跡が途絶えている。


JJは、これが闘争によるものだと考えている。

争いに巻き込まれて滅んだのだ。


日本だけでなく、世界的にもそうだった。

例外は、存在しないと見ていい。


戦わぬ人類は滅びていった。

そして今、現代を生きている人類とは、殺し奪ってきた者たちの子孫なのだ。


だから、人類は闘争を止められない。

闘争こそが、我らを現代まで生かし続けたのだから。


遺伝子の箱舟は、人に争わせる方向へと、進化の舵を切った。


世界がひとつになるまで。

最後の1人になるまで。



神話のバトンは歴史に渡り、歴史のバトンは冒険者に渡る。

セツナが、話しをまとめる。


「じゃあ、王様に会いに行って、この世界の謎を聞いてこよう。」

「十中八九、素直には教えてくれないだろうけどな。」

「いいじゃん! いいじゃん! 楽しみになって来たよ!」


当たるも八卦、当たらぬも八卦。

それが考察。


だが、完成の見えないパズルの全体像を、今あるピースから予想する。

それもまた、ゲームの楽しみ方である。


冒険に出掛けるだけが、ゲームの全てでは無いのだ。


たまにはこうやって、椅子と机を並べて言葉を交わす。

そうすることで新たな発見があり、新たな発見は、その後の冒険の助けとなる。


――かも知れない。

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