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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
3章_異世界からの招待状

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3.5_森の罠にご用心。

罠に不意打ち、そして数の暴力。

マッドモンキーに、セツナとダイナは囲まれてしまった。


マッドモンキーは、取り囲んだ獲物の前で、狡猾な嗤い声を上げる。

鳴き声でコミュニケーションを取り、意思の疎通をしているようだ。


群れは、木を加工して作った槍部隊が先頭に立ち、槍のリーチで牽制して獲物の行動を制限している。

群れの後方に、石や投げ槍を持って構えたマッドモンキーが数匹見える。


槍で牽制し、投擲で弱らせる意図があるようだ。


「これは!? お二人とも、ここは一度引いて態勢を整えましょう。

 テレポートと魔導コイルガンを駆使すれば、振り切れるはずです。」


アリサが2人に、この場は退くことを提案する。

確かに、最大移動距離が10メートルあるテレポートであれば、この包囲網を抜けることはできる。


敵勢力の大きさも分からないので、一度退けるならば、その方が良い。


ところが、マッドモンキーと対峙している2人はというと――。


「だってさ。アリサさんは、オレたちを心配してくれてるよ?」

「そう、うれしい♪」


背中を合わせたまま、軽くアイコンタクトを取る。

互いの目に、闘志の火が灯っていることを確認。


「――でもボク、やられっぱなしはイヤかも。」

「同感。」


2人に目掛けて、石が投擲された。

石が放物線を描き、石の雨となって降り注ぐ。


「竜巻いくよ。」

「了解。」


ダイナが合図すると同時に、彼女の周辺を一陣の風が駆け抜ける。

風は、みるみる強く、大きく、高くなり、竜巻となる。


「マジックサイクロン」


魔導書(グリモワール)マジックサイクロン≫ が発動する。


直径3メートルほどの竜巻が、石の雨を消滅させた。

このスキルには、飛び道具を打ち消す効果がある。


さらに、パッシブの「アレイスター図書館の司書人形」と「二度目の満月」の効果で、ダイナとセツナの体力が10ポイント回復する。


それと――。


竜巻の起こす風を、セツナは背中で受け止めて、追い風として利用して前に踏み出す。

この世界にはフレンドリーファイアの概念が存在し、プレイヤーが味方の攻撃に当たるとノックバックが発生する。


しかし、物は考えよう。

フレンドリーファイアだって、上手く使えば連携に使える。


風に乗って加速、さらに ≪ブレイズキック≫ で加速。

