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SS2.5_ドラッカー・サガ

石の天井に張り付いたまま、セツナは墜落する太陽を見ている。

アイが居てくれると、非常に心強い。


正面戦闘が得意なプレイヤーとクラスが居るだけで、ゲームメイクが非常に楽になる。

おまけに、回復役までこなすから、安定感も抜群。


なるほど、ゲームにおいて、タンクとヒーラーが重用される理由が良く分かる。


そんなことを考えていると、谷から大きな風が吹き荒れる。

風には、熱が混ざっている。


沈みかけた太陽が輝きを取り戻し、再び昇る。

――第2形態。


二度目の日盛りとなった太陽は、虫のように岩に張り付くセツナと同じ高さまで昇り、翼から熱風を漕ぎ出す。


それを、テレポートで前方に回避。

赤ミミズクに接近する。


スキル ≪シルバームーン≫ を発動。

足で月の弧を描き攻撃。


しかし銀色の刃は、太陽の熱で溶かし焼き消えてしまった。


空中に居るセツナは、もう一度、太陽の風に煽られてしまう。

熱で体力が奪われる。


体力を奪われつつ、風を利用して橋の横にワイヤーを撃ち込み、橋上に復帰する。

上に居たアイと横並びになる。


それを見下ろすように、二度目の日輪が翼をはためかせる。


赤ミミズクは、輝きを強めると、橋の空中に4つの太陽を生み出した。

橋の上の2人を囲むように、正方形を描くように浮かんでいる。


猛烈な熱を生み出す、赤い魔石。

それを召喚したのである。


ミミズクの生み出す熱ほどでは無いが、春の真昼の如き陽気が体力を奪う。


その陽気は人間にとっては灼熱だが、赤ミミズクにとっては心地が良いらしい。

彼奴の周りに緑色のエフェクトが現れて、傷が癒えるような演出が発生する。


さらに、赤ミミズクの行動は終わらない。


空を飛び、自分の通った軌跡に魔法陣を展開。

そこから、太陽光を凝縮した光線をいくつも放つ。


熱線を躱す。


赤ミミズクは、先ほどと異なり、低空飛行でこちらの様子を窺っている。


2人がしなければならないことは、2つ。

4つの太陽の破壊と、赤ミミズクの相手。


当然、分担した方が効率的だ。


「設置物は私が、ボスの相手をお願いします。」

「了解。」


太陽の魔石をアイ、ミミズク本体をセツナが担当することにした。

ミミズクの行動パターンは変わり、積極的に飛行するようになり、着地に消極的になっている。


それならば、パルクールが得意なセツナの方が適任であろう。

彼は、低空飛行をする赤ミミズクに対して、橋の上や横や下を駆け回りながら、渡り合っている。


アイは、変則二刀の武器をしまう。

代わりに、インベントリから「主力火器」を取り出す。


遺跡調査にて支給された、コイルガンもこのカテゴリの武器。

遺跡調査をクリアすることで、高威力の銃火器を装備する装備欄がアンロックされたのだ。


彼女が主力火器として選んだのは、汎用機関銃「GPMG」と呼ばれる火器。

「電動ノコギリ」という異名を持つマシンガンを、科学と魔法にて近代化改修した武器である。


膝立ちになり、全長1.2メートル・重さ15kg超の銃を構えて、引き金を引く。

ふわりとスカートが舞って、銃口から怒涛の弾丸が射撃される。


電動ノコギリは、分間1200発の弾丸を吐き出す。

