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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
3.5章_サイドミッション

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55/229

SS3.4_特攻野郎に、花束はいらない。

センターでひっそりと経営されている、地下の酒場。


チンピラたちの隠れ家であり、無法者たちの止まり木。

酒場は、今日もチンピラとゴロツキの喧騒で賑わっていた。


利用客は10名ほどだが、調度品や遊戯道具の関係で、少し手狭に感じる。


各々、カウンター席で酒を楽しんだり、テーブル席で酒を片手にトランプに興じたり、ダーツで遊んでいたりしている。


ダーツボードでは、たった今、3人で遊んでいた301ルールのゲームが決着を迎えた。


一番最初にあがったプレイヤーが、テーブルに置かれていた掛け金を総取りして、懐に収める。

そして、ドベには罰ゲームとして、目の前でハバネロテキーラが、ショットに並々と注がれていく。


赤い衝動を溶かし込んだ水は並々と、グラスの外も円形に濡らす。


その様子を、ダーツをしていない者達も面白がって、手拍子と掛け声をしてショットを一気に飲み干すように煽り始める。


手拍子と掛け声によって、酒場に謎の一体感が生まれる。

名誉ある罰ゲームを受けることとなったドベプレイヤーは、ショットグラスを高々と上げて、ギャラリーに見せつける。


グラスを持っていない手を上に振って、もっと盛り上げるように、ギャラリーを煽っていく。


――エイ! エイ! エイ! エイ!


ギャラリーがドベを煽り、ドベがギャラリーを煽り。

煽り、煽られて、酒場のボルテージが上がっていく。


そして――。


嗜好品とは名ばかりの劇薬を、一息で飲み干した。


‥‥‥‥。

‥‥。


「うへ゛゛ェェェエ゛!?!?」


辛みと酒気のワンツーコンボに、精も魂も刈り取られ、ノックアウトされてしまう。

もう、辛いを通り過ぎて痛い! アルコールがキツ過ぎて熱い!


その場に倒れ伏すドベに、酒場は大きな拍手に包まれ、指笛が飛び交う。

彼の勇気を、掛け値なしに称える。


眼を真っ赤にして、顔を真っ青にして倒れ伏すドベ。

彼に、ダーツで2位だった男が、チェイサー(水)を差しだす。


起き上がり、チェイサーに手を伸ばそうとした瞬間、2位の男はもう片方の手に持った、ハバネロテキーラも、ドベの前に差し出した。


ドベの前に、万病の霊薬と劇薬の両方が差し出される。


1位だった男が、両手を上に振り、再び酒場を湧かせる。

勝者の特権を利用し、火に油を注ぐ。


ギャラリーのボルテージが、再び上がる。


――エイ! エイ! エイ! エイ!


