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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
3.5章_サイドミッション

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SS2.4_赤い黒薔薇

天蓋の大瀑布、遺跡に至る黒い谷。


白く深い霧に包まれたそこでは、生存競争という名の殺戮が行われていた。

マインアントの雪崩が、魔石拾いの魔物を飲み込み、彼らが身に着けている魔石を奪っていく。


魔石拾いが狡猾であっても、いや、狡猾であったからこそ、彼らはあっけなくアリの犠牲になった。


魔石の採取場へ不用心に踏み込んだ、セツナとアイを弄ぶことばかりに意識を取られ、自分が狩られるなど、思いもしなかったのである。


この魔石拾いの群れには、時を長く生きた老齢の個体が居なかったのであろう。

あるいは、それは若い個体の野心に討たれたか。


いずれにしても、山の頂の脅威について知りようが無かったのだ。

知識であれ、経験であれ、本能であれ、生存競争において無知は罪なのだ。


罪を犯したものを、自然は一切の情も無く裁いていく。

咎人に、祈る神の一柱(ひとはしら)でもあるのなら、別のことだけど‥‥。


‥‥‥‥。

‥‥。


セツナとアイは、採掘アリの狩りを目の当たりにしていた。

数で押し流し、奪い、殺していく。


濁流と雪崩は落ち着きを取り戻し、狩りの成果を咥えて引き返していく。


森の毒気にあてられた個体の何匹かはその場でひっくり返り、脚をピクピクと痙攣させている。

倒れた兵士を気にも止めず、生き残った兵士が宝石を漁り、略奪していく。


引き返すアリたちと目が合うが、襲い掛かって来ることは無かった。


冒険者たちが持つ魔石はインベントリに収められており、それにアリが干渉することはできない。

むしろ、森の毒気をたっぷりと吸った彼らは、アリにとっては百害あって一利無い。


手を出されないのであれば、互いに不干渉を貫くのみである。


2人は、霧で湿気る空気を肺に送り込んで、ため息。

緊張がふわりと緩む。


セツナは、森の方に向いた身体を、橋が架けられた山頂方面へと向ける。

アリが思い思いの帰路を歩き、巣に帰っていく。


濁流が山頂に引いていく。


ほっと一息。

安堵の心を映すように、空が明るくなってくる。


(太陽? 空が晴れた?)