アイの手に持つ、GPMGも同様の射撃レートを誇る。


秒間20発という暴力が、4つの太陽のうち1つに降り注いだ。

時間にして10秒、200発の弾丸を浴びた太陽が割れて砕けた。


残り3つ。


じわじわと、春の陽気が、身体の水分を蒸発させていく。

時間制限つきのギミック。


もたもたしていると、力尽きてしまう。

DPSチェック(※)というヤツだ。


※DPS:ダメージパーセコンド。直訳すると秒間ダメージ。ゲーム用語の「火力」と同様の意味で使われることもあり、そこは文脈で判断。


GPMGに差し込まれているマガジンは、「リピーター」という機能を備えており、無限の弾丸を銃に供給することができる。


尽きることのない、秒間20発の奏でる衝撃に、存分に酔いしれると良い。

‥‥銃が、射撃(ショット)を煽るペースについて来られるのであれば、の話しではあるが。


バレルから湯気が立ち、銃口から煙が吹き出る。

驚異の連射力にバレルが耐えられずに、オーバーヒートしてしまった。


そこで、バレルの右側基部、トリガーに近い部分にあるボタンを押す。

このボタンは、イジェクトボタン。


ボタンを押すと、バレルを覆っていたカバーの右側が開いて、中のバレルをイジェクトした。

赤熱した鋼の棒が、銃から吐き出される。


インベントリから新しいバレルを取り出して再装填。

バレルを押し込んで、カバーを閉じる。


この銃は、弾倉では無く、バレルをリロードする銃なのだ。


息を吹き返した銃口を太陽の魔石に向けて、再び引き金を引く。

機関銃が、再び秒間20発の音色を奏でる。


息継ぎ無しで10秒間奏でて、魔石が割れて、息継ぎに入る。

バレルを交換、引き金を弾き、もう一度かき鳴らす。


魔石が割れて、残り1つとなる。


煙を吹いている機関銃をインベントリにしまう。

ベルセルクの武器に持ち直す。


スキルを発動、左手の斧が電気を帯びる。


斧を魔石に向かって投擲、 ≪雷の爪≫ 。

雷神の鎚のように、この斧は必ず自分の手元に戻ってくる。


魔石に刺さった斧が瞬間移動して、左手に帰ってくる。

もう一度、同じように投擲。


魔石に亀裂が大きく走る。


魔石に刺さった斧にマジックワイヤーを射出。

左手首のリストブーケから、植物のツルを三つ編みに織り込んだワイヤーが伸びて、斧を掴む。


ワイヤーで斧を巻き取り手繰り寄せる。

適当な長さまで手繰り寄せたら、ワイヤーを左手で掴んで、縦に円を描いくように振り回す。


斧の重みで、ワイヤーは手の中で不気味に振れ動く。


ワイヤーで繋がれた斧を投擲。

遠心力で威力を増した一撃が、魔石を完全に破壊した。


魔石の太陽は沈んだ。

人を殺す熱も、鳥を癒す熱も失せて消えた。


斧をワイヤーで巻き取って、手の中に収める。


セツナに合流する。

ちょうど、彼が橋の上に戻って来た。


すり減る体力のペースが鈍ったのを見て、アイが合流することを悟ったのかも知れない。


羽ばたきから生み出される熱波を、後ろ飛びで躱して、橋の横に隠れて、ミミズクが近づいたところに、橋の影から奇襲を仕掛けている。


アイは斧を投擲、ミミズクが首だけこちらに寄越して睨んでくる。

斧は命中したが、大したダメージにはなっていないらしい。


だが、注意は引けた。

投擲の被害は少なくとも、大鉈の一撃は無視できない。