3歩踏み出す頃には、トップスピードになってマッドモンキーの群れに接近する。


急激な加速により、槍部隊の反応が遅れる。

それでも、セツナを串刺しにするために、数匹掛かりで槍を突き出す。


その槍を、魔力を纏った横蹴りで破壊。切っ先を壊した。

横蹴りと同時に、足から魔力の刃が放たれて、槍の柄を切り裂きながらマッドモンキーを捉えた。


≪シルバームーン≫ 。弧を描く銀色の刃が、3体の敵にダメージを与えて、倒した。


槍をへし折ったセツナも、無傷では済まなかったが、気にしない。

プレイヤーには、リゲインによる体力回復がある。

積極的に戦えば、体力はどんどん回復する。


テレポートをして、群れの背後へと移動する。

投擲部隊の背を取った。


ホルスターからリボルバーを引き抜く。

銃を腰に当てて、ファニングショット。


左手で素早くハンマーを連続で倒して、3連射。

それぞれ別のターゲットに1発ずつ撃ち込む。


近距離での、大口径の一撃に被弾した狂猿は、戦闘不能となる。


背後からの攻撃を察した投擲部隊が、セツナに石や槍を投げる。


これを木の影に隠れてやり過ごす。

木の影に、2匹の猿が隠れていたので、1匹を蹴りで仕留め、1匹を射撃で倒す。


残弾は2発。

リロードのヒマは無さそうだ。


敵の注意を引くために、スマートデバイスの機能を使い、デコイを生成。

ホログラムの映像が、木の影から飛び出し、銃を構える。


ホログラムに対して、槍や石がいくつか飛んで来て、欺瞞(ぎまん)の立体映像をすり抜けていった。

ホログラムの効果により、映像を攻撃した敵の位置が物陰越しに見えるようになる。


地面に刺さった木の槍を2本回収。

1本を投擲して、マッドモンキーに突き刺した。


さらに、両手で槍を構えて突撃。

テレポートの攪乱により、群れの陣形が崩れている。


投擲部隊と近距離部隊が入り混じった状態になっている。


アサルトシールドを発動。

アサルゲージを消費することで投擲をやり過ごしつつ、槍を構えたまま突進する。


1体の猿の胸を切っ先が捉えて、突き刺したまま突進を続ける。

猿たちは、巻き込まれるのを恐れて、セツナの進行ルートから逃げ出す。


‥‥逃げ遅れた1体をさらに突き刺して、そのまま森の木に突っ込む。

2体をまとめて、木の幹に槍で(はりつけ)にした。


身動きが取れなくなった2体の猿に、 ≪ブレイズキック≫ の回し蹴り。

猿たちは磔から解放されて、地面に顔を伏した。


――テレポート。


先ほどセツナが埋まった、落とし穴のところに移動する。

そこには、口を開けている大地と、宙にぶら下がる、スパイクトラップがあった。


丸太のスパイクトラップを吊っている、ロープをナイフで切る。

ツルを編んで作られたロープは、簡単に切れた。


ナイフを仕舞い、ロープを握って――、振り回す!