立ち込める霧の上で、太陽の光が照りつける。

燃える天体の光が霧に乱反射して、一帯が光に包まれて溶けていく。


白い霧は、橙色に染められて、太陽の光を地上に縛って離さない。


霧が光を地上に閉じ込めるから、地上は山の上に燦然(さんぜん)とする太陽に、負けないくらい輝いていく。

太陽は、霧幻の太陽を見て、自分も負けじと益々輝いていく。


太陽は輝き、その熱を大きく、その姿を大きく――、落ちて――。

太陽が、空から落ちてくる。


「マズい!!」

「いけない!」


セツナとアイは、自分の身を白い奈落の谷に投げ出した。


すかさず、マジックワイヤーを射出。

岩肌に張り付く。


間もなく、地上に太陽が落ちてくる。

落ちた太陽は、岩に覆われた地上を焦がし、そこに居た生命を燃やし尽くす。


殺戮を繰り広げていたマインアントは、膨張する太陽の犠牲となり、燃え尽き消えた。


膨れ上がった太陽が、一帯の霧を払っていく。

霧は谷に押し込められて、地上と空を明け渡した。



2人は、頭上の太陽を見上げる。

辺り一帯を焦がすそれを岩に張り付きながら眺め、夕暮れを待った。


白い闇の奈落で太陽をやり過ごし、焦土の地上へと登る。


地上は、熱気で陽炎が立ち込めている。

雨の水気も、霧の湿気も、全てを焼き尽くして、曇り空の下を太陽が飛んでいる。


橋の上を、赤いフクロウが飛んでいた。


初めて遺跡の調査に来た時、橋上で冒険者に火計の不意打ちを仕掛けたフクロウである。


丸く大きな目の上には、角のように見える羽角(うかく)が生えている。

フクロウの中でも、ミミズクという種に見られる特徴。


ミミズクは、森棲(もりずみ)のフクロウと異なり、草原や砂漠などの環境に適応した種がいる。


角のような羽角に見られる外見的な特徴に、環境適応能力に秀でる生態的な特徴。

それが、ミミズク。


眼前のそれの、大きさは3メートル。

大型の魔法生物の中では小柄なサイズ。


しかし、体長は低い分類であっても、迫力は段違いだ。


フクロウとは、大きな翼を持つ鳥である。

翼を広げた翼開長は、体長の3倍にも迫る。


その翼は、幅5メートルの橋を優に覆えるほど広がっており、魔力の力でゆっくりと、されど雄々しく空に羽ばたいている。


翼をひと漕ぎする度に、火炎の粉塵が舞い、揚力を得るために漕いだ空の空気を、熱と共に地面に叩きつける。


羽ばたく羽は赤く、その者が火の魔法に長けていることをありありと主張する。


赤ミミズクは、退くつもりは無いようだ。

地上の生き残りを品定めするかのように、空から睥睨(へいげい)している。


その戦い、受けて立つ。

武器を構える。


アイのドレスのスリットを覆っていた薄い生地が消えて、機動性が確保される。

左手首にリストブーケという、造花をあしらった装飾品が装備された。


巨大な赤ミミズク、「六本爪の天啓」との戦いが幕を明ける。


さあ、冒険者よ。

太陽を騙る偽りの翼を、調伏(ちょうぶく)するのだ。



セツナとアイは、目配せで意思疎通。


手短に疎通を済ませて、谷を跨ぐ橋に駆け出す。

橋に足を踏み入れた瞬間、橋の入り口や崖を炎の壁が覆う。


逃がすつもりは無いらしい。


2人は、背中を撫でる赤い熱を気に留めることもなく、前に進む。


逃げるつもりは無いらしい。


知恵の象徴とも呼ばれるフクロウ。

彼は、自分自身の強みを知っている。


だからこそ、自分の有利な場所で戦う。

自分の強み。それは、熱量による広範囲攻撃。


それは足場の狭い所で有効だ。


太陽に近づけば、生物は死ぬ。

太陽とは、恵みの根源であり、死の根源なのだ。


翼をはためかせる。

空気が橋の上に叩きつけられて、熱風の波となって地を這う人間に迫る。


セツナたちの体力が、熱に煽られてちりちりと削られる。


セツナはダメージを嫌い、橋の路面から飛び降りる。

アーチ状になっている橋の横を、パルクールスキルのウォールランで駆け、赤ミミズクに接近。


アイは、クラス「ベルセルク」の得物である、ドラッカーハチェットという大鉈を肩に担ぎ、ハンドアクスを左手に握り、橋の上を突進。


熱風の熱源に、最短距離で近づく。

必然、皮膚を焼く熱波は、アイの体力を奪っていく。


アイの体力が減っていくにつれて、セツナの体力が回復していく。


パッシブ「光と闇のルーン」、及び、EXスキルに装備している「氷の炎のルーン」の効果。

2つ合わせて、自分の受けたダメージの20%分だけ、味方を回復させる。


そして、()()の対象には、自分自身も含まれる。


アイは、自分が負ったダメージを、自分が負ったダメージで回復しながら、熱波を突き抜ける。


赤ミミズクは、奇妙な行動に首をかしげる。

接近する奇妙な愚か者に、かぎ爪を振り下ろす。


やっぱり、この奇妙な愚か者は避けるそぶりを見せない。


アイは、肩に担いだドラッカーハチェットを下ろし、地面を擦るようにして駆ける。

スキルを発動。かぎ爪を――、顔面で受ける。


1023 - 119 + 23.8 = 927.8 / 1200.0


かぎ爪から、骨肉を捉えた感覚が伝わる。

だかしかし――。はて、気骨を折った感じが無い。


手応えはするのに、歯ごたえを感じない。


アイの右腕から、大鉈が振るわれる。

自分を踏みつけた足を跳ね飛ばし、足裏を深々と切り裂いた。


「飛燕刃。」


927.8 + 76.3 = 1004.1 / 1200.0


大鉈が、赤ミミズクの生命力を、体の外へと吹き流す。

大鉈は、その生命力を浴びて、アイの傷を癒す。


クラス「ベルセルク」。


ヴァイキングをして、狂戦士と呼ばれるそのクラスは、火力とリゲイン能力に秀でたクラス。

火力とリゲインを、ハイパーアーマーで怯みを無効にしつつ、無理やり相手に押し付ける。


敵の攻撃を正面から受けて、大鉈と斧で敵を叩き潰す。

例え傷を負い血を流そうとも、敵により多くの血を流させればよい。


誇りと復讐の戦士、それがベルセルク。

変則二刀の武器は、竜の牙と爪となり、嵐を起こす!


赤ミミズクは、アイの狂気的な攻撃に怯む。

怯んだ体に、天に伸びた2撃目がこちらを狙っている。


コイツは頭がおかしい。

生物として、大事なものが欠落している。


自傷を鑑みない化け物から、赤ミミズクは距離を取る。

翼をはためかせ、熱波を撒きつつ、橋の奥へと退いていく。


熱波で、アイの体力が削られる。


≪飛燕刃≫ をFキャンセル。

2撃目の攻撃をキャンセルして、そのまま ≪嵐と冬の剣≫ を発動。


地面を足で踏み鳴らす。

スリットからわずかに脚が覗いたかと思うと、彼女の周囲に暴風が吹き荒れる。


この技は、魔導拳士の ≪ブレイズキック≫ に似たスキル。

すなわち、攻撃技であり、移動技である。


≪嵐と冬の剣≫ をFキャンセル。

しかし、スキルをキャンセルしても、彼女を覆う暴風は収まらない。


この暴風を、脚に集約し――、解き放つ!