投げた斧が、ワイヤーで巻き取られて戻ってくる。

手元の斧を、鎖鎌でも振り回すかのように、ワイヤーに繋がれた斧をしならせて、宙を飛ぶミミズクを攻撃する。


ミミズクが、体もこちらに向けてくる。

ワイヤーに繋がれた斧が、大きく横に弧を描いてミミズクに迫る。


横薙ぎのそれを、飛行高度を上げることで回避。


手元に戻った斧からワイヤーを切り離す。

スキルを発動。斧が電撃を帯びる。


標的を追尾する力のある斧が、アイの手元から放たれた。


斧は縦方向に回転、ミミズクの上の方へと投げられた。

‥‥いくら追尾能力があろうとも、とても標的を捉えられない角度で飛んで行く。


利き手では無い腕での投擲など、本来はそんなものだ。

だからこそ、追尾能力が与えられているのだから。


ミミズクは、投擲を身を屈めるように躱す。

飛行の高度を下げて、斧をやり過ごした。


斧は、身を屈めるミミズクを追って下方向に軌道を変えたものの、やはり標的の頭上を通ってしまう。


――その瞬間。


ミミズクの頭上を通り過ぎる斧が、彼奴の頭の上で静止する。

異変を感じ、首だけで頭上を見上げる。






そこには、セツナがアイの投げた斧を手に取り、ミミズクに振りかぶっていた。

≪ブレイズキック≫ が発動する。


下方向への慣性が強くなり、身体が加速する。

身体を地面と平行にして、斧を振り回転して、威力を増幅させる。


慣性と重力と遠心力の乗った一撃が、ミミズクの脳天に突き刺さった。


地を駆ける隼の一撃は、ミミズクを石の地面に叩きつける。


セツナは、そのまま橋の横へと避難。

視界の隅でチラリと見えた脅威から逃げる。


ミミズクの優れた聴覚が、橋の上の音を隈なく拾う。


ワイヤーを巻き取る音、地面を滑る音、そして――。

嵐が巻き起こる音。


アイが、ワイヤーで地上を滑りながら、嵐の力を溜めている。

ワイヤーを使うことで、本来はできない、移動しながらの嵐溜めをしているのだ。


ミミズクは、咄嗟にブレイブバーストを発動。

迫る嵐と冬の時代を、太陽の魔力で跳ねのける。


しかし、完全には威力を殺せなかった。

太陽の魔力を押し破って、いくつかの氷塊がミミズクの羽を傷つけた。


最大まで溜められた嵐は止められない。

それを呼び起こし巻き起こした本人であっても。


嵐と太陽の衝突で橋が大きく揺れてもなお、アイは依然と立ったままだ。


ミミズクは立ち上がり、残る力を全て振り絞る。

魔力を――、命を――、ひとつの太陽に。


赤い瞳が、その様子をじっと見つめてる。


「ここからは、私がショータイムです。」


アイの言葉を聞いて、セツナは彼女のフォローに回る。

――用心に、越したことは無い。


EXスキルを発動。

両手の武器が消えて、アイの胸の前にルーンが浮かび上がる。


ルーンは、アイの身体へと向かい、すり抜けて背中から出てくる。

それと同時に、彼女の身体を赤紫のオーラが覆う。


オーラはまるで竜のような形を得る。


このEXスキルは、竜の力を宿す技。

北欧の戦士において、竜は特別な意味を持つ、


戦艦にドラッカーと名付けるように、竜退治が英雄譚の華であるように。


竜の力を纏い、宙に飛び上がる。

両手を前に出し、力を集め、竜のブレスを模した魔法を練り上げる。


力を溜め、練り上げ――、解き放つ!