‥‥‥‥。

‥‥。


ドベは、2杯目の劇薬に沈んだ。



「こちらポーター1、荷物が届いた。死にたいヤツはついて来い。」


ポーター仲間からの通信が酒場に入る。

それまで騒ぎ散らしていた酒場が、冷や水を浴びたように一瞬で静まり返った。


酒場のマスターが、壁に掛けられている、昔ながらの電話の受話器を取る。


「こちらポーター3、及びポーター4、了解した。そちらに向かう。」


ガチャリ。

受話器をしまう音が大きく響いた。


マスターが、カウンターの裏にあるボタンを押す。


酒場は、一時店じまい。

ガンショップが、入れ替わりで開店。


酒気を帯びた店内が、一気に塵っぽくなった。


酒を並べられていた棚が横にスライドして、そこから丁寧に磨き上げられたライフルや拳銃が姿を現す。

マスターは、それをカウンター席に置いて並べていく。


チンピラたちは気に入った銃を思い思いに手に取っていく。

その他にも、酒場の隅に備え付けてあるガンロッカーを開け、慣れた手つきでチームに配る者たちの姿もある。


酒場の喧騒は一転、剣呑な静寂の中、黙々と装備を整える音だけが木霊する。


そして、酒場の外から大きなエンジン音が轟く。

車をすぐに乗り込める位置まで、自動運転で呼び出したのである。


チンピラたちは、皆の支度が整うを見計らい、地下の扉を開け地上へと進みだす。


車は2台。

普通の乗用車と、トラックの2トン車。


トラックは平ボディのダンブカータイプ。


側面や後面のアオリ部分(荷台を囲む板)を防弾仕様に改造。

アオリの背を少し高くすることで、遮蔽物として使えるようにしている。


荷台にはたんまりと銃や弾薬、手りゅう弾などの爆発物を積んでおり、さながら走る武器庫の様相を呈している。


天板を設けていないのは、対空攻撃をするため。

‥‥というのは建前で、荷台で浴びる風が気持ちいいから。


全員が乗り込み、乗用車とトラックが走り出した。



「こちらポーター5。そちらに向かう。」


()()()()()()()()とじゃれ合っていたチンピラたちも、通信で返答し、車に乗り込む。


「ニャオ! ニャオ!」


まだまだ構って欲しそうに、大型ネコ科のチーターが、ノドを鳴らしている。


健気な姿に後ろ髪を引かれつつ、運転席の扉を開けたところで一端引き返した。

ノドを撫でてから車に乗り込み、アクセルを踏んだ。


チーターは、歩道に横になり、くねくねと背中を路面に擦ったあと、昼寝を始めた。


「――てか、なんでチーターが住み着いてんの?」

「かわいいだろ?」



ダイナがPLに荷物を積み込んだことで、PLの位置が警察側に明らかになる。


彼女たちを追跡していた、アサルト部隊が味方に通信を入れる。


「こちらアサルト、ターゲットがPL(ピータールイス)に到着。ハウンドの増援を要請する。」

「こちらハウンド部隊。こちらでもターゲットの位置を捕捉した。部隊の1から5番を向かわせる。」

「了解。」


ヴィラン側も、警察側も、通信を端的かつ手短に済ませ、動いた盤面にそれぞれ対応する。


ここからの追いかけっこは、さらに過激になる。

互いの保有戦力が、PLに殺到するのだ。


勝負において、大切なことは2つ。

初動と連携。


この2つを制した陣営が、勝利を収めるだろう。


荷物を積んだPLは、ワンボックスカー。

内装は、座席がセカンドシート(2列目)までしかなく、サードシートは取り外されており武器庫になっている。


車を操るドライバーは、ヤンキー座りをしてタバコを吸っていた方。

無線で通信していた方は、助手席に座った。


ダイナは、2列目の座席、運転席の後ろに座っており、足元に荷物をしまっている。


このまま荷物を防衛できれば、ダイナたちの勝利だ。

ロンダリングゲージが視界の隅に表示され、じわじわとゲージが増加している。


車は、大きな体に見合わない滑らかな加速でセントラルの道路を、進行方向を無視して進んでいく。

NPCたちが運転する車が、危険車両を認識して道路の脇に緊急停止して、NPCが避難しはじめる。


これで、道路を広々と使うことができる。


その上を、ダイナをPLまで運んだヘリが追従する。

ヘリのクルーは4人。


PL車内では、無線を使う通信手が、ホログラムの地図を投影する。

逃走ルートの段取りを考えているようだ。


地図情報では、敵の位置も味方の位置も把握ができない。


窓を開ける。

音を聞く。銃の音、エンジンの音、その他の環境音。


風に紛れる音から情報をかき集め、自分たちの周囲で何が起こっているのかを把握する。


右側から銃声が響いている。

ゲームの匂いを嗅ぎつけたバンディットとアサルトが遭遇し、小競り合いが起きているようだ。


ドライバーに進路を指示する。


「次の交差点を左に。」

「あいあい。」


ドライバーは、片手でハンドルを操り、タバコを取り出す。

通信手がジッポーを取り出して、タバコに火をつける。


()ぅと一服。

車内に煙が浮き、甘い香りが立ち込める。


タバコ運転手は、ダイナに声を掛ける。


「なぁ、お嬢ちゃん。一発、景気が良いのを頼めないか?」

「‥‥???」


小首をかしげるダイナ。

その様子を見て、またタバコを一服吸い込んで吐き出す。


「ああ、すまない。PvPではな、積み荷を積んで逃げる時に、ポリ公どもに一発メンチ切ってやるのさ。

 ”どうした? 掛かって来い”ってな。」


そっちの方が、お互いアガるんだよ。タバコ運転手はそう続けた。


「メンチ切るのは、激戦から金を持ち帰ったバンディットの特権なんだ。やってみないか?」


ゲームは、バンディットとアサルトの小競り合いから、ポーターとハウンドが投入される総力戦へと移行した。

そのゲームの移行を知らせるためにも、気分を更にアゲるためにも、「メンチを切る」行為は求められているのだろう。


ダイナは、運転手の言葉に、笑顔で答える。


「うん、やってみる。」

「そうこなくっちゃ!」


通信の回線を開き、オープンな通信に変更する。

味方も、敵にもダイナの声が聞こえるようになる。


第2ラウンドを告げるゴングを鳴らすために、ダイナは口を開く。


「ボクはここだ! 掛かって来い!」


瞬間、味方の通信から大きな閧の声が返ってくる。

者々、無法者諸兄諸君、皆の闘争心に燃料がくべられる。


士気が、一気に向上していくのを肌で感じる。


ダイナは、自分の一言が軍団を動かしたことに、感動する。


この、大きな一体感。

それが、PvPの魅力!


顔も知らない仲間の声に、肌が震える。


運転手は、ダイナの演説に、たいそう気を良くしたようだ。


「フォォー! いいね! 最っ高のBGMだ!」


窓を開けて、タバコを投げ捨てる。

テンションが上がったので、追加でもう1本タバコを吸うことにする。


「あんまり吸い過ぎるなよ?」


助手席の相方が火をくれる。


――煙を吸い、吐き出す。

うん、ウマい!