嵐の猛獣が、逃げた獲物に飛び掛かる。

一息で、猛禽を間合いに収めた。


赤ミミズクは、素早く火球を生成し、アイに放つ。


948.1 - 76.5 + 15.3 = 886.9 /1200.0


猛獣は、火を前にしても、やはり怯まない。

大鉈が振るわれる。


赤ミミズクは、これを飛翔して躱し、事なきを得る。

事なき得て、好機が訪れる。


ベルセルクが扱う、竜の牙たる大鉈は、人間が扱うには重すぎる。

空振って無防備になったアイに、赤ミミズクはかぎ爪を使って強襲。


猛禽類の狩猟の本能でもって、アイを肉薄する。


巨体を、急降下の速力で強化して、爪を空から振り下ろす。

――しかし、それはアイを捉えるに至らない。


大鉈に潜り込むように武器と身体を操って、爪と鉈で鍔迫り合う。


竜の牙は、人間が扱うには重すぎる。

ふむ‥‥。


断じて否である!


なぜ、ベルセルクが大鉈を得物として選んだのか?

大物長物であるならば、大剣でも大斧でも良いはずである。


その考えも否である。

竜の牙とは、大鉈の形をしてなければならない。


ドラッカーハチェットは全長1メートルを超える大型武器。

だが、本質は鉈であるため、柄の部分が剣のそれよりも長い。


つまり、柄を長く持てば、斧の一撃を。

柄を短く持てば、剣の小回りを。


大鉈は、大型武器にあって、山羊のように軽やかな敏捷を持つのだ。


アイは、赤ミミズクの強襲を認めたあと、柄を短く持ち替えて地に伏した鉈を起こし、その影に潜ったのである。


左腕で、鉈の峰を支えて、赤ミミズクの攻撃を凌ぐ。


ミミズクが片足を地に付けて、翼を漕ぐ。

熱風が起きて、アイの体力を奪う。


スキルを発動、 ≪嵐と冬の剣≫ 。

熱風を、暴風で押し返す。完全には押し返せず、熱がアイの体力を奪う。


それでも、嵐は着実に力をつけ、勢いを増していく。


数秒の鍔迫り合いが続き、熱風と暴風の主導権の奪い合いは、暴風に傾く。

空の太陽を、地上の嵐が覆っていく。


嵐に大粒の氷が混ざり、熱を掻き消し、凍結させていく。


赤ミミズクは、形勢の不利を悟ると翼を大きく振る。

飛び立って、嵐をやり過ごすつもりだ。


鍔迫り合い止め、地上から足を離し――。


瞬間、大きな地鳴りが赤ミミズクを襲う。

橋が1度大きく揺れて、脚がふらついて、翼に溜めた揚力が明後日の方へ逃げてしまう。


2度目の地鳴り、先ほどよりも大きく揺れた。

翼を大きく広げて、バランスを取る。


「――グランドスマッシュ!」


3度、今度はついに地面が裂けた。

裂けた地面から力の奔流が吹き上がり、体が意図に反して浮き上がってしまう。


地面を流れる力の前に、大きな翼は用を成さず、体が地面に叩きつけられる。


セツナが、橋の裏にマジックワイヤーで張り付いて、橋上の敵目掛けて拳を振るったのだ。

大地を震わす拳は、裏から表へと衝撃を伝えて、地に足をついた鳥を空にカチあげた。


空を飛ぶのは骨身に堪えるのだ、それが鳥であっても。

だから、無意識に楽をしたがる。


人に慣れた鳥は、驚くほど地べたを歩きたがる。


広範囲の熱波を連発したおかげで、セツナのアサルトゲージが思いのほか貯まったおかげもあり、奇襲に成功することができた。


縁の下の仕事をした彼の顔に、はらはらと砕けた石の粉が降りかかる。


そして、地鳴りの後は、嵐と冬の時代がやってくる。


「――嵐よ。」


大鉈が振り下ろされる。


≪嵐と冬の剣≫ は、嵐を溜めることで3段階まで強化されるスキル。

その、3段階目。


暴風を纏った竜の牙は、いかなる手段をもっても止められない。


空に嵐が吹き荒れて、大地を冬の寒さが凍てつかせる。

その被害は全方位に及ぶ。


大きな嵐を前に、世界はその余波で、大地は凍てつき空が裂けていく。

竜の牙が、嵐を呼んでいるのだ。


竜は、己が最も強いと、信じて疑わない。

だから、彼の(かの)存在の前では、太陽であっても平伏しなければならない。


太陽が嵐に挑むとは――、頭が高い。


曇天が空を覆えば、太陽の光は無力なのだから。

我が鱗の凍てつきこそ、我が心臓の憤怒こそ、この星なのだ。


暴風と氷の渦は、太陽から熱を奪い、それを白い谷に突き落とした。


733.1 + 161 = 894.1 /1200


太陽は落ちていく。

奈落の底へ。

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