長さ1メートルほどの、木の棒の棘が生えている丸太を、魔力で身体強化された膂力で振り回す。


陸上競技のハンマー投げの要領で、丸太を遠心力で振るい、その速度を上げていく。

スパイクトラップは、瞬く間に殺傷能力を持った凶器となった。


遠心力とリーチに任せて、スパイクトラップを振り回し、棘の嵐に猿どもを巻き込み屠っていく。

丸太が命中し、棘が食い込み、質量と遠心力で吹き飛ばされる。


意趣返し。罠や道具とは、逆に利用されることだってあるのだ。


台風の目となって暴れるセツナを、1匹の猿が投げ縄で拘束しようとする。

しかし、彼の目の前で投げる準備をするのは、いただけない。


丸太を結ぶロープから手を離す。

スパイクトラップは明後日の方へと飛んで行き、犠牲者を踏み潰しながら地面にぶつかり壊れた。


それと同時に、丸い輪っかがセツナに迫る。

胴体だけは避けて、輪っかの中に右手を突っ込む。


投げ縄に捕まり、右手が引っ張られる。

猿の握力は強靭である。例え、身体能力が強化されているこの肉体でも力負けしてしまう。


だが、力が強いのは、この状況では都合が良い。


投げ縄を引っ張る猿の力を利用して、セツナは加速。

≪ブレイズキック≫ でさらに加速。


マジックワイヤーを、投げ縄を握る猿に射出。

ワイヤーが彼奴の胸を捉える。


状況が一変。

今度は、セツナが猿を引っ張る状況となる。


いきなりの状況の変化に、猿は投げ縄を離し、ワイヤーを振り払うことに知恵が回らない。


タイミングを見計らって、ドロップキック。

猿の顔面を捉えて、顔面を足場として使い、キレイに宙返りして着地。


≪炎撃掌≫ を発動。


火球が右手に生成され、それを握りつぶす。

火球に内包されていた力が、右腕に集まる。


集まった熱で、繋がれていた投げ輪が焼き切られた。


猿が鱗の剣で斬りかかって来る。

半歩下がって躱し、右足を踏み込んで、右手を伸ばす。


猿の頭を掴む。

小さな頭を、体ごと持ち上げる。


火球を取り込んだ腕が猿を焼いていく。

焼いて、焼き切ったところで、肩甲骨から波を起こし、インパクト。


纏った魔力が腕から掌へと流れ、爆発を起こして、猿の体を彼方へと吹き飛ばした。


1体1体と処理していくが、敵の密度は減る様子が無い。

今もなお、セツナを囲んでいる。


アサルトゲージを1本使用。

≪グランドスマッシュ≫ を発動する。


余熱で煙を上げる右の拳を、力強く地面に叩きつける。


拳から魔力と衝撃が流れる。

大地を伝って、猿の勢いを挫き、怯ませた。


力を溜めて、もう一度、右手を振り下ろす。

大地を魔力と衝撃が走り、落ち葉を舞い上げ、猿の足が浮いた。


――三度目。


「――グランドスマッシュ!」


渾身の力を込めて、拳を大地に叩きつける。

大地を魔力と衝撃が走り、魔力がマグマの如く吹き上がり、地を裂き、猿の体が宙高く飛ばされた。


足が浮き、マグマの如き魔力に晒され、宙にカチ上げられた猿たちは、重力に吸い寄せられて、地面にぶつかり、動かなくなった。

マッドモンキーの集団を、大地を揺らす連撃でまとめて倒す。


「何体でも、相手してやりますとも。」


群れの残党と相対して、セツナは構えた。



セツナが奮闘している間、ダイナも着々と猿の群れを蹴散らしていた。


プレイヤー同士が分断される形になってしまったが、囲まれた状態から抜け出すためなので仕方がない。


現在、使用できる魔導書スキルが心もとない。

≪サルベージドロー≫ でスキルの回復をしたいところだ。


槍で襲い掛かるマッドモンキーに対して、その猿の脚に杖を引っ掛ける。

ダイナの持っている杖は、先端が三日月のように湾曲している。


そこの窪みに、猿の膝を引っ掛ける。

引っ掛けて、引っ張って、転倒させる。


地に背中をついた猿に、石突の部分を突き刺して仕留める。


トドメを刺すために、立ち止まっていたダイナに投擲攻撃。

それを杖で払って、対処していく。


逆に、落ちていた木の槍を杖で器用に拾い上げて、左手で投擲。

続けて、ソードリザードの大きな鱗も拾い上げて、ブーメランのごとく投げつけた。


スキルが無くとも、杖の丈夫さとリーチを活かして、ガッツリと肉弾戦が可能。

魔法を使わずに大立ち回りをするダイナを警戒して、武器を握るマッドモンキーの攻撃の手が止まる。


少し距離を開けて、様子を見ている。


攻めて来ないのであれば、こちらから攻めるのみ。

駆け出して、距離を詰める。


――その瞬間。


木の上から、枝と葉に隠されていた丸太が落ちてくる。

ダイナを落下点におびき寄せるために、わざと距離を取って様子見をしていたのだ。


大きな丸太が、細身のダイナの脳天を目掛けて落下していく。


(それは、知ってた!)