セントラルの秩序を乱し、混乱をまき散らす犯罪者を前に、警察陣営も黙っていない。


「頭に乗るなよチンピラ風情が。

 総員、奴らを潰せ! 秩序を脅かす悪党を、野放しにするな!」


警察も警察で、士気を高めているようだ。


ダイナたちに、ポーター仲間が合流する。

合流した車でPLを守るように、陣形を組む。


乗用車3台で前と左右を固め、トラックが後方を守っている。


「おほー! カワイ子ちゃん、はっけーん!」


PLの左側を守る車に乗っているナンパ男が、ダイナの姿を認め歓喜する。

自分が座る助手席の窓に張り付いて、麗しの電脳美女を眺めて心を潤す。


ダイナが、ナンパ男に気付く。

ニッコリと満点のスマイルで、ナンパ男に手を振った。


男も、ダイナに両手で手を振り返す。

テンションが上がり、この喜びを相方の運転手にも共有する。


「なあ! 手ぇ振ってくれた! 手ぇ振ってくれたって!」

「分かった! 分かったから集中しなよ。」


相方は、いつもの調子のナンパ男に、こちらもいつもの調子で返す。


「‥‥オレ、この戦いが終わったら、あの子とお喋りするんだ。

 まずはそうだな――、そう、好きなミュージシャンからだな。」


ナンパ男の縁起でもない発言に、ため息。


「この戦いが終わったら」なんて言うセリフは、映画やドラマじゃこれから死ぬヤツのセリフである。

ゲームなどのサブカルチャー界隈では、人それをフラグと言う。


まあ、もともと軽い命である。

その中でもPLの護衛とは、特にお手軽に命を捨てられる、密かな人気スポットなのだ。


自分の命よりも優先して守るべき対象があるのだ。

自分がどんなにキルの山をこさえようと、PLが破壊されては意味が無い。


そのため、危機的状況とあれば、いつでも何時であっても、PLを守るために命を差し出さなければならない。


いわば、軽い命の叩き売り会場である。

常に、「自分の生を如何に使うか?」ではなく、「自分の死を如何に使うか?」という思考が求められる。


‥‥ふむ、実に美味しいポジションではないか。


やられ役の美学とロマンを追求する者たちにとって、これほど美味しいポジションは存在しない。

このポーターなんて貧乏くじを、進んで志願するプレイヤーは、散り際の美学に酔っている連中が多い。


死にたいヤツは、経験未経験を問わず、新規ポーターを募集中である。

ただし、カワイ子ちゃんは除外。


相方は、念のため釘を刺しておく。

軽い命は、役割を放棄する理由にはならない。


使()()()は、間違えるなよ?」

「あたぼうよ!」


ナンパ男は、自分が着込んでいるタクティカルベストを、握り拳で叩いた。


PLにポーターが集結するのと同じくらいのタイミングで、警察陣営のハウンドも到着する。

ポーターたちを後ろから追いかけてくる。


ダイナも、その姿を補足する。


その数、5台。

5台、なのだが――。


「なに‥‥、あれ‥‥?」


窓から顔を出し、後方を確認するダイナ。

敵は上空に居る。


翼を持った鉄の鳥、攻撃ヘリコプター。

それが2台。


これは良い。

空の敵は厄介であるが、常識の範囲内だ。


だがしかし、残りの3台が問題だ。


敵の編成は、攻撃ヘリ機に、輸送ヘリ3機。


輸送ヘリとは、名前の通り輸送に特化した兵器である。

大量の物資や兵士を、効率よく空から届けることができる。


ただし、本体の戦闘力はどうしても弱くなってしまう。

そのため、何を積んでいるかと、どこに届けるかが大切になってくる乗り物だ。


適切なタイミングで、適切な戦力を届けることができれば、下手な攻撃ヘリよりも脅威となる乗り物でもある。


そんな輸送ヘリが、満を持してPLの攻防戦に持ち込んだ戦力は――。

3台の戦車であった。


