3.11_銀月は、青く輝く。
騎兵の機銃掃射。
ゾンビの自爆特攻。
不可避の連携で、セツナは壁まで吹っ飛ばされて、叩きつけられた。
横隔膜が縮み上がり、吸気が抜けて身体が引き攣る。
引き攣るが、交感神経が活性化しているおかげか、無理が利く。
無理は利くが、無理は祟り、よろよろと立ち上がる。
ダイナが、騎兵から伸びた触手に囚われようとしている。
壁に背中を預けて、ベルトのポーチからコアレンズを取り出す。
逆転の切り札は、いつだって手の中にある。
アサルトゲージが消費され、コアレンズに込められた力が活性化する。
ガントレットの挿入口が開き、レンズを押し込む。
――その瞬間。
ゾンビがテレポートで現れ、勢いよくセツナに噛みつこうと組み付いてくる。
(行動パターンが‥‥!)
反射的に、ゾンビの腕を抑え込んで、組み付きをやり過ごす。
だが‥‥。
カラン――。カラン――。
切り札が手元を零れて、虚しい音を奏でて転がっていく。
(しまった。)
コアスキルの弱点。
それは、コアレンズを装填しなければ、使えないということ。
今回のような奇襲や、乱戦時には、逆転の一手を潰される可能性が高い。
敵の急な行動パターンの変化、味方の危機。
打開を焦る気持ちが、最善を選ぼうとする心理が、致命的に状況を悪くする。
EXスキルを使う選択肢は悪くない。ただ、行動に移るまでが速すぎた。
あと1秒、様子を見ていれば。
あと少し、ダメージからの復帰が遅ければ。
そして、あと少しでも判断が遅ければ、ゾンビの奇襲にも難なく対応できただろう。
経験と判断力、行動の速さが裏目に出た。
組み付こうとするゾンビを蹴り飛ばして、レンズを追いかける。
彼の行く手を、瞬間移動で現れたゾンビたちが阻む。
ゾンビのクセに、妙に察しが良い。
セツナに、走って襲い掛かる。
敵の機動力が異常に高まっている。
「どけッ!」
立ち塞がるゾンビの顔面を殴り、別のゾンビに後ろ回し蹴り。
一回転して勢いをつけて、首から先を跳ね飛ばした。
――カラン、――カラン。カラ、カラ、カラン。
コアレンズが、動きを止める。
群がるゾンビの足元で止まった。
混戦でテレポートは使えない。
移動先に敵が居た場合、あるいは現れた場合、失敗してその場で大きな隙を晒してしまう。
セツナは横っ飛び、地面に寝そべって、ワイヤーを射出。
ワイヤーがゾンビの股を抜き、レンズを掴む。
ワイヤーでレンズを絡め取り、手繰り寄せる。
人事を尽くして、天命を掴み取る。
勝利の女神は、いつも自分の掌に――。
コアレンズが、セツナの左手に戻ってくる。
‥‥反撃開始。
失った1秒を、人事で取り戻し、人事で抜き去る!
地面に横になっている無防備なセツナを、ゾンビは見逃さない。
走り、群れ、集る。
セツナは素早く、足を引っ込めて、後ろに受け身。
頭の上を足が通り過ぎて、足を床につけて、手を使わずに起き上がる。
間一髪でゾンビの噛みつきを躱した。
噛みつきは空振り、地面に牙を立てる。
地を這うゾンビを踏んづけて、別の追っ手が迫る。
前に躍り出たゾンビにソバットキック。
ガントレットの装填口を再度開く。
次の追っ手が来る。それは、右腕を横に振りかぶっている。
横振りに引っ搔き攻撃をしたゾンビを攻撃を、左腕で受け止める。
受け止めて、身を翻し、反時計回りに一回転。
その間に、コアレンズを装填。
左手に握ったレンズを、ガントレットのチャンバーに送る。
続けて、回転の勢いを使って、左腕で肘打ち。
スピニングバックエルボー。
相手に接近しつつ、奇襲性の高い一撃。
ゾンビの頭にエルボーが突き刺さり、泥の体が後ろにのけぞる。
――窮地でこそ、頭はクールに、心にビートを。
距離の離れたゾンビに、後ろ蹴り。
離れた間合いを調節するために、チャールストンステップというステップを踏む。
オンビート(表拍)で足を内股、オフビート(裏拍)で足を外股へ。
これを一拍の間に行いながら、右脚を下げて後退。続いて左脚を下げて後退。
2歩近づいて、後ろ蹴りで蹴り飛ばす。
オンビートで膝を曲げて溜めをつくり、オフビートで膝のバネを解放して弾んでキック。
心は研ぎ澄まされ、身体はリラックスしたキックは、リズムの力を借りて重い一撃になる。
グルーヴの乗ったステップキックで、集る群れの勢いがわずかに弱まった。
キックと同時に向き直り、ガントレットのチャンバーを閉める。
コアレンズの装填完了。