「ドラゴニックブレス!!」


赤紫色をした竜の魔力が、空へと昇る太陽と激突した。


魔力の衝突は、大気を震わせ、山を唸らせ、大地を持ち上げる。


ぶつかり、混ざり、掻き消し合い、拮抗し――、太陽が空へと突き抜けた。


竜のブレスは、太陽の熱に焼き切られる。

太陽が、アイの眼前に迫る。


迫りくる太陽を、アイは――、拳で受け止めた。


柔よく剛を制す。

だが、剛よく柔を絶つ。


単純な力こそ、最も優れた武器なのだ。

そして、膂力において竜という種族は、その頂点に迫る。


太陽が、拳の膂力に押され、亀裂が生まれ、砕ける。


――柔よく剛を制す。


竜が、空から強襲する。


――しかし、剛なき柔は、無力なり。


ミミズクの頭を押さえつけ、地面に叩きつける。


――知恵も、百計も、天啓も。


牙を突き立てた獲物を、力任せに地面を引き摺り回す。


――全て万慧(ばんけい)の一切は、竜によって砕かれる。


獲物を伴い宙に飛び、渾身の一撃でもって。


「ドラゴニック――、ダイブ!!」


太陽を騙る鳥を、膂力のまま大地に静めた。


‥‥‥‥。

‥‥。



竜の一撃は、相当な威力を持っていた。


大ミミズクの巨体を引き摺り回し、そのまま大地に埋める勢いで、力任せに叩きつけて捻じ伏せた。

そのせいだろうか? 叩きつけた衝撃で、橋にみるみる亀裂が生まれ、崩壊を始める。


橋の裏から表へと向けられた地鳴り、数度に及ぶ嵐、そして竜の一撃。

戦場となった橋は、天変地異に見舞われていた。


天変地異によって、憐れ、虫たちの城は音を立てて崩壊していった。


「ソードコア × グランドスマッシュ = ――。」


崩壊が激しかったのは、激震地であり崩壊の中心となったアイが居る場所。

ミミズクと一緒に、白い谷に吸い込まれていく。


「アイ!」


比較的大きな足場に難着陸したセツナ。

重力で谷に吸い込まれていく足場の上から、アイに向けてマジックワイヤーを伸ばす。


アイはそのワイヤーを掴み、セツナの元へ。

彼の隣には、棺桶のような巨大な武器が身を起こして待機している。


意図を察して、タイミングを計る。

セツナとの距離が近くなったところで、空中ジャンプ。


棺桶の上に飛び乗る。


ソードコア × グランドスマッシュ = 火薬の石棺(ガンロッカー)


――魔導ガントレットに込められたソードコアが炸裂し、黒い煙を噴き上げる。


火薬が爆発する力を利用して、石棺を繋ぐ鎖を振り抜き、アイを上空へと打ち上げる。

彼女はそれに合わせて、自身もタイミングよくジャンプをして、上昇力を稼ぐ。


長身細身な身体が、火薬と質量によって上空を舞う。


そのまま、くるりと縦に身を翻して、頭が下になった姿勢でマジックワイヤーを射出。

射出されたワイヤーを、セツナが掴んだ。


火薬の石棺が生み出したエネルギーが2人で共有され、白い奈落から身体が飛び舞い上がる。


度重なる生存競争と、自然の崩壊と崩落にあって、最後に立ったのは冒険者であった。

谷底で大きな音が響き、それを霧が吸い込んで、静寂が訪れる‥‥。



橋を失った谷と断崖の前に、2人は立っている。


遺跡の次は、橋の破壊ときた。

生態への影響と、事後報告が怖いが、それは未来の自分に任せよう。


空からは、厚い雲を破って、晴れ間が覗き始めた。

嵐は過ぎ、じきに秋の季節が戻るだろう。


雲の縫い目から、太陽の光が、遺跡のある山頂を照らす。


セツナが、アイに話し掛ける。


「アイ、どうだった? 今回の冒険は?」

「ふふ~ん。終わりよければ、すべて良しです。」


そう言って、片手で頬っぺにピース。


アイは、赤ミミズク戦で大立ち回りの大活躍であった。


細々としたダメージで削ってくる敵に対して、ベルセルクは相性が良い。

パッシブの被ダメ回復と、スキルのリゲイン能力の高さは、細かいダメージに対して有効に働く。


逆に、かすり傷が致命傷となる魔導拳士にとってはツラい相手だった。

そんなセツナは、魔石拾いたちに一泡吹かせることに一役買っている。


計らずしも、今日も互いに見せ場があった冒険であり、今日も充実した冒険であった。


頬っぺにピースのアイと、セツナも同意見のようだ。


「雪辱も果たせたし、何より何より。」

「ええ、すっきりアイちゃんです。

 ‥‥‥‥。それにしても、ふふふ――。」


「???」

「ペンギン屋さん。ふふ――、ペンギン屋さん冥利に尽きる活躍でしたねセツナ。」


彼の幼少期、幼心に抱いた将来の夢は「ペンギン屋さん」であったことを思い出すアイ。

今回は、彼の動植物に対する好奇心が功を奏した冒険だった。


アイはくつくつと、口元を抑えて微笑んでいる。

幼少期のセツナが、「しょうらいの夢は、ペンギン屋さん!」と言っている姿を想像する。


――微笑ましい。


AIであるアイには、幼少期というものが存在しなかったので、少しだけ、羨ましくもある。

自分にも幼少の時代があれば、「しょうらいの夢は、お嫁さん」とか言っていたのだろうか?