戦車をワイヤーで吊るし、戦車が走ることができない空を飛んで、最短距離と最高速でPLの目前まで運んできたのだ。


戦車を吊るすワイヤーが切り離されて、戦車が道路に投下される。

鉄で覆われた獣は、落下の衝撃を物ともせずに、キャタピラで道路を捉えターゲットへと迫ってくる。


PLを狙い、緊急停止した一般人の車両を跳ね飛ばし、踏み潰しながら、PLに迫らん勢いで距離を詰めてい来る。


――絶句。


降って湧いた敵勢力に、窓から身体を出したまま停止してしまう。

運転席の方から、甘い煙が香る。


「全部で5機か、‥‥まあまあ、だな。」


トラックの荷台に乗っている仲間が、シールドジェネレータを起動する。

小型発電機のような形をしたシールド生成装置の、スターターロープを引っ張ると、ジェネレータが機動。


生成装置が音を上げて起動して、トラックの後方を守る大きなシールドが展開された。

これで、後ろからの攻撃をある程度防げる。


荷台の仲間は対空ランチャーをを構える。

空の五月蠅いハエを黙らせる。


ヘリがフレアを撒き、高度を上げていく。

それを味方の汎用ヘリが追う。


「空は任された。時間を稼ぐ。」


味方ヘリは、敵ヘリに制圧射撃をして挑発し、戦線から引き剥がす。


残ったのは、戦車3台。

巨大人型兵器CE (センチュリオン)、その名の由来となったイギリスの戦車、イギリス軍において初の主力戦車、センチュリオン。


第二次世界大戦後、約80年間に渡って、世界の軍隊と戦場を渡り歩いた傑作車両。

それが時を経て、電脳世界で息を吹き返す。


当時としては充分な火力、頑強な防御性能、そしてメテオエンジンによる圧倒的な走破性。


走攻守、この3つを高い水準で満たした新時代の戦車。

それがセンチュリオン。


科学と魔法の力で近代化改修を施され、時速100km以上の速度で逃走する犯罪者に追いつく勢いで、鉄塊たる体を走らせる。


PL車に乗る通信手が、護衛車に指示を出す。


「シールドの影に隠れろ。

 縦列陣形、ポーター2、ポーター5はPLの後ろへ。」


「「「「了解!」」」」」


隊列が動き、フォーメーションが変化する。

トラックが発生させたシールドを盾にして、攻撃に備える。


センチュリオン3両の砲門が動く。


トラックからは、単発式のロケットランチャーを肩に担いだチンピラが戦車に照準。

シールドは、敵からの攻撃は遮断しつつ、こちらの攻撃は通過させることができる。


シールドを挟んで、睨み合う。

‥‥‥‥。


「「――撃てッ!」」


両者、同じタイミングで攻撃。

ロケットランチャーの弾頭が、戦車の砲撃が、互いの仇敵を狙い捉える。


砲撃がシールドの1点めがけて収束、直撃する。

砲撃の衝撃と爆発がシールドを大きく動かし、生成器が異音を上げて苦しむ。


砲撃による空気の振動がPL車まで伝わって、車を揺らす。

ダイナは反射的に屈んで、両手で座席シートを掴んで身体を支える。


護衛されているPL車でさえこれなのだ、シールドを張っているトラックへの影響は凄まじかったであろう。

PL車を襲う衝撃が収まったタイミングを見計らい、ダイナは後方を確認する。


(くだん)のトラックは、車体を大きく揺らしながら、蛇行する。

蛇行に釣られて、シールドがフラフラと振れてしまって護衛の要を成さなくなってしまう。


守りが手薄になり、蛇行するトラックは戦車との距離が一気に狭まっている。


戦車には傷ひとつ付いていない。

弾頭は確かに命中したのに、正面の装甲を抜くには及ばない。


(――ここだな。)


ナンパ男の横でハンドルを握る相方は、ハンドルを人差し指で叩いている。

いつでも動けるように、サイドミラーとルームミラーを厳と睨みつける。


準備はできた、合図はいつでも良い、シチュエーションも最高。

後は、ボスの指示が下りるのを待つだけ――。


来た!