「ソードコア × シルバームーン = ――。」
太陽の右手が、銀色の光を放つ。
光を前にしても、敵の勢いは衰えず。
次から次へ、セツナにゾンビが襲い掛かる。
ソードコア × シルバームーン = 銀なる大輪
天から屋根をすり抜けて銀色の魔力がセツナに降り注ぐ。
円柱の魔力がセツナを囲み、ひときわ大きく瞬いて、汚染されたロボットを浄化して消滅させた。
――今、セツナの手には、二振りの剣が握られている。
右手には、エストックという、幅広肉厚で刃を持つ刺突剣。
鍔の真ん中に緑の宝石がはめ込まれ、柄が刃渡りに対して不釣り合いなほど長い。
そのため、ともすれば柄の短い槍にも見える。
左手には、小ぶりな短刀、カランビットナイフ。
虎の爪に似た形で、湾曲した刃を持ち、柄の尻の部分に指を通すリングがある。
本来の使い方からは外れるが、リングに指を通すことで、スムーズに順手持ちと逆手持ちのスイッチが可能。
剣を構えて、騎兵の方へと向く。
ダイナが地に伏し、馬が拳を振り上げている。
「‥‥‥‥。」
焦らず、冷静。月のように冷たく。
上手く演じることは無い。ただ、いつものようにあれば良い。
エストックに、青い光が集まる。
刃が魔力を帯びて、輝く。
奮い、衝動的に。月のように熱く。
月は太陽の光にて瞬き、情熱なほどに燃え輝く。
左脚で踏み込み、右脚を横に振る。
左脚を軸にして、右脚を重りにして、勢いをつける。
右脚を接地、左脚で跳躍。
身体を地面と水平にして縦方向に一回転、コークスクリュー。
刃の光が彼に追従し、光を強める。
勢いが増した身体を空中へ。攻撃態勢。
身体を地面と水平にして縦方向に三回転、――トリプルコークスクリュー。
高速回転する身体の遠心力で、刃が纏った魔力を――、解き放つ!
青白い魔力が引き延ばされて、大きな三日月となり、騎兵目掛けて飛来する。
瞬間、ダイナを葬らんとする拳が、風を裂いて落ち始めた。
もう、猶予が無い!
接地、ブレイブキャンセル、アサルトゲージが回復。
――アサルトダッシュ。
砂埃が音も無く舞い上がり、一呼吸で馬の後ろ足に接近。
加速した勢いを殺すために、床にナイフを突き刺す。
火花を上げて、身体に強烈なブレーキがかかる。
もう、猶予が無い‥‥。
だが、月が登るには、充分な時間だった。
身体は、ナイフを立てた左手を起点に反時計周りに回転する。
――その速度で、円を描く青い刃で、馬の後ろ足を斬りつける。
2つの三日月が、騎兵の脇腹と後ろ足に、同時に命中した。
フルムーン・クリーオ。
新月の双剣は、それを握る者に敏速の加護を与える。
夜を恐れる者の足は、速くなるものだ。
騎兵は、突然の強烈な攻撃に、暴れ回る。
ナイフを床から離す。
反時計回りしていた身体が、元来た道を帰っていく。
彼が先ほどまでいた位置に、暴れる馬の足が降って石の床を窪ませる。
地面を這うように飛び、騎兵から離れる。
適度に離れたところで、ナイフを地面に刺す。
ナイフのブレーキと、エストックに残った遠心力を使って半回転。
片膝立ちになり、騎兵を視界に捉え、滑りながら距離を取る。
視界の隅に力無く倒れるダイナが倒れている。
そんな彼女に、見境なく暴れる馬の前足が、不幸にも降りかかる。
「‥‥グリモワール・サイクロンボルト!!」
セツナが稼いだ時間で、ダイナの身体に自由が戻った。
アサルトゲージを2つ消費。
魔導書スキルの ≪魔導書サンダーボルト≫ と、 ≪魔導書マジックサクロン≫ をコストに、EXスキルを発動する。
前足の踏みつけは、膨大な魔力の壁に阻まれて、ダイナを踏み潰すには至らない。
その前足に、巨大な稲妻が一閃。
鋼鉄の手の平を貫き、風穴を開けた。
さらに、稲妻は大地を駆け抜け、駆け抜けた閃光が嵐を巻き起こす。
たちまち大きな竜巻が発生し、ダイナの近くを更地にせんと削り荒ぶる。
雷と風の大嵐に、騎兵の槍がへし折れる。
騎兵は、身体中からドボドボと黒い泥を吐き出し、そこからゾンビを這い出る。
騎兵も立ち上がろうとするが、前足の関節が砕けて、思うように動けない。
ゾンビが、動けない騎兵を守るように陣取る。
機銃を掃射し、その内の何体かに自爆特攻を命じる。
セツナは、逆手持ちにしたカランビットナイフを、エストックの鍔の上に刃先を合わせる。
鍔にはめ込まれた宝石目掛けて、ナイフの刃先を振り下ろす。
宝石に亀裂が入る。
もう一度!