丸太の落下点の手前で急ブレーキ、スキルを発動。


「ブレイズキック!」


アサルゲージを消費して、落ちてきた丸太をジャンピングソバットで蹴り飛ばす。

出力の上がった回転後ろ蹴りは、丸太を前に蹴り出して、罠に嵌めようとした猿どもを蹴散らした。


丸太を蹴り飛ばし、着地。

構え直すダイナに、1匹のマッドモンキーの行動が、不幸にも噛み合ってしまう。


後ろから投げられた投げ縄に捕まってしまった。

首を引っ掛けられて、締め上げられ、引きずられてしまう。


頭上の罠に、意識を割き過ぎた。


「うぐッ‥‥。」


細く白い喉から、苦悶の声が掠れ漏れる。


「ダイナ!?」


セツナが異変を察知する。

こちらを心配する声が通信から聞こえる。


背中から倒れ込み、引きずられているダイナに、猿の集団がたかる。

遠間(とおあい)から槍で肢体を串刺しにすべく迫って来る。


槍の攻撃を、足で蹴飛ばして凌ぐ。


「くそ‥‥。あっちにいけ!」


それでも、数の手数による暴力には敵わず、脚や腹に槍が命中してしまう。

手傷を負う彼女に、さらに追撃。


首を拘束する縄で、上手くダイナを誘導し、彼女の頭を大木に向けて引きずりぶつけた。


「ぐあ゛‥‥ッ!」


ぐったりと、身体の力が抜けて、抵抗するための力が挫けてしまう。

か細い女性の、か細い声が、大柄な猿の中に消えていく。


「こ、この‥‥。くる、な‥‥。」


「ダイナ!」

「ダイナさん!!」


猿たちは残虐な笑みを浮かべて、身動きが取れないダイナに襲い掛かった。


「‥‥くるな。」






「――来るなっつんでんだろォ! このクソチンパンがァァ!!」


突然、男性のドスの利いた大声が響き、猿ども吹き飛ばした。


ブレイブバースト。

ブレイブゲージを1つ消費して、周囲の敵を吹き飛ばしたのである。


突然の事態に、自分が何をされたのか分からない猿ども。

突然の事態に、状況を理解して、吹き出すように笑い始めるセツナ。


「ぶふぅ!?!? ――ふふ。――あはははははは。」

「女の子には、優しくしなきゃ、だゾ! めっ! なんだから。」


ダイナは立ち上がり、女の子の可愛らしい声で、おサルたちを注意する。

女性アバターのボイスチェンジャー機能は、任意でオンとオフが可能。


なので、可憐な少女の姿から、男性の魅力的なバリトンボイスだって奏でることが可能なのだ。


緊張が一気に解けてしまって、セツナは大笑いしている。


「ふふ――。ダイナ――、FFは止め‥‥、ふふふ――。」


とんでもない流れ弾を受けてしまった。


それでも、彼は器用に猿を捌いていく。

戦いながら笑い転げて、笑い転げては戦っている。


ダイナも、首の拘束から自由になり、 ≪サルベージドロー≫ を使用。

体力を100消費して、スキルを発動する。


透明な赤い本が宙に現れて、パラパラとページがめくられて、パタンと閉じて消える。

魔導書スキルが使用可能になった。


そして、アサルゲージを消費して、スキルを発動。


「サンダーボルト!」


≪魔導書サンダーボルト≫ 。

そのAG版は、雑魚敵を一撃で倒す即死効果を持つ。


空に魔法陣が現れて、ダイナと取り囲んでいた猿の群れ目掛けて一本の大きな落雷が降り注ぐ。


落雷は、森を覆う枝をへし折り燃やしながら、地面に降り注ぎ、大地を駆け巡り、辺りのマッドモンキーを焼き焦がして灰にして消滅させた。


ダイナは、自分の髪を撫でる。

身体の前に流している、金髪のサイドテールを手櫛で撫でて整える。


「ふふん。おサルさんには、バナナの罠ってわけ!」


投げ縄に捕まったままだったのは、猿をおびき寄せるため。

おびき寄せて、魔法で一網打尽にするために、わざと捕まったままでいたのだ。


肉を切らして骨を断つ。

ゲームでは、多少のダメージを許容した方が、上手くいくこともある。



ダイナの周りは静かになった。

乙女の怒り(サンダーボルト)に恐れをなしたのか、生き残ったマッドモンキーも逃げ出してしまった。


セツナに通信を入れる。


「セツナ、そっちはまだ掛かりそう?」

「こっちも、もう終わる――。いや、まだ時間が掛かるようになった。」


どうやら、彼の方には追加の群れが現れたらしい。


「じゃあ、そっちに加勢に――。行くのはムリかも。」


木の枝を渡り、走るよりも速くダイナに近づいて来る新手が居る。

新手は、ダイナの前に飛び降りて来て、ダイナを睨み威嚇した。


マッドモンキーのボスにして、この森の支配者、マッドウータンがダイナの前に立ちふさがった。

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