「プランBで行く、速い者勝ちだ。死にたいヤツから先に行け。」

「「「了解!」」」


PL車を守っていた3台の車が、隊列から離れていく。


「‥‥え?」


あっけに取られるダイナ。

彼女を尻目に、通信からは賑やかな声が聞こえる。


「ひゃっほぉ~ッ! 待ってたぜ!」

「相手に取って不足はねぇぜ!」

「カワイ子ちゃんに、イイとこ見せちゃうもんね!」


3台の車は、各々車を綺麗に切り返し、進行方向を変える。

路面を滑るスキール音が、低く唸り、高く鳴く。


車が頭を戦車の方に向け、走り出して行った。


「――!?」


ダイナは、黙ったまま自分たちから離れていく車両を見つめる。

彼らのしようとしていることが、理解できてしまった。


――PvPにおいて、プレイヤーの命はとても軽い。


「センチュリオンは下の装甲が薄い、そこを狙うぞ。」


3台は通信を密にして、連携を強固にする。

3台が横に並び、1両の戦車に狙いを定めた。


左右2台の車が先行し、中心の1台がその後ろを走る陣形を取る。


「血迷ったか! トラックを消し飛ばしたら、次はお前ら――。」

「!! 砲撃中止! 待て! 退避しろ!」


トラックへと照準していた砲撃を中止させ、戦車部隊の隊長と思わしき人物が退避を促す。

しかし。


「遅いぜ!」


行儀の良くないワルガキたちが、()()()()に割り込む。


戦車3両のうち、向かって右側を走っていた戦車に正面衝突を仕掛ける。

両輪のキャタピラに、2台の車が速度と質量を乗せて激突した。


けれども、体格(タッパ)の差は歴然。

軽い命と軽い車両は、重い戦車に踏み潰されてしまう。


車のフロントが、どんどんキャタピラの中に消えていく。


そこに最後の車が、戦車の真ん中部分に激突してくる。

それでも、戦車は止まらない。


――が、3台目の車は、キャタピラが車を踏みつけて浮いた分だけ、深く戦車の下に潜り込んだ。


「コイツ等、まさかッ!?」

「へっ! 次と言わずに、コッチから来てやったぜ!」


驚愕する戦車のクルーに、ナンパ男が啖呵を切る。

タクティカルベストのジッパーを下ろす。


彼だけでなく、突進した車に乗っている全員が、ベストのジッパーを下ろす。


タクティカルベストは、弾薬や武器を収納するための衣類である。

大小様々なポーチがあり、そこにマガジンやピストルを収納できる。


だけども、タクティカルベストは武器をしまうだけでなく、武器を隠すことだってできる。

ベストの下、人間の死角となるそこに、武器を隠すことだってできるのだ。


視界の死角、意識の死角。

そこに隠された暗器は、致命の一撃を繰り出す武器となる。


それが、例えどんな兵器であっても。

例え、それが歴史的な傑作車両であっても。


特攻隊のベストの下には、大量のダイナマイトが巻かれていた。

きちんと近代化改修を受けて、きちんとこの世界の兵器に通用する爆発物。


――PvPにおいて、プレイヤーの命はとても軽い。

――それこそ、無価値と呼んで障りないほどに。


だからこそ、プレイヤーは戦う必要がある。

自分の命に、その価値を、この世界に証明するために!


「地獄で会おう――。 ベイビー。」


無機質なスイッチが火散(カチリ)と鳴り、大きな大きな、戦車を覆う程の火花が起こった。


下方向からの火花に煽られた戦車は宙に浮き、突進してきた愚か者を等しく踏み潰した。

踏み潰し、黒い煙を上げ、道路をキャタピラで削り割り、隊列から遅れて離されていく。


‥‥‥‥。

‥‥。


PL車の運転手は、先の短くなったタバコを外に捨てる。

捨てた場所をトラックが通り、遅れて2両の戦車が通り過ぎた。


タバコは、捨てられた後も燃え続け、甘い香りをその場に燻らせている。

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