宝石が砕け、エストックが輝き、ナイフが剣の刀身に吸い込まれていく。
月の片割れを吸収したエストックは、力が膨れ上がり、膨れ上がった力が刀身を巨大化させる。
自爆特攻隊が目の前に現れる。
みるみる手元で重さを増す剣を、身体を横に回転させて振るう。
到底、まともな筋力で振るえない大剣となった刃は、青い剣戟でゾンビを焼き祓った
今、セツナの両手には、身の丈ほどの大剣が握られている。
澄んだ銀色の刀身。
刀身は、夜空の月と星を映すように、青く輝く。
女神の寵愛が如く重たいそれを、全身を使って持ち上げ肩に担ぐ。
月の女神は、二面性を持つ。
自分より美しい世界に嫉妬し、全てを暗闇の胎へ吞み込まんとする、新月の姿。
慈愛の眼差しで夜を照らし、世界に映る全てを愛する、満月の姿。
銀色の儀仗は、月の女神の二面性を刃に降ろす。
満月の大剣は、握る者に勇躍の加護を与える。
すなわち、空へと飛び、女神と踊るのだ。
ゾンビの群れに駆け出す。
近づき、左脚で踏み込み、右脚を横に振る。
左脚を軸にして、右脚を重りにして、勢いをつける。
身体を地面と水平にして縦方向に一回転、コークスクリュー。
勢いが増した身体で大きく飛び上がり、トリプルコークスクリュー。
大剣が宙で満月を描き、哀れな屍に降り注ぐ。
≪ブレイズキック≫ を発動。落下する速度が速くなる。
――月は、太陽の炎で強く輝く。
回転の力を利用して、大剣で宙から空間ごと一刀両断する。
剣から光が零れて、ゾンビを月の光で焼いていく。
群れを縦に割るように隙間が生まれる。
駆け抜けて、勇躍。
月の加護で、高く飛び上がる。
◆
ダイナは、その月の明るさに隠れて、態勢を整える。
左手が痺れている。
赤いダメージエフェクトの中から、泥で汚れている以外は正常な腕が出てくる。
しかし、細胞に酸素を供給するための血液が足りていないのか、力を入れていないと痙攣して震えてしまう。
状態異常、欠損。
ゴア状態であっても、対象の部位が千切れたり潰れたりすることは無い。
しかし、運動能力に制限がかかり、リゲイン以外での体力回復が行えなくなる。
心臓か、頭部にゴアを負うと即死する。
騎兵から距離を取りつつ、襲い来るゾンビを捌いていく。
杖をしまい、コイルガンを取り出し、右手で構えて射撃する。
いまの左手では、繊細な動きは難しい。
0か、50、100みたいな大雑把な加減しかできない。
それでも、利き手が使えないのならば、反対の腕を使うだけだ。
銃には利き手の概念があり、左利きの人間でも、右手用の銃に触れる機会は多い。
走るゾンビを相手にする程度ならば、非利き手であってもハンデにすらならない。
震える左手でマガジンを引き抜く。
十二分に動く足でゾンビを蹴り飛ばし、もう一体ついでに蹴り飛ばして、コイルガンの装填。
次の自分の見せ場まで、持ち応える。
ダイナとゾンビを攻防の上で、セツナが騎兵にワイヤーを撃ち込む。
前足の関節の上に飛び移り、そこを足場にして跳躍。
空中ジャンプも使って、騎兵の頭の前へ。
≪ブレイズキック≫ を発動、足に熱が宿り、炎が舞う。
相手の脚を足場に跳躍、そこから相手の頭部に対して飛び蹴り。
これは、ある偉大な戦士の技。
生まれながらの天才と呼ばれ、天才を超えた魔術師となった、偉大な戦士の技。
「シャイニング・ウィザード!」
太陽の飛び蹴りが横一線。
遺跡に憑りつく異形が被る兜を溶かす。
日は昇り、やがて沈む。
――夜が来て、満月が天を横切る。
「シャイニング・フォロー!」
太陽と月の、水平二連。
太陽が黒い泥を溶かし、月が黒い泥を切り裂いた。
騎兵の身体を黒いオーラが包み、弾けて、セツナを風圧で弾き飛ばす。
ブレイブバースト。
ゾンビたちの動きが止まる。