くつくつ笑みをこぼすアイに、セツナもつられて口元がほころぶ。


「なになに? いいじゃんペンギン。かわいいよペンギン!」

「そうですね。今からでも真剣に目指してみたらどうです?」

「んん~、それは無理。生き物の命と人生を背負う責任に、耐えられない。」


かつて、両親からプレゼントされた金魚を育てていた時のことを思い出す。

家族を失うという事は、ツラいものだ。


そんなことが何回も起きるなんて、到底自分には耐えられない。

動物たち向き合う仕事をしている人たちは、立派だと思う。


知識だけでなく、心の強さも必要なのだから。

愛情が無ければ務まらないのに、愛情があるがゆえに苦しむのだから。


「ともあれ、これにて一件落着、らくちゃ‥‥く?」


セツナが笑顔のまま停止する。

身体が動かない。


――状態異常:麻痺。


「あっれぇ~???」


麻痺したセツナを見て、アイは人差し指を口に当てて考える。


‥‥‥‥。

‥‥はっ!!


天啓を得たり。


「ふっ、ふっ、ふっ、これはこれは――。」


悪い笑顔をしているアイ。

じわじわとセツナへにじり寄る。


「あ、あの? アイ? 笑顔が怖いよ? アイさん!?」


セツナを後ろから抱きかかえて、崖の傍まで移動。

電脳の身体であれば、人を担ぐくらい造作も無い。


「ちょいちょいちょいちょい――!?」


崖の岸についたら、慌てふためく彼の片脚を失敬。

天地ひっくり返して、セツナの身体を崖の外へと突き出す。


「マズいマズいマズ~イ! アイ! それはマズいって!?」


セツナは、動かない身体でジタバタする。

それを見て、アイは愉快そうに、抑揚の少ない声を弾ませながら話す。


「へいへいへ~い。今、セツナの生殺与奪は私が握っています。

 ――ヒロインは、美人で強くてヒーラーですからね。」


片手でピースするアイ。

アイのビルドは、ヒーラービルド。


ヒーラーとは、味方の生殺与奪を握っている。

生かすも殺すも、ヒーラーの気分次第なのだ。


「生殺与奪の意味、なんか違くない?

 コレやってること回復役(ヒーラー)じゃなくって、悪役(ヒール)‥‥。」


パッ! と、アイの手が離される。

一瞬の浮遊感をセツナが襲って、再びアイの手にホールドされる。


「‥‥~~~。」

「おおっとセツナ、口の利き方に注意してください。

 いいですか? 簡単です、ハイかイエスで答えるんです。」

「はい、なんなりと。」

「よろしい。」


アイは、インベントリから何やら取り出す。

セツナに、本を見せる。


表紙には、でかでかとアイの顔が写っている。


「新作の写真集を買いなさい、いいですね!」

「‥‥‥‥。」

「い・い・で・す・ね!」

「はい! 買わせていただきます。」

「ついでに、過去作も買いなさい。」

「買わせていただきます! それも買わせていただきますから!」


「ふふん、約束ですよ。」


写真集をしまい、指切りげんまんのジェスチャーをするアイ。


「分かった、分かったから。約束するから助けて!」


慌てふためくセツナに、アイは(がら)にもない、とびっきり満点な笑顔を向ける。


「それはできません。」

「‥‥‥‥。一応、理由を聞こうか?」


――うふふふふ。

――えへへへへ。


「私も麻痺しちゃいました。」

「あぁ‥‥‥‥。」


アイの身体が、徐々に崖の方へと倒れていく。

頭が出て、胸が出て、脚が出て――。


2人仲良く、崖下に真っ逆さまに落ちて逝った。


「とぉ~!」

「なんで、こぉなるのぉぉぉぉぉ!!??」


アイの呑気な声と、セツナの悲鳴が、山と森に木霊して冒険は終わった。

――――。


雨はやみ、霧は晴れ、青い空が帰ってきて、大地は秋を取り戻す。


世界は常に移ろいゆく。

沢を流れる紅葉のように、止まることなく移ろいゆく。


時が移ろえば、同じ場所にあっても、違う風景に出会うだろう。

それが、諸行というものなのだ。


だけれども、同じ場所、同じ風景にあって――。

そこに誰と居るかでも、見える景色は変わるであろう。


時の流れに諸行あり。人の歩みに情緒あり。


まったくもって――。どうしようもなく、この世界は美しい。

そのように、そういう風に、できているのだ。



――サイドミッション、イベント「秋雨に昇る」、クリア。

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