糸が切れたみたいに、地面に倒れ動かなくなった。
騎兵は、ボロボロの鎧を引き剥がし、身体の至る所から触手を生やし、自分をコケにした人間を見下ろす。
――生かしては返さない。
――只では殺さない。
魔力が地響きを起こし、遺跡の床にヒビが入る。
床からも触手が這い出て、遺跡を呑み込もうをする。
馬が立ち上がり、騎士の腕と馬の腕、4本を構える。
どす黒い怒りが渦巻いて、冒険者を亡き者にしようと力を集めていく。
‥‥‥‥。
轟々と煮えたぎる魔力が、皮膚が灼ける喧騒が、なぜか小さく聞こえる。
「ダイナ、準備はいい?」
「もちろん、カッコよく決めよう。」
大剣を後ろに構えて、魔力を集める。
空から、遮る天井を無視して優しい光が降り注ぎ、剣に集まっていく。
杖を前に構える。
パッシブ「二度目の満月」が発動。
ブレイブゲージを消費して、EXスキルを使用する。
知識たる魔力は尽きた。ならば勇気でもって魔法を唱えよう。
杖から手を離すと、杖が独りでに浮き始め、自分の身体も一緒に浮き上がる。
杖が縦に回転する。
回る杖は、満月のように青く輝き始める。
杖の周りに、3枚のカードが現れて、杖に宿る魔力を増幅させる。
大剣は、光を吸収し、太陽の光が反射して銀色に燃える。
杖は、光を束ね、増幅させて青く輝く。
――――ッッッッ!!!!
黒い泥の魔法が2人に放たれた。
逃げる気はない、迎え撃つ。
冒険者の旅はいつだって、活路は前にあるのだから。
「フルムーン・クリーオ!!」
「グリモワール・ブルームーン!!」
一太刀の斬撃が、一筋の光が、泥の塊と衝突した。
受け止め、拮抗し、注ぎ、洗い流し、押し流し――。
清き濁流が浄化する!
泥濘たる暗闇を、二つの満月が注ぎ流した――。
白昼晴天の及ばぬ世界には、満月が昇り、暗闇を祓うだろう。
◆
岩山の遺跡は、陽当たりが良くなった。
歴史に沈んだ泥は、しかし、時の風化に耐えられなかったようだ。
光に照らされて――、干からびて崩れてしまった。
「「‥‥‥‥。」」
瓦礫の山から這い出た2人は、呆然と遺跡の跡地を眺めている。
『やったぜ!』
『やらかしたぜ!』
『遺跡の調査だっつってんだろォ!!』
『何という事をしてくれたのでしょう。』
『 [°凸°]シュー 』
『これは頭エージェント。』
「ねえ、ダイナ。」
「なあに、セツナ。」
「フレンド登録しない?」
「あ、いいね! しよ♪ しよ♪」
『www』
『現実逃h――、いやなんでもない。』
セツナとダイナは、お友達になった。
また一緒に遊ぼうね。指切りげんまん。
フレンド登録を終えると、ダイナが両手をポフンと合わせる。
「そうだ! せっかくだし、記念写真を撮らない?」
「‥‥ふっ、眩しすぎて、フィルムが火傷しちゃうぜベイビー(?)。」
マイトが丁度いい画角を探して、視線をそこに集めるように指示をだす。
マルが、みんなの立ち位置について、指示をだす。
マイトとマルは、配信のアシスタントを協力してやっていたらしく、すっかり仲良しになっていた。
遺跡を背景に、空を見上げた。
セツナ、ダイナ、マル、マイトの4人がそれぞれ位置につく。
ダイナが、明るい声で音頭を取る。
「――はい、チーズ!」
遺跡の跡地を背景に、シャッターがパシャリ。
「「私たちが、やりました!」」
「「この人たちが、やりました。」」
◆
「大馬鹿者!!」
机を叩く大きな音と、叱責の大きな声が、オペレーションルームに響いた。
『こっっっわ!?』
『あかんヤ~ツ。』
『oh‥‥。』
CCC支部3階、ホロオペレーションルーム。
ディフィニラ局長に、セツナとダイナはこってり絞られていた。
ディフィニラは机に肘をついた手で、自分の額をコンコンと叩いている。
お疲れのようだ。‥‥誰かさんたちのせいで。
遺跡を調査するために派遣したのに、その遺跡を破壊したのだから世話は無い。
世話は無いが、手間は増えた。
「ダイナ君。キミは私の見立てでは、もっと品行方正だと思っていたのだがね。
キミならきっと、セツナ君のブレーキ役になってくれると――、そう‥‥。
まさか、2人揃ってアクセルを踏むとはね。」
かくん。と、首を垂れた。
「うぅ‥‥。すいません。」
ダイナが縮こまってしまう。
これに対して、セツナがすかさず彼女を庇う。
「待ってください局長。
確かに、調査するはずの遺跡を壊したのは我々の落ち度ですが、今回はやむを得ない事情がありました。」
遺跡を破壊してしまったのは、騎兵との戦闘が原因である。
調査をするためには、脅威を排除する必要があり、それの抵抗が激しかった。
よって、自分たちの生還を優先し、やむを得えず高威力の魔法を使った。
そういうことである。
「どんな状況でも生還をするのが、エージェントに与えられた命令なのでしょう?」
過去にセツナが、ディフィニラに説かれた教えを引用する。
彼の言葉を聞いて、ディフィニラは背もたれに身体を預ける。
「ふむ。セツナ君、それらしい建前も上手く使えるじゃないか。」
「えへ~、それほどでも――。」
背もたれから上体を起こす。
「なら、本音の話をしよう。なぜ、2人で大魔法を使用した?」
加減が分からぬほどの、拙い腕前では無かろう?
「グルーヴと、ノリ。」
「カッコイイかなって。」
机に両肘をつき、大きく溜め息。
それも、2回もついた。
‥‥そうされる方が、怒られるよりよっぽど堪えるのである。
「ダイナ君、セツナ君。生きて帰ってくれた何よりだ、それは感謝している。
よく、本部の無茶な要求をこなしてくれた。助かったよ。」
「「‥‥‥‥。」」
「キミ達は、私が思う以上に、相当な手練れであるようだ。今後とも精進して欲しい。
ただ、だからこそ、力の振るい方には気を付けねばならん。
大きな力は、招かざる災いを呼ぶ。キミ達にも、その周りにもな。」
「「‥‥‥‥。」」
黙ってはいるが、こくりと2人揃って頷く。
「人の口に蓋はできない。人の好奇心にも、だ。
キミ達の行いは、いずれ多くの人の知るところになるだろう。」
この先のことは、言わなくても分かるな。そう、ディフィニラは2人に目配せをする。
要するに、あんまり派手に暴れすぎると、本部に目を付けられるということだ。
未だ、本部が黒だという尻尾を掴めていない。
だのに、こちらが馬脚を出して隙を見せる訳にはいかない。
これは、政治的なやり取り、暴力で解決できない領域。
エージェントたちの戦いは、すでに元凶を殴って解決する埒外に及んでいるのだ。
「二人とも、くれぐれも用心してくれたまえ。
キミ達の行動には、CCC全体の命運が掛かっている。そのつもりでな。」
「「はい!」」
「よろしい、それでは解散だ。しっかりと休養を取るように。」
ホログラムが消えて、部屋は閑古鳥が伽藍と鳴く伽藍堂に戻る。
殺風景な部屋に2人となり、互いに目を合わせる。
いの一番、セツナがダイナに謝罪する。
「ごめん。ダイナまで怒られちゃった。」
「ぜんぜん、気にしないで。ボクもそっち側の人間だから。遅かれ早かれだったよ。」
しばしの沈黙、しばしの反省。
今度は、ダイナから口を開く。
「あんまり暴れすぎるなって‥‥。そう言われちゃった。」
「うーん‥‥。じゃあ次からは‥‥、そうだな~。
うん、行儀よく暴れよう。」
完璧!
そう言って、2人はサムズアップをする。
懲りない2人を、大きな溜め息と、たくさんのコメント達が、生暖かい目で見守るのであった。
――セントラルの空は、今日も青い。